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数日後、校内に、深夜霧が今年度をもって退職するというニュースが瞬く間に駆け巡った。深夜はその日のうちにリリアンに話しに行ったようだ。まったく、そういうときの行動力には目を見張る。口に出したらどこからか「お前が言うな」と言われそうではあるが。
しかし、この二回りの歳の差と、教師と教え子という大きな二つのハンデは変わらない。それにリリアンの心は若干深夜の方に向いているというのは悔しいが事実だった。ここからどうやって自分に振り向かせるか。そんなことを考えながら、女子生徒をあしらいつつ廊下を歩く。
「おはよう、西野」
「…おう。大人気だな、お前の話でもちきりだぜ」
「ははは、突然のことだしなぁ」
廊下で偶然出会った当人は少し困ったように笑うだけだ。よく見る顔だ。
「校長にはどう説明したんだ」
「んー、目のことは入るときに既に言ってたからな。病院の診断書見せて、事情を説明して…」
「なんて言ってたんだよ」
「まぁびっくりしてたよ。でも、辞める前に今度買い物行こうって」
「また貢ぐ気か」
「人のこと言えるか?」
少しお互いに笑った。
「ほら、ホームルーム始まるぞ、教室行け」
きっと、お互いに心から納得はしていない。そう思った。
その日隆弘は珍しくすべての授業に出席した。小テストがあると同級生のテオから聞いていたからだけではない。外に目を向けたくないと、ぼんやりと思ったからだ。