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High School Never Ends Adult  作者: あーや
シークレット・ガーデン
7/37

5

 花子の視線が深夜に突き刺さる。疑念の目だ。

 「あー……何だ、その、初恋…は、こいつなんだ」

 「ふふ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」

 亜紀は穏やかに笑っている。その姿はかえって不気味でもあった。それを花子は少し警戒した目で見ているが、それもお構いなしだ。まるで花子の存在を認識していないように。亜紀と深夜、二人の世界を半強制的に作り出そうとしているかのように。

 「ど、どうしたんだよ、突然」

 「ふふ、あのね、たまたま花神楽に来たから、会いに来たの。霧がここにいるっていうのは知ってたから。本当はあの事件のすぐに行きたかったんだけど、こんなに時間がかかっちゃったわ。ごめんね」

 「あの、事件…」

 「霧がひどい目に遭った、あの事件よ。アレですべて失ってしまったのよね? でももう大丈夫、私ともう一度作り直しましょう」

 「は?」

 「愛も温もりも、私とならきっと取り戻せるわ。一緒に暮らしましょう? 家もちゃんと用意してあるの。霧なら和樹ともきっと仲良くなれるわ」

 「ちょ、ちょっと待て、和樹って」

 「私の息子。あなたの子みたいなものよ」

 「そんな! いつ!?」

 「今十歳なの。可愛い年頃よ。今日は連れて来れなかったけど、次は絶対連れてくるから」

 「待て、それじゃあ俺の子ってありえねぇじゃねぇか」

 「血のつながりなんて関係ないわ。そもそも和樹は誰の子だか分からないもの。だったら血のつながりがなくても、ちゃんとした父親がいた方がいいでしょう?」

 「なんだって…?」

 「何? それとも今霧には私のほかにいい人がいるのかしら? それはいいことだけど、私以上に霧を支えてくれる人なのかしら? 私より霧を支えて、包み込んであげられる人がいるのかしら?」

 「お前」

 鋭い、ヒールが打ち付けられる音で言葉が止まった。花子が吸っていたタバコを落とし思い切り踏みつけたのだ。その顔からは表情が消えていた。

 「申し訳ありませんが、学校の前ですので、そういった下世話な話はご遠慮願えませんか。生徒たちに悪い影響があるといけません」

 「あなたは?」

 「花神楽高校校長、リリアン・マクニールです。ちなみにこの深夜はここで養護教諭をしている私の部下です。部下を困らせないでいただきたい。深夜、お前も嫌なら嫌とはっきり言ったらどうだ」

 「花子…」

 「深夜も予定が詰まっているようですし、今日のところはお引取りください」

 「あなたはただの上司でしょう? どうしてプライベートに干渉してくるの?」

 「っ、津幡!」

 深夜が声を荒げた。亜紀がぴたりと止まり、深夜を見る。

 「俺と、この人…俺は訳あって花子って呼んでるけど…俺と花子は、ただの上司と部下じゃ、ない」

 「…………………」

 「お前とよりを戻す気はないし、ましてやお前の言うとおりにする気なんてまったくない。…すまんが、帰ってくれないか」

 亜紀は深夜と花子を交互に見ていたが、やがてふらふらと深夜に近付くと、深夜に寄りかかった。力いっぱい服を掴んでいる。

 「…どうして? あんなに愛してくれたじゃない…私あれからたくさんの男と一緒になったけど、霧といた時間が一番幸せだったのよ…? 霧も幸せだって言ってくれたじゃない…あの日、一夜を過ごして、愛を交し合ったのに、お互いに幸せの頂点までいったっていうのに、あれは嘘だったって言うの!?」

 「!?」

 「津幡っ!!」

 深夜は振り向いた。遅かった。花子は恐れ慄いた表情で深夜を見ていた。その瞳にははっきりと、軽蔑の色があった。花子はくるりと踵を返すと、学校の中に早足で入っていってしまった。

 「花子!!」

 深夜は亜紀を振りほどくと花子を追いかけた。亜紀が何か言っているが聞こえない。

 「花子! 悪かった! あいつとはあれ以来何もないんだ! 今まで音沙汰もなかったのに何で今になって…」

 花子の腕を掴む。

 女性とは思えない力で振りほどかれ、同時に乾いた音と頬に衝撃が走った。

 花子は、涙ぐんでいた。

 平手で打たれた衝撃と、その悲痛な表情に茫然自失としているうちに、花子は校舎の中に姿を消した。


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