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古い家
私には、兄がいました。
いつも私を、一番に考えてくれたひと。
私が、わがままを言っても困った顔をして、叶えてくれたひと。
父は、私を守ってくれたと。
母は、神さまが兄を手放したくなかったと。
たぶんそうなのでしょう。
兄はそんな人でした。
だったら、私が……もう一度、わがままを言えば帰ってきてくれるのでしょうか。
古くて朽ちた家。
森に飲みこまれかけた家。
もう誰も、住まない忘れられた家。
でも、ここが私と兄の生家です。
ここには、兄との記憶が確かにあります。
忘れなければ、いけないのでしょう。
忘れなければ、私の中で兄は生き続けるのでしょう。
でも……それは。
私は兄の妹です。
優しくなければいけない。
あの人の妹です。
強くなければいけない。
きっと、兄は無理しないでと止めるでしょう。
でも私は……あの人が、誇りを持って逝けるように。
「さようなら。兄さん」
私は、古い家に別れを告げて
私を生きるために帰ります。




