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あの一騒動があってから数日後。昨夜は一足早く深夜の送別会が盛大に行われた。本来は教師のみのはずだったのだが、途中一部の生徒が乱入したり一部の教師が酒乱を起こしたりと色々あったのだが、それが花神楽高校らしいというものだろう。おかげで大層賑やかな会となり、どこか寂しい気持ちを紛らわしてくれた。
その雰囲気に薄ら寒い空気を運んできたのは、午後の授業中のことであった。花神楽高校の養護教諭、深夜霧は突如校長に呼び出された。応接室に来いという。向かうとすでにそこには校長と、見知らぬ男性がいた。年齢は三十を過ぎた程度か。男性はソファから立ち上がり、礼儀正しくお辞儀をすると、背広の内ポケットから何か手帳のようなものを取り出した。深夜はそれに見覚えがあった。
「深夜霧先生ですか。私警視庁捜査一課の五十嵐と申します」
「警察…?」
「事情はざっくり聞いたんだけど、私も良く分からないんだ。とにかく深夜から話が聞きたいらしい」
「何でしょう?」
「…昨夜、花神楽市郊外の海岸で女性の遺体が発見されました。結構おぞましい格好でして、ここでお見せすることはできないんですが、そのせいで身元がしばらく分からずにいたんです。そして捜査の結果、遺体は津幡亜紀さん、三十七歳のものであると分かりました」
「!」
少し眉をひそめながら言う五十嵐という刑事の姿から、相当おぞましい遺体だったのだろうと背筋が凍る。それよりも、挙げられた名前には驚かずにはいられなかった。
「つ、津幡……」
「津幡さんはご実家の近くに住んでおられましたが、一週間ほど前、家族に上京すると行って出かけたそうです。そして足取りを追ったところここ花神楽市に滞在していることが分かり聞き込みを進めていたんです。そうしたら、五日ほど前ここに津幡さんがやってきて、貴方と言い争いをしていたという目撃証言があったんですよ」
「えっ、まさか深夜を疑ってるんですか?」
「花子」
「裏を取っているだけです。深夜さん、津幡さんとはどういうご関係でしょうか」
「昔の交際相手です。でも、高校時代の頃の話ですから相当昔のことですよ。大学進学と同時に縁が切れたような関係で、確かに五日くらい前に押しかけられましたが、もう何もないと言って帰ってもらいましたから…」
「では、昨日の午前十時から午後一時の間、何をしていらっしゃいましたか?」
「昨日、ですか? 普通に学校ですよ。ここで仕事をしていました」
「それを証明できる方は?」
「え? そうですね…確か十時くらいならちょうど二年生が体育をやっていて、一人生徒が怪我をして保健室に来ましたよ。中休みの時間は保健委員も来てましたし、昼食は職員室で食べました」
深夜の言葉にリリアンが補足する。
「体育なら担当のラドフォード先生に聞けば分かると思います。昼食はいつも十二時半くらいです。昨日の保健委員は?」
「昨日の当番は確か…三影と宮崎だな」
「この後呼んでいただけますか?」
「はい」
「…良かったら、防犯カメラ見ますか?」
「え? あるんですか?」
「以前制服や体操着の連続盗難事件がありまして、それを受けてカメラを設置したんですよ。ここにもあるでしょう? 応接室は賞状など貴重なものもありますから」
リリアンが五十嵐の頭上を指差した。確かに小型だがカメラが設置されている。
「なるほど。どちらで見られますか?」
「放送室なら」
「分かりました。後ほど拝見します」
こうして五十嵐は深夜から事情を聞いた後、名前が挙がった関係者に話を聞き、放送室で防犯カメラの映像を見てから帰っていった。アレックスや生徒たちの話から深夜の話には裏付けが取れた。また防犯カメラには深夜の姿は一切なく、そもそも校外に出ようとすれば購買職員や花壇の手入れをしている用務員の内原に目撃されているだろう。さらに、昨日一日の予定を聞かれたのだが、リリアンが間に入るように昨日は一日仕事だったし、夜もみんなで宴会だったと証言した。
「どうしたんだよ花子、やけにピリピリして」
「深夜分からなかったか? あの五十嵐って刑事、お前を犯人だと思ってるぞ。それが気に入らなかっただけだよ」
「それは何となく気付いてたけどな、大人気ないぞ、お前らしくもない」
「まあでもこれで向こうは送別会やった店にも行くだろうし、これで完全に裏が取れるでしょ」
「…何か、すまんな、変に迷惑かけて」
「いいのいいの。教え子も教師も守るのが校長の仕事だからさ」




