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二部 第二十八話

「ふぅん……、要するにお前の友人の様子がおかしい。だからもう少し滞在させてくれ、ってことか」


「うん、そうなる」


 僕は兄さんの目を真っ直ぐ見据えてうなずく。兄さんたちの目的を邪魔する形になってしまう以上、後ろめたいとは思うが間違っているとは絶対に考えない。


「……譲る気は?」


「ない」


「だってさ。どうする、ニーナ?」


 兄さんはそこで話をニーナに振った。どうやら兄さんは説得できたみたいだ。


 話を振られたニーナは僕に対し、感情の読めない瞳を向ける。


「あんた……、それはあたしたちの目的を阻害するってわかってるんでしょうね? わかってなかったら兄さんに気絶させてでもこの街を出るわよ」


「重々承知してるよ、それくらい。……兄さんたちの目的を阻んでしまうのは悪いと思う。でも、こっちも譲れない。僕は友人を見捨てるかもしれない道を選んで復讐なんてしたくない」


 僕にとって復讐は大して大きな意味を持たない。ただ、心の何処かに残った小さなトゲがなくなるくらいのものだ。


「エクセル……、あんたは知ってるはずよ。あたしは復讐をしなきゃ先に進めない。ずっとあいつのことで縛られ続けるのはゴメンよ」


 だから今、あえて縛られているということか。


「本当にゴメン。でもお願い。僕を僕のままでいさせて」


 正座の姿勢から頭を下げ、土下座をする。もともとこちら側から頼んでいるんだ。これくらいやる覚悟はある。


 頭を下げ、こちらからは宿の木の床しか見えない状態が続く。そして、それを断ち切ったのは誰かのため息だった。


「はぁ……。あたしも大人げなかったわ。……いいわよ。あたしだってあいつを殺すために誰かを見殺しにする気はないわ。そんな復讐、やっても意味がないわ」


 復讐自体に意味がないと思う人間は大勢見たことがあるが、誰かを犠牲にした形の復讐に意味がないと言う人間は初めて見た。


 おそらくは単なる感情論。しかし、されど感情論。感情が納得していないことで心が成長できるはずがない。


「ただし! あんたもこれが終わったらあたしたちの目的に付き合い続けること! わかった!?」


「……了解!」


 まあ、それは前からやっていることだから別段苦にもならない。


 ニーナが最近復讐に囚われ過ぎて変わってしまった、と思ってしまったがやはり彼女は変わらない。本当、優しいままでよかった。


「……よし、話もまとまったところで寝るか。……カルティア、いつぞやみたいにエクセのところに潜り込むなよ」


 兄さんの注意にそんなこともあったな、と思い出す。ちなみにかなり忌まわしい出来事の部類に入る。


「…………了解しました」


「その間は何!?」


 今度は僕の突っ込み。いや、別にやましいことをされるわけじゃないんだけど、目が覚めたら女の子がベッドに潜り込んでいるという心臓ひっくり返るような出来事を何度も行われてみろ。いつかショック死しそうだ。


 ……それにニーナの視線が絶対零度になるのも嫌だ。僕は被害者側のはずなのに、まるで女の敵と言わんばかりの態度で接してくるのだ。


「ご安心ください。私の役目はマスターを守ること。それは全てにおいて優先される事象です。なので今後一切、マスターの寝床に入ることはありません」


「その理由説明で納得しろという方が無理だ! というか結論に到るまでの理由が危な過ぎる!」


 むしろその理由なら僕のベッドに潜り込むことを正当化しているように聞こえる。


 ……またやる気なのか?


 カルティアの先が読めない行動に戦慄しながら、そしてニーナがそれを止めてくれることに期待しながら、僕はベッドに潜り込んだ。






「うん、まあ予想してたよ」


 そして起きたら、隣にカルティアの姿があった。あれだけ言ったんだから、むしろ来ない方がおかしいと思っていたくらいだ。


「やれやれ……、こいつって睡眠必要なのかね……」


 二ヶ月前にも思った疑問だが、これは『私の記憶力は人間を遥かに上回ります。そしてその情報処理は起きたままでは行えません。よって、その情報に価値をつけて取捨選択する時間が必要となります。それが私にとっての睡眠です』とのこと。


 理屈は八割以上理解できなかったから、とりあえずこいつは睡眠を必要とすることだけを覚えておいた。


 そして今、こいつは散々注意しておいたにも関わらず僕のベッドに潜り込む行動を取った。


「……さて」


 蹴り出すか。うかつに寝返りも打てないし。


 そう思って右足に勢いをつけるべく後ろに引く。


「……ん?」


 そこでさらに妙な感触が足に当たる。骨っぽくて、でも裏の方には柔らかな感触があり、そして細いもの……。


「……っ!?」


 一気に心臓が爆発したように拍動する。ヤバい、このベッドにはまだ誰かがいる!


 そして何となくではあるが、兄さんを選択肢から外す。男と一緒のベッドとか僕にそっちのケはない。というか兄さんが僕のベッドに潜り込む理由が思い当たらない。こういったことには基本的に事なかれ主義だし。


(なら、必然的に残ったのは一人だけ……!)


 冗談抜きに冷や汗が流れる。そして五感の鋭い彼女がさっき足が触れた衝撃で目を覚まさないわけがない。


 あ、つまりもう終わったのか、僕。


 そう考えてしまうと一気に冷静になれるのだから不思議だ。諦めたとも言うが。


 僕は諦観とも恐怖とも違った心持ちで振り向いた。


「……っ!!」


 その時、見た光景で僕が声を出さなかったのは奇跡だと断言できる。


(何で!? どうなってんの!?)


 うん、僕が振り向いた先にはニーナがいた。これは想定内だからまあ驚きには値しない。


 ……兄さんが見たらひっくり返る光景だろうけど。


 僕が驚いたのはニーナがいたことじゃない。もっと別のところにある。




 何でニーナが縛られてんの?




 謎だった。どういう経緯があって僕のベッドにいるのかも疑問だが、縛られている経緯に関してはもっとわからない。


 しかも目が覚めているようで、涙を溜めた目で必死にこちらに訴えかけてくる。ちなみに口には布を噛まされているためしゃべれない。


(えっと……)


 訳がわからないなりに、とりあえずこれは助けた方がいいだろうと判断してゆっくりと体を起こす。




「マスター、おはようございます」




 しかしこのタイミングで目を覚ましたカルティアの声によってそれも遮られる。


「……ねえ、カルティア。単刀直入に聞くよ。――これ、君がやった?」


 むしろ彼女しか犯人が思いつかない。兄さんがやっていたら絶縁状叩きつけているところだ。


「これ、とは?」


「質問を具体的にしようか。――どうしてニーナがここに縛られているんだ!?」


「ああ、それでしたか。簡単です。私がマスターの元へ向かうのを阻んだためです」


 とても問題があるが、理由としては納得できる。しかしニーナをわざわざここまで運ぶことへの意図が説明されてない。


「理由になってないよ。ニーナがここにいることへの説明になってない」


「私が行こうとしたところ、何やら羨ましそうな色が見て取れましたので」


 ニーナの方に視線を向けるが、すごい勢いで横に振られた。全然違うじゃないか。


「まあ、それは全部横に置いておくとして……」


 うん、こいつ相手に常識は意味を成さない。とりあえず現実だけを見つめて、再犯防止は諦めよう。


「まずはニーナの縄を解く……」


 しかし手首の関節を外すことも可能なニーナにしては珍しい。素直に縛られるなんて珍しい通り越して奇跡だろう。


 そう思って手首の方を見たのだが、確かに縄があった。




 ――指先まで複雑怪奇な縛られ方をしていたが。




「うわっ……」


 まったく縛り目がわからない。下手に指を抜くと、妙な力がかかって別の指が全て折れてしまいそうな感じさえする。


「さすが機械……」


 人間には複雑過ぎて結べるものじゃない。これはニーナでも解くのは難しいだろう。


「切るけど良い?」


 ニーナに目で問う。コクコクとうなずかれたので、左手に小さなクリスタルの欠片を作って、それの鋭い部分で縄を切り裂く。


 少し切れ目を入れただけなのに、ニーナはそこから素早く縄を解いてしまう。盗賊的な技術に関しては天才であるニーナらしい。


「ぷはっ! やっと解けた! あんな複雑怪奇な結ばれ方をしたことなんて初めてよ!」


「ニーナはご愁傷さま。カルティア、次にやったら食事抜きか放逐も考えるからな」


「それは困ります。私の役目はあなたを守り抜くことですから」


「うん、三人とも静かにしてくれない? こっちもいい加減起きてるんだけど」


 僕たちの会話はげんなりした顔の兄さんの言葉によって終わりを告げた。同時に兄さんの拳が固く握られていることがわかり、ゲンコツをもらうことも確定していた。






「よし、今日は二手に別れるぞ。ここに来た目的も忘れるな」


 朝食を終え、宿を出た兄さんが僕たちに手早く指示を出す。


「オレとニーナは食料の買出しだ。今後、あまり補給はしたくないから多めに買い込んでおく。ついでに依頼も良いのがないか見ておくぞ」


「わかったわ。エクセたちは?」


「カルティアと一緒に魔法陣の方を調べてこい。あれはオレたちがいても役に立てない」


 確かに。あの辺は完全な知識分野だし、番人のモンスターでもいなければ兄さんたちの出番は基本的にない。


「わかった。んじゃ、僕たちは先に行くね」


 カルティアの方に目で合図を送ると、カルティアが先導するように歩き出す。僕は魔法陣の正確な位置を知らないから当然と言えば当然だ。


「カルティア、正確な場所は?」


「ずいぶんと建物が変わってますのでハッキリとはわかりませんが……。ただ、この街の中心部に近いのは確かです」


 ここは王政が敷かれているから、中心部には王城がある。まさかそこにないだろうな? あそこは僕たちみたいな旅人が軽々しく入れる場所じゃないぞ。


「……あそこにある大きな城は関係ないよね?」


「……明言はできません。あの規模がどれくらいなのか私にはわかりませんので」


 果てしなく嫌な予感がしてきた。さすがに城侵入は勘弁してほしい。近いことなら何度か体験あるけど、君主の付近を守る兵隊たちは本当に強いんだ。強化魔法全開にしたって三人倒すのが精一杯だろう。


「まあ、何事もなく終わってくれよ……」


 誰にでもなくつぶやき、僕はカルティアの後ろをついて行った。

夏休みなのに平日より動いてます。アンサズです。


何となくで入った運動系の同好会が予想以上に激しい練習で筋肉痛とお友達になれるほどです。


……ひょっとしたら、毎日更新ができない日が来る可能性もあります。


もちろん可能な限り書き続けるので、滅多にそんなことにはならないと思いますが、一応留意してくださると幸いです。

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