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X8X

六本木のペントハウスから出た四人は、夜風に血の臭いを乗せて歩いていた。

エレベーターの鏡に映る自分たち――ジャケットに付いた血の飛沫、スカートの裾に付着した腐肉の欠片、ヒールの先が赤く染まっている。

誰も口を開かない。

勝利の余韻は、すでに薄れていた。


車に戻ると、ケンからのメッセージがスマホに届いていた。

《報酬1800万、振り込み済み。一人450万。

紅蓮の死体は回収された。Crimson Thorn側が動く前に、証拠を消した。

でも…これで終わらない。次はもっと大規模だ。明日の朝、事務所に来い》


ミミがシートに体を投げ出し、ため息混じりに笑った。


「450万かぁ…メイちゃん、これで新しいマンションの頭金くらい貯まるよね?

でもさ、なんか物足りない!

紅蓮、思ったより弱かったよ。あの血の棘、最初はビビったけど、結局あたしたちのコンビネーションに勝てなかったし」


マヤが運転席の後ろから、ミミの頭を軽く叩いた。


「下品な感想はいいから。

紅蓮はただの前衛よ。

Crimson Thornの本隊はまだ生きてる。

あたしたちが殺したのは、たった五人。

ギルドの規模は少なくとも三十人以上って噂があるわ」


リナが助手席でタブレットを操作しながら、静かに言った。


「紅蓮の携帯からデータを抜いた。

暗号化されてたけど、解読できた。

今夜の仕事は、Crimson Thornが『Deadly Dymesの縄張りを奪うためのテスト』だったらしい。

依頼主は同じ。

二股かけて、両ギルドに同じ標的を振って、勝った方に独占させるつもりだった」


メイは窓の外を見たまま、呟いた。


「…勝ったのは、こっち」


「そうね。でも、これでCrimson Thornは本気で潰しに来るわ。

次は、奴らの拠点に直接乗り込むしかない」


車はスラムの外れで止まった。

メイは一人降り、他の三人に軽く頷いた。


「…明日」


ミミが手を振った。


「メイちゃん、おやすみー!

夢の中で一緒に殺そうね♪」


メイはアパートの階段を上った。

部屋に入ると、母親の咳が聞こえた。

布団の上で、母親は弱々しく微笑んだ。


「メイ…また遅かったのね。

お金、ありがとう。病院の先生が、来月から新しい治療を…」


メイは無言で頷き、母親の額に手を置いた。

熱はない。

だが、肺の音はまだ腐っている。


彼女はジャケットを脱ぎ、ベッドに座った。

ポケットから黒いカードを取り出し、指で撫でる。

《Deadly Dymes》


今夜、Crimson Thornの五人を殺した。

紅蓮の血の棘が、ジャケットの袖を切り裂いた傷が、まだ疼く。

痛みは、むしろ心地よい。

殺すたびに、体が少しずつ軽くなる気がする。


翌朝、Deadly Dymesの地下事務所。

円卓に五人が集まっていた。

ケンがモニターを操作し、Crimson Thornのメンバーリストを投影した。


「紅蓮は中堅。

本当のリーダーは『緋夜』。

年齢は不明。

スキルは『血の支配』――他人の血を操って、心臓を握り潰すらしい。

拠点は、原宿の廃デパート地下。

警備は三十人以上。

全員、血系のスキル持ち」


マヤが腕を組んだ。


「三十人…多すぎるわ。

正面突破は無謀よ」


リナが言った。


「だから、潜入する。

今夜、緋夜が重要な取引をするらしい。

場所は同じ廃デパート。

取引相手は、政界の黒幕。

成功すれば、Crimson Thornの資金源が途絶える」


ミミが拳を握った。


「じゃあ、行こうよ!

メイちゃんとあたしで、先に潜入して、どんどん溶かして糞まみれにして!

リナちゃんの脚で締め上げて、マヤさんが最後座って!

完璧じゃん!」


メイは静かに立ち上がった。


「…今夜、奴らの根を断つ」


ケンがファイルを渡した。


「標的は緋夜本人。

殺せば、Crimson Thornは崩壊する可能性が高い。

報酬は…3000万。

失敗したら、全滅覚悟で」


マヤがにやりと笑った。


「面白くなってきたわね。

あたしたちが、トップだってことを、血で証明してあげる」


四人は事務所を出た。

外は曇り空。

雨の匂いが、血の予感を濃くする。


廃デパートへ向かう道中、ミミがメイの耳元で囁いた。


「メイちゃん、怖くない?

三十人だよ?」


メイは無表情で答えた。


「…怖くない。

殺すだけだから」


ミミがくすくす笑った。


「だよね!

あたしたち、最強だもん!」


夜が落ちる。

廃デパートの裏口。

錆びたシャッターが、静かに開く。


中は暗く、埃と血の臭いが混じっていた。

階段を下り、地下へ。

そこに、緋夜が待っている。


赤いローブを纏った女。

顔は仮面で隠され、瞳だけが赤く光る。


周りを囲む三十人の女たち。

全員、赤いジャケットとスカート。

棘のような血の糸が、すでに空を舞っている。


緋夜が低い声で言った。


「Deadly Dymes…

よく来たな。

紅蓮を殺した礼は、血で返す」


メイは右足を上げた。

スカートが捲れ、黄金の予感が漂う。


「…お返しは、溶かす」


戦争の第二幕が、静かに開いた。

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