X3X
渋谷の外れ、かつて高級ブランドが並んでいたビル群は、今やガラスが割れ、鉄骨が剥き出しの廃墟と化していた。
夜の十一時。
雨は小降りになり、コンクリートの床に黒い水溜まりを広げている。
黒澤メイは、ビルの影に立って待っていた。
新しい制服のジャケットが雨を弾き、スカートの裾から滴る水が、踵の高いブーツを濡らす。
足音が近づいてきた。
軽快で、弾むようなリズム。
三ツ木ミミが、傘も差さずに駆け寄ってくる。
茶色のショートヘアが雨で張り付き、頰が上気している。
「メイちゃーん! 待った?
ごめん、コンビニでアイス買っちゃってさ!
殺しの前に甘いもの食べると、テンション上がるんだよねー!」
ミミはビニール袋を振りながら笑う。
袋の中には、チョコレートバーと、なぜか納豆パック。
メイは無言で視線を逸らした。
「…準備は?」
「ばっちり! 今日はあたしのお尻が主役だよ♪
メイちゃんの黄金シャワーと、あたしの毒便で、競演しちゃおうよ!」
ミミがくるりと回ると、スカートがふわりと舞う。
下には何も着けていない。
彼女の殺し方は、排泄物そのものに猛毒を宿す。
触れた瞬間、細胞が腐敗し、内臓が溶け出す。
量を調整すれば、一撃で人間を崩壊させる。
さらに遅れて、ヒールの高い音が響いた。
茅ヶ崎マヤが、優雅に現れる。
長い黒髪を雨に濡らしながらも、化粧は完璧。
彼女は傘を畳み、ため息をついた。
「遅刻したのはミミだけ?
まあいいわ。
時間通りよ。
標的は三人。
一階ロビー、会議室代わりに使ってるらしい。
警備は四人。
私たちが入る前に、監視カメラはリナがループさせてくれたから、心配無用」
マヤは唇を舐め、目を細めた。
「私の殺し方は、ちょっと優雅すぎるから、後でいいわよね?
まずはあんたたち二人の、下品なショータイムを楽しみましょうか」
メイは頷き、ビルの中へ足を踏み入れた。
階段は崩れかけ、鉄の手すりが錆びて赤黒い。
三人は音もなく上り、一階のロビーへ近づく。
扉の隙間から、光が漏れている。
中では、スーツ姿の男たちがテーブルを囲み、札束と銃を並べていた。
標的の一人目は、元代議士の息子・藤堂誠。
二人は彼のビジネスパートナー。
全員、裏金と麻薬で繋がっている。
メイが最初に動いた。
扉を静かに押し開け、影のように中へ滑り込む。
四人の警備が気づく前に、彼女は中央のテーブルへ歩み寄った。
「…誰だ」
藤堂が立ち上がる。
メイは答えず、右足をゆっくり上げた。
スカートが捲れ上がり、白い太腿が照明に映える。
男たちの視線が一瞬、釘付けになる。
次の瞬間――
シュッ、シュッ、シュッ。
三つの弧。
黄金色の液体が、正確に三人の標的の顔面へ飛んだ。
一滴が目に入った瞬間、藤堂が絶叫した。
「ぎゃあああっ! 熱い! 目が、目がぁ!」
皮膚が溶け、肉が剥がれ落ちる。
二番目の男は喉を押さえ、三番目は胸を掻き毟る。
液体は服を貫通し、肉体を内側から蝕んでいく。
警備の一人が銃を抜いた。
だが、遅い。
ミミが跳ねるように飛び出し、男の背後に回り込んだ。
スカートを捲り上げ、尻を突き出す。
「えいっ!」
ブシュッ、という湿った音。
黒褐色の塊が、警備の顔面に直撃。
毒便は、触れた瞬間に発酵したような腐臭を放ち、皮膚を溶かし始めた。
男は悲鳴を上げながら倒れ、床を転がる。
肉がどろどろに崩れ、骨が露出する。
残りの三人警備が散開し、銃を構える。
マヤがため息をつきながら歩み出た。
「下品ねえ…
仕方ないわ。
私が片付けてあげる」
彼女は優雅に一人の男の前に立ち、ヒールを鳴らした。
男が引き金を引く前に、マヤはスカートを広げ、男の顔の上に腰を落とした。
「んっ…ふふ、暴れないで」
スカートが男の頭を完全に覆う。
布地の下で、男の顔がマヤの柔らかな尻に押し潰される。
彼女は体重をかけ、両手で男の頭を抱え込んだ。
息ができない。
もがく手がスカートを掴むが、マヤは微動だにしない。
「…窒息って、優雅でしょ?
苦しむ顔が見えないのが、ちょっと残念だけど」
十数秒。
男の動きが止まった。
マヤはゆっくり立ち上がり、スカートを払う。
死体は、顔が紫色に変色し、舌を突き出していた。
残りの二人も、すでにミミとメイの手にかかっていた。
ミミは一人の背後から尻を押し付け、毒便を直に浴びせ、
メイはもう一人を壁際に追い詰め、片足を高く上げて放尿。
液体が胸から腹へ流れ落ち、内臓を溶かしていく。
部屋は、血と尿と糞の臭いで満たされた。
静寂が戻る。
ミミが手を叩いた。
「やったー! 完璧!
メイちゃんのピュアゴールドと、あたしのスペシャル便と、マヤさんのエレガント窒息!
最高のトリプルキルじゃん!」
マヤは髪をかき上げ、笑った。
「まあまあね。
でも、あんたたちの汚さは本当に救いようがないわ」
メイは無言で、標的の死体を一瞥した。
藤堂の顔は、半分以上溶けて原型を留めていない。
彼女はポケットから三枚の黒いカードを取り出し、それぞれの胸に置いた。
《Deadly Dymes》
《完了》
マヤが肩をすくめた。
「これで今夜の仕事は終わり。
報酬は明日の朝、ケンが振り込んでくれるわ。
700万ずつ。
どう? スラム暮らしともおさらばできそう?」
メイの瞳が、わずかに揺れた。
「…まだ足りない」
ミミがメイの腕に絡みついた。
「えー、もっと稼ぎたいの?
じゃあ、次はもっとデカい仕事狙おうよ!
あたしたち3Mで、ランキング爆上げしちゃうんだから!」
マヤが二人を見下ろし、にやりと笑う。
「いいわね。
でも、忘れないで。
私たちの上に、Leonard Damionがいること。
あの人に目をつけられたら…
もう、後戻りはできないわよ」
メイは雨の降る窓を見た。
外のネオンが、血のように赤く滲んでいる。
彼女は静かに呟いた。
「…構わない」
心の奥で、何かが疼き始めた。
殺すことの容易さ。
金が手に入ること。
そして、それ以上に――
この感覚が、止められなくなる予感。
三人は廃墟を後にした。
ヒールの音が、雨音に混じって遠ざかる。
夜は、まだ終わっていない。




