~ドラゴン~
コルン村の夜はとても静かだった。
虫の音も、鳥の声も、モンスターの声も聞こえない。
ハウリードはその事に不安を感じる。
(静かすぎる…)
ハウリードは装備を整える。
ハウリードが装備を整えることは滅多にないことで、このコルン村に来てからは1度も装備を整える事なくモンスターを退治し続けた。
ハウリードが装備を整える時、それは強大な力を持ったものが前にいるときだけだった。
本能がハウリード自身に警報を鳴らす。
装備を整え終えると家からゆっくりと外にでた。
風の音がはっきりと聞こえ、この風にハウリードは疑惑を感じた。
(荒れている… 自然の吹く風ではないな…)
この疑惑は直ぐに確信へと変わった。
村の奥から物凄い爆発音が響き渡る。
ハウリードはすぐに家に入りグレンを叩き起こした。
「グレン、直ぐにこの村からでて稽古場所の方まで避難しろ。早く準備しろ!もたもたするな!」
「はっ、はい!」
グレンは爆発音と共に飛び起きていた。
ハウリードのひと言を聞くと、大体の状況は予想できた。
村にモンスターが現れ、ハウリードがモンスターを退治し、いつもと変わらない毎日がくると・・・
今までの決まりでもあったこの流れ。
しかし、いつもと空気が違う。
グレンとハウリードが外にでると村の奥が真っ赤に燃え上がっており、大勢の村人達が叫び声を上げ村の外に走っていく。
「ハウリードさん!」
振り向くと呼吸を荒々しくしたリーネがいた。
「リーネ、グレンを頼む」
ハウリードはそういい残すと1人で村の奥に駆けていった。
「ハウリードさん! 1人でじゃ無理です!」
しかし、リーネの声はハウリードには届かなかった。 ハウリードの姿は段々赤い炎の光に呑まれていき、見えなくる。
「なに言ってんだよリーネ!師匠が負けるはずないだろ!」
「ただのモンスターじゃないの! ドラゴンよ! ハウリードさんがいくら強くても1人じゃ無理よ!」
―――ドラゴン
この世界で最上位の強さを誇るモンスター…
しかし、それは神話の中だけで実際に見たものはいない…
神話でのドラゴンは守り神のようなもの、村を襲う事などない…
「ドラゴン…? なに言ってるんだよ!そんなのいるわけないだろ!」
「でも… 神話のモンスターにそっくりだったのよ!」
グレンは少し不安を感じた。
リーネがこの非常事態に嘘を言うはずもない。
仮に嘘だとしても、村の3分の1を一撃で焼き付くすぐらいの力をもったモンスター。
相当強い事に違いはなかった。
「とにかく、今は師匠の言うとおり避難しよう!」
リーネは無言で頷くと、グレンとリーネはハウリードに指示された場所に急いだ。
「なんと言うことだ…」
ハウリードは我が目を疑った。
多くの人、家、植物は真っ赤な炎で燃え尽くされていた。
しかし、一番に疑ったものは…
金の鱗で覆われた飛竜だった…
2つの大きな羽根、長い首、鋭い目付き。
その飛竜は神話にでてくるドラゴンと同じだった。
飛竜は火の海のなかを何もなかったかのように歩き、グレンに指示をした避難場所に向かって歩いていた。
ハウリードは家の影から飛竜の様子を見る。
飛竜は、自身の道を阻む家に容赦なく高温の火球を吐く。
(これ以上はまずいな…)
火球は家に当たると同時に爆発し、回りの家も跡形なく吹き飛ぶ。
ハウリードは右手の平を広げる。
すると、手のひらで風が渦巻き初め、青く、剣先がクリスタルのような剣が現れた。
ハウリードは飛竜の背後から一気にかけより剣を大きく降り下ろした。
「コルンが…」
グレンとリーネは村から少し遠く離れた草原から、故郷であったコルン村を見ていた。
リーネは瞳に涙を浮かべながら、グレンは呆然として立っていた。
それはグレンとリーネだけではなかった。
グレンとリーネの回りにもたくさんの人達が燃え上がる村を悲しみ、大切な人の死を悲しんでいた。
「どうなるのかな… これから…」
リーネの言葉にグレンは言葉を直ぐには返せなかった。
「し、師匠がモンスター倒してまたいつものコレンに戻るよ」
しかし、この言葉ではリーネを励ます力はない。
グレンは必死に次の言葉を考えていた。
「誰か! 誰か私の娘を知りませんか!!」
グレンとリーネから少し離れた場所から女性の声が聞こえた。
声の方を振り返ると、村人達が一人の女性を囲むように人々が群がっていた。
「ここに来てませんか!? いたら教えてください!」
女性が必死に村人たちに呼び掛けていた。
リーネはその様子を見ると、女性を囲んでいる村人達を押しのけ女性に近づいていった。
「おい、リーネ!?」
グレンも後を追いかける。
女性はリーネに気がつくと必死になってリーネに問いかける。
「ああ、リーネちゃん・・・ ここに来るときに私の娘、アーチェを見なかった!?」
「いいえ… どの辺りからはぐれてしまったのですか?」
リーネは女性から色々と聞いていた。
グレンは必死に女性から娘の情報聞いてるリーネを見てグレンは気づく。
「リーネ・・・ なにする気だよ・・・!?」
「まだ村ににいるのかも・・・ 私、探してくる!」
リーネは村人達を強引に押しのけ、火の海となったコルン村に向かう。
「おい待てよ!!」
リーネの腕を掴もうとするが、グレンの手は空を掴んだ。
「 誰か! リーネを止めて! 村に戻る気だ!」
村人達はグレンの声を聞きリーネを止めようとするが、リーネは魔法を使い、村人達を避けていく。
村人達は必死でリーネを止めようとするが、天才と呼ばれるリーネが魔法を使えば、村人達がリーネ止めるなど不可能だった。
グレンはリーネを追いかける。
リーネの足はグレンと同じ歳とは思えない速さで、グレンは全力で走っていた。
「リーネ!」
その声が届いたのか、リーネは足を止める。
「グレン! どうしてついてきたのよ!」
「どうせ止めてもいくんだろ。 だったら、俺も一緒に探すよ。2人の方が早いだろ?」
リーネは少し言葉を詰まらせ、
「ありがとう・・・」
そう呟くとリーネは村に向かって走り始め、グレンもその後を追う。
走るにつれてグレンの心臓の鼓動が少しずつ早くなり始める。
リーネを追いかけて疲れてるのではない。
村に戻る事に恐怖を感じているのだ。
村に近づくと、けたたましく轟く飛竜の咆哮が聞こえ始めた・・・