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渋谷の地下カジノから出た四人は、夜明け前の街を歩いていた。

ネオンが薄れ、朝の冷たい風が血と尿の臭いを運び去ろうとする。

黒澤メイは無表情のまま、ジャケットのポケットに手を突っ込み、指先で黒いカードを撫でていた。

黒崎零の溶けた残骸が、頭に焼き付いている。

簡単だった。

Leonardの側近と呼ばれる男が、あっけなく黄金の酸に崩れた。


三ツ木ミミがメイの腕に絡みつき、息を弾ませた。


「メイちゃん、今日も完璧だったね!

あの零って奴、顔溶ける瞬間、びっくりした顔してたよ~。

あたしの毒便も、護衛二人まとめて腐らせちゃったし、最高!

これでLeonardも、ちょっとビビってるかも♪」


茅ヶ崎マヤはヒールを鳴らしながら、髪を優雅に払った。


「ふん。

側近一人で大騒ぎするなんて、Leonardもたいしたことないわね。

あたしの座りで、最後まで抵抗できなかった護衛たち、哀れだったわ。

でも、あの映像…本当に全部見られてたの?

ぞっとするわよ」


高本リナはタブレットを抱え、眼鏡の奥でデータを確認していた。


「映像の送信元は、Leonardのプライベートサーバー。

ハッキング痕跡なし。

彼は本当に、業界のすべてを監視してる。

Deadly Dymesの仕事も、Crimson Thornの動きも、最初から仕組まれてた可能性が高い」


四人は事務所に戻った。

ケン・モリが円卓で待っていた。

モニターには、黒崎零の死体写真と、Leonardの映像が静止画で映っている。

銀髪の男が、冷たい青い瞳で微笑む姿。


ケンがため息をつき、封筒をテーブルに置いた。


「報酬5000万、振り込み済み。

一人1250万。

依頼主は匿名だけど、Leonardのルートから流れてきた金だ。

お前たちが零を殺したことで、Leonardの計画に小さな穴が開いた。

だが、彼は喜んでる。

強い駒を手に入れたと思ってるんだ」


ミミがソファに飛び乗り、クッキーを頰張った。


「駒って…あたしたち、Leonardの道具なの?

嫌だよ~。

あたしはメイちゃんと一緒に、楽しく殺したいだけなのに!」


マヤがグラスにワインを注ぎ、苛立った声で言った。


「許せないわ。

あたしたちが、男の計画のために動くなんて。

Deadly Dymesは、トップギルドよ。

あたしの優雅な殺しが、誰かの道具になるなんて冗談じゃない」


リナがデータを投影した。


「Leonard Damion、年齢不明。

唯一の男性暗殺者。

スキル『瞬殺の瞬き』――視線が合った瞬間、脳を焼き切る。

死体は灰になるらしい。

彼は十年前から、暗殺業界の頂点にいる。

すべてのギルドに資金を流し、戦争を仕組んで、強い者だけを残す。

最終目的は…東京の支配。

普通の人間を排除し、暗殺者だけの世界を作る」


メイは円卓の端に座り、無言で画面を見つめた。

Leonardの瞳が、自分を見ている気がした。

彼女は静かに言った。


「…なぜ、男だけがスキルを持てる?」


ケンが首を振った。


「わからない。

女性だけが『致死技』を引き出せるのは、業界の常識。

Leonardは例外。

彼はそれを逆手に取り、女性暗殺者を操ってる。

お前たちのような強い女を、集めて、利用して」


ミミがメイの隣に座り、手を握った。


「メイちゃん、怖くない?

Leonard、すっごく強そうだよ。

目が合ったら、即死なんて…」


メイは小さく息を吐いた。


「…怖くない。

溶かすだけ。

目が合わなければ、いい」


マヤが笑った。


「ふふ、いいわね。

あたしが座って、目を覆ってあげる。

Leonardの顔に、あたしの尻で、世界最強の視線を封じてあげるわ」


リナが新しいファイルを表示した。


「次の依頼が入った。

報酬6000万。

標的は、Leonardのもう一人の側近『白石影』。

場所は、青山のプライベートマンション。

護衛三十人。

今夜だ」


ケンが頷いた。


「これは、Leonardのテスト。

お前たちが勝てば、さらに深い計画に巻き込まれる。

負ければ、死ぬ。

…どうする?」


メイは立ち上がった。


「…行く。

側近を、一人ずつ溶かす。

Leonardまで、辿り着く」


ミミが飛びついてきた。


「やったー! メイちゃん、一緒だよ!

あたしも、毒便で護衛ども腐らせちゃう!」


マヤがワインを飲み干した。


「仕方ないわね。

あたしも、優雅に座ってあげる。

Leonardの計画なんて、尻の下で潰してやるわ」


リナがタブレットを閉じた。


「準備は三時間後。

白石影のセキュリティは、私が破る」


四人は事務所を出た。

外は朝の光が差し始めていた。

メイはアパートに戻る道中、母親の顔を思い浮かべた。

1250万。

これで、治療費がさらに延びる。

いい病院へ。

スラムを出て。

それが、最初だった。

今は、それ以上。

Leonardの影が、彼女の心を冷たく研ぎ澄ます。


アパートに戻ると、母親は起きていた。

弱々しく微笑む。


「メイ…また、遅かったのね。

お金、ありがとう。

体、楽になってきたよ」


メイは無言で頷き、母親の枕元に現金を置いた。


「…もっと、稼ぐ」


母親の目が揺れた。


「メイ、何の仕事なの…?

危なくないの?」


メイは答えず、部屋の隅で着替えた。

新しいジャケット。

短いスカート。

高いヒール。

下は、何も。


鏡に映る自分。

冷たい瞳。

黄金の奔流が、体の中で静かにうねる。


今夜、また殺す。

Leonardの駒を、一つずつ壊す。


彼女は踵を返し、朝の街へ出た。

ヒールの音が、遠くLeonardの耳に届く気がした。


彼は、どこかの高層ビルで、微笑んでいる。


「…面白い女たちだ。

もっと、強くなってくれ。

私の世界を、飾るために」

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