新たなピースを手にいれて
またまたK主役です。
「分かっているだろうが、私は悪人の類いだ。裁きの眼の連中、特に金髪の男には注意しろ」
エンガの王都に着くと、すぐさま感じたのは強い二つの気配。しかも、片方は懐かしい(とても悪い意味で)ものだった。
見つかると困るのは確かだった。なので双子にも注意したのだが、殆ど耳に入っていない。
都会に来るのは初めてのようで、はしゃいでしまっている。これだけ見ると、ただの子供のようだ。
と、思う私も十分子供と呼ばれる歳に当たるのだか、子供として扱われた事がない。
まあ、そちらの方が随分と楽なので嬉しいのだが。
「おい、お前。聞いてるのか」
ふと話しかけてきたのは兄のエク。
彼は私に何か言ったらしいが、いつものように考え事をしていたので全く聞いていない。
しかし、このまま知らないのも何なので聞く。
「悪い。聞いていなかった。もう一度頼む」
すると、エクは、
「人殺しに二回も説明するほど暇じゃねーよ」
と言い、そっぽを向いてしまった。
エクはこうなると長いタイプだと思うため、私は妹のユキアに聞いてみる。
「エクはさっき何をいったのか?」
すると、ユキアはめんどくさそうに、
「狙われる可能性があるなら早く宿に行こうって」
と、言う。
まあ、エクの言うことは的を得ている。
私も二人の体力が心配だったため、それでいいと思う。
ちょうどこの辺りに手頃な宿があったはず。
「ユキア、エク、宿に行くぞ」
そう言って二人の手をとった。
すると、
「離せよ」
と、エクが抵抗してきたが、
「おぶってほしいのか」
と、返すと素直についてきた。
ここの宿は値段が低いわりに、夕食、朝食付きとなかなか豪華であった。
部屋も、三人で使うには余裕がある程で、私は満足だったのだが、二人は不服らしい。
「何なの。ここ。狭いし、薄汚れてる」
「三人で一部屋かよ」
部屋のソファーに座って文句を言っていた。
「野宿よりましだろう」
私がそう言っても、
「あんたがよくても私は嫌なの」
と、強情である。
まあ、放っておこう。私は二人の文句を聞き流しながら、ローブの内ポケット(結構大きい)から本を取り出して読み始める。
「こんなんだったら家に帰りたい」
ふと口にした言葉に自分でも驚いた。
家に居たときは絶対にそんなこと思わなかった。むしろ、家なんて消えればいいのにと思っていた。
自分は小さいオモチャのような世界にいたのだと今は思える。
その世界は、自由を代償に安心を与えてくれた。
それが、善なのか悪なのか私には分からない。けれども、私はそれをとても嫌っていた。
だから、何のあてもなく家を飛び出した。子供に出来ることなんてほとんどないのに。
私たちはそこで現実を見た。
自分を守るものはもうない、というものと、自分はとても無力だということだ。
その事実に私はショックを受けた。
そして、同時に変わりたいと思った。
強く、強くなりたい。強くなって、自由を手にしたい。
だから、危ない綱まで渡ってきた。
そう、そうだ。家に帰るなら、できる限りもがいてからだ。
妹が弱音を吐いた。
強気な妹はこれまで、人に弱いところを見せなかった。そんな妹が。
俺はいけないことをしたのかもしれない。
もとはといえば、俺が原因だった。俺があの少女に興味なんて持たなかったら。
あの光景を見なくて済んだのかもしれない。
妹の言う通り、森に潜んでいたら。俺達は親父に見つかって、家に帰ってたのかもしれない。
けど、その方がよっぽど良かった。
こんなやつに会うならよっぽど。
こいつは危険だ。
もうずっと俺の頭が囁いていた。
地味だが整った顔と何もかも見透す黒い眼。これだけではただの少女にしか見えないのだか、心の内側から発せられるそれが、只者でないことを感じさせた。
それ以前に、あんなことしたやつに依頼をしてしまうなんて。しかも、誘拐までしてだ。
冷静に考えてみると、あんなの絶対成功するはずなかった。けど、成功した。
あいつが何か企んでいる。
そう考えるのは自然なことで。でも、あのときの俺はおかしかった。何にも気づかなかった。で、気づいた頃にはもう、戻れない。
これは、俺一人で解決できる問題じゃない。でも、限界まで、もがいてみようと思う。
知らない間に二人は眠ってしまっていた。まあ、初めての外の世界だ。疲れていたのだろう。夕食の時間まで眠っていてもらおう。
これから、長い旅になるのだから。