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ルシアスは背筋を伸ばし、室内に足を踏み入れた。
執務室の重厚な机で書類に落としていた眼がこちらを向く。輝かんばかりの金髪碧眼の美丈夫こそが、第1王子であるアウルム・フェリシアである。ルシアスとひと回りほど年の離れたその兄は、美しい微笑みをたたえながら、口を開く。
「ルシアス、待っていたぞ。」
「王太子殿下、この度はお招きいただき、ありがとうございます。拝謁の栄に浴し、恐悦至極に存じます。ますますのご健勝・・・。」
「口上はもう良い。さあ、場所をそちらに移そう。」
ルシアスの言葉を遮りながら、兄は椅子から立ち上がり、ソファに腰を下ろす。ルシアスも対面して坐す。
「ルシアス、私は今とても忙しい。今まで兄弟で分け合っていた仕事を一手に引き受けている。誰かが仕事ができなくなる度に、私が引き受けるものが増えていき、もう限界だ。君が成人したのを期に、これからは国政に参加してもらわねばならない。ここまでは、分かるね?」
「はい、承知しております。」
「良かった。では、もう一つ話をせねばならない。
君も分かっていると思うが、私たちの兄弟姉妹はこの数年でことごとく天に召されてしまった。そして、3人だけが生き残った。巷では「王家の呪い」などと言っているものもいると聞く。まぁ、そのくらいは良い。」「良くないだろ」と、ルシアスは心の中で呟く。
「問題は更なる噂が広まっている事だ。」
「更なる噂ですか?」
「そうだ。生き残った3人は、父王の本当の子ではないという噂だ。」
ルシアスはとうとう来たかと思った。
父王の純正な王子王女は、王家にかけられた「呪い」によって死に絶え、純正ではない者たちが生き残っているに違いないということだろう。
その逆だってあり得るのだ。純正でないから、生き残れなかったのだと。
しかし、往々にして、世の中は悲劇に苛まれた方が良い人認定されがちだ。特に、噂話程度であれば尚更である。話題性がある内容の方が酒場の話としては盛り上がる。幼い頃から度々市井の人々と話をしていた自分からすると、容易に想像できる。
「しかし、それは噂話程度のものですし、きっと時間が経てば消えてしまうようなものでしょう。殿下が気に病まれなくとも良いのではないでしょうか?」
「それが、そうもいかない事が起きてしまったのだ。」
アウルムが沈痛な面持ちとなる。
「陛下が、」言葉が詰まる。
「陛下がどうなさりました?」
暫しの沈黙の後にアウルムが低い声で、しかしはっきりと聞こえる声で告げた。
「陛下が、、歩くことも、起き上がることもできなくなってしまった。」




