~力なき者~
「いない…」
リーネとグレンは村にたどり着き、アーチェと言う名の女の子を探していた。
「リーネ、そろそろ戻ろう! 大分時間がかかってる! それに、村の奥まで入りすぎだ! このままだと・・・!」
「もう少しだけ… あと少しだけ…」
リーネは必死に捜索を続ける。
「くそ! どこだ、 どこにいる!」
グレンもひたすら障害物を退かし、女の子を探す。
そして時折、村にはモンスターの声が轟く。
(まだ師匠は戦ってるのか… こんなに長く戦ってるなんて初めてだな…)
グレンがハウリードの心配をしていると、微かにモンスターの声が鳴り響くなかに、小さな声が聞こえる。
おか… さん…
「えっ?」
その声は、自分の近くから聞こえるものだった。
グレンは声が聞こえなくならないように耳を傾けながら声の方へ歩く。
すると、民家の蔵にしゃがみ込み隠れて女の子が泣いていた。
「リーネ! いたぞ!」
グレンは女の子を見つけると、リーネを呼び、女の子に手を差し伸べた。
「ここは危ないし、君のお母さんが心配してるぞ、だから早くここから逃げよう」
しかし、
「嫌だ! 知らない人にはついていかないってお母さんに言われてるもん!」
女の子はグレンを警戒していた。
「だ、大丈夫だよ! お母さんの所に連れて行くだけだから」
「やだ! お兄ちゃん怪しいもん!」
「全然怪しくないだろ!!」
グレンが大声を張り上げると、女の子は大声で泣き始め、手当たり次第ものをグレンに投げつけた。
「ああ~ ごめんよ、ごめんって」
グレンが女の子を必死で慰めながら、女の子の手を取ろうとするが。
「あっち行け! 怪しいの! 化け物! モンスター! 怪物!」
まるで近づけない状態だった。
「モンスターは俺じゃなくて村の奥で暴れてるやつ!」
すると、グレンの横からリーネが聞こえた。
「何してるのグレン! 早く避難させないと!」
リーネがいつまでも女の子を連れてこないグレンの近くに行き、様子を見に来ると、女の子投げるのを止める。
「あっ! リーネ様!」
女の子は嬉しそうに声を張り上げリーネに駆け寄り抱きつく。
「アーチェちゃん、もう大丈夫よ。 お母さんも村の外で待ってるわ」
「リーネ様と一緒なら大丈夫だもんね!」
グレンはその様子を黙って見ていた。
アーチェはグレンとリーネの少し年下の女の子だった。
アーチェはリーネを見て安心すると、今の現状がまるで何もないかのように笑顔になり、元気よくにリーネと村の外に走り始めた。
グレンはアーチェを無事に見つけて、村から生きて出れる事に胸をなでおろしたが、リーネとグレンはアーチェの走る速度に合わせているためなかなか進まない。
村の中心付近にいるグレン達は、アーチェの走る速度に合わせると村の外までは時間がかかる。
リーネとグレン少し焦りを感じながら、アーチェを見失わないように、はぐれないように、いつモンスターに襲われてもいいよう周りに注意を払う。
しかし、しばらく走るとグレンは異変に気づく。
(モンスターの声が… 聞こえない!)
「グレン、伏せて!」
突然、巨大な火玉が近くで落ち、爆発音が響く。
「うわ!」
グレン達は爆風に巻き込まれあっさりと吹き飛び、地面にたたきつけられる。
しかし、リーネだけはたたきつけられた体をすぐに起こし、アーチェを探す。
だが、アーチェはぐったりと倒れていた。
「アーチェちゃん!」
リーネは直ぐに起き上がりアーチェに駆け寄る。
「な… なんで…?」
グレンは目を丸くしていた。
師匠は戦ってたんじゃないのか…?
戦っているのなら何故ここにいる…?
師匠は… 負けたのか…?
嘘だ・・・
そんなわけない!
しかし、グレンが見たものは、紛れもなくハウリードと戦っていたドラゴン。
ドラゴンにいくつもある傷が証拠だった。
ドラゴンは地面に激しい突風を起こし着地すると、けたたましく吼える。
グレンは、その1回の咆哮で体が恐怖で凍りついた。
リーネはアーチェを必死で運ぼうとするが、人を運ぶには魔力が弱く、魔法で人を運ぶ事はできないためアーチェを背負い村の外に向かおうとする。
だが、リーネの力では同じぐらいの歳の女の子を背負って走ることはできない。
「あ… あ… 」
グレンは動けなかった。
「グレンなにしてるの! 逃げて!!」
グレンの瞳には涙が溜まっていた。
しかし、自分が涙を流しているのかはわからなかった。
目の前の恐怖で、信じたくない現実に、自分と言うもの全てを飲み込まれる。
ドラゴン首を上げ、口から火が溢れ出す。
「グレン! お願い! 逃げて!」
それでも動かないグレンを見て、アーチェを下ろし、魔法を使ってグレンのもとまで駆ける。
(間に合わない!)
ドラゴンは勢いよく首を下げ、火球を吐き出す。
一瞬だった。
凄まじい爆風が体にのしかかり、グレンは大きく飛ばされる。
(い… てぇ…)
グレンはうつ伏せに倒れながら、酷く痛む頭を上げる。
視界が霞む。
しかし、自分の近くに誰かが倒れているのがわかった。
見えたものは、酷い傷を負い血を流しているリーネだった。
(リー… ネ…!? 俺を… かばった… のか…)
グレンは痛みで声がでなかった。
(くっ… そ…)
激痛が全身に走る。
痛みで意識が飛びそうだった。
ドラゴンはゆっくりとリーネの元に近づく。
グレンはフラつきながらも立ち上がり、リーネに近づき呼びかける。
「リー… ネ… 目を… 覚ましてくれ…」
グレンのはリーネの横でしゃがみこみリーネを呼び掛ける。
「アー… チェ…」
アーチェは少し飛ばされていたが、爆発との距離があったためアーチェは無事だった。
ドラゴンの放った火球は、村に放つ1発目よりは威力はなかった。
ハウリードとの戦いで体力を消耗したためだ。
それでも、直接喰らえばひとたまりもない。
だが、リーネが体を張り、全ての魔力を使い防いでくれたため即死を免れた。
だが、リーネは・・・
グレンの瞳に涙が溜まる。
ドラゴンは少し歩いた所で止まり、もう一度首をあげ、口の中でで火球を作る。
「なんだよ・・・ まだ壊し足りないって言うのか・・・?」
グレンは右手を広げると、手のひらに白い渦が渦巻き、剣が現れる。
『―――この剣は持ち主と共に成長していき、持ち主が本物の力を手に入れたとき、剣は力を貸してくれる』
グレンが幼い頃にそう言われ、ハウリードから託された剣だった。
グレンは剣を強く握り構え叫ぶ。
「やれるもんならやってみろよ!!」
体の激痛はなかった…
限界を超え、感覚と意識が殆ど無いためだ…
ドラゴンが口を開き、作り終わった巨大な火球を勢い良く吐く。
巨大な火球は地面をえぐりながらグレンに向かって進んでいく。
避けられない・・・
避けられないのなら・・・
止める…
止めるんだ!
俺の後ろには何も…
行かせちゃダメなんだ!
グレンは左足を一歩前にだし、剣を横に大きく引いた。
すると、突き出した左足の地面が大きくヒビ割れ、グレンの体の周りに赤い渦が渦巻く。
そして、グレンは全力で剣を振り、剣と火球が衝突した。
火球は凄まじい力でグレンを吹き飛ばそうとする。
だが、グレンは吹き飛ばなかった。
グレンは少しずつ火球に押されながらも、その場で火球の進行を止めた。
そして、グレンに渦巻く赤い渦は、剣と火球が衝突するときより一層赤く、激しく渦巻き
グレンは火球を跳ね返そうとする。
「負けるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
不思議と沸き上がる力は、留まることを知らないかのように増し、グレンは次第に火球に押されなくなる。
力を・・・
力を・・・!
もっと力を!!!
グレンの体に電流が走るような感覚が巡る。
すると、赤い渦さらには激しく回り始め、地面は音を立てて振動し始める。
グレンの力は人とは思えない程にさらに増し、剣は火球の熱で赤くなり始める。
グレンの力は火球を増し、少しずつ火球を押し返す。
「吹き飛べぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
そして、グレンは火球を吹き飛ばそうとした。
しかし…
辺りが一瞬真っ白になり、グレンの体は宙に舞った。
後一歩の所で火球は爆発した。
グレンは大きく吹き飛ばされ、地面強く叩きつけられ、うつ伏せに倒れた。
近くにいたリーネも今の爆風で離れてしまう。
(くそ・・・)
ドラゴンは何事もなかったかのように、避難場所に向かって歩き始める。
(まてよ・・・)
周りの残骸は激しく音を立てて燃え上がっている。
今まで見てきたコレン村とはかけ離れた光景だった。
(俺はまだ・・・)
目の前がかすみ、意識が途切れる時だった。
大きな地響き起き、すさまじい力を感じる。
その力は一度だけ感じたことのある力強さだった。
それは、ハウリードの奥義。
意識が途切れる中、微かにドラゴンの後ろにハウリードが見えた。
ドラゴンと比べると、ハウリードはとても小さく見えたが、ハウリードの放つ力強さと、その存在感は、ドラゴンの存在が小さく感じられる程だった。
ハウリードは大きく飛び上がり、ドラゴンの真上から狙いを定めた。
そして、体を少し捻り、ドラゴンの頭上目掛けて落下していく。
「奥義ーーー」
ハウリードは飛竜のギリギリまで接近すると、剣を大きく横に振り抜いた。
すると、地面はハウリードが振るった剣の衝撃で大きな円状に凹み、飛竜は穴の中心に強く叩きつけられた。
飛竜は断末魔のように吠え、飛竜の周りだけが重いかのように地面を少しずつ砕きながら沈んでいく。
(すげぇ・・・、やっぱり師匠は最強だ・・・)
そこでグレンの意識は途切れた。
「くっ… 仕留めきれなかったか…」
ハウリードは奥義を与えた飛竜を見て呟く。
凹んだの中心にいるドラゴンは弱りながらも巨大な体を起こし、立ち上がった。
そして、ドラゴンは土煙をあげ上空に飛び去った。
(昔ほどの力はないと言うことか・・・)
ハウリードの呼吸は荒々しく、疲れ果てていた。
ハウリードの奥義はすべての力を1度に出し切るため、奥義をだせば次の力は残されていない。
ハウリードは、途切れ途切れの息を整える前に、地面に横たわっているグレン達に目を向けた。
「グレン… リーネ… すまない…」
ハウリードただそれだけ呟き、その場を去った。
(グレン・・・ お前はやはり・・・)
この夜
1つの村が壊滅した…