第二話(応援) 1
支店の営業業務は今日も始まる。朝からダラダラと長引く課長の朝礼。
暗い雰囲気で事務所にきた男の目には黒々した痣が……。担当は藤原なのに駿平に縋る男から事情を渋々聞く。
その頃、玲子は反省する中、男への腹立たしさだけでなく、もう退会して白紙にしたい気分だが後悔もしそうで悩んでいる。
一応、表面上と呼べる友人と結婚相談所へ出向いた時、そこで紹介された男に玲子は惹かれていった。しかし、その男は気が弱く会う度どうもしっくりと合わない一面がある。本当にこの男とだろうか、男へ対する疑念、勘違いの連続。とうとう挙句の果て、男の顔面にパンチを一発食らわす。酒癖が災いした一抹。アルツハイマーの母を抱え、母と自分の幸せを望んでもいた。
男の事情を訊き、誤解を解く為に駿平は課長と連携して解決する為に奮闘する。
その結末、誤解も解け、二人は一緒になれそうだとの連絡に駿平の努力だと思いきや藤原の方が一枚上手だった。美味しい所を持って行かれた。
1.
誰よ、この娘? どこかで見かけた?
少し酔いが回っていたが、女性に絡むこの程度のことではまだまだへっちゃらだ。
その女はするすると隣の男にすり寄る。決して酔いのせいではない。思わず目を疑う。目を擦ってみる。
よーく見るとこの男、私の目の前で他の女と手を握る。そう言えば、この前の時もそうだった。あの時の情景が再び甦る。ふつふつと沸き立つあの怒り。
もしかして酔いが回っているのかしら。そんな、このくらいで酔うものか。
頭の奥の方が痺れてきた。
思わず叫ぶ。「何なのよ! 又?」
どれほどか感覚が無いまま叫んだ。
クラッときた。それから……、慌てふためく自分の右手に何か当った?
薄れ行くなか、男が両手で顔を……、倒れるたのか?
薄暗い景色が広がり、それからは……。
続きのキャンペーン企画資料を纏めあげる為、事務所に戻ってきた。
椅子をひくとパソコンのモニターに貼ってある付箋に目がいく。『会員の河崎さんから電話あり。折り返し携帯に電話すること。 奈津』なんだよ、上目線でメッセージまで上司口調か。
は、まさか、河崎さん気が変わったのじゃないだろうな。少し考えた。――やはり後回しにしよう。そのほうがいい、気変わりも時間が経てば、もしかすると元に戻れば、などと願いながら。
付箋を剥がし机に置く。
気になりながらもモニターに向かう。今朝から練り直した企画の考案、その内容を、キーボードをカタカタと叩き入力する。手を止め一息ついてモニターを食い入るように確認する。キャンペーンには支部の状況に合わせた行動にスケールダウンした内容を作成しなければならない。さっさと仕上げないと間に合いそうに無い。
集中してひたすら入力していると机のビジネスホンのLEDライトが点滅を始める。チラッと目をやる。遅れて呼び出しが鳴り響く。
思わず躊躇した。左右を見渡すが、相変わらず誰も電話を取る気配なし。
軽く溜息をついて手を伸ばす。
「はい、あなたの愛のキューピット。ハッピー♪ ハッピー♪ ハッピーパートナーの野呂です」営業の声で応える。やっぱりキモイ。くだらなく、馬鹿げている。
――はぁ。
「はい? もしもし?」誰だ? いったい。
――はぁ。
「あの……」
――はぁ、もしもし、……いますか?
耳に聞えるドロッとした粘っこい声。どこか聞き覚えある声。
「え? はい、誰ですか?」
――えーと、藤沢……、さん、お願いします……。
「ええ、はい。どちら様でしょうか?」
――だった、よね……。
何だ何だ、俺の話聞いてないのか。かみ合わないな。だから居るって言っているじゃないか。
「あの、藤沢ですね。カウンセラーの?」
――あ、よかった……。
それから暫く黙り込んでいる。この話しぶり、やはりあの男性か。
「もしもし、あの、秋山さん。ですか……?」
――あ、はぁ。
こちらこそ重い、憂鬱だ。今日は嫌な人に捕まったな。この男、いつも溜息から始まる。当相談所に会員登録してすでに一年が経過した。まあ、当然それでも良いのだ。たしか、先月更新したばかりのはずだ。うちの継続の会員は全体のおよそ七割を超えている。これは決して喜ばしいものではない。成婚率が低いともいえる。新規会員登録数を掲げると同時に継続率を五割程度までもっていきたい。
――あのー、実は……。
「ちょっと待ってください。今、藤沢と変りますからね」
――実は……。
「いえ、だから……」
――えー、……。
えー、もう、なんでフェーズアウトしていくのだ。今、変るって言っているじゃないか。
「どうされました?」やむを得ず駿平は聞く。
――…………。
「秋山さん。なにかあったのですか? ちょっと待って下さい」焦って保留ボタンを押し、振り返るとあの女の居る席へ手を振って呼びかける。しかし、彼女の姿が見当たらない。辺りをキョロキョロ見廻すが何処にも姿が見えない。舌打ちをして溜息をついた。
仕方ない。やはり概ねの話を聴いておこう。もう一度保留ボタンを押す。
「申し訳ありません。藤沢がただ今、席……」言いかけたところで話を折られた。
――このことは、電話では……、やっぱり……。はぁ、じゃ……。
おいおい、電話きるなよ。
「秋山さん!」受話器に向って叫ぶ。
――…………。返事がない。なら、電話で話そうとするなよな。それに今、居ないといっている矢先に。――いや、受話器に吹きかける息遣いが分かった。
「あの、良かったら藤沢から連絡差し上げましょうか?」電話を切る様子がないので尋ねる。
――……はあ。
なんとも歯切れが悪い、イライラする。まったくもう。
そういえば、あの女が先月、秋山さんの希望に近い女性を紹介した。当然、相手方の女性も会員登録して一ヶ月ほどになる。恐らく、この手の女性は直ぐに相手を見つけ、お見合いをセッティングできる。これは効率よく成婚まで持っていけると横目で見ていた。
案の定その翌日、秋山さんが訪れ、女性に一目ぼれとなる。こんな事を言える訳じゃないが、出来ればもっと他の会員と、と思うものの秋山さんはその女性を指名してきた。よって権利を一番に得た。そのため、彼女にこの事を伝えると割りと快く見合いを受け入れたようだ。それで直ぐ、いつものホテル「エクスピリエンスホテル」を確保したようだ。
それから、一ヶ月が経過しても音沙汰なく、痺れを切らし始めかけていた矢先だった。
気が付くと電話口で時間だけが経過していく。なかなか電話を切ろうとしない。一方的に切る訳はいかないし、あの女の代理で受けていてもさすがにぞんざいな扱いは出来ない。
「秋山さん!」痺れを切らした俺のひと渇。
――ああ、そうですね……。
「では、後ほど!」
――……あ、はぁ。わ、分かりました。
声の戸惑い、分かるがこういう場合はこちら側から誘導してあげないとこの手の人物は一人で決断できない。はあ、疲れる。受話器をおいて、肩でひと息つこうと思った矢先、事務所の扉が開くのが見えた。
「いらっしゃいませ」奈津美が明るく声を上げる。
扉が三十センチほど開いたまま動かない。あれ……? 誰か居るのだろうが、どうしたのだろう。奈津美が首を傾げ、開きかけた扉を怪訝そうにそう覗く。
駿平は奈津美の背中からパソコンのモニターへ目を移すと「どうぞ、どうぞ」と奈津美の声が聞こえる。誰かと思い、頭を擡げて扉へと目をやる。すると更に押し開けられた扉から見覚えある顔が飛び込んできた。
「あ! あ、秋山さん?」首を突き出し、思わず駿平が頓狂な声を上げる。
「え! さっき、たしか電話で……」
まさか――、今のいままで何処で? 事務所の入口廊下辺りで俺と話していたのか、それも長々と三十分ほど。じゃなきゃ、電話が切れてすぐに事務所の扉が開くはずがない。
おいおい、そこまで来ているのならさっさとこちらへ着てくれれば良いのに、呆れてしまう。ムッとするところを堪えるとその反作用で肩に重く圧し掛かるような感触を覚える。
奈津美が応接室へ促すが、彼はその場で肩を落とし、視線を床に落したまま動こうとしない。奈津美がどうぞどうぞ、と半ば強引に応接室へと促す。彼は体を折るように一礼するとやっと足を前に出した。猫背ですごすごと歩く。周りの空気が滲む。ネバリ気のあるジメッとした彼の歩いた後の辺りが澱んでいるように伝わってくる。
思わず首筋を掻いている自分に気付く。気を取り直しパソコンの画面に目を向ける。顔を動かさずチラッと彼を見る。
俯き歩く彼の顔にどこか違和感を受ける。目の周りが暗い。暗いというのは影ではなく、何かくっきりとした影。それが何かと理解するのに少し時間を要した。ん? 青あざ? なのか――。応接室に消える彼の背中を見遣ったままでいると奈津美がドアを閉め、こちらに向かって舌をペロッと出した。
すぐに奈津美がコーヒーを運んでいく。このあたりの扱いや状況判断はすこぶる上手い。
「駿平!」小声で駿平を手招きしている。
「なに?」聞こえていたが惚けよう。面倒なことを任せられそうな気がする。パソコンのモニターに向けたまま呟くように、惚けて駿平が返事をする。
「きて! 早く」また小声で応接室を指差して奈津美が言う。
やれやれといった気持ち、内心舌打ちして席を離れると駿平は応接室へと向かう。
すると奈津美は応接室のドアを開け、駿平の背中を押す。「今すぐ、藤沢を呼びますから。少し待っていて下さいね」と奈津美は笑顔でニッとする。立ち去る時、俺になぜが目配せしてきた。(あんたさ、さっきこの人と話していたのじゃないの? 知らん振りしないで!)と言いたいのか。
(ちょっと待てよ。俺の担当じゃないだろ、え)目で奈津美に訴えるが彼女は知らん振りしてドアを閉める。
駿平が居心地悪いのでその場でどうかしようかと、その時、秋山はハッと顔を持上げ駿平に縋るような態度を露にする。
「お願いです。このまま訊いてもらえませんか?」秋山がすすっと身を乗り出し、駿平に救いを求めた。
駿平が身を引くとドアに当り『バスッ』と音を立てる「あ、いえ、担当の藤沢がお話を承りますので……」。応接室の外が静かになるのが分かった。息繰りしい。はぁ、自分が呼吸をしていないに気付く。
「そこをなんとか……」駿平に歩み寄る。そして駿平の両腕を掴む。
なんだなんだ。おい、止してくれよ。
否が応でも秋山さんの顔から目を逸らせそうにない。それに左目のふちが黒く、青痣と思いっきりわかる。
「ぷはあ。――あ、はい……」返事とも息継ぎとも付かない。
困った。片目パンダの男に手を握られ、懇願されるとは思わなかった。思わず、ドアのノブを手探りで探す。
ゆっくりとドアを開くとすぐその先に藤沢が居た。恐らく様子を窺っていたのだろうか、駿平に気付くとすぐに両手を合わせ、合掌している。いつもの藤沢ではなくどう見ても明らかに芝居がかった態度。呆れる、なんで俺が? あのクソ女のお陰で奈津美が俺に目配せしたのが分かった。奈津美はあの女から何か貰っているのか? ちゃんと会社に居るのを分かってて俺に振るなんて。
――はぁ、参ったな。
ドアを閉め、秋山さんの両手をそっと解き、ゆっくりとソファーへと促す。
「あ、いえ。何でも」眼鏡のつるをズリズリと持上げ整える。気を取り直した。
「な、何か?」
「…………」
「うほん」咳払いを無理に一つ「えー、と。ところで、どうされました?」駿平もソファーに座り、開き直りと諦めで彼の話を聴いた。
「…………」
「秋山さん、言ってもらわないと」又、眼鏡のつるを持上げ整える。気を取り直した。
「はぁ……」彼は俯いたままだ。
またもや溜息か。本当に煮えきれない男だな。
「実は……、殴られました。彼女に」彼はボソッと言う。思わず彼を見つめる。
「え! もしかして、――その痣?」少し下から見上げる駿平。
「ええ、まぁ」
「何があったのですか?」
「はぁ……」彼は更に背中を丸め、テーブルに顔がくっ付くほどである。
「分からないのです。なぜ、彼女が私を殴ったのか……」
「とにかく、話してみて下さい」駿平は口元を緩め、先ほどとは打って変わる穏やかな声で聞く。
「はぁ……」もう一度深く溜息をつく。
彼はボソボソと陰々滅々たる声で話し始める。そこからの話で、事の内容が少し分かった。
この男がとても小心者で良かったと思った。とにかく、大人しい。それだけに怖いのだが、普通であれば相手方はこちらの会社に被害届やクレームになっても良いものの内心ホッとしている。
相槌を打ち、彼の話に何度も頷き、小一時間ほど訊いて、とりあえず帰ってもらった。実は何とか、いやどちらかと言えば半ば強引に追い返したような形となった。
訊いている限りでは幾つもの誤解が重なっている。その為、彼女から一発喰らった、と言う事らしい。とにかく、秋山さんの一方的な話だけでは後々解決できない。相手方の女性の状況も把握しないと何とも言えないのが、駿平のその場の判断だった。
話を聞いて骨が折れた。彼を見送ったその場から廊下を渡り非常口の階段踊り場へとあるく。
いつもの階段の踊り場で煙草を吹かす課長が目にとまる。煙草の煙が目に染みるのか、目を細め吐き出す煙が漂っている。
「吸うか?」歩み寄った駿平に話しかけた。
「あ、はい。すみません」
懐から取り出した煙草を俺に向ける。俺と同じ銘柄の煙草だとふと思った。珍しい課長が俺に進めるなんて――。
一本を引き抜き咥える。ポケットを探るがライターの無い事に気づく。駿平は咥えた煙草に手に掛けた。一旦、ここはやめておこうと思った時、課長がライターを差し向ける。
「どうも」つい差し向けられたライターに煙草を向けた。
駿平本人、気持ちが揺らぐことをすっかり忘れていた。
吸い込むとパリパリと乾いた音がした。
――見覚えあるライターだな。
俺の持っているライターとまったく同じだ。いつから……。もしかして、それ、って煙草もライターも、俺の?
「課長、それって?」思わず、声を荒らげて上気した。
「あ、すまんすまん。どうしても我慢できなくてな。下の自販機までいくのが億劫でな。あの、タポスとか言う大人の証明カードも無いとな」タポス? タスポじゃないのか――「そしたらおまえの机に煙草がぽつんと俺を見てるじゃないか。吸ってほしいと言わんばかりの煙草がな、つい」また、ニッと笑う。歯茎がむき出しになる。
『つい』じゃないだろ、課長! いい加減にしてくれよな。成人識別カードは別として、いつもいつも俺からの貰い煙草じゃないか。勝手に俺の煙草を吸うなよな。それもライターまでチャッカリと。課長から奪い取ると渋々返してきた。
「課長、少し相談が」ムスッとした口調で課長に突っかかる。
「なんだなんだ? 何の相談だ? 金は無いぞ! 」
当たり前だ。金があるのなら貰い煙草なんて、しけた事はしないはずだ。
「いや、秋山さんの事で……」急に真顔に切り替えて言う。
「構わんよ、ここでいいなら」煙草の煙を吐き出し、低音の声で返事をする。
「じゃ」駿平は今日の出来事、秋山さんの事を切り出した。
やはり、課長の見解も俺と同じで良かった。
「ただ、適当に扱うな! 誠意を持って接しろよな。相手が警察、弁護士であろうが、獰悪なヤクザが腕まくって来ようが、向き合え! 丁寧に根気よく話を訊くんだ。それだけだ」と課長の口調と顔がきりっと変った。いつものオヤジではなく、凛とし、ほんの一瞬だが別人のようにみえた。
時に本当に役にたつオヤジだ。
「なつみちゃん」猫なで声。そう言うか否や、通りかかった奈津美の後を追う。いつものオヤジ、いつものダラシナイ顔つきに戻る課長。
駿平は溜息をつき、項垂れる。
――そうだ。あの女、藤沢。
乱暴に吸いかけの煙草を揉み消し、事務所へ向かった。
事務所に戻ると藤沢が自分の机でパソコンに向っていた。
駿平は左右を見回し、誰も居ないことを確認した。幸いに奈津美もいない。よし、いまだ。今日こそは一言ガツンといってやろう。顎を引くほどゴクリと唾を飲む。胸いっぱいに沸きあがる怒り。
熱くなった駿平はツカツカと藤沢へと歩み寄る。
藤沢のいる横まで近づくと、よし! 「ふ、藤沢さん」震えた小声で呼ぶ。一応会社では歳も社歴も先輩だが、もう腹に据えかねていた。
「藤沢さん!」
藤沢は駿平を一瞥する。
「おかしいんじゃないですか? いつも仕事を人に押し付けるような気がするんですが……。別に悪口を言っている訳じゃないんです。ただ、ちょっと多いな、と思って、こんなことが……、最近、とても……」声が震えながらも一気に話した。けれど最後の言葉が細くなっていく。
「何かいった?」今度はパソコンのモニターを見たまま愛想なく話す。
俺の話を訊いているのか? バカバカしくて、血が上って話した俺が間違いだった。頬を抓る。さっきの課長の顔が過ぎる。
「あ、あのですね!」声が大きくなるが裏返る。
「何?」表情を全く変えない。この女、本当に頭に来る。『何?』 はないだろ。惚けた返事を返して。けれど藤沢の目は冷ややかに駿平を見据える。
俺がクソ女に向って吠えているとその横を一瞥くれて通り過ぎる奈津美に気付いた。
「あ、いえ、――もういいです。今の事はなかったことにして下さい」
「ええ、そうね。私忙しいのよね」トントンと束ねたクリアファイルを机に押し当て整える。
話にならない。腹の中で舌打ちして自分の机に戻る。
自分の椅子に座り、急に弱弱しく呟く。はあ、情けない。あの女に睨まれただけで怖気つくような自分が情けない。それに奈津美に見られていたのだろうか?
あー。ムカつく。ふつふつとしていたが、相手に負かされてしょ気る。
むしゃくしゃしていたが、秋山さんのことに気を向けることにした。
秋山さんの相手、矢倉玲子。彼女の身上ファイル、キーボードを叩いて検索ボタンをクリックする。登録名簿データから検索をする。システムが検索を始めた。一〇%、四五%……。
たしか……、記憶の欠片を繋げる。彼女の会員登録は三ヵ月前の登録日が書き込まれている。年齢は三十……と、ゲームメーカーで宣伝企画の所属だったような気が、確か――。画面の……八〇%、九五%……、一〇〇%。
そうか、俺と同郷か。九州、福岡の出身。大学が横浜のほうだ。現在の職業は、すでに八年も勤め上げるゲームソフトウエアを企画、開発する会社にいる。世間でも名も知れた有名な企業だ。
部屋の時計を見る。まだ、十時五十四分だ。電話するにはまだ早い。お昼を過ぎにでも彼女に連絡をとってみよう。とりあえず彼女の身上データを印刷しておこう。今の時間を考えるとキャンペーン企画の資料作りもしなきゃな。
検索された彼女が映るモニターの隅にある印刷ボタンをマウスでクリックしてプリンターへ向う。吐き出される用紙を見ながら、先ほどの自分の不甲斐無さに小さく溜息を落す。