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番外九「魔法使いの娘」

「かぞく なに ?」


トリエ村のクリスの実家でマリアンの膝の上に乗ったフィリスが首を傾げる。


「そう、家族さ。フィリスちゃんにもお父さんお母さんがいるでしょ?」


「けど ち いっしょじゃない」


マリアンが広げる絵本を見ながらポツリと呟くフィリス。


絵本の内容はどこにでもあるような話で、父と母と離れ離れになった少年が苦難を乗り越えて両親の元に辿り着き、幸せに暮らすという物だ。


家族の絆を題材にする絵本に、フィリスは理解ができずにいた。


「血が一緒じゃないと家族じゃないなんて誰が言ったんだい?」


「にんげんの こども」


優しい声色でたずねるマリアンに、フィリスが答える。


フィリスは、おままごとで遊んでいるときにでた子供の不意の言葉をずっと気にしていた。


「なるほどね」


「せいれいに かぞく いない だから かぞく わからない」


フィリスはどこか苦悩するような表情で胸の内を零す。


「んー、お婆ちゃんの勝手な家族の定義でよかったら」


マリアンはそう前置きすると家族について話をする。


「家族っていうのは、人間だろうが動物だろうがなんだろうが、無償で愛せる存在のことを言うんだよ。人間の家族だって番い同士は血なんて繋がってないほうが多いんだから。けどその繋がりがない二人が、無償の愛で結びついて家族になるのさ」


「あい ?」


「愛っていうのはね、そうさねぇ。極端な話するなら、相手のために自分の全てを投げ捨てる覚悟、かねぇ。私の旦那が死ぬ直前は、代われるものなら代わりたいと思うくらいの愛はあったわねぇ」


思いだすように言うマリアン。


もう何年も昔のことであるが、マリアンは夫が死んだ日のことを昨日のことのように思いだせる。


感情には整理がついているのであっけらかんと言っているが、当時はひどく落ち込んでいた。


それでも後を追ったり、自暴自棄にならなかったのは愛する子供が居たからである。


「けど じぶんが しんだら いみ ない」


「理屈じゃないからね、こればっかりは。本能よ!」


フィリスの的確な意見にマリアンが自信を持って返答する。


「ほんのう」


「そ、本能。神様が人間を作るときに、繁栄するようにってそういう心をくれたのさ。人間なんて自分勝手な生き物だからね、愛がないとすぐに滅んじまうさ」


「そう なの ?」


「ああ、そうさ。愛があるから人間は成長するんだよ」


優しい顔でフィリスに語るマリアン。


「けど ふぃりすも おかあさんも にんげんじゃ ない」


「そんなの小さいことさ。なんせあんたのお父さんとお母さんは愛し合ってるんだからね、そしてフィリスちゃんも愛されてる。となりの婆様と飼ってる犬だって人間と動物だけど、立派に家族さ」


「けど ふぃりすは あい わからない」


「そうだね、お婆ちゃんも実はよく分かって無いしね。ま、フィリスちゃんの場合は契約だっけ?それでうちの馬鹿息子と繋がってるらしいけど、それが無くてもお父さんやお母さんが困ってたら助けてあげたい?」


「うん」


フィリスはマリアンの質問に即答する。


「それじゃもう家族なのよ」


「おばあちゃんも たすける よ?」


「ふふ、ありがとう。お婆ちゃんもフィリスちゃんに何かあったら全力で助けちゃうから」


膝の上から見上げてくるフィリスを、マリアンが後ろから優しく抱きしめる。


「これが かぞく ?」


「そうよ、これが家族」


「あったかい ね」


「ふふ、そうね」


祖母と孫がお互いの暖かさに包まれながら微笑み合うのだった。






「おい、婆ちゃんの家の犬みっかったか?」


「いや、こっちにもいねぇ」


「くそ、どこいった!?」


トリエ村の広場に老若男女が集まっている。


クリスの実家の隣に住む老婆の飼う犬が昼過ぎから見当たらなくなり、それを知った村人が総出で探しに出ているのだ。


「婆様は?」


「村中声上げて歩きまわったからな、顔色悪かったんで無理やり休ませてる」


若い村人が、無理をしてでも探しに行こうとする老婆を心配する。


「いつもは婆様が呼べば遠くからでも駆けてくるのに!」


「村の外に行かれたら大変だぞ」


「こんなときにクリスとフウリちゃんがいねぇなんて!」


クリスとフウリはここ数日でかなり村人の信頼を得ていた。


「フィリスちゃんには一応声かけたけど」


「そのフィリスちゃんは!?」


「さっき森の中に行くの見たわ」


フィリスは犬が居なくなったときいた途端に駆け出したのだ。


「ばっかやろう!あんな小さい子を森に一人で行かせるなんて何考えてやがる!」


「いや、ああ見えても私達より年上でしかもずっと森に住んでたんだからね・・・」


「そ、そういえばそうだった」


最近ではすっかり村の子供と遊ぶ姿が馴染んできフィリスは、ほとんど子供扱いである。


「おい、それも大事だが、犬のほうが優先だ!どうする!?」


「こうなれば、村の外まで探しに出るか」


「それしかないな、すぐにでも人を出そう」


方針が決まり、纏め役が指示を出そうとすると遠くから犬らしき鳴き声が風にのってかすかに聞こえてくる。


「お?」


「ん、どうした?」


「犬の鳴き声だ」


「お、本当だ」


数人が犬の鳴き声に気づき、それが段々と近づいてくるので広場は騒然とする。


「あ!あっち!見て!」


「フィリスちゃん!?」


「おい、抱えてる犬って!?」


「婆様の犬だ!!」


森のほうから段々と広場に近づいてくる小さい影を見て皆が声を上げる。


「大手柄じゃねぇか!」


「おーい!」


興奮した村人たちがフィリスに手を振り、呼びかける。


「いぬ みつけた」


フィリスは森に入った犬を気配を辿って連れ戻してきたのだ。


「おうおう!ナイスだぜ、フィリスちゃん!」


「よくやった!」


「偉いぞ!」


「かわいいわ!」


村人たちがフィリスの頭を撫で、泥を落としながら賞賛する。


「かぞく だから」


「おう!トリエ村はなんもかんも纏めておっきな家族だからな!」


「ん」


フィリスの言葉を聞いて、村人の一人が大きく頷く。



魔法使いの娘は広場に集まった家族を見回し、嬉しそうな笑みを見せるのだった。

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