茨道を進む我等はもう、戻れない
~誰かの幻想世界にて
ほんのりとした夕暮れの中、皆で手をとって。隣の人の顔を見て、笑いあう。 夕暮れはずっと夕暮れのまんまで。隣の人の顔はぼやけたまんま。
けど、僕は笑う。できるだけ優しく、柔らかく。
すると、ぼやけた顔も笑ったような気がするんだ。 実際、笑っているかどうかは分からない。
けど、確かめる方法もないし、知りたいとも思わない。
だから、僕は笑う。それが、何も失わない方法でもあるから。
少し寂しいような、けど、それが唯一無二の感触で。 それを引き寄せるように僕は息をしていた。ただ、 引き寄せるだけ。
多分これ以上引っ張ると世界まるごと引きちぎれちゃう。
これだけで『僕』は完成だ。それ以上何もない。 ... ...いや、分からないんだ。
僕は僕自身も分からない。だってぼやけているんだ。
だから、僕はここで、ここにいる。 悠久の時の中で。
~とある列車にて
隣からゲイルの寝息が聞こえる。疲れていたのだろう。列車に入るとすぐ寝てしまった。
寝てるときでも取らない兜。何か理由があるのは確かだが、俺はそういうのは聞かないことにしている。
多分自分がそうでいてほしいから。
それを振り払うかのように窓の夕焼けを眺めていた。 眩しい。
夕焼けなのに俺にはそう思えた。やっぱり、眩しい。
よく言われる。お前は、何かが違うって。
まあ、見た目は結構自信あるし、実際面倒な位モテていると自負している。
けど、そこじゃない。
お前は中身が狂ってるって。 そう言われた。
自分でも少し他の人とは違うなって思う事はあった。
けど、気にしないように、弾かれないように、生きてきた。多分これからも。 それが、どこまで通じるのかも分からない。
一歩踏み間違えれば裏側世界の住人と同じだ。
でも、俺は正義のヒーロー側でいたい。そのためにも、自分自身の守りたいもののた めにも俺は悪を叩きのめす。
いつからか、俺は『力』に執着し始めた。それは、 それ以上に理由が増えたから。 あいつの仇を討つために。守れなかったあいつの仇を。
その為に、俺は今在り続ける。 夕焼けはいつもよりぼやけて見え た。
~エンガ王国王都の宿にて
スースーと規則的に聞こえる寝息。それはきっと、眠れている証拠。
二人は宿にある食堂で夕飯を済ますと、すぐに眠ってしまった。夕飯を食べる前にも寝ていたのにも関わらず。
まあ、疲れていたからな。そう考えると当然である。周りの全てが知らないもの。箱庭の中で育った彼らにとってはとても疲れたのだろう。
そんなことになると知っていて彼らは箱庭に戻らなかった。私についていくことを選んだのだった。
私には理解できない。何故彼らは安心と自由を天秤にかけたのかが。 間違いなく、彼らは後悔するだろう。
自由はいつでも手にすることができる。しかし、安心は一度手放すと、もう一度手にいれるのは難しい。
それを知っていても、私は彼らを利用する。
彼らが 望んだことなのだ。私だって、そんな冷酷ではない。 望んでいたから私は、依頼を受けた。それだけだ。
で も、私は依頼を必ず達成しなければならない。
報酬を貰うためにも。
いや、報酬を貰うことを赦してもらうためだ。
だから、前払いでも後払いでも払えば いいわけだ。
報酬はタイミングで大きさに差がでる。 それを掴み、多くの報酬を貰うのだ。 まだ彼らはあまり持っていない。あと、もう少しすれば、もっと増えるだろう。
二人に近づいて顔を撫でる。 きれいなきめ細かい肌をしている。
この肌もすぐに血で霞んでしまうのだろう。
その時まで、私は待とう。それが、百年先の未来で あろうとも。
~暗い暗い世界にて
今日は久しぶりにKに会ったぜ。って、お前もか。ハハッ、まあ、ラッキーだったな。
Kのやつ、また強くなってたな。もう、殺気が半端ない。これでも抑えているほうだ、なんて、なぁ。
抑えなくてもいいのにな。そっちの方が絶対綺麗だ。まあ、周りに人はよらなくなるだろうけどな。
そっちの方がいいって?えー、俺は嫌だな。だって、Kは人が、大好きなんだ。
おいおい、そんな顔すんなよ。まあ、お前は結構、嘘、相当嫌われてる方だけどな。今日だってまかれたし。
あれ、面白かったわ。って、そんなに睨むなよ。俺、穴開いちゃうよ。
あーっ、もう、Kの話終わり!
それより、これからどうするかだろ。Kを追うか、諦めるか。
あー、答えはストップ。お前は追う、って言いたいところだろ。しかしだなぁ、それじゃあつまらない。
だってさぁ、お前の考えてること単調なんだもんな。それじゃ俺が貸してる意味がない。人生、奇想天外に、だ。
ってことで、おもしろプラン用意してみました。イェー。
どうぞ見てみてください。あら、その顔は驚き!?、その反応、待ってました!
ち、な、み、に、反論は一切受け付けませーん。
これでお前の人生薔薇色だな。あー、楽しみ。
そう怒るなって。人生楽しまなきゃ損損。
じゃあ、俺の2/1分、楽しんでこいよ。
全く、気に食わねぇ。何で俺があの偽善大好き会に入んなきゃなんないんだ。
楽しむなんて、到底無理なはなしだ。
楽しんでこい、なんて、お前は高みの見物か。
その顔、ぶっ潰すよ。じょーだん抜きで。
俺、嘘はつかないから。ね。
その一言こそが嘘だって?... ...よく言うな。まあ、その場合、俺の言ってることほとんど信用できなくなるけどな。
... ...本当、お前のことは理解できない。Kよりはましな具合だけど、理解できない。
よく、そんなこと言えるな。気持ち悪い。
ああ、お前と話していた俺が馬鹿だった。どう頑張ってもお前の考えは偽善者の戯れ言にしか聞こえない、俺には分からねぇ。
でも、信念は同じか。そうかい。
全く面白いな。なんて、な。
分かった。もう、俺は行くわ。お勤め頑張ります。
サヨナラ、逃げ上手な負け組サン。
こんにちは、そう言って入った忌み嫌う世界は意外に明るい、なんてな。
真っ黒だよ。、どこもかしこも、ヘドロが蔓延っている。
ここまでくると、興味がわく。
あーあ、金に糸目きかせずつくった城もボッロボロ。もとの金自体怪しいもんだからな。
まあ、いい。俺は今から、この世界を裁く眼なのだから。... ...完全に表向きだが、な。
~名も無き草原にて
隣ではルインが眠った、ように見せかけていた。多分こいつは『ロゼ』が眠るまで眠らない。
どれだけ心配してるんだ、と思うと共に、嬉しかった。こんなに心配されたのは、初めてだった。
だから、『ロゼ』はこうかいしていた。彼を巻き込んでしまったと思ったからだ。
タイミングが合いすぎていた。私がルインと出会ったのと、町が消えてしまったことが。
これじゃあ、ルインの全てをうばったのと同じことだ。
『ロゼ』はたしかに奴隷ではなくなった。自由も手に入れた。けど、代償として『ロゼ』はざいにんになった。
思い起こしてみれば、自分の眼にうつる人間は全部消えていった。いや、手放して生きてきた、らしい。
そんなことにすら、今まできづかなかった。ルインをきずつけたことを自覚してから、罪を意識できたのだ。
ホントに何も知らなかった。そして、今も分からねぇ。
ルインが『ロゼ』に何を思っているのか。
これからも、それは知れないとおもった。だから、
いっそのこと殺してくれ。って。勝手にねがった。
心配なんてしないでほしい。そんなことやめてくれ。
『ロゼ』の中の何かが揺らぐから。ずっと隣にいたい、っておもっちゃうから。
そんなことをおもうのもはじめてで。もう、何も分からない!知らない。
... ...今考えてもこたえはでない。けれど、ルインを寝かせるくらいの罪滅ぼしはできる。
草原の中にねころがると、草がくすぐったかった。
それが、気持ち悪かったから、ルインに寄り添う。
ルインの隣は暖かくて、安心する。けど、これさえも罪になるように感じた。
すると、頬に何かが触れた。そして、優しくなでられた。
これが意識がとぶ最後に感じた感触。