~宣誓~
出口を抜けると、受付嬢の言うとおりに建物はあった。
世界から強さを求めた者達が集まる機関―――
強さの次元が違う世界―――
ここで頂点に立てたとき俺は―――
負けない力を手に入れられる―――
グレンは建物の前に来ると警備員に止められ、名前を確認される。
「お名前は?」
「グレンだ」
警備員は名前を聞くと直ぐ扉を開けグレンを招き入れる。
「今、別の方がハイランダーの宣誓を行っています。 その方が終わり次第宣誓の間に入りハイランド機関の団期の前で宣誓をおこなってください」
警備員はそう言うと入ってきたドアから静かに出て、もとの配置に戻った。
グレンは壁際によりかかり自分の番を待つ。
少しすると宣誓の間のドアが開く。
グレンは宣誓の間に入り団旗の前に向かう。
団旗までの距離は少し長かった。
グレンの前から先に宣誓を終えた者が扉に向かって歩いてくる。
次第に距離は縮まり、顔が見え始め男だとわかった。
目付きは鋭く、身長はグレンと同じぐらい、そして、目もとに斜めの傷があり、他を受け入れようとしない分陰気の男。
互いにすれ違う距離まで近づくと、グレンはその傷の男を横目で見た。
すると傷の男もグレンを横目で見ていた。
二人はすれ違うとすぐに前を向き、何事もなかったかのように歩き続け、グレンは団旗の前に立つ。
そして、宣誓の言葉が書いてある石碑を見つけ、グレンは右手で拳を作り、胸に持っていく。
「我、 強き者。
この力、
弱き者の為に使い、
更ならる力を求め、
永遠に戦うこと、
この世界の守護者となることを誓い、
我、ここに誇り高き守護者、
ハイランダーとなる」
グレンは言い終わると、ゆっくりと歩いてきた廊下を引き返す。
宣誓の間から出ると、グレンを引き留めた警備員が立っており、ハイランダーの登録すべてが完了した事をグレンに伝え、頭を下げる。
「それでは、あなたが強きハイランダーになることを祈ります…」
グレンは扉に手をかけ、ゆっくりと開ける。
扉の隙間から光が差し込み、グレンを祝福するかのようにグレンを照らす。
グレンは更に力を入れ、扉を押す。
扉は大きな音をたててゆっくりと開き、グレンはハイランダーとしての一歩を踏み出した。
(俺は… 強くなる!)
「お久しぶりです!」
リッドは少しドアを開け、その隙間から顔を覗かせていた。
「ん?」
中にいたのは刀を手入れしている髪の長い女性だった。
女性はリッドの姿を見ると刀を鞘にしまいテーブルに立て掛けた。
「久しぶりだな、リッド」
リッドは女性のその一言を聞くとドアを開き家の中に入った。
女性の名は「エメルダ」。エメルダは、紫色の長い髪に、落ち着いた物腰の雰囲気が特徴の女性だった。
家の中はリッドが以前来た時と比べ、少しアンティークな雰囲気で装飾されていた。
「あれ、ガランさんは?」
「ああ、ガランなら今依頼のやり直しをしている」
エメルダはそう言いながらキッチンに移動し、ハーブの入った紅茶を作ろうとしていた。
「そ、そんなお構いなく! 自分で作りますので!!」
リッドはエメルダの姿を見ると慌てて変わろうとするが、
「気にするな、ここじゃあ階級は関係ないんだから。ゆっくりとくつろいでいけばいいさ」
エメルダは紅茶を作り終えリッドに渡す。
「す、すみません」
リッドは頭を下げお礼をし紅茶をテーブルまで持っていき、椅子に座り息を漏らした。
すると、エメルダが沢山のお菓子やツマミが乗った大きな皿をテーブルの上に置いた。
「来るときに連絡くれれば茶菓子を用意できたのだが… すまないな」
「いえいえとんでもない!! 今日はたまたま本部の方に用があってついでに顔を出しただけだなので、そんな…」
リッドのあわてふためく姿を見てエメルダは直ぐにリッドに質問をした。
「また誰かハイランダーにでもなったのか?」
「やっぱり、わかります?」
リッドは少しにやけながら頭を搔く。
「相変わらず町の案内役をやるなんて、全く変わらないな」
女性は少し微笑み、椅子に座る。
「それで、その腕の痣はそいつにやられたのか…?」
その質問の瞬間、女性の目付きは一瞬で鋭くなる。
リッドはその目付きで見られた瞬間、体が身体全身が一瞬凍りつく。
リッドの手首には、大男との戦いで出来た痣が袖からに少し見えてしまっていた。
痣は、大男の攻撃を防いだ時にできたのだろう。
「ち、ち、ち、ち違いますよ!!!! これはハイランダー戦で負けたときの痣なんですよ!!」
リッドは必死で説明する。
「リッド… お前がハイランダー戦を受けるとは思えないんだが…」
女性はリッドから真相を聞き出そうとする。
「ぼ、僕から申し出たんですよ!! そしたら返り討ちに… はは…」
(いくらあんな奴でもこの人だけには言ってはいけない!)
「本当か…?」
女性の目は更に鋭くなる。
その目付きは、リッドの嘘を見逃すまいと上空から獲物を狙う鷲のようだった。
「お前の武器… 盾だけだろう…? 私の考えは、誰かに勝負を挑まれ断ったにもかかわらず強引に勝負を挑んだ奴がいる… それは昇格試合の参加条件を満たすために…」
「いやいやいやいやいやいやいやいや、全然違いますって!! 盾以外!!」
(心が読めるのかこの人は!?)
「そいつを今、庇っているだろ」
「ぜーーーたい庇ってません!」
リッドの説明に納得したのかエメルダはうつ向き少し笑った。
「そうか… つまりリッド… お前もやっと戦うようになったのだな」
エメルダの言葉を聞き、背中に冷や汗が流れ始める。
「あ、いや、まぁ」
「ならば私が直々にお前をクラスセカンドまでになれるよう鍛え上げて―――」
「お、お気持ちだけ貰っておきます。自分のやり方で強くなっていこうかなーと思ってるので…」
(鍛え上がる前に死んじゃうよ…)
「そうか… なかなかリッドを鍛え上げるのも面白そうだと思ったんだがな…」
エメルダは少し悲しそうに紅茶を飲む。
「はは… すみません… また今度機会があったら…」
リッドはただ苦笑いをしていた。
「おう、リッド。 来てたのか」
玄関を見ると、がたいが良く、髪がオールバックで少し怖い感じの男性が玄関を開けて入ってきた。
「ガランさん、! お久しぶりです!」
リッドは椅子から立ち上がりお辞儀をする。
「相変わらず堅苦しいなテメェは」
男の名前は「ガラン」。この三人の中で一番歳上で、二人とかなりの歳の差がある。そして性格は豪快で、見た目とは裏腹に面倒見が良く、エメルダ、リッド、ガランで、このガランの家に集まっている
ガランは玄関のドアを閉め、リッド達と同じテーブルに座り、足をテーブルの上に乗っけた。
そして、ポケットからタバコを取り出す。
「ガランさん、依頼のやり直しってどうしたんですか?」
リッドがガランに質問すると、ガランは煙草に火をつけ、一服してから答えた。
「ああ、一角獣の角を入手する依頼でな、対象のモンスターを退治したのはいいんだが―――」
ガランが言おうとしている途中、エメルダが口を挟む。
「倒して満足し、そのまま何も持たずに帰ってきたんだろう」
エメルダは言い終えると、一口紅茶をすする。
「まあそういうことだ」
そう言い、ガランも煙草に火をつけ吸い始める。
「で、でも良かったですね! 一角獣の角はまだそこにあったなんて!! あのモンスターと戦って無事な人っていないって言うし… 二度も一人で戦ったら生きてるなんてありえないですからね」
リッドは苦笑いしながら言う。
「リッド、ガランが戦っていた場所など覚えてるわけ無いだろう」
エメルダが静かに言う。
「やっぱり… 二体目を倒したのですね…」
ガランはなんとも無いような顔で答える
「まあな。あんなザコぶっ飛ばせば金もらえるなんて、楽な仕事だぜ」
ガランは何回か煙草を吸うと、足をテーブルの上から下ろし、テーブル中央にあるツマミに手を伸ばす。
「あん?」
ガランの手が止まる。
「随分といいもん買ってきたじゃねぇかリッド」
ガランは何枚か薄いビーフを手でつまみ、口に頬る。
「あっ、いや、それは僕のじゃなくて…」
「じゃあ誰のだ?」
ガランは手を止めずに次々とジャーキーを口に頬る。
「エメルださんが出してくれたのですが…」
ガランの手が止まる。
「ああ、棚に閉まってあったのを出しただけだ」
エメルダが答えると、ガランは急いで立ち上がりツマミが入っている棚を開け、顔を突っ込む。
「ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ガランの突然の咆哮にリッドは驚く。
エメルダは相変わらず紅茶を飲んでいる。
「うるさいぞ、ガラン」
エメルダがそうはそう言いながら紅茶を飲み続ける。
「エメルダ… てめぇなんでわかった…!」
ガランはエメルダに近づき問いただす。
「ガランの家なら私がよく掃除しているからよく知っている。それだけじゃないか」
エメルダは少し笑い、ガランは更に質問を続ける。
「だいたい、俺が隠してあるのだけのをなんで出した!? これは、超手に入らねぇ幻のビーフジャーキー、ストロガノフジャーキーなんだぞ! 他のも同じように高かったり人気だったりするやつじゃねぇか!」
ガランはそう怒鳴り、テーブルを叩く。
「しかも、俺がいないときに!!」
すると、エメルダは悲しそうにガランに言った。
「そうか… なら、私が愛用していた『楼刀』を勝手に使い、素振りをしたときにスッポ抜けて何処かに飛んでいきましたと言ってきて、私の刀を無くした大馬鹿野郎は私に詫びもせずに、しかもジャーキーを食べられたぐらいで怒鳴られるなんて…」
「ろ、『楼刀』無くしたんですか!?」
リッドはエメルダの話を聞き驚いて椅子から立ち上がる。
桜刀とは、数百年の長い年月をかけ、魔族が作り上げた刀と言われている至高の刀を模して作り上げた現代版の刀であり、世界で1本しか作ることに成功していないと言われるとても貴重な刀だった。
「ああ、笑えない話だろうリッド」
そう言い、エメルダはガランを睨む。
「でも… あんな名刀なら探してもらえばすぐに…」
リッドがそう言うとガランが言う。
「いやぁ… 見つかったんだけどな… それがな…」
「見事に二刀流になってしまった」
すこし強めの口調で言い、エメルダはため息を漏らす
「いや… あれは事故だ」
ガランはエメルダに圧倒されていた。
「ならば、これも事故だ」
エメルダはジャーキーを1枚つかみ口に運ぶ。
二人の激しい口論が終るとリッドは部屋にある時計を見た。
時刻は19時23分を指していた。
「すみません、僕そろそろ待ち合わせに行かないと」
「なんだよリッド。待ち合わせって彼女か?」
リッドは苦笑いをしガランの質問を流し、誰と待ち合わせをしているか説明した。
「新しくハイランダーになる人に機関の説明と道案内をしに行くんですよ」
リッドが言い終わると、エメルダが1つ質問をする。
「そう言えば、新しくはいるハイランダーの名前は何て言うんだ?」
「『グレン』って人でしたよ。僕より3つ年下なんでんすよ」
リッドが「グレン」と名前を言うと、エメルダの目付きが変わる。
「そうか…」
リッドは不思議そうに何かを考えるエメルダを見る。
「グレン君と知り合いなんですか?」
「いや…、それより、待ち人を待たせると悪いからもう行ったほうがいいんじゃないか?」
「あ、はい! 」
リッドは玄関のドアを開け、二人にお礼を言って出て行った。
「こりゃ面白くなってきたな」
ガランがニヤリと笑いエメルダに言う。
「ああ… まさか『執念の獅子』が私より若いとはな」
エメルダも少し笑う。
「もしかしたらお前より先にファーストになるかもしんないぜ。機関破りの『グレン』ってやつはよ」
「どうだかな… 元『バザルタ騎士団』私ですらお前に勝てずにくすぶっている位だからな…」
バザルタ騎士団。それは騎士を目指すものなら誰もが憧れる騎士団。選りすぐりのエリート達が集められ、世界トッブクラスの実力を持った騎士団だが、日々の訓練の厳しさに入団したとしても騎士団を辞めていく人間は多かった。その中で騎士団のリーダーを勤めたのがエメルダだった。
「まぁ、まだまだ新しくファーストになるやつはいないか…」
ガランはそう言い、イスに座り、最初と同じように足をテーブルの上に乗せた。
「それはどうかな…」
「あん?」
エメルダ飲み終ったティーカップとリッドのティーカップを軽く洗って片付ける。
そして、椅子に座っているガランの後ろを通るときにガランに言った。
「次の昇格戦で、勝つのは私だ…」
エメルダはそう言い、テーブルの横にかけていた刀を腰にかけ玄関に向かい、ガランに言った。
「ジャーキー、なかなか美味しかったぞ」
そう言ってエメルダは家を出た。
ガランは二人がいなくなり、静かになった部屋で、あtらしくタバコを取り出し一服する
「1000年はえぇよ…」
そして、ガランは軽く笑いテーブルにある残りのジャーキーをつまみ、口に頬る。
「あ~、うめぇ」
「やあ、お疲れさま」
リッドが待ち合わせの広場で待っていると、グレンは約束の時間丁度に広場に来た。
「じゃあ、さっそくだけど行こうか」
リッドはそう言い、グレンについてくるよう指示する。
「やっぱりな…」
広場のベンチに、グレンとすれ違った片目キズの男が、グレンを遠くから見ていた。
(ファーストまで退屈せず済みそうだな!)
片目キズの男は薄気味悪く微笑み、広場から去った。