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番外五「魔法使いと傭兵の出会い」

その日、少し遅くなったが依頼を終えた俺はギルドへ報告し、寮へと帰るところだった。


最近の俺は、錬金にはまりだしてかなり金欠気味で、今日の飯代にも困る様になっていた。


師匠に言えばすぐにでもお小遣いをくれるだろうが、あの幼女師匠にそこまでしてもらうのは、見た目的にも気が引ける。


そもそも、幼女師匠には日々の寮での生活だけなら困らないような額を、援助してもらっている。


これは絶対返そうと思っているのだが、あの師匠がお金をただ返すだけじゃ受け取らないことは目に見えている。


なのであの遺跡マニアの嗜好をくすぐる物品で返していこうと思っている。


お金が無い、師匠に恩を返す、この二つを解決するのにギルドでの仕事はとても有効だと思う。


研究者の依頼で、遺跡に潜って魔物を倒しつつ何か珍しいものでもあれば、交渉次第では貰えたし、勿論給金もでる。


なので、最近は休日になるとほとんどをギルドの依頼でつぶしている。


今回は丁度、国からの遺跡探索の依頼があったのでそれを受けていた。


国からの遺跡探索の依頼は、安全確保、確認が目的なので、遺跡に何か残っていれば持って帰ってもいいという暗黙の了解になっており、俺にしてみればとても有難い依頼である。


休日冒険者の俺がそんな旨い仕事にありつけるのはまれなので、張り切りすぎて予定にない階層まで探索してしまった。


日も落ちてきて、寮の夕飯に時間に間に合うか微妙だったので、ショートカットするつもりでいつもは治安がよさそうじゃないのであまり使わない薄暗い路地裏を足早に歩く。


そこに、やっぱりというか、脇道から出てきたチンピラが三人ほど道を塞いでニヤニヤ笑っているのが見える。


面倒事を起こして学院に知られるのはまずいと思い、もと来た道を戻ろうとする。


しかし、すでに後ろにも二人のチンピラが道を塞いでいるのを見て、どうやってやり過ごそうかと考える。


すると、俺が考えてる間に距離を詰めてきたチンピラの肩を掴むでかい手が目に入る。


「おい、何してんだ?」


低く渋いその声は、さして大きい声でもなかったのにとても耳に残る。


「な、なんだてめぇは!?」


チンピラがうろたえながら答えてるのを見て、度胸があるなと思う。


なぜなら、チンピラの肩を掴んでいたのは竜人だからだ。


俺なら絶対に一目散に逃げ出す、そう思えるほどの迫力を持った竜人だ。


そして、案の定、肩をつかまれたチンピラから異音が俺の耳に聞こえてくる。


あと少しで肩がつぶれそうだ、そう思いながらも竜人から目が離せない俺がいる。


「俺が質問してるんだ、分かるか?」


もの凄い迫力だ。


竜人がチンピラを離すと、すぐに五人のチンピラが逃げ行くのを俺は見送る。


「おう、坊主、大丈夫か?」


こちらを気遣うように竜人は言葉を向けてくる。


「あ、はい、大丈夫です」


圧倒されて敬語になってしまう。


「ならよし!ここら辺はあぶねぇからな、気をつけな!」


「わ、分かりました、それでは失礼します!」


どうみても、あんなチンピラなんて目じゃないほど危ない匂いのする竜人にそんな気を使われると困ってしまう。


さっきのチンピラなら、最悪どうにでもできたが、この竜人だけは絶対に勝て無い、いや死ぬ、そんな確信めいたものが胸中を渦巻いて、俺はお礼も言わずに逃げ出してしまう。





その一週間後、連休を使って依頼をこなすためにギルドへと向かう。


今回は、相当実入りのいい仕事をしないと、過去にないほど金欠になると思う。


なんせ、試験が迫っているので、試験中の休みは勉強しないといけないからだ。


なぜ、あのとき、あの露店であんなものを買ってしまったんだと、自分の浪費癖をあれこれ後悔しつつギルドへ入る。


馴染みになっているギルドのカウンターのお姉さんに、そこらへんの話を踏まえてお涙頂戴、訴えかける。


すると、お姉さんは一ついい仕事があるとカウンターの奥に引っ込んで、なにやら依頼書を持ってきてくれたので拝見する。


短期の商隊の護衛依頼だ!


この手の依頼は、大体町から町にいく間に盗賊などの危険がある場合に、長期の護衛以外に護衛を強化するために出されることが多いはず。


もちろん、道中も、帰りも危険が付きまとうのだが、その分実入りが良いので、人気があり、僕は一度も受けた事が無い。


今回はどうも、王都と近郊の町の間に少数だが盗賊団が出るらしく、その間の護衛の強化が目的のようだ。


そんな依頼書が目の前にある・・・!


「普通は何日も前に埋まって、当日に受けれることはまずないんだけど。受けてた五人組パーティーが急に断っちゃったみたいで、商隊の人が直前まで募集してくれって言いに来たのよ」


残り一個よ、とウインクするお姉さん。素敵だ。


「ありがとう、お姉さん!今度デートしましょう!」


「あら、嬉しいわ。もちろんクリス君持ちよね?」


僕がどれだけ毎日金欠か知っていてこんな返しをするお姉さん、素敵すぎる。


「すみません、学院卒業後に出なおしてきます」


だがデートできるほどの甲斐性すらないのが事実なのでこう返すしかない、無念。


依頼書に必要事項を書いて、俺はギルドを出て門へと向かう。





護衛の依頼を受けた僕は、門の前で商隊の人と合流する。


「君で最後の一人かな?」


護衛のリーダーが確認をとってくる。


「はい、ギルドで商隊の護衛の依頼を受けてきました」


俺はギルドの依頼書を渡すと、リーダーは少し考えるようにこちらを見てくる。


「ふむ、たしかに。すまんな、少し幼いようにみえたが、実力はあるようだ。君の剣の腕に期待しているよ」


おかしい、なぜ剣の腕なのだ。


確かに、剣を引っさげてはいるが、依頼書の必要事項の職業の欄にはちゃんと魔法学院在学と書いたはずなのに。


納得いかないものを感じながら、俺は護衛に割り振られた商隊の荷車に向かう。


列を成した商隊の前方付近にある所定の位置に向かうと、なにやら大きい影がみえる。


どうみても、一週間前の竜人さんです、本当にありがとうございます。


無意識にお金と命を天秤にかける。


何故か、あの竜人を前にすると問答無用で死ぬと思ってしまう。


「おう!なんだなんだ、坊主もこの依頼を受けたのか!さっきまで坊主に絡んだチンピラどももいたんだがなぁ、何故かどっかいっちまって、知り合いもいなくて寂しかったぜ。ほらこっちこい、隣座れ!」


竜人が俺を見つけて、うれしそうに馬車の椅子をぱんぱんと叩くのを見て、逃げる気も失せ、隣へとむかう。


絞首刑台に上がる罪人はこんな気分なんだろうな、そう思いつつ竜人の隣に腰を下ろす。


「よ、よろしく・・・お願いします」


怖くてどもってしまう。


「おう!そんなびくびくすんな。あと敬語もいらんぞ、やり難くてしょうがない、折角短い間だが一緒なんだしな、向こうで用事がないなら帰りも一緒にどうだ?」


助けてもらっておいてお礼も言わないこんな小僧に、大らかに言う竜人を見て、俺の直感も当てになら無いなと思い、ちょっと心を許してしまう。


「敬語苦手だから助かるよ、この前は助けてもらったのにお礼を言わないでごめんなさい。俺クリスって言うんだ、帰りも良かったら一緒に頼むよ」


なんていい竜人なんだ、俺はつい口が軽くなる。


「おう、ガキはそのくらいふてぶてしいのがいいんだよ、この前のことは気にすんなよ!俺はベアードっていうんだ。こっちこそ頼むぜ!」



それから、商隊が出発し、周りを見張りながらベアードといろいろ話をした。


周りの雇われた護衛の人たちは何故かベアードを避けているようだったが・・・


竜人だからかと勝手に思っていたが、どうも違うらしい。


ベアードの話を纏めると、ベアードは傭兵でドラゴンキラーであるとともに、傭兵団の団長であり、今回はちょうど戦場帰りで休暇だったのだが、酒代が無くなったために小遣い稼ぎで参加したのだそうだ。


傭兵のドラゴンキラーってだけでも、冒険者は気が引けるのに、戦場の匂いをぷんぷんさせている竜人はそれは避けられるな、と心の中で思い、やっぱり自分のこの竜人への直感は正しかったのではないかとも思う。


まぁ、基本いい人っぽく、身の丈以上の剣を持っていて実力者でもあるようなので、俺の粗い剣術をどうしたら直るかなど、俺のほうからも話題を提供してそれなりに楽しく護衛任務を消化して行く。


ちなみに先の質問への返答は「戦場でなんでも切ってれば、段々自分にあった剣になってくるぞ!俺もそうやって身につけた剣で身を立ててるからな!お前は剣の才能がありそうだし、どうだ?うちにこないか?ちょっとむさ苦しいがいい奴ばっかだぞ。まぁ人族はお前だけだが問題ないだろう」とのことだ。


この返答はある程度予測がついたのでどうでもいいが、後半がいただけない。ちゃんと魔法学院で学生をしていると言ったのにこの扱い、俺の中でベアードは、おっさん呼ばわりすることに決定する。



そうして、なぜだか移動中だけでなく野営中も絡んでくるベアードに、言葉遣いなんてこのおっさんは絶対気にしないだろうと段々ぞんざいな話し方になっていき、しかしそれを聞いてうれしそうにするベアードにまた少し俺は心を許してしまう。


おっさんと仲良くおしゃべりしているうちに目的の町までもう少しのところまできた。


しかし、商隊は止まっており、護衛である俺たちは臨戦体制である。


前方にいるのはどうみても盗賊団だ。


こんな開けたところで襲われ無いだろうと、見張りも油断していたのだろうと思う。


堂々と眼前に陣取る盗賊団に、逃げることも出来ずその口上を俺たちは聞いている。


曰く、立ち向かってくるのなら殺す、後ろを向いて逃げるのならば殺す、荷と商人を置いて引き下がるのなら見逃す、すぐに返答しろ、とのことだ。


盗賊団はどう見ても依頼書の内容より人数も多く馬もいる、ここから町までは少し距離があるので増援は見込めない、こんな拓けているところで商人を逃がそうとしてもすぐ捕まる、俺じゃいい案が思い浮かばない。


皆も同じらしく、依頼人に視線を向ける。


依頼人を放り出すことも出来ず、結局依頼人に判断を委ねるしかないと思う。


が、隣からなにやら物騒な声が響く。


「なんだぁ、あいつら偉そうに。全部ぶった切っていいんだろう?」


皆が唖然とする、俺も唖然とする。


その妙に響く低い声と共に、一気に駆けだす竜人をただ見送る。


我に返って、俺は防護の魔法を詠唱する。


俺が魔法使いだということをしっかり見せようと、無駄に強固な防護をおっさんと自分にかけ、剣を抜いておっさんの後を追う。


その間に、他の護衛の人たちも、各々、防護の魔法を詠唱したり、剣を抜き駆けていくのが横目にうつる。


おっさんが弓矢なんて気にも止めずに突っ込んで、盗賊団の頭らしき人間を中心に周囲一帯を薙ぎ払うのが見える。


ありえない、あれはどうみてもありえないと思いつつ、俺も片手に剣を持ち、もう一方で魔法を放つ。


やっとこさ俺はおっさんの横に並ぶ。


「おう!クリス、遅かったじゃねぇか!罰としてあそこのちょこまかと矢を飛ばしてくる馬鹿どもを切って来い!」


「おっさんの突進力がおかしいんだよ!なんで一回剣振るっただけで盗賊何人も吹き飛んでるんだよ!あとあそこまでどんだけ距離あると思ってるんだよ!!」


そこまで距離はないが、間の賊の数を考えると突きすすめる気がしない。


「弓があると他のやつらや荷車にかけた防護がきれたときがこわいだろ。俺にかけてる防護いらねぇから。自分にその分かければいけるだろ?」


「なんで囲まれてる中で、俺が魔法使いなのをみせてやるって頑張ってかなり強く張った防護いらねぇとかいえるんだこのおっさんはあああああああ」


「がっはっは。そぉら行って来い!」


盗賊と切り結びながら俺とおっさんは作戦にもならない叫び合いをする。


結局、俺は防護の魔法を自分にかけなおして、弓を射っている一団へと飛び込んでいく。




必死に走る最中に思う。


ああ、やっぱりこのおっさんに感じた直感は間違って無かったんだ。


おっさんは絶対これからも俺に、それこそ生死を分つような厄介事を持ってくるだろうと。

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