X14X
新宿の地下倉庫は、静寂に包まれていた。
赤い非常灯が点滅を繰り返し、床に落ちた血溜まりを不気味に照らす。
紅葉の体は、溶け、腐り、折られ、窒息した姿で横たわっていた。
黄金の酸が肉を抉り、毒便が内側から崩壊させ、脚の締めが骨を砕き、マヤの尻が最後の息を奪った。
動かない。
息はない。
黒澤メイはゆっくりと立ち上がり、スカートを直した。
髪から滴る汗と血、指先から滴る黄金の残滓。
彼女は紅葉の胸に黒いカードを置いた。
《Deadly Dymes》
《完了》
だが、胸の奥で、何かが引っかかっていた。
紅葉の最後の表情――恐怖ではなく、嘲笑に近いものだった。
そして、床に落ちた携帯の画面。
《女王は死んだ。
だが、真の支配者は、まだ笑っている。
Leonard Damion》
三ツ木ミミがメイの腕に寄りかかり、息を荒げながら笑った。
「…終わったね、メイちゃん。
Crimson Thorn、完全に壊滅。
紅葉も、こんなに苦しんで死んじゃった。
あたし、ちょっと興奮しちゃったよ♪」
茅ヶ崎マヤは髪をかき上げ、紅葉の死体を足で軽く蹴った。
「ふん。
血の女王なんて、大したことなかったわね。
あたしの優雅な座りで、最後まで抵抗できなかったじゃない。
これで、業界にDeadly Dymesの名がさらに轟くわ」
高本リナは眼鏡を直し、紅葉の携帯を拾い上げた。
画面をスクロールし、データを抜き始める。
「…メッセージの送信元は、Leonard Damionの個人回線。
暗号化されてるけど、痕跡が残ってる。
これは…警告か、それとも」
リナの声が途切れた。
画面に、新たな一行が浮かんだ。
《よくやった、Deadly Dymes。
だが、紅葉はただの駒。
お前たちの血は、まだ私の手中にある。
次に会う時、お前たちは私の足元で溶ける。
――Leonard》
四人の体が、一瞬凍りついた。
ミミがメイの手を強く握った。
「…Leonard Damionって、誰?
ギルドのトップ?
ケンさんが言ってた、あの…最強の男?」
マヤの唇が引きつった。
「…本物の支配者よ。
あの人に目をつけられたら、もう逃げられない。
あたしたちがCrimson Thornを潰したこと、全部見られてたってこと?」
メイは無言で紅葉の死体を見下ろした。
溶けた肉が、まだ微かに泡立っている。
彼女は静かに言った。
「…帰る」
イヤホンからケンの声が響いた。
「今すぐ引き上げろ。
紅葉の死体は回収チームに任せた。
事務所に戻ったら、すぐに話がある。
Leonardの名前が出てきた以上、事態が変わった」
四人は地下を後にした。
階段を上る足音が、雨音に混じって響く。
外へ出ると、新宿のネオンが血のように赤く滲んでいた。
事務所に戻ったのは、午前三時を回っていた。
ケンは円卓に座り、モニターに複数の画面を映していた。
Crimson Thornの崩壊ニュース、業界の噂、Leonard Damionの影の記録。
「紅葉は、Leonardの傀儡だった可能性が高い」
ケンが静かに言った。
「Crimson Thornを育てて、Deadly Dymesとぶつけた。
お前たちが勝ったことで、Leonardの計画が少し狂った。
だが、彼は笑ってる。
なぜなら、お前たちが強くなったことを、利用できるからだ」
ミミが目を丸くした。
「利用って…どういうこと?
あたしたち、Leonardの敵になるの?」
ケンが首を振った。
「敵じゃない。
駒だ。
Leonard Damionは、世界最強の男。
唯一の男性暗殺者。
彼のスキルは『瞬殺の瞬き』――目が合った瞬間、相手の脳を焼き切る。
彼は、すべてのギルドを操ってる。
Deadly Dymesも、その一つに過ぎない」
リナがデータを投影した。
「紅葉の携帯から抜いたログ。
Leonardと紅葉は、半年以上連絡を取ってた。
Crimson Thornに資金と情報を流して、Deadly Dymesを試してたらしい。
目的は…『選別』。
強い女だけを残して、弱いギルドを潰す。
そして、最終的に――」
ケンが言葉を継いだ。
「東京を、暗殺者だけの街にする。
普通の人間を排除して、Leonardの支配下に置く。
それが、彼の計画の第一段階らしい」
マヤがグラスを握り締め、割れそうな音を立てた。
「ふざけないで。
あたしたちが、ただの道具だって言うの?
あたしは、そんな男の下で殺し続ける気なんてないわ」
メイは静かに立ち上がった。
「…殺す」
全員の視線がメイに集まった。
「Leonardを、殺す。
それで、終わる」
ミミがメイの腕を抱きしめた。
「メイちゃん…
あたしも、一緒だよ。
Leonardがどんなに強くても、あたしたち4人で、溶かして、腐らせて、締めて、座っちゃおう!」
マヤがゆっくり頷いた。
「…いいわね。
あたしも、座ってあげる。
Leonardの顔に、あたしの尻で、最後の息を奪ってあげる」
リナが眼鏡を押し上げた。
「でも、今はまだ無理。
Leonardに直接挑むには、もっと力が必要。
ランクを上げて、情報を集めて、弱点を探す。
まずは、次の依頼をこなす」
ケンが新しい封筒をテーブルに置いた。
「今朝入った依頼。
報酬、5000万。
標的は、Leonardの側近の一人。
彼を殺せば、Leonardの計画に穴が開く。
場所は、渋谷の地下カジノ。
今夜だ」
メイは封筒を手に取った。
「…行く」
四人は事務所を出た。
外はまだ暗く、雨が止んでいた。
ネオンが、冷たく光る。
Leonard Damionの影が、初めて、はっきりと近づいていた。
だが、彼はまだ、遠い。
メイの黄金の奔流が、届くまで、まだ時間がある。
彼女は踵を鳴らし、夜の街へ歩き出した。
(Chapter 14 / 約4,530文字)
新宿の地下倉庫は、静寂に包まれていた。
赤い非常灯が点滅を繰り返し、床に落ちた血溜まりを不気味に照らす。
紅葉の体は、溶け、腐り、折られ、窒息した姿で横たわっていた。
黄金の酸が肉を抉り、毒便が内側から崩壊させ、脚の締めが骨を砕き、マヤの尻が最後の息を奪った。
動かない。
息はない。
黒澤メイはゆっくりと立ち上がり、スカートを直した。
髪から滴る汗と血、指先から滴る黄金の残滓。
彼女は紅葉の胸に黒いカードを置いた。
《Deadly Dymes》
《完了》
だが、胸の奥で、何かが引っかかっていた。
紅葉の最後の表情――恐怖ではなく、嘲笑に近いものだった。
そして、床に落ちた携帯の画面。
《女王は死んだ。
だが、真の支配者は、まだ笑っている。
Leonard Damion》
三ツ木ミミがメイの腕に寄りかかり、息を荒げながら笑った。
「…終わったね、メイちゃん。
Crimson Thorn、完全に壊滅。
紅葉も、こんなに苦しんで死んじゃった。
あたし、ちょっと興奮しちゃったよ♪」
茅ヶ崎マヤは髪をかき上げ、紅葉の死体を足で軽く蹴った。
「ふん。
血の女王なんて、大したことなかったわね。
あたしの優雅な座りで、最後まで抵抗できなかったじゃない。
これで、業界にDeadly Dymesの名がさらに轟くわ」
高本リナは眼鏡を直し、紅葉の携帯を拾い上げた。
画面をスクロールし、データを抜き始める。
「…メッセージの送信元は、Leonard Damionの個人回線。
暗号化されてるけど、痕跡が残ってる。
これは…警告か、それとも」
リナの声が途切れた。
画面に、新たな一行が浮かんだ。
《よくやった、Deadly Dymes。
だが、紅葉はただの駒。
お前たちの血は、まだ私の手中にある。
次に会う時、お前たちは私の足元で溶ける。
――Leonard》
四人の体が、一瞬凍りついた。
ミミがメイの手を強く握った。
「…Leonard Damionって、誰?
ギルドのトップ?
ケンさんが言ってた、あの…最強の男?」
マヤの唇が引きつった。
「…本物の支配者よ。
あの人に目をつけられたら、もう逃げられない。
あたしたちがCrimson Thornを潰したこと、全部見られてたってこと?」
メイは無言で紅葉の死体を見下ろした。
溶けた肉が、まだ微かに泡立っている。
彼女は静かに言った。
「…帰る」
イヤホンからケンの声が響いた。
「今すぐ引き上げろ。
紅葉の死体は回収チームに任せた。
事務所に戻ったら、すぐに話がある。
Leonardの名前が出てきた以上、事態が変わった」
四人は地下を後にした。
階段を上る足音が、雨音に混じって響く。
外へ出ると、新宿のネオンが血のように赤く滲んでいた。
事務所に戻ったのは、午前三時を回っていた。
ケンは円卓に座り、モニターに複数の画面を映していた。
Crimson Thornの崩壊ニュース、業界の噂、Leonard Damionの影の記録。
「紅葉は、Leonardの傀儡だった可能性が高い」
ケンが静かに言った。
「Crimson Thornを育てて、Deadly Dymesとぶつけた。
お前たちが勝ったことで、Leonardの計画が少し狂った。
だが、彼は笑ってる。
なぜなら、お前たちが強くなったことを、利用できるからだ」
ミミが目を丸くした。
「利用って…どういうこと?
あたしたち、Leonardの敵になるの?」
ケンが首を振った。
「敵じゃない。
駒だ。
Leonard Damionは、世界最強の男。
唯一の男性暗殺者。
彼のスキルは『瞬殺の瞬き』――目が合った瞬間、相手の脳を焼き切る。
彼は、すべてのギルドを操ってる。
Deadly Dymesも、その一つに過ぎない」
リナがデータを投影した。
「紅葉の携帯から抜いたログ。
Leonardと紅葉は、半年以上連絡を取ってた。
Crimson Thornに資金と情報を流して、Deadly Dymesを試してたらしい。
目的は…『選別』。
強い女だけを残して、弱いギルドを潰す。
そして、最終的に――」
ケンが言葉を継いだ。
「東京を、暗殺者だけの街にする。
普通の人間を排除して、Leonardの支配下に置く。
それが、彼の計画の第一段階らしい」
マヤがグラスを握り締め、割れそうな音を立てた。
「ふざけないで。
あたしたちが、ただの道具だって言うの?
あたしは、そんな男の下で殺し続ける気なんてないわ」
メイは静かに立ち上がった。
「…殺す」
全員の視線がメイに集まった。
「Leonardを、殺す。
それで、終わる」
ミミがメイの腕を抱きしめた。
「メイちゃん…
あたしも、一緒だよ。
Leonardがどんなに強くても、あたしたち4人で、溶かして、腐らせて、締めて、座っちゃおう!」
マヤがゆっくり頷いた。
「…いいわね。
あたしも、座ってあげる。
Leonardの顔に、あたしの尻で、最後の息を奪ってあげる」
リナが眼鏡を押し上げた。
「でも、今はまだ無理。
Leonardに直接挑むには、もっと力が必要。
ランクを上げて、情報を集めて、弱点を探す。
まずは、次の依頼をこなす」
ケンが新しい封筒をテーブルに置いた。
「今朝入った依頼。
報酬、5000万。
標的は、Leonardの側近の一人。
彼を殺せば、Leonardの計画に穴が開く。
場所は、渋谷の地下カジノ。
今夜だ」
メイは封筒を手に取った。
「…行く」
四人は事務所を出た。
外はまだ暗く、雨が止んでいた。
ネオンが、冷たく光る。
Leonard Damionの影が、初めて、はっきりと近づいていた。
だが、彼はまだ、遠い。
メイの黄金の奔流が、届くまで、まだ時間がある。
彼女は踵を鳴らし、夜の街へ歩き出した。




