~ならず者~
女性店員はグレンと会話を続ける。
店の隅では、老人がつまらなそうに緑色の豆を食べていた。
「あ~、ごめんね。一方的な会話になっちすゃったね。注文決まった?」
グレンは決めていなかった。
と言うより、決められなかった。
会話を聞いていて集中出来なかったのではなく、ただ単純に所持金が少なく、メニューにある食べ物はグレンの所持金を超えていたのが殆どたった。
女性店員はグレンにいろいろなオススメを教えてくれていたか、当然頼めるものではない。
「とりあえず… 水を」
グレンの注文に女性店員は少し不思議そうにしていたが、すぐに笑顔になりジョッキを持ってくる。
「はいよ!」
女性店員はジョッキを力強く置く。
しかし、ジョッキには水じゃなく泡立った黄色いアルコールが注がれていた。
「ああ、そうそう、私の名前はサキ。酒場なのに話し相手いないし、私、店員て柄じゃなくてね。お酒飲みながらここに来る客と話すなんて久々だよ~。旅しててお金ないんだろ? それは私の奢りさ」
サキはそう言いながら
「さあ、一気だ一気!!」
とグレンを煽る。
「これは… ビールか?」
グレンはジョッキに注がれた飲み物を睨み付け、サキに聞く。
「ただのビールじゃないよ! この店特性のカンジャッシュビール! 飲んだら病みつきになるよ~!」
サキは自信満々に言い、グレンをニヤニヤと見ながらグレンがカンジャッシュビール飲むのを待っていた。
「もらえるって言うなら、じゃあ・・・」
(出来れば食べ物の方が良かったんだが・・・)
「さぁ! 少年! 飲め!」
グレンはジョッキを掴み飲もうとすると、
「おいおい~ 店やってるのかこれ~?」
扉の開く音と共に、大勢の男達が入ってきた。
男達の雰囲気は悪かった。
腰に武器をつけ、少しボロついたシャツを着ている者もいれば、高そうな皮のジャンパーを着ている者、派手なピアスや貴金属を身に付けている者など、様々な男達がいた。
グレンはサキの表情を見るとジョッキを置いて男達の様子を伺った。
「あい変わらずの空席ですねぇ~。今日のお客さんも年老いた爺さんだけですかぁ?」
喋りだしたのはハットをかぶり、黒の皮コートを着た、男達の中でも風格が違う感じの男だった。
「悪いけど今日は他のお客さん来てるだよ。そんな人相悪い顔がうちの店来ると酒が不味くなるんだよ! でてきな!」
サキは男達を睨み付けていた。
「おや、これはこれは失礼した!」
ハットの男が高々と笑ういながら言うと、回りの男達も笑い始める。
そしてハットの男は続ける
「俺達がいなければ… ここのお酒は美味しくなって客も入ると? 客が入ってんならここの土地代払えるよなぁ! ここはさぁ、俺達ブラックラットが買おうとしてるんだよ~。それをあんたのつまらない理由で買わせてくれないなら~、それ相当の金払ってもらわなきゃなぁ~」
男達の集団は「ブラックラット」、この荒れ地に住むギャングだった。
そして、ハットを被り、団員達と一風違う風格の男が、この「ブラックラット」リーダー「ルドワルド」。
ブラックラットの目的はサキが持つこの酒場「ビッグボーイ」の買収と言うがそれは表向きで、本当の目的はこの「ビッグボーイ」にある資金の巻き上げ。
酒場「ビッグボーイ」は、ルドワルドの言うとおりかなり前から店に人が来なかった。
しかし、それでも経営が続く酒場に目をつけ、こうしてたびたび揺すりをかけてここの膨大の額を請求してくる。
「ふざけんじゃないわよ! ここの土地もこの店が建ったときから私のものよ。あんたらがなに言おうが金払う気もないし、金払う義務もないわ!」
サキは手元にある空き瓶をルドワルドに投げつける。
しかし、ルドワルド瓶ををなんなくかわす。
「困るんですよ~ こんな不味いビールにお金かけられちゃ~。 お金ってのは使えば良いってものじゃないんですよ」
ブラックラットの団員達は高々と笑い、装備していた武器を取り出す。
「アンタら… 今度はなにするつもりよ!」
サキの言葉にルドワルドは答える。
「出すもん出せばなにもしねぇよ~?」
すると、1人の団員が近くの
ルドワルドは不気味な笑みを浮かべ、サキに近づく
すると、店の隅にいた老人が怒鳴り出す。
「貴様ら… 黙っておればいい気になりおって! この店を壊すと言うんじゃったらワシが相手になるぞ!」
老人は席から立ち上がり、ルドワルドに近づき、腰についている銃をルドワルドに向けた。
「これは驚いた!誰かと思えば昔『無限の弾丸』と呼ばれた英雄的ガンマン『ララバイ』さんじゃないですか!」
ルドワルドはそう言うと、ハットを深くかぶり笑いを隠す。
「何がおかしい…」
ララバイは銃を更にルドワルドに近づける。
「確かにララバイさんはこの荒野では私達ガンマンの英雄ですがぁ~」
ルドワルドは不気味な笑みを浮かべた瞬間、ララバイの手を素早くはじき銃を奪い、ララバイに銃口を向けた。
「こんなヨボヨボのジジイに負けるかよ!」
ララバイは取られた銃を見て唖然とする。
「あんたが昔どんなに強がろうがなぁ… それはなぁ...」
「昔話なんだよ!!!!!」
ララバイは言い返せなかった。
ララバイは確かに昔は強く、ここら一体のガンマンの間では無類の強さだった。
しかし、ララバイがいくら昔に強くとも歳老いた体では勝てやしない。
「そうそう、そう言えばアンタがハイランダーだったときさぁ~、クラスサードだったんだろぉ?『無限の弾丸』と呼ばれた男がクラスサードとは笑わしてくれる!」
「あんた達… クラスサードがどんなに凄い事かわかってんの! 」
サキはルドワルドの言葉に激怒していた。
(ハイランダー…?)
グレンはカウンターに座りながらただ様子を見ていたが、ルドワルドが言った言葉「ハイランダー」
その言葉がグレンの耳に残っていた。
「サードの凄さぁ? 知ってるよ! こんなヘボでもなれるんだろ!」
ルドワルドはそう言うとララバイを蹴り飛ばす。
「ウグッ!」
ララバイはグレンの座っているカウンター付近まで飛ばされた。
「くそ… こんなコワッパに…」
ララバイは立ち上がろうとするが、倒れた衝撃で腰を痛め立ち上がれない。
そんなララバイを見てルドワルドは笑いながらララバイに近づき、銃をララバイに向ける。
「ちょ… 冗談でしょ!! アンタほんとに撃ったら…!!」
「なぁにサキさん、払うもん払ってくれればぁ~ なんもしねぇよ?」
ルドワルドの目に迷いはなかった。
「ワシの事はほっとけ!払うこたぁねぇ!」
サキはルドワルドを睨み付けていたが、目を閉じて考え始めた。
「サキィ! この店をてめぇ1人で潰す気か!」
ララバイが必死でサキを止めるが、ブラックラットの1人の男に蹴られララバイは倒れる。
「3数える間に決めなぁ~」
ルドワルドがそう言うと、サキは直ぐに目を開き
「3秒も入らないよ。今持って来るわ」
そう言い、店の奥に入ろうとする。
すると
「あぁん?」
グレンが手元にあるジョッキを持ち、カンジャッシュビールを一気飲みし、飲み終えたジョッキをテーブルにゆっくりと置き、一息ついた。
「アルコール強いな・・・ これ・・・」
ルドワルドはグレンが自分を無視している姿わ見て苛立ちを感じる。
「お客さん、空気って読めるかな?」
「さあな…」
ルドワルドの問にグレンは軽く流す。
「おいてめぇ、なめてんのか!?」
ルドワルドはグレンの襟元を掴みグレンを立たせるが、グレンはただルドワルドを睨んでいた。
「なに睨んでんだこのガキ!」
ルドワルドはグレンをブラックラットの男達の方に突き飛ばし、指示をした。
「外に出せ!」
グレンは強引に外に連れ出される。
「おい! グレンは関係ないでしょ!?」
サキがルドワルドに掴みかかるが、あっさりと振りほどきサキを突き飛ばす。
「ブラックラットを舐めたらどうなるか教育しねぇとなぁ…」
ルドワルドはそう言い、ララバイの銃を捨て、店の外に出る。
店の外にはブラックラットの男達がグレン囲んでいた。
「さぁて兄ちゃん。今から俺と1対1の戦いだ…」
ルドワルドはグレンの前に立ち
「ルールは簡単だ、俺が合図をすると同時に戦闘開始。勝ち負けはコイツらが決めるそれでいいな?」
そう言い、周りにいる男達を指差す。
グレンは、ルドワルドのあまりの大雑把なルールにも関わらず
「ああ、わかった」
グレンはあっさりとそのルールを承諾し、剣を出す。
グレンが剣を構えるのをみて、店のドア付近で見ていたサキがグレンに叫ぶ。
「何言ってんだいグレン! そいつらがまともに合図も判定もするわけないだろ!?」
しかし、グレンは一度サキを見るが、何も答えない。
「いいねぇ、そうこなくちゃ…」
ルドワルドはニヤリと笑う。
荒野に吹き荒れていた風は止み始め、沈黙する中グレンとルドワルドは睨み合っていた…