~本部~
門をくぐり抜けると、グレンの目に写ったのは門の外側と全く風景が異なる程の光景だった。
地面は綺麗にコンクリートで舗装されており、道の真ん中には透き通る程綺麗な水が流れている。
そして、そこにいる人々の多くは平穏な日々を送る人々の姿があった。
そ門番の言っていた建造物は現在の場所から遠く、少し霞んで見えるが、今いる位置からでもその大きさはよくわかった。
(これが… ハイランド機関・・・ 凄いな)
グレンは目の前の光景に圧倒されながらも、目的地に向かって歩き始めた。
入ってきた門から数分、グレンは真っ正面から歩いてくる男二人に目を止めた。
男二人は同じ制服を着ており、警備兵と言う感じではなかった。
しかし、ハイランダーとしても、ララバイが言うほど強そうには見えない。
グレンがただぼんやりと歩いていると、誰かの声と同時にグレンは後ろから突き飛ばされる。
「うわ!!」
「いて!!」
グレンと衝突したのは、短い髪の少し細い感じの男で、男は必死にグレンに謝罪していた。
「ご、ごめんなさい!」
あやまる男を見ると、男はハイランド機関の制服を着ていた。
(こいつ… ハイランダーか?)
「あ、あの! こちらの不注意です! そ、その怪我はありませんか!?」
「あ、ああ…」
グレンは何事もなく立ち上がる。
男は不自然な程にパニックになっていた。
「ほ、本当にすみませんでした!」
「気にするな」
男はグレンの言葉を聞いて、また急いで何処かに向かおうとする。
「す、すみません、僕はちょっと急いでるからこの辺で!」
そう言って、男は立ち去ろうとするが
「おい、リッド! な~に急いでんだよ」
男の後ろから声が聞こえ、男は固まった。
と言うより、肩を掴まれており動けなかった。
「あ… いや… ちょっとトイレに…」
男はかなり動揺していた。
「トイレ!? 道の案内人と呼ばれてるお前がここに来るまでにあったトイレに気づかなかっただと!?」
男の後ろには少し太めでグレンより断然でかい男が立っていた。
「リッド、ハイランダーなのに嘘は良くねぇ… よなぁ!!」
短い髪の男はリッドと言う名前らしい。
「僕は何度も言ってるけど貴方とは戦わない!」
「なに言ってやがる! ハイランダーは戦う為に存在してんだ!」
「貴方がやろうとしてるのは昇格試合の出場権を得ようとしてるだけだ! それに、戦闘を拒む相手とは戦っては行けない! それが機関のルールだ!」
「関係ねぇ! 弱い生き物は強い生き物に食われる、機関のルールなんぞよりこの世界のルールの方を守らなきゃなぁ!!」
太めの大男そう言い、右腕を横に伸ばすと、武器が現れる。
右手に現れたのは、大男の体よりもさらに大きいハンマーだった。
「さあ、ハイランダー戦を始めるぞ!」
大男は武器を両手で持ち大きく横に振りかざす。
その姿を見てリッドも直ぐに武器を出すが、リッドが出した武器は盾だけだった。
大男はハンマーを横に振る。
リッドは盾で防ぐが、ハンマーの重量に耐えきれず弾きとばされる。
「いてててて…」
リッドの右腕は、盾で防いだ衝撃で痺れていた。
(勝負になってないな…)
グレンは2人の戦いを見ていたが、余りにも一方的な戦いだった。
「リッド! 降参か!?」
大男はハンマーの先をリッドに向けた。
「わ、わかったよ… 降さ―――」
その時、リッドの言葉をグレンが遮る。
「おい、そいつは最初から戦う気はないっていってたぞ」
グレンは大男に向かって言う。
「関係ねぇ! 勝つためには弱い者を倒す! ここはそうやって勝ち上がっていく世界なんだよ!」
大男は笑う
「さあリッド、敗北の宣言をしろ!」
リッドは腰のポケットから小型の電子機器を取り出し画面に表示されたボタンを押した。
「よし!後2勝だ!」
大男も小型の電子機器をとりだし画面を見ていた。
「そんなに勝ちが欲しいのか?」
グレンは大男聞いた。
「当たり前だ! 昇格試合ギリギリで出場権を得るなんてザコランダーのすることだ! 一流ってのは余裕を持ってベストの状態で出場するんだ! だから、早めに倒せるやつ倒すんだよ!」
「…」
大男はそう言うと小型の電子機器をしまい、グレンとリッドの前から立ち去った。
「大丈夫か?」
グレンは地べたに腰をついてるリッドに手を差しのべる。
「あ、あんまり…」
リッドは軽く苦笑いをしグレンの手を借りた。
「あんた… ハイランダーなんだろ?」
「え、うん。 そんなことを聞く君は余所者かな」
リッドは痛めた右手首を揉んでいた。
「ああ、俺はここにハイランダーになりにきたんだが…」
グレンの言葉を聞きリッドは驚く。
「もしかして歩いてここまで…?」
グレンはリッドの質問に頷く。
「列車には乗らなかったのかい?」
「列車?」
「うん、このハイランドはかなり広いからね。ここから見える本部に行くまで入口からだと最低8時間はかかるよ」
リッドはグレンが向かっている建造物に指を指す
「もし歩いていくなら、今日は無理だよ。受付が終わっちゃうから、何処かで一泊して朝からいかないと…」
「列車で行けばまだ間に合うか?」
「う~ん、ギリギリかな~?」
「なら今から列車で向かう」
「それなら僕もお供していいかな? 僕も本部に用があるんだ。それに君、列車乗り場知らないでしょ?」
「ああ、頼む」
グレンとリッドは列車乗り場まで歩いて向かった。
「―――それにしてもお金がないのに列車に乗ろうとするとは・・・」
「まあ…」
グレンとリッドは列車の入口部分で寄りかかりながら会話をしていた。
「そう言えばさ、グレン君はなんでハイランダーになろうとしたんだい?」
「俺は… もっと強くなりたいんだ」
「成る程ねぇ…」
「リッド、あんたはなんでハイランダーに?」
グレンの質問を予期してたかのようにリッドは軽いノリで答える。
「グレン君と同じさ、ハイランダーになれば僕も強くなれるかなとは思ったんだけど… まったくダメダメだよ」
「まぁ… ダメなのはさっきの戦いを見てわかった」
「あははは… はぁ」
「ところで、さっきの昇格試合ってのはなんだ?」
「ああ、あれね」
リッドはそう言うと、肩に付いているワッペンに指を指し説明する。
「まず、ハイランド機関は下から順に『フォース』『サード』『セカンド』『ファースト』に分かれているんだ。そして、昇格試合っていうのは、ハイランダー同士で戦い、決められた勝利数を勝ち取ったものだけ出場できる試合で、昇格試合で勝ち残った上位何名かが次の階級に昇格できるんだよ」
「なるほど…」
(だからコイツ狙われたのか…)
グレンとリッドが会話してる中、列車のアナウンスがなり響く。
「まもなく終点、ハイランド本部前~」
アナウンスが切れると、列車は速度を落とし始める。
リッドは大男との戦いのあとに取り出していた、小型の電子機器で時間を確認する。
「まだ、ハイランダーの登録受付は終わってないね」
列車は駅に着き、二人は本部に向かった。
「ここがハイランド機関の本部…」
グレンは圧倒されていた。
ハイランド機関本部を近くで見た時の大きさと、数えきれない程のハイランダー達に。
本部はかなりの高さのタワー型になっており、高さだけでなく建物の面積の広かった。
「凄いでしょ、僕も初めて本部に入ったときは、人の多さにビックリしたよ~」
呆気に取れているグレンを見てリッドは頷いていた。
「って、あんまりのんびりしてる時間はないんだっけ!」
リッドはそう言い、小走りで受付に向かう。
「グレン君! こっちこっち!」
「あ、ああ」
リッドとグレンは本部に入り、中にいる大勢のハイランダー達を避けどんどん進んでいく。
本部に入り少し進むと、受付カウンターらしきものが見えたが、受付カウンターにいる受付嬢は書類をまとめて片付けをしようとしていた。
「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇ!」
リッド片付けをしようとする受付嬢に大声で叫ぶ。
「どうなさいましたか?」
「は、は、ハイランダーの登録希望者が、い、いるんですけど! ま、まだ大丈夫ですか!?」
リッドは肩で息を吸いながら荒々しく言う。
「はい、大丈夫ですよ」
受付嬢の人は笑顔で答え、片付けようとした書類から紙を1枚取り出し受付を始める。
「本日、ハイランダーになられる方はどなたでしょうか?」
「俺だ」
グレンは受付嬢の前に立つ。
「では、お名前と出身地を教えてください」
グレンは受付嬢の質問に淡々と答えていく。
質問に答える中、リッドがグレンに
「僕はその辺でぶらついてるから」
と言い何処かに行ってしまった。
「では、最後にあなたの健康を確認します」
「ああ」
グレンへの質問はそれから直ぐに終わり、少しの間登録の処理と制服の取り寄せに時間がかかると言うことで、グレンはハイランド機関本部の中を歩き回っていた。
本部は各階層ごとに設備が違うらしく、最大は80階を超える建物になっていた。
グレンが今いるのは本部の1階層入口付近のエントランス。
本部の中心部は広場になっており、多くハイランダー達はここでコミュニケーションをとっていた。
そして、広場の端付近にはハイランダー達が使う武器、装備品、道具、さまざなものが売られていた。
店を利用してるのはハイランダーだけでなはく、ハイランドに暮らす人々も利用していた。
グレンは一通り1階を見ると2階に上がる。
2階では、沢山の受付があり、二階中央にある大きなモニターにはモンスター情報や天気、クエストの情報などが表示されていた。
2階は、ハイランダーの仕事場だった。
グレンは中央にある一番大きなモニターを眺めていた。
次々に変わるモンスター情報を見て、グレンはある期待をした。
10年前コルン村を襲い、グレンのすべてを壊して行った…
ドラゴン―――
グレンがモニターを凝視していると、正面の人混みからリッドが現れる。
「あれ、グレン君何してるの?」
グレンはリッドに声をかけられて、リッドが自分の正面にいた事に気がつく。
「制服の取り寄せ中で時間があるから、少し本部を見ておきたくてな」
「そうなんだ! だったら僕が案内しようか?」
リッドがそう言うと、グレンは中央にあるモニターを見て時間を確認する。
「いや、そろそろ取りに行かないと… 案内はその後で頼む」
「わかったよ! じゃあその後にも色々あるから… 20時に1階中央広場に来てよ!」
グレンはもう一度時間を確認する。
モニターには17時13分と表示されていた。
「わかった」
グレンがそう言うと、リッドは手を少し上げ「また後で」と言うことを合図し、また別の場所に向かった。
グレンも直ぐに制服を取りに受付に向かった。
「では、あちらで制服に着替えもう一度ここに来てください」
受付嬢から制服の入った箱を受け取りグレンは指定された場所に向かい制服に着替える。
(これがハイランダーの制服か…)
箱の中にはハイランダーの制服と籠手、革の手袋、肩当てが入っていた。
グレンは直ぐに着替え、籠手、肩当てを装備し受付に向かう。
「サイズの方は大丈夫ですか?」
「ああ」
「では、最後にここから真っ直ぐ中央広場を抜け北側の出口に向かって下さい。出口を抜けると前方に大きな建物があるので、そこに入ってハイランダーの誓いを唱えてもらいます」
「誓い?」
「はい、儀式の様なものなので直ぐに終わりますよ」
グレンは少し顔を曇らせた。
グレンは昔から儀式や集会などは苦手だった。
「なんて誓えばいいんだ?」
「誓いをする所の前の石碑に書いてありますので、それを見て唱えてくれれば大丈夫ですよ」
受付嬢は言い終わるとグレンに一礼し
「これにて私の案内は終わりになります。グレン様の活躍をご期待しております」
と言い、手続きの書類等をまとめ机の上を片付け始める。
グレンはハイランダーの誓いを唱えに、受付嬢に言われた場所に向かった。