番外四「魔法使いと幼馴染」
リリィは、子供たちに弓を教えるクリスを見て、昔のことを思い出す。
小さいころ、リリィとクリスは、そこまで仲がいいと言うわけではなかった。
今でこそ、クリスとの仲をしきりに聞いているリリィの両親だったが、昔はいたずらばかりして、騎士になると夢ばかり言っているクリスを、娘にあまり近づけようとしなかったからだ。
リリィも、クリスのことをいつまでもいたずらをしている子供と思っており、そこまで関心も持っていなかった。
そんなリリィがクリスを意識したのは、ある晴れた日のことだった。
リリィは今と変わらずお転婆で、面倒見の良い少女だった。
その日、妹のユリィが風邪をひき、いつもは一人で行くのを禁止されている森へ、りんごを取りにいったのだ。
りんごを取って意気揚々と帰ろうとしたリリィは、茂みから近寄る魔物にようやく気づく。
しかし、気づいたときには魔物はリリィの目前まで迫っていた。
恐怖に目を瞑るリリィ。
そこに風切り音と共に奇声があがる。
「ひゃっはぁ!!今晩の肉ゲットだぜぇ!!」
その奇声の主であるところのクリスは、矢で頭を貫かれた魔物を掴みあげる。
そこで、へたれこんでるリリィを見つける。
「あ、あれ?これ、もしかしてお前の獲物だった!?」
獲物を横取りしたかもと焦るクリス。
しかし、ショックで口からうまく言葉が出ないリリィ。
仕舞いには泣き出してしまう。
「おおい!泣くな!こいつ上げるから!な?」
頭を矢で貫かれた魔物をずずいと差し出すクリス。
それを見てより一層泣きじゃくるリリィ。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図である。
数分後。
なんとか落ち着いたリリィにクリスが話かける。
「だめじゃん、一人で森入ったら」
偉そうにクリスが言う。
「クリス君だって入ってるじゃない!」
真っ赤な目をそのままに反発するリリィ。
「俺はほら、これがあるし」
弓を掲げるクリス。
「けど、大人と一緒じゃないと入っちゃだめなのはクリス君も一緒でしょ」
すぐにリリィがクリスの自信を打ち砕く。
「よ、よし、お互いこのことは内緒にしよう。すぐ森から出よう」
クリスが慌てて言うと、リリィの手を取って歩き出す。
手を繋ぎながら、リリィはいろいろな話をクリスとする。
クリスの話は、いたずらの自慢話が中心だったが、面白おかしく話すクリスにリリィは妙に惹かれてしまった。
結局、帰ってから二人は、それぞれ手に持っていた物で、どこに行っていたか判明し、こっぴどく叱られることとなる。
それから、クリスとリリィは時々会っては会話するようになる。
しかし、それも長くは続かず、クリスはある日、村を出て行った。
何も相談せずに出て行ったクリスに最初腹が立ったリリィだが、段々心配になってくる。
その心配も過ぎると、あのクリスだしそのうちひょっこり帰ってくるだろうという、妙な信頼がリリィの中で生まれた。
それからリリィは、クリスの手下だった子供たちの面倒を良く見るようになる。
「リリィ姉ちゃん、よくこっちくるけど友達いないの?」
「しかたないなぁ、リリィ姉ちゃんは。ほらりんごあげるよ」
「おい、リリィ姉ちゃん、俺たちはトリエ村騎士団なんだぜ。カッコイイだろ」
「将来お嫁さんにしてあげてもいいよ?」
「スカートめくっていい?」
「姉ちゃん、そっちはあぶないって。初代団長が罠放置していったから」
「おい、言ってる傍から姉ちゃんが罠にかかった!」
「なんという一本釣り」
「スカートをめくる前に姉ちゃんが自ら逆さづりだと・・・」
「サービス精神旺盛すぎる」
「おい馬鹿いってないで、リリィ姉ちゃん下ろさないと」
「あぶなっ!姉ちゃん暴れるなって!」
どっちが面倒を見てるかわからないような関係が結構続いた。
それでも、年下の面倒を健気に見るリリィに、段々村の男連中は魅了されていく。
そして、面倒を見られた子供たちも惚れていく。
ここ最近の、トリエ村お嫁にしたい女性ランキングと初恋の人ランキングで堂々一位を飾っている。
ちなみに村長の息子調べである。
そんなリリィは、男連中の熱い視線に気づくことなく、今日も畑仕事に精を出して、帰りに見かけた森に行く子供たちを注意しようと追って行く・・・