X13X
新宿の地下街は、昼夜問わずネオンの残光が漏れ、湿った空気が肺に絡みつく。
廃墟ビル群の下層、崩れかけたコンクリートの通路を四人は進んでいた。
メイのヒールが水溜まりを叩き、音が反響する。
傷はまだ疼くが、彼女は無表情のまま前を見据えていた。
ミミは腹の傷を押さえながらも、軽い足取りでメイの横を歩く。
マヤは髪を優雅に払い、リナはタブレットを片手に地図を確認していた。
ケンの声が、イヤホン越しに響く。
「紅葉の痕跡は、このビル地下五階。
監視カメラは全部死んでる。
Crimson Thornの残党が、まだ十数人残ってる可能性が高い。
紅葉本人がいるかは…わからない。
だが、罠の匂いがする。
気をつけろ」
ミミが小さく笑った。
「罠なら、罠ごと溶かして、糞まみれにして、締め上げて、座っちゃえばいいじゃん!
メイちゃん、準備OK?」
メイは頷き、スカートの裾を軽く払った。
下には何もない。
黄金の奔流が、いつでも放てるように、体温が少し上がっていた。
地下五階の扉は、錆びついた鉄製。
リナがデバイスを当てると、カチリと音を立てて開いた。
中は広い倉庫のような空間。
天井から滴る水音と、遠くの換気扇の唸りだけ。
照明は赤い非常灯だけが点滅し、血のように床を染めている。
中央に、一人の女が立っていた。
長い黒髪が腰まで届き、赤いローブの下に血色のジャケットとスカート。
ヒールは鋭く尖り、踵が床を抉るように立っている。
顔は仮面ではなく、素顔。
美しいが、冷たく、赤い瞳が闇の中で燃えていた。
紅葉。
彼女は静かに口を開いた。
「…よく来たわね、Deadly Dymes。
紅蓮、緋夜、棘姫――私の大切な棘たちを、すべて溶かし、腐らせ、絞め、息絶えさせた。
今夜、ここで、あなたたちの血を、私のものにする」
マヤが前に出て、唇を曲げた。
「ふん。
血の女王、ね。
大層な肩書きだけど、あたしから見たらただの血まみれの女。
あたしの尻の下で、静かに逝きなさい」
紅葉が指を軽く動かした。
次の瞬間、四人の体内の血が一斉に疼き始めた。
心臓が締め付けられ、血管が膨張する。
メイの腕の傷口から血が噴き出し、ミミの腹の傷が再び開き、マヤの首筋に青い筋が浮かび、リナの脚が震えた。
「…これは」
リナが呻いた。
「絶対血操…
半径内の血を、すべて支配してる」
紅葉の声が、低く響く。
「あなたたちの血は、もう私のもの。
心臓を握り潰すのも、血管を破裂させるのも、簡単よ。
でも…それじゃつまらない。
まずは、あなたたちの得意な殺し方で、私を楽しませて」
彼女が手を振ると、周囲の壁から血の棘が無数に生え、四人を囲んだ。
棘は生き物のように蠢き、ゆっくりと近づく。
メイは痛みを無視し、右足を上げた。
スカートが捲れ、白い太腿が赤い光に映える。
「…溶かす」
シュゥゥゥ――
黄金色の奔流が紅葉へ弧を描いて飛んだ。
だが、紅葉の周りに血の壁が瞬時に立ち上がり、液体を弾く。
血の壁が黄金の酸に触れ、ジュッと音を立てて溶け始めたが、すぐに再生する。
「無駄よ。
私の血は、どんな酸も毒も、再生する」
ミミが尻を突き出し、毒便を放った。
ブシュッ。
黒褐色の塊が紅葉の胸へ向かうが、血の棘が鞭のように叩き落とし、床に叩きつけられる。
マヤが優雅に歩み、紅葉の前に立った。
「なら、直接座ってあげるわ」
彼女はスカートを広げ、紅葉の顔へ腰を落とそうとした。
だが、紅葉の指が動く。
マヤの首の血管が膨張し、息が詰まる。
マヤが膝をつき、咳き込んだ。
リナが脚を振り上げ、紅葉の首へ絡みつけた。
締め上げる。
だが、紅葉の首の肉が血で膨張し、脚を押し返す。
リナの脚が逆に締め上げられ、骨が軋む。
メイは紅葉の足元へ滑り込み、両脚で挟み込んだ。
至近距離で、連続放尿。
シュッ、シュッ、シュッ。
黄金の奔流が紅葉の顔、胸、腹へ直接注がれる。
紅葉の体が震え、血の壁が一瞬乱れる。
溶けた肉が剥がれ、骨が覗く。
だが、血が逆流し、再生が始まる。
「…効くわね。
でも、まだ足りない」
紅葉が手を握り締めた。
四人の心臓が、一斉に締め付けられる。
メイの視界が揺れ、息が苦しくなる。
ミミが膝をつき、マヤが床に手をつき、リナの脚が震えた。
紅葉がゆっくり近づき、メイの顎を掴んだ。
「黄金の暗殺者…
あなたが一番厄介ね。
だから、最後に、あなたの血を一番美味しくいただくわ」
メイの瞳が、冷たく光った。
彼女は最後の力を振り絞り、紅葉の脚の間に立った。
スカートを完全に捲り上げ、両足を広げた。
「…まだ、終わらない」
シュゥゥゥゥゥ――
今までで最も強力な奔流。
黄金の酸が、紅葉の全身を覆い尽くす。
再生が追いつかない。
肉が溶け、骨が露出し、内臓が崩れ落ちる。
紅葉の瞳が、初めて恐怖に揺れた。
その隙に、ミミが立ち上がり、尻を押し付けた。
毒便が直撃。
腐敗が加速する。
リナの脚が紅葉の首を折り、マヤが最後に座り込んだ。
「…逝きなさい」
紅葉の体が、ぴくりとも動かなくなった。
四人は床に崩れ落ちた。
息が荒く、血と尿と糞の臭いが充満する。
メイはゆっくり立ち上がり、紅葉の胸に黒いカードを置いた。
《Deadly Dymes》
《完了》
だが、心の奥で、何かが囁いていた。
これは、まだ終わっていない。
紅葉の携帯が、床で震えていた。
画面に、一行のメッセージ。
《女王は死んだ。
だが、真の支配者は、まだ笑っている。
Leonard Damion》
メイの瞳が、初めて大きく見開かれた。




