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番外六「魔法使いと姫」

そこは綺麗な花が並び、噴水のある庭園だった。


クリスとフウリは、その美しい庭園を眺めながら散歩している。


「うわぁ、綺麗だなぁ、癒される。来て良かったね」


まるでデートの定番文句のようなことを口にするクリス。


「そうですね。仕事で無ければもっとよかったのですがね」


フウリが冷たい視線をクリスに向ける。


「あはい、すみません。本当に反省しています」


クリスが必死に頭を下げる。


「口ではなんとでも言えますね?今度やったら主が何故か大事に寮に飾っている木の棒をへし折りますよ?」


フウリは冷たい視線のまま言い放つ。


「まあ、いいです。ここが綺麗なのはたしかですからね、主のお財布の中身くらい綺麗です」


フウリは相変わらず、冷たい視線をクリスに向けている。


「す、すこしは残してるんだ・・・ぜ・・・?」


「何かいいましたか?どうしようもない主さま」


「すんませんでした!」




なぜこんな険悪なことになっているかと言うと、数日前に遡る。


学院が連休に入ったので、王都から遠い、トライン聖王国との国境沿いの町まで護衛の依頼を受けたクリス。


依頼自体は難なくこなしたのだが、そのあと立ち寄った町で、師匠が欲しがりそうな本を見つけてしまう。


つい最近、クリスは遺跡一個潰してしまい、師匠を涙目にしてしまっている。


そんなことを考えていると、気づいたときには、持ち金のほとんどを使い本を購入していて、乗り合い馬車にすら乗れなくなってしまっていたのだ。


そこで別行動をしていたフウリが合流。


事の次第を聞いて呆れるフウリに、謝るクリス。


飛んで帰ってもいいのだが、フウリと契約したばかりで少々不安のあるクリスは、どうにかそれ以外の方法がないか考える。


「(歩くには少し距離があるし、道中の宿代や食費もない。飛べば結構近いのだが、契約したばかりの風精霊なので少し怖い。どうしたもんか。もう一仕事するかなぁ)」


クリスが考えていたところに声が掛かる。


クリスの学院の友達、アレン・コンクルールである。


アレンはオーカス王国の貴族で、クリスとは学院の同級であり頭がよく、そして変人だった。


ただひたすらに、その頭に入っている知識をもとに怪しい実験を繰り返す、実験に足りないものがあれば躊躇なく親の権力だろうがなんだろうが使う人間だ。


そのアレンがクリスに、トライン聖王国に姫さまの誕生会に行くから、それについてきてちょっとした頼み事を聞いてくれれば謝礼を出すと持ちかける。


アレンは、クリスがこの町まで仕事に行くことを、本人から聞いて知っていたので、ダメもとでさがしていたのだ。


そして、クリスはアレンの考えた中でも一番いい状態で見つかった。


すなわち、クリスがお金に困って、どんな仕事でも受けてくれる状態だ。


アレンの願望通り、クリスはその仕事に飛びついた。




そして、数日かけてこのトライン聖王国聖都の王城につき、アレンがパーティーに参加しているので、クリスは庭園を散歩してるのだった。


フウリは、この王城に入った途端に雰囲気が暗くなった。


「どうしたんだ、フウリ?」


「すみません、主。ここは天使の気配が強いので、どうにも調子がでないんです」


「えなにその悪魔みたいな台詞」


「ふふ、主は本当に命知らずですね。調子が出なくてもこの城を吹き飛ばすくらい頑張れば出来ますよ?そうですね、そうすれば天使の気配も消えていいかもしれません」


「すとおおおっぷ!!落ち着いてくれフウリ!」


「私はいつでも冷静です。ただやっぱりこの雰囲気は慣れません。少し浮いてきますね」


「それがいいね!けど間違っても攻撃魔法はぶっ放さないでね!」


「ふふ」


薄く笑って急上昇するフウリ。



「天使の気配で調子がでないって、どんな精霊だよ」


最近契約した精霊の後姿に向かってぽつりと呟くクリスだった。





その後、フウリは戻ってこず、クリスは一人であてがわれた部屋へ戻る。


そこにはアレンがすでにいた。


「クリス、例のちょっとしたお願いなんだけど、いいかね?」


アレンが神妙に言う。


「おお、もちろん!」


クリスが暗い気持ちを払拭しようと明るく言う。


「それでは、姫さまの背中から羽を一本でいいので採ってきてくれたまえ」


しばし、部屋に静寂が満ちる。


「は?」


そしてクリスが聞き返すが、アレンは同じ言葉を繰り返す。


「え、人間に羽って生えるっけ?」


「ふむ、ここの王族は天使の血を引いてると言われていてな。特に彼女はその血が濃いらしい。噂はあったのだが、今日、パーティーでちらっとだけ見たが、羽は本当に生えていたな。ただ、ガードが固くて私には採取することができそうになかった」


どこも王族はガードが堅いか、と悔しそうに呟くアレン。


「おいまて、マッド。姫の背中から羽を毟るとか、下手したら戦争になるぞ」


「何を言うんだいクリス!技術の進歩に戦争はつきものだよ!さぁ、私の研究の更なる進歩のため、あの羽を毟ってきてくれたまえ!」


アレンは腕を広げ天を仰ぐ。


「本物の馬鹿がおる・・・」


クリスも天を仰ぐ。


「馬鹿とは失礼だね、君より数倍頭はいいつもりだよ?」


「頭のいい馬鹿ほど性質の悪いものはないな」


「まぁ、君の風精霊なら気配遮断も完璧だし、すぐ毟れるのではないか?」


話を強引に引き戻すアレン。


「いや、あいつ調子悪くてなぁ」


「なんと!それは困ったな」


あまり困ったよう見えないアレンが言う。


「明日まで待つとしよう。もしかしたら君の精霊の調子が元に戻ってるかもしれないしね」


「いやいや本当に毟る気かよ!?」


「ふははは!本当は喉から手が出るほど欲しい触媒だが、まぁ無ければ無いでどうにかなる。しかしあると私は嬉しい、もちろん君も嬉しくなれる」


分かったかね?と言ってそのまま部屋を出て行くマッド。


「俺にどうしろと言うんだ、あのマッドは・・・あれで優秀でさえなければ!!」


マッドだが優秀すぎるために、アレンを止めれるものは極端に少ない。


そのアレンにほいほいついてきた自分を呪うクリスだった。





夜。


雲が薄く広がり月明かりを隠している。


フウリがまだ帰ってこないので、心配になったクリスは庭園へと足を伸ばす。


と、そこには一人の少女が立っていた。


クリスは今日のパーティーに来た貴族かと思い、その場を立ち去ろうとする。


しかし、逃げる前に何故か少女に腕をつかまれてしまうクリス。


「待ってください」


少女が必死そうに言うので向きなおってしまうクリス。


「あー、すみません、俺はパーティーに呼ばれた貴族の従者なので・・・」


とりあえず、クリスは貴族で無いことをアピールしてみる。


「呼び止めてごめんなさい。よければ少しお話しませんか?」


潤んだ瞳で見上げられ狼狽しつつうなずくクリス。


「よかった。それでは、あなたのお国のお話を聞かせてくれませんか?」


期待に満ちた目をし、手を組んでお願いする少女。


クリスは仕方なしに、ギルドの話などをしてみると、これがどうも好評のようだった。


「まぁ!空に島が浮いているのですか!私も飛んで見たいです」


クリスが空の島の話をすると、少女は思いの他食いついてきた。


と、そこで雲が流れ、月が顔を出す。


月の光を浴び、まるで天使のような美しい容姿と羽を持った少女がクリスの隣に座っていた。


「(って姫さまじゃないかぁぁぁ!ありえないよ!?なんでお付きも連れずこんなところいるのぉぉぉ!だれかたすけてぇぇぇ!)」


ムードもへったくれもなく、クリスは叫びだしそうになる口を押さえて、心の中でシャウトする。


「どうしたのですか?」


姫さまは、クリスが口を押さえてるのをみて、顔に手を伸ばす。


それを止めようとクリスが手を出し、あまつさえ手と手がぶつかった瞬間、風が吹き二人の体が飛び上がる。


「きゃぁ!」


クリスには覚えのある感覚だが、少女は混乱したようでこちらに抱きついてくる。


「大丈夫ですよ姫さま。これはさっきお話した俺の風の精霊の仕業ですから。姫さまが飛んで見たいと言ったのを聞いてたようですね」


それまで実は、敬語を使っていなかったのだが、さすがに姫さま相手だと分かった以上、慣れない敬語を使うクリス。


「あら!そうなのですか。とても良い精霊さまと契約してますのね。あと敬語はいりませんわ」


姫さまは空に浮いてることがとても嬉しいのか、クリスから手を離さないままぱたぱたと体を動かす。


「しかし夜空の旅をするにはちょっと薄着だね」


クリスはそう言うと自然な動作で上着をかけて、ついでに羽を毟ろうとするも、少しバランスを崩し失敗する。


「ありがとうございます。とってもやさしい方なのね。このまま連れ去って欲しいわ・・・お願い・・・」


うっとりとした声で言う姫さま。


「(これは高貴な少女特有の白馬の王子さま願望病か!下手な答えはまずいぞ!)」


貴族のお姫さまが、たまに本当に平民と駆け落ちして、大騒ぎになることがある。


何度か捜索に加わった事のあるクリスは、彼女らの、男ではなくその状況を愛している様子を見ているので対処に困る。


下手な事を言うと、好いている設定のはずの男にまで向かっていくのだ。


「(いやしかしまだ軽度だ、返答を間違えなければ生き残れる!)」


クリスは引きつりそうな顔を堪えて笑みを作る。


クリスは、慎重似に姫さまに言葉を返す。


「しかし姫さま。姫さまも俺も帰る場所がある、そうだろう?」


心の中でいっそ殺してくれと絶叫するクリス。


「そう・・・ですね・・・、けどいつかきっと迎えに来てください」


目に涙を貯めて言う姫さま。


「そのとき、まだ君が飛びたいと思っていたら、空を見上げてごらん、俺が迎えに行くから」


心でひたすら涙するクリス。


それ以上は何も話さず、ただ姫さまの部屋のテラスまで風が運んでくれる。


そしてとうとう別れの時が・・・


「もう行ってしまうのね、せめてお名前だけでも」


ここまで死守してきたものを、クリスはなんとか守りきろうとする。


「名前なんてものは飾りさ。君と俺がただいる、そうだろう?」


クリスはいろいろと捨ててまでも、それを守り通そうとする。


精神が崩壊する音がクリスから聞こえてくる。


これ以上は無理だと、テラスから自分の魔力で離れようとする。


「待って!これを私だと思って持って行って!」


そういうと、姫さまは羽を一本自ら手折ってクリスに渡す。


「私は忘れないわ!あなたのこと!あなたもそれを持って私のことを忘れないで!!」


クリスはただ笑みを称えてテラスからぐんぐん離れていく。


すると不幸な事に、姫さまの大声を聞いた衛兵と王が部屋へと入ってくる。


「貴様!!どこの者だ!!」


王が大声をあげ魔法放つも、すでにかなり離れていたクリスは、なんとか逃げ切る。





結局、クリスはそのまま飛んで王都までもどることになる。


「主、なかなかいい見世物をありがとうございます。おかげで大分調子が戻りました」


「阿呆かぁぁぁ!何で姫さまを飛ばしたし!!」


「面白そうだったからに決まってるじゃないですか。あと、あの傲慢な天使どもの末裔が、空も飛べないと嘆いているのがどうにも気に障りまして。つい」


フウリが悪びれずに言う。


「フウリの思いつきで俺が犯罪者一直線だったよ?!けど調子が戻ったのはよかったね!!」


やけくそ気味に叫ぶクリス。


「主のおかげです、ありがとうございます。今ならキスしてあげますよ?」


そう言ってフウリは後ろからクリスに抱きつく。


「何か釈然としないものがあるんですが!キスはいらん!」


クリスはなんとかフウリから逃れようとする。


「照れ屋さんですね、可愛い主」


フウリはまったくクリスの言葉を聞かずに顔を近づける。


「やめろ!飛んでる最中に引っ付くな!落ちる落ちる!」


耳元で聞こえるフウリの声に怯えるクリス。


「ふふふ、落ちたくなかったら暴れてはいけませんよ、主。私の加減が間違ってしまうかもしれません」


「こわいわ!ああ!顔を近づけるな!むぐぅ」


動きの止まったクリスの口をフウリの口が塞ぐ。




「ふふ、可愛い主。まだ契約したばかりですが、私はそれなりに主を信用しているのですよ?キスしたいくらいには」


だから主も信用してください、とフウリは続ける。


フウリはクリスから離れる。


「すまん、最初から飛んで帰ってればよかったな」


クリスはフウリのほうを見て呟くように言う。


「少し悲しかったんですよ?主は、私にとって、あの空の牢獄から助け出してくれた、白馬の王子さまなんですから」


そっとクリスの手を握り、いつになくしおらしい言葉を口にするフウリ。


「う、本当にすみませんでした」


その様子にたじたじのクリス。


「言葉ではなく、行動で示してほしいです、主」


そう言うと、クリスの前に回り込むフウリ。


そのままクリスのほうを向き、目を瞑る。


魔法使いは意を決したように、風精霊の肩に手を置くと、二人の距離が縮まっていく・・・






なんやかんやあって、帰りの空の旅の途中。


「ふうむ・・・。フウリ、昔話でもしながら帰るかぁ、考えたらついこの間契約したばかりで全然お前のこと知らないもんなぁ」


少し考えたクリスが提案する。


「なんですか主、私の事ならなんでも知りたいのですか、仕方ないですね。まずはそうですね、私の嫌いな嫌いなシルフの話からしましょうか」


そう言いながらフウリが嬉しそうにクリスに後ろから抱きつく。


「最初からえらい飛ばすね!ビッグネームだよそれ!?フウリの名前にしようとしたら怒られるし!」


フウリとクリスは、星が輝き、月が照らす夜空を進む。


「そうですね、それも含めて話をしましょう。天使に創られた私たちが・・・」


    ・

    ・

    ・

    ・

    ・

    ・


二人の関係は少しずつ変化するのだった。






その数日後、帰ってきたアレンに、黙って先に戻った事を詫びを入れに行くと、アレンは何故か上機嫌だった。


「聞いたぞ!あの王相手に大立ち回りをしたそうじゃないか!えらい騒ぎになってたぞ!犯人は分かってないようだったが、私はすぐにぴんときたよ!さすがは我が友人だ、私より狂気を孕んでいるぞ!」


その言葉を聞いて隅で丸くなるクリスだった。





そして更にその数年後、比喩表現ではない風の噂で、姫さまの病気も完治したことを知り、安堵する魔法使いの姿があったとか・・・

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