とある地方都市にある高校、花神楽高校。常識外れの校長の下、常識外れの教師や生徒が集まり、「類は友を呼ぶ」を地で行くようだ、と周辺学校からは称されている、あらゆる意味で一目置かれている学校である。むしろ、花神楽という地域そのものがかなり特異な存在であることは間違いない。
そんな高校に通う、一人の男子生徒がいる。彼は父親が日本人、母親がイギリス人で、かつては英国に住んでいた。父は大企業の社長、母はイギリス貴族という大層な身分でありながら、イギリスの名門学校から、寂れたとも言うべきごく普通の日本の公立高校に何故通うようになったのか。その真相を知るものはいない。一九五センチの長身に、鍛え上げられた肉体。艶やかな黒髪と深緑の切れ長の瞳。まさにギリシャ彫刻が動き出したかのような美貌を誇る立ち姿だ。それ故に彼は常に多くの女子生徒の視線を浴びている。本人はむしろ鬱陶しいと思うほどだが、多くはそれすらも魅力と語る。
一方、同じ花神楽高校に勤務している、養護教諭の男がいる。養護教諭は女性だというイメージを容易に覆す、三十七歳の中年男性。癖の強い黒髪には白髪が混じっており、その髪を結んでまとめている。無精ひげに少しくたびれた白衣と、自堕落感溢れる姿だが、左目にしている医療用の白い眼帯だけが異質だった。そして唯一見える黒い右目には、とても柔らかい光がある。その親しみやすさで生徒たちにもほどほどに慕われている。
芸術品と見紛う美形の男子生徒と、どこにでもいそうな普通の中年。この二人の共通点をあえて挙げるとすれば。
同じ女性に想いを寄せていることだ。