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一部 第五十二話

 これは僕がこの街に来て比較的最初に理論だけ考案した力業だ。


 平たく言ってしまえば、六属性の究極魔法を全て同時発動させ、一点収束させる代物である。


 無論、ただ意味もなくぶつけ合えば反作用を起こして発動させる暇もなく僕の前で爆発し、僕は消し炭になっていることだろう。いや、存在の痕跡すら残さないに違いない。


 なので、それを魔力で無理やり押し込める。これで完成する魔法とも言えない魔法だ。


 ……要するに僕の魔力に物を言わせたただのゴリ押しなんだけど。


「くっ! 想定外の魔力量だ! なぜそんな魔力を持って生きていられる!? 人間の身には余るはずだ!」


 僕が知りたいよそんなこと。


 向こうも僕ほどではないが大した魔力量を操っている。十中八九その魔力はティアマトの人たちから奪ってきているものだろうし、ギーガとやらはその魔力を自分の体に取り込まず、外側から操っているのだろう。


「お前がどんな魔力を使っていようが知ったことじゃない……! ただ、叩き潰す!」


 六属性のクリスタル全てを発動媒体に使い、魔法を待機状態で発動させる。


 炎属性からは《熾天使の裁き(セラフィレイズ)》を。


 水属性からは《海竜の息吹(サーペントウェイブ)》を。


 風属性からは《風神の吐息(シルフィブラスト)》を。


 地属性からは《巨人の創世(タイタンフィスト)》を。


 光属性からは《輝ける光翼(アークレイ)》を。


 闇属性からは《暗黒の始まり(ダークマター)》をそれぞれ使う。


「ば、馬鹿な……こんな光景、悪夢だ……!」


 六属性全ての究極魔法が全て僕の周りに停滞しているという、ある意味非常に珍しい光景を目の当たりにしたギーガはうめくようにそう言った。


「否定はしないよ。こんなもの、一生でもそうそう見られるものじゃない。……っ!」


 体内からすさまじい勢いで魔力が吸い取られ、立ちくらみのような意識の混濁を感じる。まだ準備段階だっていうのにこの消費量……少し甘く見ていたかもしれない。


 いや、これは僕の体に毒な量の魔力が放出されているから起こる現象だ。これが続くと命に関わる可能性が高い。


 だが、止まらない。止まってたまるものか。


「ぐ……」


 うめき声が漏れてしまうのを止められないまま、僕は待機状態の魔法を全て僕の手の内に収めようとする。


 単純に炎と水を混ぜようとすれば相反し合い、潰し合って消えるのが落ちだが、そこに別の属性が入ると話が変わってくる。


 全てがごちゃごちゃに混ざり合い、反作用爆発や対消滅を連続して起こす魔法を全て手のひらから出している魔力で押し込める。


「ぎ……っ!」


 さすがにヤバい。六属性魔法を待機状態で発動させるだけでもきつかったのに、これはさすがに死にそうだ。平たく言ってしまえばすでに魔力量の……、


 あ、あれ……? おかしいな。僕自身は恐ろしく厳しい負荷がかかっているのに、全体量を大ざっぱに探っても大して減っている様子がない。


 この時、僕は一瞬でも気を抜けば意識を失いかねない負荷を受けながら、今までで最も自分という存在に恐怖した。


「……っ!」


 腹の底が凍えてしまうような、自分の足元が崩れてなくなるような恐怖を振り払うように、目の前で広がる灰色の球体を押さえつける魔力を増やす。


「くっ! 私もここで負けるわけにはいかない! 受けろ!」


 ギーガは僕の魔法を阻止すべく炎属性上位魔法である《炎の風(フレイムストーム)》を放ってきて、炎の奔流が僕を飲み込もうと迫るが――


「甘いよ」


 僕はそれをクリスタルの障壁で簡単に散らした。


「ならば……!」


 魔法攻撃が意味をなさないと見ると、ギーガは接近戦に切り替えてこちらに駆け寄ってくる。恐ろしいまでの速度から判断するに、きっと強化魔法を己に施しているのだろう。


 そして猛烈な速度での拳打が僕に襲い掛かる。


「それも、届かない」


 しかし僕はクリスタルの壁を全面に作り上げ、向かってくる攻撃を全て遮断してしまう。ギーガの拳はクリスタルを砕くこともできず、ただ阻まれて皮膚から血を流すばかり。


「さあ……終わりだ!!」


 もう手の内にある魔力は爆発寸前まで威力を高められている。これ以上支えようとすると僕ごと吹き飛ばしかねない。


 そして僕の意識も途切れかける寸前だ。いくら内包する魔力が減っていなくても、一秒ごとに体から放出する魔力量が僕の体を蝕んでいるのがわかる。ひょっとしたら内臓ぐらいは傷つくかもしれない。


 受けてみろ。僕の究極破壊魔法――!






「《終焉(カタストロフィー)》」






 魔力で膜のように覆い押さえつけていたのだが、それに一部分だけ穴を開ける。


 すると出口を求めて暴れ狂っていた魔法が全てそこに向かって殺到する。さらに今まで作っていたクリスタルの障壁は全て解除する。


「う――おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっっ!!」


 ギーガに向かう途中でも次々と連鎖爆発を起こし、反作用に次ぐ反作用で莫大なエネルギーが生み出され、さらにその威力を高める。


 ……僕が言うのもなんだけど、これって対個人に使っていい代物じゃないよね。城攻めにもこんな魔法いらないだろう。


 魔法を解放した反動でガンガンする頭を押さえながら、僕はそんなことをぼんやりと思っていた。


「ふ――ざけるなぁっ!!」


 ギーガは周囲に漂っている魔力までかき集め、ありったけの魔力で《魔法障壁(マジックバリア)》を張る。さらに魔法陣の効果も併用して僕の魔法を吹き散らそうとする。


 ……小技だな。悪あがきだ。そもそも対個人に使うには大き過ぎる威力の代物なのだ。少々威力を削られたくらいでも、人ひとり殺すのは造作もない。


「そんなもの、意味があると思ったのか!!」


 しかし、僕の《終焉(カタストロフィー)》はそんなもの意に介さず濡れた紙を破るように障壁を突破する。


「――消えろ。痕跡も残さずにな」


「なぁぁぁぁぁ……!?」


 障壁が破られた瞬間避ける動作は取っていたのだが、その程度関係ないとばかりに僕の魔法が全てを呑み込んで破壊する。




 その瞬間、全てが光で覆われた。




「――っ!」


 目を反射的に閉じ、あまりの光量で目が焼かれてしまうのを防ぐ。


 さらに何もかもを灰燼に戻す前にクリスタルで覆い、魔法の力の行き場を奪う。


「さて、これからどうしよう……」


 マズイ。理論で考えていただけだから、こういった部分の対処法をまったく考えてなかった。これを適当に放ったら非常に危ないことになるのは目に見えている。


 とりあえず射線を変えずに放つ? ここは地下だから崩れかねない。上に放つ? ここはティアマトの真下に当たるはずだから論外。残ったのは――


(地面に撃つしかないよな……)


 それしかないと頭ではわかっているのだが、何だろうこの不安は。やっちゃいけない気がしてならない。


「……ん?」


 僕が魔法の解除法に悩んでいると、魔法の威力が下がり始めているのがクリスタル越しに感じられた。


「えっと……」


 何で? と思ったが理由はすぐに思い当たった。


「なるほど……クリスタルのおかげか……」


 どうやら魔法を打ち消し続けた結果として徐々に魔法そのものが消えかかっている。これは嬉しい誤算だ。


 このまましばらく放っておけば魔法は問題なく消えるだろうと判断できたため、僕はギーガの残骸を探そうとした。一応、ここで戦った証も見つけておきたい。


「……生きてたのか」


 そしてそれは僕の最も驚く形で見つかることとなった。


「……ふん、こんな姿だ。生き残れるはずなかろう」


 ギーガはどんな避け方をしたのか、下半身が丸々消え失せていた。それでも意識がハッキリしているあたり、時間稼ぎにしかならないとわかっていても治癒魔法を行っているのだろう。


「どうした? 私から証拠を奪うのではないのか? 見たところ許可を持ってここにいるようでもないしな」


 死に掛けて意識も朦朧としている状態であるはずなのに、そこまで頭を働かせられるギーガにある種の敬意すら湧いてくる。この人は確かにやってはいけないことをやっていたが、魔導士としての実力は間違いなく僕より上だ。


「……一つ、聞かせてほしい」


「敗北者に、否と言える権利があるか?」


 ギーガの言葉にうなずき、僕は単刀直入に聞きたいことを聞くことにした。




「――なぜ、ここにある魔法陣だけを用いたんだ?」




「……どうやらお前は頭が切れるらしいな。これと同じ効果を持つものがいくつかあると、気付いたのか……」


 ここの魔法陣に刻まれていた古代文字を読んだ時から予想はしていた。しかし確信が持てなかったのだが、今回の件で確信が持てた。


「僕の考えではこれは大陸一つを結んだ超巨大魔法陣の要。そして内容はおそらく大陸にある全ての生命から魔力を吸収すること……。そこから何をするのかまではわからなかった」


 だがそれだけの魔力を集めてまで行使することだ。ロクなものではないだろう。


「ククク……だいぶ当たっているが、少し違う……」


「何だと……? 答えろ!」


 ギーガの上半身のみの体を揺すり、知っている全ての情報を吐き出させることを強要する。


「お前の間違いは二つ……。いや、私が知っていてお前が知らない情報が二つ、と言うべきか……。まず一つ、この魔法陣の規模は大陸ではない」


「なに……?」


 大陸ではない? いや、しかしこれが一部分だと仮定するならば、それより大きなものなんて――


「この世界なのか!? この世界そのものが魔法陣の範囲なのか!?」


 冗談ではない。この世界全ての魔力を吸収して何をやらかそうとしたんだ昔の人は!? そんなことをしたら世界中の生命が滅んでしまうではないか!?


 そこまで考えて、僕の頭が恐ろしい事実に行き着く。


「待て、これは遥か昔の魔法陣だぞ……。なら、これは……」


 声が震えてしまう。僕の考えが正しいなら、信じられないことになる。




 古代文明。正体不明の滅び。そして遺跡に残る明らかに僕たちの生きる時代より進んだ文明。




 単語がいくつも頭の中を飛び交い、そのたびに僕の心が限りのない不安に襲われる。


 僕の不安を読み取ったかのようにギーガは楽しそうに笑い、口を開いた。




「そう。この魔法陣は一度完全な形で使われている」




「……っ!」


 つまり僕たちは一度滅んだ世界の中で再び生きてきたというわけか。ゾッとしない話だ。


「さて、お前がもう一つ知らないことだが……これは教えてやれそうもない」


 ギーガの力ない声を聞いてようやく、彼の生命が今まさに尽きようとしていることに気付く。しかし、ここで死なれるのは僕でも認められないことだった。


「教えろ! 僕は知りたいんだ! 過去に何があったのか! 僕は何のためにここにいるのか!」


 過去に人類が滅びるほどの何かがあった。そしてこの魔法陣は切っ掛けになったのか、はたまた人類が滅びるほどの何かに対して小を切り捨て大を救う方法を取るために使われたのか、わからないことが多過ぎる。


「ククク……、お前が調べることだな……」


 僕が必死に体を揺さぶる姿を面白そうに見ながら、ギーガは目を閉じた。


 そして、その目が開かれることは二度となくなった。


「……ちくしょうが」


 どうせなら最後まで教えてから逝け。


「……そうだ! ロゼ!」


 少しの間、あの世に向かったであろうギーガに罵詈雑言の嵐をぶつけていたのだが、すぐにロゼのことを思い出す。急いで医者に見せないと!


 僕はすぐさま踵を返してロゼの元まで駆け寄る。


「ちょっとごめんよ……」


 悪いとは思いながらロゼの体を慎重に抱え、転移札を取り出して魔力を込める。


 僕たちの体が転移される証の緑色の光に包まれながら、僕は最後にもう一度魔法陣の方を見た。


 ……あれが『鍵』なんだろうな……。


 僕の知らない、だけど強大な何かがうごめいている。


 そんな得体の知れない居心地の悪さを感じながら、僕たちは地上へ帰還した。

予想出来ている人が大半でしょうが、もうすぐ一部は終わります。おそらく残り五話に満たないはずです。


……最近、ネット小説に投稿し始めた頃の気持ちを思い出してきました。平たく言ってしまえば反応が怖い、という奴です。

ここしばらくはちょっと気が緩んでいたのでしょう。そう考えればパソコンが壊れたのはある意味良いことでした。

というわけで、これから気を引き締めて書かせていただきます!




……追伸、とうとうパソコンが帰ってきました。これでようやく大学に朝早く行って夜遅く帰る生活に終止符が打てる……。

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