~ハイランダー~
荒野は静かだった。
吹き荒れていた風は、グレンとルドワルドの戦いを邪魔しないかのように止む。
(何を考えてるんだい… グレン!)
サキはただ立ち尽くし見ていた。
「じゃあ早速・・・」
ルドワルドが小さく呟いたそのときだった。
ルドワルドの腰に隠してあった銃を抜き、グレンを狙う。
「死ねよクソガキがぁ!!」
銃声が鳴り響き、拳銃から飛び出た弾丸はグレンをめがけて一直線に突き進む。
その瞬間にルドワルド自分の勝利を確信した。
しかし、ルドワルドの予想とは違い、グレンは平然と立っていた。
(なんだ… 外しちまったか…?)
だが、確かにルドワルドはグレンに標準を合わせていた。
しかし、ガンマンにとって止まっている物を一瞬で当てることなど朝飯前。
グレンとルドワルドの距離も全く離れているわけでもなかった。
だか、ルドワルドの前に立っているグレンには当たっている様子がない。
ルドワルドはグレンをじっくりと見と、グレンの足元が少し動いていることに気がつく。
(このガキ…! まさか!?)
「今のが.... 合図だろ?」
ルドワルドはグレンの言葉を聞き、再びグレンに狙いを定めるが、グレンはすでに最初の位置から自分の位地までの半分程進んでいた。
ルドワルドは二発目の弾丸が放つ。
だが、グレンは弾丸を当たる直前に剣で弾きルドワルドに向かって一直線に駆ける。
(弾が見えんのかこのガキ!?)
ルドワルドが三発目を撃とうとしたとき、ルドワルドの拳銃は大きく空に舞っていた。
そして、ルドワルドの目の前には左拳を固めたグレンが姿勢を低くして構えていた。
それに気付き防ごうとしたときには、ルドワルドの腹部に強烈な一撃が決まる。
ルドワルドよろよろと後ろに下がり、膝が崩れる。
「て… てめぇ…」
グレンは無言でゆっくりと姿勢を直し、腹を押さえながら膝立ちするルドワルドを見下ろしていた。
「てめぇ… 何者… だ…?」
ルドワルドの問いにグレンは答えた。
「俺の名は… グレンだ」
その答えに周りにいたブラックラットの団員達がざわめき始める。
「おい、グレンってもしかしてあの… 『執念の獅子』か…?」
「そんなわけねぇだろ… だってまだ20にもなってねぇガキじゃねぇか…」
「ルドワルドさんが一撃で…!?」
ブラックラットの団員達がざわめくなか、グレンが男達に向かって声をかける。
「おい!」
その一言でざわめきが止む
「この勝負は… 俺の勝ちだろ?」
グレンがそう聞くと、1人の男が集団からグレンに向かってきた。
「てめぇ… 生きて帰れると思うなよ!」
そう言い、男は腰についてあるトマホークを取り出しグレンに向かって飛びかかる。
しかし、グレンは男の攻撃を最小限でかわし腹部に拳で重い一撃を決める。
ルドワルドに決めた一撃よりは軽かったが、男はその一撃で体をくの字に曲げ、そこからもう一撃、男の頭の上から拳で地面に叩きつけた。
男はその二発で完全に気を失った。
「つ、つぇぇ!」
ブラックラットの団員は完全に意気消沈していた。
「グレン… めちゃくちゃ強いじゃん…!」
サキは目を丸くしグレンを凝視していると
「まさか… あの坊主が『執念の獅子』だったとは…」
サキの隣にいつの間にかララバイが柱につかまりながら立っていた。
「ララバイ爺さん! 生きてたのね!」
「わしがいつ死んだんじゃ!」
ララバイは痛そうに腰を抑えていたが、サキは気にせずにララバイに疑問を問いかけた。
「それよりララバイ爺さん、『執念の獅子』って…?」
ララバイはサキの質問に眉をよせ、少し考えるように答えた。
「うむ… 2、3年前から少し噂は聞いとったんじゃが、各地にある機関やなんやらに戦いを挑む輩がいるって噂になっていてのぅ。 その機関のリーダーを倒すまで戦い続ける姿から『執念の獅子』とついたそうなんじゃが… まさかこんな小僧がのぅ…」
グレンが最初に言った「旅」、その正体は各地にある機関から強い者と戦い続け、勝ってはまた次の強き者を探す…
サキとララバイはグレンであることを疑わなかった。
何故なら、この場にいる誰が見てもグレンの強さは本物だったからだ。
「もうええじゃろ」
ララバイはブラックラットに向かって言った。
「お主らがいくら束になってかかってもその小僧とは勝負にはならん。お主らの負けじゃ」
ララバイの負けという言葉にブラックラットの団員達は返す言葉はなく、黙ってグレンに倒された二人を見ていた。
「きょ、今日の所はかんべんしてやるよ…」
一人の男が言葉グレンに向かって言うが
「いや… もう二度とここに来るな。 もし次にここであったら容赦はしない」
その言葉を聞いた男は急いで言葉を訂正し、ブラックラットの団員達は倒れた二人を運び撤収していった。
ラックラットの団員達が引き上げゆく姿を見て、サキはグレンに駆け寄った。
「凄いじゃないかグレン!」
「いや・・・ 別に・・・」
グレンはとぼけた顔で言い、頭をかく。
ブラックラットが撤収していった後、グレン、ララバイ、サキの3人は酒場のカウンターに集まり、店は賑わっていた。
「ヒヤヒヤしたぜ! グレンがあの馬鹿どもの条件承諾したときは!」
「そして、小僧が噂の『執念の獅子』とはのう」
グレンは二人が話している途中サキに料理を注文をする
「この中で一番安いのって何だ? 」
「ん? あーそう言えば何にも食べてないんだよね! いいよ、今日はあのバカ共の間抜け面見せてくれたお礼に飯もタダさ!」
「おお、サキぃ! 太っ腹じゃねぇか!」
「あんたにゃ何もないわよ」
「なんじゃとぉ!?」
サキは厨房に向かいながら笑顔でララバイに言う
「冗談よ」
サキはそういって注文を聞かずに厨房に入っていった。
サキが調理して数分。
サキが作っている料理は、時間がかかるようだった。
グレンはルドワルドが言った言葉、「ハイランダー」と言うのが気になりララバイに尋ねる。
「ララバイさん」
「ん? なんじゃ?」
「さっきルドワルドが言っていたハイランダーってなんなんだ?」
ララバイはハイランダーの言葉を聞くと、持っていたグラスを置き真剣な眼差しになる。
「お主、『ハイランド』にも殴り込みに行くのか?」
「ハイランド…?」
「『ハイランド』って言うのはこの世界最大の機関といっても過言じゃない。そして、永遠に戦うことに忠誠を誓い、強さを求めた機関が『ハイランド』なんじゃ。 そして、そこに忠誠を誓ったものが『ハイランダー』じゃ」
「強さを求めた機関…」
グレンは自分の手の平を力強く握る。
(俺は… もっと強くならなきゃいけない…)
「教えくれ。その機関のある場所を」
ララバイはグレンの言葉を聞くとニヤリと笑う。
「行くのか? あそこに集まるやつらの強さは次元が違うぞ? 小僧より強い奴なんざ当たり前のようにいるぞ」
ララバイはグレンに念をかけるが、グレンはただ一言で答えた。
「ああ、望むところだ」
ララバイはまたニヤリと笑う。
(この小僧… いい目つきしてやがるのぅ…)
「いいじゃろう」
ララバイはグレンに機関のある場所を教えた。
「お待ち~!」
サキが両手に鉄板を持ちながら厨房から出てきた。
「おお…」
グレンは鉄板に載っているステーキの大きさに思わず声を出す。
「サキ… てめぇ… それは… ガロフトロスの肉じゃねぇか!」
ララバイは驚きのあまり自分の目を疑う。
「そうだよ~ 高級肉のガロフトロスのステーキ300gさ!!」
グレンはガロフトロスの肉がどのくらいの高級な物かはわからないが、ララバイの驚き方を見ると相当高級なのかも知れないと察した。
「ララバイさんはこっち」
サキはそう言うと見た目も量も普通なステーキをララバイの前に置く。
「サキィィィィィ!! ワシのガロフトロスは!? ワシのがロフトロスはないのかぁぁぁぁぁぁ!?」
「あっさり負けちゃったからね。ララバイの爺さんはこの肉よ」
ララバイの胸に、負けの言葉が深く突き刺さる。
「ワシが若ければあんな…」
「じゃあ、ガロフトロスのステーキは年寄りには硬くて食べれないわね」
「いやそれは大丈夫じゃ!」
サキはララバイの言葉を無視しグレンを見る。
「なぁグレン君、私と取引しないか?」
グレンはサキ意外な言葉に驚く。
「取引…?」
「そう、内容は凄く簡単。 グレン君が『ハイランダー』になってクラスファーストになったときにね、なの店を紹介してほしいのよ。」
グレンは答えを返すのに少し考えた。
隣でこの話を聞いていたララバイは、黙ってグレンを見ている。
「わかった。 俺は必ずクラスファーストまでかけ上がる。だから、 あんたもこの店をいつまでも続けてくれ。」
グレンのまっすぐな目を見て、サキは少し笑った。
「言われなくても続けてるわよ! じゃあ、たんと食え少年!!」
サキは持っていたガロフトロスの鉄板をグレンの前に置いた。
ガロフトロスのステーキは鉄板の上で音をたて、なんとも言えぬ香ばしい香りがグレンの食欲を掻き立てる。
(肉だ… 久しぶりだな…)
グレンはしばらくの間ステーキに見とれていたが、サキに急き立てられ我に返り、フォークとナイフを手に持つ。
そしてグレンはナイフを掴むが、ナイフの使い方を知らないグレンは必死にステーキを切ろうとする。
「小僧! うまく扱えるは剣だけか!!」
グレンのあまりにも無様なナイフさばきララバイは冷やかした。
グレンは冷やかされながらも必死でステーキを切ろうとするが、全く思うように切れなかった。
すると、グレンはナイフを鉄板に乗せ、フォークを逆手に握った。
そして、フォークでステーキをひと突き。
グレンはひと突きで刺したステーキを口に運ぶ。
「うまい…!」
ララバイはグレンの豪快な食べ方を見て笑いに笑った。
「確かに、この酒場にはナイフなんて洒落た物はひつようないわなぁ!!」
サキも、笑いながらグレン
「当たり前でしょ! 肉も料理人の腕もよ良ければ最高級物よ!」
と豪語し、嬉しそうにステーキを食べるグレンを見ていた。
そしてしばらくの間、3人だけの賑やかな食事が続いた。
その賑やかな食事は、10年前のコルン村での幸せな日々を思い出すものだった。
「なんだい、もう行っちゃうのかい?」
「ああ、世話になった」
三人は食事を済ませ、酒場の外にいた。
荒野はルドワルドとの対決より少し風が吹いていたが、グレンが酒場に来たときよりはかなり穏やかだった。
「約束忘れんじゃないよ!」
「小僧、たまにゃ顔出せよ」
グレンは頷き
「あんたも、あまり無茶はするなよ」
と言い、ハイランド機関に向かって真っ直ぐ歩き出した。
「また昔みたいに人が来るかなぁ」
サキはグレンの後ろ姿を見ながら小さく呟く。
「さぁのぅ…、今じゃ人すらいないこの地に足を運ぶ客などおらんじゃろうが… もしあの小僧がファーストになりこの酒場を紹介したら… 昔以上に客が来るかもしれんのぅ」
サキとララバイは再びこの地「カンザス荒野」にある酒場「ガンスリンド」に人が来ることを願いながらグレンを見送った。
「ここか…」
グレンの目の前にはとてつもなく大きな門が口を大きく開けたかのように開いていた。
門の近くには5人の番兵がおりその内の1人の番兵がグレン気がつきに声をかける。
「おい、そこのお前、なんのようだ」
声をかけた番兵は腰から2つの短剣を抜き、片方の短剣をグレンに向けながら近づいた。
「答えによっちゃ生きて帰れねぇぜ?」
グレンは男の問を返した。
「ここにハイランダーになりに来た」
グレンの言葉を聞くと、番兵は剣をおろした。
「そうか、そりゃ悪かったな。最近物騒な連中が多くてね」
そう言うと、番兵は武器腰にしまった。
「…それより、どこに行けばハイランダーの奴らと戦えるんだ?」
「ああ、この門くぐり抜けて前見ればでっかい建造物があるからそこに向かいな。着けば誰かしら居るから後はソイツに聞いてくれ」
番兵はそう言って元の場所に戻っていき、
グレンは目の前にある大きな門をくぐり抜けた。