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番外一「魔法使いと傭兵団」

その日、クリスは魔法学院の寮の部屋で目が覚める。


昨日やっと地獄の追試験が終わり、部屋に戻ったクリスは夕方に寝てしまったので、まだ早朝だというのに二度寝をする素振りを見せない。


隣に寝てるフウリをおこさないように起きようとするクリス。


「おはようございます、主。今日は早起きですね、槍でも降らせて王都を壊滅に追い込むつもりですね、さすが主です」


クリスが起き上がる前にベッドから起き上がったフウリがクリスに向かって挨拶する。


「おはよう、フウリ。いつも思うんだけどフウリは寝てるの?あとそんな大規模魔法、俺の寝起きで使えたら不便しないんだけどね」


クリスはいつも自分が起きる直前に起き上がるフウリに疑問を投げかける。


「私は出来た精霊なので主より遅くねて主より早く起きてるんですよ。あと、主がご希望でしたら、槍ではなく刃なら無数に降らすことができますが、どうしますか?主が早く起きたら王都全体に、主が遅く起きたら主の上でいいですか?」


フウリが首をかしげたずねる。


「おいいいい!俺の寝起きにやばいもの付属させないでぇぇ!どっちにしろ俺死ぬじゃんそれ!」


クリスが絶叫する。


「ふむ、いい案だと思ったんですが。まぁ折角早く起きたのですし、朝食を取ってギルドのほうへ行きませんか?」


「お、いいね。久々に依頼を受けに行こうか!やっと長期休暇だし」


元気に腕を振り回してクリスが言う。


「そうですね、主は皆に遅れて休暇ですからね」


「はい、すみません。テスト勉強教えてもらって助かりました」


「それでは朝食を取ったら行きましょうか。市場なら何か食べるものもあるでしょう」


「へーい」


支度をして二人は連れ立って市場に向かった。







「クリィィィィス!待ってたぞ!」


「あ、やべ。師匠に用事があったんだ」


ギルドを入った瞬間に首に腕を回してくる竜人に、確実に厄介事が待っていると思ったクリスは、ありもしない用事を思いだす。


「おいおいおい!このベアードさまが直々に指名してやるんだ、有難くついて来い!」


「おいまて、おっさん。指名ってなんだ、おい引きずるな、待てって!本当にちょっとまって!た、助けてー!攫われるぅぅ!」


クリスがギルド職員に手を伸ばして、恥も外聞もなく助けを求めるも、職員は手を合わせて祈るだけだった。



そして、馬車に詰め込まれるクリス。


馬車の中には精鋭の傭兵団が待ち構えていた。


「よっし、ほら最後の一人だ。もう少し遅くなると思ったんだがな。こいつめ、ちゃんと早くにきやがった。さすが俺の一番弟子だな」


「お、クリスか。おせーぞ。団長待たせるなんて、いい身分になったもんだな!」


「ったく、お前はこのギバル傭兵団員としての心構えがなってないな」


「帰ったら一から叩きなおすか」


好き勝手に言う馬車の住人たち。


ギバル傭兵団員は全員が竜人という恐ろしく精強な傭兵団だ。


団長のベアードはその体躯に見合った豪腕の持ち主で、身の丈以上の大剣を自由自在に振り回す。


クリスは何度かギルドの依頼でこの傭兵団と組んでいて、何故かベアードや団員たちの覚えがよく、指名で依頼を受けることも多い。



「おい、おっさん!俺は傭兵団と仕事なんて一切入れてないはずなんだけど!っていうか弟子でもなければ傭兵になった覚えもねぇ!あんたら本当に好き勝手だな!」


やっと自由になった体を振り回してクリスは叫ぶ。


「おお?フウリの嬢ちゃんに言ったはずなんだけどな」


「ええ、確かに聞きました。なので朝からギルドに誘導したのですよ主。ちなみに私が夕飯を買って帰るときにベアードから依頼を聞いたのですが、帰ったら主は寝ていたので折角ですので、長期休暇初日のサプライズイベントにしてみました」


姿を消していたフウリがすっと出てきて言う。


「おう、そういうわけだから行くぞ」


クリスが口をパクパクしてる間に馬車が走りだす。





「まぁそんな訳で依頼は簡単だ。国境にドラゴンが出た、お国のドラゴンキラーの騎士さま方は体調が悪いのかドラゴンを倒せない、だから俺たちが倒す」


馬車の中でクリスに説明するベアード。


「体調がわるいなら仕方ねぇな」


「おう、戦場の水が合わなかったんだろ」


「温室育ちどもが」


「騎士団なんて名前だけじゃねえか」


騒ぐ団員。


「うるせぇぞ!どうせ帝国の生ぬるいドラゴンもどきだろ。こっちは派手に稼がせてもらえて万々歳じゃねぇか!」


そういってクリスに向き直るベアード。


「というわけだから。そろそろドラゴンキラーの一つでも貰っとこうぜ、クリス!」


クリスの肩に手を置き、楽しそうに言うベアード。


「うっさいわ!脳筋にもほどがあるだろ!?ドラゴンだよ!?くさっても魔物の王者だよ!?あんたら蜥蜴とは違うんだよ!あいつら羽もはえてるしでけぇし!」


ベアードの手を振りほどき身振り手ぶりで喚くクリス。


「蜥蜴だとぉ!いい度胸だクリス!俺らと、あの羽がついた蜥蜴どもの違いを見せてやるぜぇ?なぁおい!」


ベアードは団員に向き直り同意を求める。


「おう!あんな、ちょっと火が吐けるからって調子のってる蜥蜴は、切り刻んでやるよ!」


「飛んで逃げれねぇように、しっかり羽も切り落としてな!!」


笑い声が馬車を支配し、進んでいく。


「だめだ、この脳筋ども・・・どうにもできねぇ」


クリスは隅で頭を抱えるのだった。




結局それから馬車で数日で、国境の戦場前につく。


ベアードは軍のお偉いさんのところへ顔を出しに行き、配置が教えられる。


「軍のやつらは、敵の増援をドラゴンどもと合流する前に叩く。俺らの役割はドラゴンの排除だ。戦場に出てきた温室育ちの蜥蜴どもを食らいつくすぞ!」


「「「うおおおおおお!!」」」


「くそっ、脳筋が!!」


皆が気炎を上げ移動を開始する。






そして国境の前線につくと、数体のドラゴンが舞っているのが見えてくる。


「おいおい、やっぱでかいって。俺丸呑みされちゃうって!」


クリスがドラゴンを見て及び腰になる。


「おいおいクリス、ここまで来てなんて様だよ!」


団員がクリスをちゃかす。


「黙れ脳筋ども!!俺は強制参加だぞ!!」


その様子を見ていたベアードが号令を掛ける。


「よし、お前ら!あっちはドラゴンはいるがまだ騎兵は乗ってねぇ。帝国も騎兵の貸し出しまではしてねぇみてぇだな。連戦で護衛の数も少ねぇ。フウリの嬢ちゃんが、風であの蜥蜴どもを叩き落してくれる。奇襲を掛けて一気に叩くぞ!!」


そう言うとベアードたちは恐ろしい速さで戦場を駆けていく。


クリスもフウリに魔法を掛けてもらいベアードに追いつく。


「クリスは俺について来い!」


ベアードは並走するクリスを一瞥して言う。


「へいへい。お供しますよおっさん!」


ぐんぐんスピードを上げる一団。


途中で帝国の警備が気づくも、時既に遅し。


叩き落とされたドラゴンに向かって剣を振り上げる一団。


護衛が必死に防ごうとするも、それごと食いちぎる勢いで攻撃を仕掛ける傭兵たち。


と、そこでドラゴンが一匹だけ走って逃げる。


「おいおい、ドラゴンってあんな早く地べた走るんだなぁ」


クリスが護衛と切りあいつつ、走るドラゴンを眺めて口を開く。


「暢気に言ってねぇで、あれ切ってこい!」


ベアードが走るドラゴンをあごでしゃくって言う。


「くそっ!俺は団員じゃねぇぞっと!」


クリスは叫びながら護衛を切り倒し、走るドラゴンに向かって行く。


「フウリ!足止めできない!?」


走りながら聞くクリス。


「きついですね、ドラゴンが飛べないように上空の空気を乱してますので」


「了解。んじゃ急ぐかね!」


魔力を使い一気に加速するクリス。


やがてドラゴンに追いつくと、勢いよく羽を切りつける。


「ぐぉぉぉぉぉ」


ドラゴンが雄叫びを上げて倒れる。


そこで、前方にグルーモスの軍隊がこちらに向かってきているのが見える。


「おいおい、冗談じゃねぇぞ!うちの国の軍は足止めもできないのかぁぁ」


「主、ドラゴンはどれも飛べる状態ではないようなので、上空の魔法を解いて、あっちを私が足止めしますのでドラゴンを頼みます」


言うが早いか、軍隊のほうへ飛ぶフウリ。


クリスはドラゴンに立ち向かう。


「この!蜥蜴が!!倒れろやあああああ」


ドラゴンは尻尾を振り回し攻撃するが、クリスはそれを巧みに避けて切りつけていく。


「硬すぎるだろ!!」


クリスの剣は鱗に阻まれ、かすり傷しかつけれない。


「このぉぉぉぉ!」


クリスが渾身の力で魔剣を振るうと、さっきまで鱗に阻まれ致命傷を与えれなかった剣が尻尾を両断する。


これはいけると思ったクリスは、頭をかち割ろうと剣を振り上げ飛び上がり、力いっぱい振り下ろす。


すると、頭どころか胴体まで真っ二つになって、ついでに魔剣の斬撃が敵の増援の手前まで地面を抉る。


一瞬戦場が静寂に包まれる。


次の瞬間には、敵の増援は壊走していくのだった。







遅れてきたオーカスの軍に後始末を任せて引き上げる傭兵団。


軍の陣地近くに陣取り、宴会を始める。


「我が弟子、クリスのドラゴンキラー獲得を祝って、乾杯!!」


「「「乾杯!!」」」


団員たちが密かに持ち帰ったドラゴンの肉が焼かれる中、一人いじけているクリス。


「くそっ、脳筋どもにはめられた挙句、魔法使いがドラゴンキラーとか、また学院で浮いちまう!!」


「主、もう手遅れですので、お肉を食べましょう。おいしいですよ、主が一刀両断にしたドラゴンの肉。あそこまで綺麗に切れていたのは無かったので、皆あれから肉を剥いでましたから」


「うおおおおおおお!やけ食いじゃああああ!肉持って来い肉ぅぅぅ!」


「おお!クリスが復活したぞ!」


「おら、酒も飲め!」


「おいその肉まだ焼けてねぇぞ、こっち食え!」


「ったく、野菜も食えよ」


「祝いにドラゴンの鱗、何枚か持ってきてやったから」


「あ、俺ももってきたわ」


「俺心臓剥いできたぞ」


「養殖物の心臓はどうもなぁ」


「肉は結構うまいのにな」


「っていうか、団長なんてクリスのために目玉くり抜いてたぜ」


「うへぇ。俺爪な」


錬金の材料になりそうなものをクリスの前につんでいく団員たち。


その日は遅くまで宴会が続き、翌朝に王都へと戻る傭兵団。



「くそ、おっさんの依頼は金輪際うけねぇし!!」


爪やら鱗やらがはみ出てる大きな袋を抱えて膨れっ面のクリス。


「おいおい、そう言うなよ。今回も生き残ったじゃねぇか」


しみじみとベアードが言う。


「おかしいだろうが!!学生が町で拉致されて気づいたら生き死に掛けて戦場駆けずり回ってドラゴン退治とか普通ないよ!?」


「がっはっは。いい経験できただろ!!また行こうな!」


「そのピクニックにでも誘うような軽いノリをやめろおおおおおおおお」




馬車の中で魔法使いの魂の叫びがこだました。

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