表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
High School Never Ends Adult  作者: あーや
シークレット・ガーデン
6/37

4

 放課後が近付く午後のひととき。深夜霧は保健室の整理をしていた。辞めることになった以上、少しずつ片付けて、私物を持ち帰らなければならない。普段の仕事もあるから、合間を縫っての作業だ。整理をしながら、思い出を巡る。引越しの準備や、居候している姪の寮の手続きもしなければならない。やることはたくさんある。目が見えているうちに済ませてしまいたかった。

 チャイムが鳴り、最後の授業が終わったことを知らせる。今日の作業は切り上げることにした。今日は通院のため、放課後は保健委員に任せ帰宅することになっていた。荷物をまとめる。白衣をハンガーにかけて、少し眺める。これを着るのも、あと何日だろうか。

 職員室で少し挨拶をして、職員用の昇降口から外に出る。校門を抜けた瞬間、馴染みのある匂いが漂ってきた。タバコの匂いに混じった、甘い香り。思わず顔がその匂いの元を辿る。

 「花子」

 「あ、深夜。そっか、今日早引けの日だったっけ」

 「あぁ」

 「気をつけて」

 「あぁ、ありがとう」

 にこりと笑う花子はとても愛おしかった。その姿を近い将来見ることができなくなると、考えたくもなかった。花子に背を向けて、駅に向けて歩き出そうとしたときだった。

 

 視線の先に、誰かが立っている。深夜をじっと見ている。周りには人はほとんどおらず、その人は間違いなく、深夜を見ていた。女性だ。一見若そうに見えるが、また同時に歳を重ねた雰囲気を漂わせる。緩く巻いた茶色のロングヘアーは艶やかで、ピンクベージュのワンピースはシックかつ女性らしさを演出している。

 その顔に、立ち姿に、面影を感じて深夜は立ち尽くした。

 「霧」

 形の良い、ピンクのグロスを塗った唇が動く。その響きは少しハスキーで、色気を帯びていて。深夜は何故かほんの少し身震いしたのを感じた。

 「久しぶり」

 何か答えなければと思いながらも、何故か声が出ない。これは、驚愕の戸惑いだ。まさか、今、ここで、この女性と出会うなんて。

 「忘れちゃったの? 私のこと。『亜紀』よ。『津幡亜紀(つばたあき) 』」

 「…やっぱり、そうか…。あぁ…久しぶり…」

 「深夜、どうしたんだ? この人知り合いか?」

 花子は訝しげに女性、津幡亜紀を見た。亜紀は確かに深夜を『霧』と、名前で呼んだ。それほど親しい仲なのか、と思っても当然のことだ。

 「あー…高校の同級生でな。卒業以来会ってなかったから、最初全然分からなかった! いやー、しかし若いなお前…」

 「何を言ってるのよ、霧。何で本当のことを言わないの?」

 「え?」

 「おい、津幡」

 「あら? あの頃は『亜紀』って呼んでくれてたのに、ひどい人ね」

 「え…?」


 「私と霧はね、高校時代、付き合っていたのよ」

 

 厚い唇が、少し意地悪く笑みを作った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ