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二部 第三十一話

 僕は魔法で風を起こし、カルティアは足から炎みたいなものを噴出して勢いを殺し、同時に着地する。


「さて……兄さんの後ろではあるけど、援護に回るよ」


「了解しました。武装の使用許可は?」


「ダメだ。大人数が見過ぎている。それにあれは接近戦で使うものじゃない。離れた場所であんなもの撃ってれば人目につきまくるよ」


「マスターがそう言うのであれば、やめておきます。その代わり、武器をください」


 そうだった。さすがにあのモンスターの大群相手に素手で戦うのは厳しいはずだ。格闘術の達人で、殴るだけで相手を内側から破壊できるとかなら話は別だけど……。


「わかった。何がいい?」


「槍をお願いします。可能な限り刃の部分を長くした、薙刀と言えばわかりますか?」


「任せて!」


 と言っても、刃の部分を正確に作り出せるほど精度が良くないから、荒削りになってしまうが。


 そうしてできあがった荒削りの薙刀をカルティアに渡す。カルティアはそれを軽々と振り回し、重心を確かめていた。


「……いい武器です。これなら私も戦えます。それでは先に行ってます」


 カルティアが足先から炎を噴出して先に行ってしまう。ちょっとあの速さに追いつくのは難しい。


「ええい……!」


 僕も自分の大剣を用意してから、カルティアの後を追う。しかし、目前にプチデーモンがやってきてそれも阻まれてしまう。


「邪魔だ!」


 プチデーモンは文字通り体が小さく、僕の半分ほどしかない。だが俊敏性は高く、爪は鉄板をもやすやすと切り裂いてしまうほど鋭い。


 みんなと離れ、割と焦っていた僕はそのことを失念して大剣を振り下ろしてしまう。


 その攻撃は簡単に避けられ、残像すら残す速度で背後に回り込まれる。このまま爪を振り下ろされれば僕はバターのように切り裂かれてしまうだろう。


(ヤバッ……!)


 不幸中の幸いと言うべきか、後ろに回り込まれたことで頭が冷えた。プチデーモンの爪が振り下ろされるまでの雀の涙ほどに僅かな時間を使い、状況の打破を考える。


「ここ、だぁっ!!」


 そして思いついたら即実行。体を回転させて切り払うのは無理だと考え、クリスタルを使うことにした。


 地面に突き刺さったままの大剣を跳び箱の要領で飛び越え、柄から手を離す。これでまずは攻撃を避ける。


「はっ!」


 短くも鋭い気合とともに、剣の柄部分を核にしたクリスタルが生み出され、プチデーモンの体を貫く。


「よしっ!」


 強くなってる。その実感とともに、僕は柄を覆っているクリスタルを消して大剣を地面から抜く。


「まだまだぁぁぁぁ!!」


 自分に気合を入れるように大きな声を出しながら、僕はカルティアと兄さんの戦っている最前線に突撃をかけていった。






「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……」


 犬のように息を荒らげながら、僕は築かれたモンスターの死骸の山に立っていた。


 倒したモンスターはレッサードラゴンが二匹にプチデーモンが五体ほど。他にも雑魚をかなり倒したが、覚えていない。


 兄さんやカルティアは返り血を浴びない戦い方をしていたが、僕にそんな余裕はない。というか生きていることだって不思議なくらいなんだ。


「エクセ、お疲れさん。……強くなったなあ。昔のお前じゃプチデーモン一体でひいこら言ってたぞ」


「自覚はあるよ。……まさかレッサードラゴンまで倒せるようになるとはね」


 もっとも、以前ティアマトで見かけた奴よりは鱗が柔らかく、まだ子供に近い体だったのだが。それでも勝てたことに変わりはない。


「おお、見てたぜ。剣のおかげでもあるけど、戦い方がだいぶ上手くなっているのもあるな。……二年間、相当な修羅場をくぐってきたんだな」


「…………まあね」


 あまり思い出したくない部類に入る思い出だが。行く先々で凶悪なモンスターに出会ったり、人の騒動に巻き込まれたり。大怪我をしたことだってある。


「お疲れ様です。マスター。素晴らしい戦いぶりでした」


「そりゃどうも。……僕より活躍してたお前に言われたくはないけどね」


 戦闘中の視界に時々七色に輝くものが目に入っていたが、あれは十中八九僕の作ったクリスタルだ。


 それを縦横無尽に振り回して戦うカルティアの姿は僕から見ても、戦乙女のように見えて綺麗だった。


「ご謙遜を。私はほとんど押し負けそうな人たちの援護に徹していました。マスターはほとんど押し負けることなく、全て独力で倒しておりました」


「そうかな……」


 戦っている間は夢中だったからあまり覚えていない。周囲にも気を配っているのだが、やはり目の前の敵に集中していた。


「わかんないんなら、もうちょっと周りに集中を分散させることも覚えた方がいいな。後ろからとかの攻撃に弱くなるぞ」


 後ろからの攻撃に強い人間なんてこの世にいるのか疑問だが、兄さんなら当たり前のように対応しそうだ。


「ともあれ……、帰るか。周りの人たちも帰り始めてる」


「あ、うん」


 さすがにあれだけ激しい戦闘だ。こちらも死傷者ゼロというわけにはいかない。できることなら治療をしたいのだが、精密作業が下手な僕の魔法では傷口を広げる結果にしかならない。


「どうして魔力を上手く扱えないんだろう……」


「マスターの身に宿る魔力が人の限界を越えているからだと思われます。徐々に魔力を増やし、体に慣らしているようではありますが、やはり人の身で扱うには修練が必要かと。私見ですが、今の状態でも相当操れている方だと思います」


「そうかね……」


 大剣に纏わせたクリスタルを魔力に霧散させながら、カルティアの慰めを話半分に聞く。


 魔力が多過ぎて操り切れないなんて言い訳だ。結局のところ、僕の未熟が全ての原因だ。


「もっと頑張らないとな……」


 一人でできなければ他から持ってくるのも悪いことではないが……、やはり最終的には一人でできるに越したことはない。


「おーい、置いてくぞー!」


 カルティアと少し話し過ぎたらしく、兄さんが遠くで手を振っていた。


「……戻ろう。今は休みたい」


 ついでにローブに付着したおびただしい返り血も何とかしたい。


「了解しました」


 カルティアはクリスタルの薙刀を地面に突き刺し、僕の後ろに付き従う。


 ……クリスタルは後で消しておこう。






「お帰り、兄さん……ってエクセまで!? どうしてそんな汚れてるの!?」


 門をくぐった僕たちを待っていたのはニーナだった。その手には救急箱が抱えられており、これからケガ人たちの治療の手伝いに行くのが伺えた。


「僕もちょっと前線に出たんだよ。ああ、ケガはしてないから安心して」


 たぶんだけど。今になって体のあちこちが痛み始めてるし。


「それならいい……わけないでしょ! 接近戦なんてあんたの得意分野じゃないんだから、あんな大群相手に突っ込むのは無謀よ!」


「え、いや、ティアマトにいた時に前に出るのは慣れてるんだけど――」


 接近戦できる人間があまりいなかったから、剣を交えるのは割と得意になっている。魔法を学びに行った場所で剣の扱いが上手くなるとはこれいかに、だが。


「うるさい!」


「ごめんなさい!」


 しかし、そんな言い訳もニーナの一喝であっけなく霧散する。だって怖いんだもん。


「あんたはどれだけあたしに心配かけさせれば気が済むのよ! 少しは考えなさい!」


「そんなこと言われても……、僕だけ安全圏にいるなんてできないし……」


 大体、何で僕は怒られているんだろう。ニーナの言い分も理解できるのだが、どうにもしっくりこない。


 僕が微妙に納得していない顔をしているのに気付いたのだろう。ニーナはムシャクシャしている時みたいに頭をグシャグシャとかきむしる。


「髪、乱れるよ」


 旅の最中でも気を使っているのは知っている分、もったいないと思う。


「わかってるわよ。……あたしが悪かったわ。ちょっと神経質になり過ぎた」


「あ、うん……」


 別に怒っているわけではないんだが、謝られてしまったため、何となくこちらもうなずいてしまう。


「…………」


「…………」


 ニーナが黙ってしまったため、僕からも特に言うことがなくなってしまう。


 特に理由のない気まずさが辺りに漂い、僕はどうやってこの場を脱出しようか思案を巡らせる。


「あー……、僕はちょっと宿に戻るよ。ローブを洗いたいし、体も拭きたい」


「そうだな。エクセは宿に戻っとけ。ニーナの方にはオレがついておく。……二人とも、そういうのはもっと人目のないところでな」


「私はマスターにお供します。……ヤマト様と同意見です」


「二人ともうるさいうるさい! ほら、サッサと行きなさい!」


 兄さんがニヤニヤと、カルティアも心なしかげんなりした視線でそんなことを言ってきたため、ニーナが顔を赤くして僕を追い払うように手を振る。


「うん……」


 僕も努めて平静を装いながら、それでも顔の熱さを自覚しながら宿へ向かって歩き出した。


「……? マスター、顔が赤くなっておられますが、発熱でも?」


「う、うるさいな! 先にからかったのはお前たちだろ!?」






「まったく……、二人のせいでエライ目に遭った……」


 ブツブツ言いながら、桶に張った水を使って体を拭く。体が痛むというのは筋肉痛のことで、ケガ自体は負ってなかったようだ。これには安心した。


「私は特に何かした覚えがないのですが……。強いて言うなら、ヤマト様の言葉に追従したくらいで」


「それのせいだよ……」


 自覚のないカルティアにどう言ったものか非常に困る。上手く言える自信がないし、言ったところで理解される自信がない。


「……ぷはっ、もう体を拭くのはいいだろ。ローブも乾いたし、とりあえず出かけるか……」


「出かけるとはどこへ行くのですか? 魔法陣の封印はもう行われましたよ?」


 僕が乾いたローブを羽織っていると、カルティアが不思議そうに首をかしげてきた。一応、騒動自体が予想以上に早く終息したから、遅くても明日には街を出ることをガウスに言いに行くだけなのだが。


「ん、ちょっと出発の報告でもしておこうと思ってね。あと、勝手に責任押し付けたから一言謝っておかないと」


 相当怒られたことは想像に難くないので、せめて謝っておきたい。あと、何かおごろう。


「そうですか。それでは私から言うことは何もございません」


 カルティアもうなずき、僕はガウスのいると思われる場所を探して宿を出た。

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