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二部 第二十五話

 カルティアのおかげでようやく脱出した僕。しかし、出てきた場所は僕の予想を遥かに越えていた。


「……ここ、どこ?」


「私の記憶と今の時代に違いがなければ、ここは大図書館の中央になります。しかし、手入れのされた様子がないところを見ると、現代では使われていないようですね」


 カルティアの言う通りだ。本棚らしき木の残骸はあるのだが、本はすでに跡形もない。長い年月が過ぎるうちに、この場所の存在を忘れてしまったのだろう。


 ……もったいないな。もしかしたらここに古代の魔法書があったかもしれないのに。


「まあ、この辺りにあったものの大半はダミーなので、別に問題はありませんが。ここの目的は私の眠る場所を隠すためにあったものです」


「……さいですか」


 僕の落胆を返せ。


「とにかく……、早く出よう。ずいぶんと長いこと話し込んでいたから兄さんたちも心配してるだろうし……」


 うわ、合流したら一発殴られることも覚悟しなきゃいけないな、とげんなりしながら歩き出した瞬間、




「え、エクセ!? どうしてここにいるの!? あんた、あたしより後ろにいたわよね?」




 通路の向こうからやってきたニーナの声で、僕の顔は驚愕に彩られることとなった。






「……話をまとめるわ」


 どうやらお互いに情報をまとめる必要がある、という見解に辿り着くまで十分ほど時間を要したのだが、おかげで冷静になることができた。


「兄さんはあたしを追って先に進み、一人残されたあんたが罠に引っかかって落ちた」


「……うん。情けない話ではあるけど」


 自分でも恥じるべきことなので、顔をうつむけさせる。


 今回の件でつくづく痛感させられた。僕には魔法以外の取り柄がないということに。


 ここを出たら何かに手を出してみよう。ニーナみたいに盗賊系の技術を学んでもいいし、兄さんのように剣技を学ぶのも悪くない。


「情けなくなんかないわよ。あんたがその手の技術少ないことはあたしたちも知っていたんだし。今回はあたしのミスね……。本当、ごめんなさい」


 思いのほか素直に頭を下げられたため、僕の方でも困惑してしまう。


 ……まあ、確かに冷静に考えてどちらが悪いか、と言われればニーナたちになるんだろうけどさ。僕のスキルの無さなんてみんな知っていることなんだし。


「……いや、僕も悪かったよ。もっと真面目に罠の解除方法とか知っておくべきだった」


「ううん、あたしがもっと注意してきちんと解除してれば……」


「いやだから、僕の未熟もあるし、兄さんだって僕のこと無視して先行っちゃうし……」


 あれ? じゃあ兄さんはどこに?


「待って。今、あんた兄さんがあたしを追ってるって言ったわよね?」


 僕の言葉に気付いたニーナも真面目な顔になって詰め寄ってくる。うん、僕もスッカリ忘れていた。


「カルティア、人の反応とかわかる?」


「はい。ですが、付近に生物の反応はありません」


『………………』


 兄さんが付近にいない、という事実に僕とニーナ二人で汗を流す。


「……確認するけど、ここって一本道?」


「そうだったわ。じゃあ、考えられるのは……」


『罠に落ちた以外考えられない……』


 僕とニーナが頭を抱え、カルティアはその様子を相変わらずの無表情で見つめる。


「えっと……カルティアさん……だっけ? こっちの人の説明は……」


「僕も半分以上理解できてないから、兄さんと合流してから話す。とりあえず人として扱ってやって」


 僕の頭でも理解できていることとしては、彼女が古代の時代に作られた機械のようなものであるということと、僕たちが知りたがっていることへの答えを与えてくれるであろう重要な人物であることくらいだ。


「はぁ……? えっと……よろしく……」


「はい、よろしくお願いします」


 人間性が希薄なのは仕方ないことなのだろう。ニーナにも後で説明しておくか。


「とにかく、兄さんを探すよ。早いとこ見つけないと」


 あの人間の常識を遥かに越えた強さを持つ兄さんが死ぬ姿なんて想像もつかないけど、ボロボロになっている姿は割と容易に想像できるのだ。


「あたしが先導するわ。二人は後ろからついてきて。あと……」




 ――あたしのこと、追いかけてくれてありがとう。




「……? うん……」


 え? 追いかけるのが当たり前じゃないの?


「……っ、もういい! ほら、早く行くわよ!」


「え? あ、うん!」


 何か恥ずかしいことでも言ったかのように、ニーナは耳を赤くして早足で歩き出していった。あんな調子で罠の解除なんてできるのだろうか。


「カルティア、わかった?」


「人間の機微には疎いので」


 だろうね。期待もしてなかった。


 ……あれ? この場合、ニーナの気持ちがわからなかった僕はカルティアと同レベル?


 ちょっと嫌なことに気付いてしまった気分で、僕はカルティアの前を歩き出した。






「……なるほど、そんなことがあったのか」


 合流した兄さんは至って冷静に状況を受け止めていた。


 ……まあ、強酸の入った落とし穴に落ちる寸前を助けられたのだ。並大抵のことでは動じなくなっていてもおかしくない。


「それはそうとエクセ、悪かった。ちっとオレも冷静じゃなかったようだ」


「いや、いいよ。そのおかげでカルティアに会えて貴重な情報も山ほど手に入ったんだから、結果オーライだよ」


 むしろプラスになったと思えるくらいだ。兄さんと一緒では確実に会えない場所にいたんだから。


 ちなみに現在、僕たちは侵入を中止して宿に戻ってきている。奥にある本が全てダミーであることがカルティアの証言でわかったし、原型も留めていなかった。進む必要はないだろう。


 ……ただ、それとは別に時間帯が夜でよかったとは思った。でなければカルティアの姿は衆目にさらされて大騒ぎになりかねないところだ。


 宿に戻って真っ先に行ったことがカルティアの肢体を覆っているパーツを取り外し、普通の服に着替させることだった。当然やったのはニーナ。いくら本人に自覚がないと言っても、見た目が女の子の着替えを見る勇気はない。


 そのため、今のカルティアはニーナのお下がりである旅着を着ている。サイズの違いがあるため(本人の名誉のため誰のどこが小さい、とかは言わない)、僕のローブも上から羽織らせている。


「そう言ってくれると助かる。……んで、これからどうする? 何だかすごいことが過去に起こった、というのは理解したんだが……」


「そうなんだよね……」


 異体の脅威は十二分にわかったし、兄さんたちも僕が見たという話なら信用してくれる。


 しかし、それは今に差し迫った危機ではない。そもそも、訪れるかどうかもわからないのだ。留意しておくに越したことはないが、そこまで神経質になる必要がないのもまた事実。


「ただ、もう魔法陣を探す必要はないみたい。その辺はカルティアが全部押さえている。そうだよね?」


「はい。変わっていなければ全て覚えています」


 それなら僕たちが手探りで探す必要はなくなる。これは大きなメリットだ。


「優先順位が変わっただけだよ。やっぱりタケルの足取りを追うのが最優先。理想は先回りすることだけど……、こればっかりは運任せな部分も大きくなるかな」


「そうか……。オレの目的でもあるからな。異議はない。ニーナはそれでいいか?」


「むしろあたしにとっての理想ね。あたしが前に進むにはそれしかないんだから……」


 兄さんとニーナの了承も得られた。ただ、ニーナの様子が気にはなるけど……。今の僕にかけられる言葉はない。


「それじゃあ当面は兄さんの目的が最優先で。あまりここには滞在してないけど、明日には出発しようか」


 万が一にも図書館側にバレたら打ち首は免れないし。ニーナが手がかり残すようなヘマをするとは思えないけど、あの調子だったんだ。用心するに越したことはない。


「そうだな。……あ!」


「ど、どうしたの?」


 いきなり兄さんが大きな声を出したので、驚いてしまう。何か見落としていることでもあったか?




「カルティアはどこで寝るんだ……?」




「………………」


 兄さんの戦慄したような声に僕もそのことに気付く。まったく考えてなかった。


「あたしの部屋、はちょっと難しいわね。あのベッドで二人一緒はかなりキツイわ」


 こちらが聞く前に最後の希望が絶たれてしまった。


「……はぁ、だったらオレかエクセのどちらかが床で寝るべきだろう。まあ、エクセは今日色々あっただろうから、オレが床で寝るよ」


「いや、僕が床で寝るよ。兄さんだって走ったりして疲れてるはずだよ」


 兄さんの申し出に異議を唱える。カルティアは僕について来ると言って、僕もそれを了承したんだ。その過程で発生する不便は全て僕が被るべきだろう。


「だけどな……。この場合、お前がカルティアを連れて行くことになったのはある意味事故だろう。だから――」


「気にするな、ってこと? 冗談じゃない。それこそ自分の責任から逃げることだ」


 確かにカルティアの協力がなければあの場所からの脱出は難しかったかもしれない。だが、それだけだ。


 あそこで僕が取れる選択肢は結構多くあった。カルティアを倒して自力で出る手段を探す手もあったし、脱出させてもらってから倒すという方法もあった。


 しかし、それをしなかった以上、僕は彼女の重さを背負い込んだことになる。誰が否定しても僕がそう思って行動する。


「……お前、オレ以上に頑固な奴になったな」


 僕の目をしばらく見つめた兄さんがポツリと感慨深げにつぶやく。


「なら、それは兄さんの影響だよ」


 兄さんよりも頑固になった覚えはないが、それでも僕のルーツが兄さんであることは変わらない。


「よく言う……。んじゃ、お前は床で寝ろ。オレは……ってオレがカルティアと一緒に寝るのはいいのか?」


「カルティアは?」


「私に異存はありません」


「だってさ」


「……なんか悲しい」


 二人ともベッドで眠れるんだからいいじゃん、とは言わない。兄さんの落ち込み方もある意味理解できるから。


 ……でも、旅の時とかはどうなるんだろう。寒い地方では三人固まって寝ることだってあるのに。


「あれはノーカウント。背に腹は代えられないだろ?」


 思ったことを素直に伝えてみたところ、そんな返事がきた。微妙に納得できないのはどうしてだろうか。


「……そもそも、私に睡眠は必要ないのですが」


 だが、ここまで考えた懸念はカルティア本人の一言によって木っ端微塵になる。


『あっ』


 スッカリ失念していた。彼女は僕たちとは根本的に違うということを。


「いや、でもだからと言って廊下に放置はマズイし……。ニーナの部屋に置いてあげてくれない?」


「私のことは人形とでも思ってください」


「無理よ。不気味過ぎて眠れやしないわ」


 ニーナの言葉には同意せざるを得なかった。僕だって夜中にこんな人形が立っているのを見たらショックで死ねる。


「どうしよう……」


「どうしようか……」


「どうすべきか……」


「あの……」


 話の核でもあるカルティアは居心地悪そうにしていたが、僕たちは至って真面目に考え続けた。それはもう、三人寄れば文殊の知恵とでも言うかのように。






「あ、朝日」


『えっ』


 まあ、最終的には会議の最中に日が昇ってしまい、誰も寝なかったという類を見ない結果に落ち着いたのだが。

二日連続で予約掲載の日付を間違えた! アンサズです。


いや、もう本当に申し訳ありません。うっかり日付を一日遅らせていたため、すでに過ぎた時間――すぐ投稿という流れになっていました。どうも夏バテも兼ねて生活サイクルが崩れ始めているのが原因だと考えます。そろそろ規則正しい生活するか……。


さて、二部に関してはそろそろ終わりに向かいます。ここでは伏線の回収や最後の敵の姿を教えることなどが目的なので、もうすぐそれらが出尽くすので終わりに近づいています。


……あ、終わりに向かい始めるということですから、まだ中盤の後半辺りなのは変わりません。


ともあれ、今後とも宜しくお願いいたします。

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