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二部 第二十六話

「そういえば気になってたんだけど、マイラの街って結構普通と違ってたよね?」


「ん? ……ああ、あの異常に安い物価とかのこと?」


「そう、それ。あと、品質も妙に均一だったし」


 マイラの街を出てから気付いたのだが、あれってかなりおかしくないだろうか。あの時はとりあえず便利だからいいや、ぐらいにしか思ってなかったのだが。


「ん? そんなことあったのか?」


「ああ、兄さんは買い出し行ってないんだっけ。えっとさ――」


 状況が呑み込めていない兄さんに軽く事情を説明すると、兄さんも顎に手を当てて考える仕草を見せた。


「それは変だな……。魔法技術にそれっぽいのはないのか?」


 兄さんに言われてこっちも考え直してみるが、やはりあそこまで品質を均一にしたり、異常に値段を下げたりするような何かを得るのは難しい。


「ないこともないけど……。それでもやっぱりその品物の状態に左右されることが多い、かな」


 ある程度の成長促進や品質を均一に揃える魔法技術もなくはないのだが、魔法の使用者が人間である以上、どうしても個人差が出る。ゆえにあそこまで機械じみた状態にはできな――


「待って。今何かすごい答えに近づいた気がする」


 そういえば僕たちには機械相手ならこの上なく強い奴がいるじゃないか。


「カルティアは何か知らない?」


 古代時代に作られた最古の機械らしいのだから、それくらいわかるはずだ。


「そうですね……。おそらくは機械だと思います。古代時代からあったものを今でも使用しているものかと」


「なるほどね。それで納得がいった」


 やはり古代文明は今の文明よりも遥か先にあったのだろう。この時代に生きる人間としては想像もつかない世界だ。


「ところで……、この服は本当に着なければいけないのですか? これでは兵装が使えないのですが……」


『ダメに決まってる』


 動きにくそうにカルティアが身じろぎをするが、こればっかりは譲れない。


 本人曰く、カルティアは体の至る箇所に武装を仕込んでおり、戦闘時はそれを使うらしい。


 銃、というのが何を表しているのか僕にはわからなかったが、兄さんだけは納得した様子を見せていた。どんな武器なんだろう?


 一度説明されたのだが、『みさいる』とか『らんちゃー』とか言われてもまったくイメージがわかない。


 ただ、威力の方は相当なものらしく、おまけに体内に仕込まれた武器ということも相まって、人前での使用は禁じているのだ。誰かに見られて騒ぎになったら面倒だし。


「あの服装は目立ち過ぎるし、目のやり場に困る。なあ、エクセ?」


「前者には同意。後者は別に何とも」


「裏切り者! お前本っ当に枯れてんな!」


 そうだろうか。自分ではあまり自覚がないのだが。


「まあ、武器が必要なら僕に言ってよ。そこまで複雑な機構でなければ作れるから」


「……それではクリスタルを少量頂きたいのですが。私の燃料は魔力なので」


 魔力って本当に万能だな、と思った。人体に流せば治療も強化も思うがままだし、機械に流せば動かせるし、術式を刻めばありとあらゆる事象を具現化してしまうし。


 そんなことを思いながらクリスタルを作り、カルティアに渡すとカルティアはそれを口に運ぶ。


「いつ見ても不思議だよ……。口の中切れない?」


「ご心配なく。私の口はラバー製ですので傷つく心配はありません」


 また意味の理解できない単語が出てきたため、とりあえず曖昧にうなずいておく。これ以上古代知識講釈はうんざりだ。


 この光景にも最初こそ驚いたが、慣れてしまえばそうでもない。他の人間と同じで、食事をしているようなものなのだ。


 そして彼女の食料は僕が作るクリスタルだけで十分だし、それにしたって一月に少量で持つらしい。そう考えれば素晴らしい燃費の良さだ。


 ……万が一、僕が道中で死んだらどうなるんだろう。


 物騒な想像をしてしまったため、頭を振ってその想像を追い出す。そしてそろそろ現状に目を向けるべきだ。


「さて……次はどこ行く?」


 僕たちは、焼き滅ぼされた村を見下ろしながらそうつぶやいた。






 実のところ、僕たちがマイラを出発してすでに二ヶ月は過ぎている。


 旅の間、まったく盗賊に襲われなかったわけでもないし、時にはモンスターとも戦った。なのでカルティアの力量もある程度はつかめている。


 どうも柔術に近い技を使うため、素手でも十分に戦えていた。おまけにどういった観察眼をしているのか、どんなモンスターが相手でも的確に関節を見抜いて攻撃するし。


 っと、また話がそれてしまった。現在、重要なのはカルティアの戦闘能力ではない。


「また村が焼かれてる……」


 タケルの足取りが血に塗れていることだ。


 マイラの街で付近の地図を買い、最も近い場所から片っ端に回っているのだが、ほとんどが焼き滅ぼされている。


「これで三つ目か……。タケル……本当に何があった……?」


 兄さんは兄さんで苦悩の色がにじみ出たつぶやきを漏らすし、ニーナは先ほどから気分が悪くて横になっている。


 かく言う僕も吐き気が喉元から込み上げてきているのだが、それはもう隠す術を覚えてしまった。どうやら僕の傷はニーナよりも浅いらしい。


「……カルティア、君が来るようになってからこんな光景ばかり見せてるけど、大丈夫?」


「私に問題はありません。むしろあなた方の精神状態の方が深刻かと」


 仲間になったばかりのカルティアにまで心配されるような体たらく。これはあまりよろしい状態ではない。


「うん……。僕はまだ大丈夫なんだ。僕みたいな人間は精神のコントロールがある程度できる。一番ヤバいのはニーナ」


 魔導士は術式を頭の中で構築するため、常に冷静沈着であることを求められる。焦って術式を失敗したら自分の命にも関わりかねないからだ。


 そして曲がりなりにも二年の間、魔法学院で学んだ僕にもその基礎が体に染み付いている。だから精神的には打たれ強い。


「そうですね。彼女の精神状態が危険域に最も近い状態です。現時点では非常に情緒不安定な状態になることが多いでしょう」


 よくそこまで見抜けるね。さすがとしか言いようがない。


「ニーナにとって、この光景はトラウマに塩を塗り込むようなものだからね……。それに本人もそれを望んでるから遠ざけるわけにもいかない」


 おまけに方向感覚や新しい土地への馴染み方が一番早いのもニーナなため、僕や兄さんでは知恵をどんなに振り絞ってもニーナを欺けないから厄介極まりない。


「……ニーナ様は被虐嗜好でも持ち合わせているのですか?」


「それ、ニーナの前では絶対に言わないようにね。さすがに僕もかばい切れないから」


 とんでもない発言が出てきた。自分のトラウマと向き合う尊い行為がカルティアの言葉になると変態嗜好に早変わりだ。


「……とにかく、ここから移動しよう。ニーナを何時までもこんな光景の近くに置いてもいられないし、立ち止まっていたってタケルとの距離は離れていくばかりだ」


「マスターの意見に賛成です。あなた方の目的達成にすべきことは、ここで立ち止まることではありません」


 カルティアも僕の言いたいことを理解してくれたのか、追従するように言葉を重ねてくれる。


 ニーナはこちらに青い顔を向け、兄さんは僕にやるせない視線を向ける。


「……悪いけど、この意見は譲れない。感傷に浸るのが悪いことだなんて言わないけど、本当になすべきことを見失っちゃいけない」


「…………わかってる。悪かったな。未練見せて」


「ううん、兄さんがここに立ち止まりたい理由もわからなくはないから……」


 実の弟が大量殺人に手を染めているのだ。思うところの何もない方がおかしいだろう。


「だからこそ、ここを早く出よう。立ち止まっていたってここの人たちが生き返るわけじゃない。死体が勝手に動き出して手がかりを教えてくれるわけでもない。……出発しようよ。こんな人たち、もう作り出しちゃいけないんだよ」


 なんて――虚ろ。


 内心で思わずそう自嘲してしまうほど白々しい言葉だ。驚くほど声に感情がこもっていない。


 なぜなら僕はこの村にもう価値を見出していない。同じ境遇で、それでいてほんの少し運が良かった側の人間として生き残れなかった彼らに憐憫の気持ちは抱くが、それ以上の気持ちは存在しない。


 最初の頃は埋葬していたが、今となってはその手間が惜しい。感情的な無駄は真っ先に省かれる対象だ。


 そう考えてしまう時点で、僕はニーナと兄さんの間から浮いていた。


「……ああ」


 そして、そんな人間の言葉にうなずいてしまう兄さんも相当精神的に参っていた。


「……行こう」


 重くなってしまった心を忘れたいがためにニーナへ手を差し伸べる。


「……ありがと」


 ニーナは弱々しく微笑んで僕の手を取る。その手の冷たさによってさらに心が冷やされた。


(……ニーナだけは必ず守ろう。今はそれだけ考えればいい)


 どんどん何かが摩耗しているのがわかる。しかし少なくとも今、この中で一番大丈夫なのは僕だ。ならば僕が立ち続けるしかない。


 兄さんとニーナ。二人を纏めて立ち上がらせる役という分不相応もいいところな役回りに嫌気が差しながらも、僕たちは出発した。






「……ここがロウニード」


 本音を言えばタケルのあとを追うことに全力を注ぎたいのだが、人間は霞を食って生きてはいけない。つまり食料なり先立つ物なりの補充が必ず必要になる。


 そのため、近くにあってなおかつ規模の大きい街を探してここに来たのだ。


「城塞都市で有名なところだな。……はい、ここで問題。どうしてここはそんな名前で呼ばれるようになったと思う?」


 兄さんがいきなり僕に問題を振ってきた。


「ふむ……」


 僕はゆっくりと眼前に迫った城壁を見上げる。


 重厚な石で作られ、組み方も非常に堅固なものとなっている。いくつか穴が開いており、そこから矢も放てるようにできている。


 結論として、この城壁を外側から崩すのは至難の業であると言わざるを得なかった。


 そして考えるべきはそんな堅固にした理由。こんなに強力にせざるを得なかった理由がきちんと存在する。


 次に僕は周辺地理を頭に思い浮かべた。付近に脅威となり得そうな国家は――ない。


 ならば必然的に導き出せる答えは一つ。


「モンスターの襲撃が頻繁にある、だね。それもかなり強力な」


「……可愛げがねえなあ。一発で正解にたどり着きやがった」


 僕の答えに兄さんは詰まらなそうに肩をすくめる。その様子に村でのことを引きずっている様子はない。どうやら立ち直ったらしい。


「頭使うのが魔導士の役目だからね。それより、中に入らない?」


 ちょっと食料の減るペースを見誤っていたため、一食抜いているのだ。早いとこ食べ物を腹に入れたい。


「そうだな。明日出発でいいか?」


「……あたしに異存はないわ」


「私にもありません」


 ニーナとカルティアが答え、僕たちもそれにうなずく。


「よし、それじゃ門に向かう――」




「エクセ……? エクセじゃないのか!? 俺だよ、ガウスだよ!」




「……えぇー?」


 いきなり遮られた。しかも懐かしい声に。


「何だよそのげんなりした声! 久しぶりの再会だろ! もっと喜べよ!」


 僕が声のした方に振り返ると、そこにはやはり非常に懐かしい顔がそこにいた。




 ただし、魔法学院にいた頃には想像もできないような重鎧に身を包んでいたが。

プロットを見なおしたところ、ようやく完結の目処が立ちました。アンサズです。


さて、今のペースで完結まで途中に色々と加えながら進めていくと…………二ヶ月半くらい? になります。


始めたのは五月の初旬……。そう思うと長いものです。

まあ、こんなことを書くのは早すぎですが(汗)


それでは、これからもよろしくお願いします!

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