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一部 第二十七話

 翌日。先日と同じようにテラスでひっそりと眠った僕はやる気十分の状態で目が覚めた。


「……また、あの景色見られるかな」


 ちょうど昇ってくる日の出に目を細めながら、昨日見た光景を夢想する。きっとあの景色は僕の心に一生残るだろう。


「エクセ、起きてますの?」


 僕が固い場所で眠ったために凝ってしまった関節をほぐしていると、テラスの入口辺りから聞き慣れた声がした。


「うん。ついさっき起きたばかり。ロゼは?」


「わたくしも先ほど目が覚めたばかりですわ。……気分は?」


「最強」


 こんなに良い気分は滅多にないどころか生まれて初めてだ。きっと今の僕なら何でもできる。それこそこの街を消し飛ばすことだって造作もない。


「やめなさい。それにその程度、いつものあなたなら余裕ではありませんか」


 僕がいかに気分が良いかを説明したところ、ロゼにそのような反応をされる。確かにそうだけど、もうちょっと驚いた反応がほしかった。


「男心を理解しない奴なんてこの世から消えてしまえ!」


「ちょ、わたくしそんなあなたを怒らせるようなことを言いました!? あと、そのセリフは女のわたくしに言うべきではありませんわ!」


 それはそうだ。女性に男心を理解しろと言ったところでそれは無理だ。


 ……無理だってわかってるなら、なんで世の女性は女心を男たちに理解させようとしてくるのだろう。


 割と深遠な謎に頭を悩ませていると、ロゼが僕の腕を掴んで引っ張った。寝間着の胸元が見えてそこはかとなく色気がある。


「んで、どうかしたの?」


「朝食の準備ができたと言ってるでしょう。あと、わたくしは自分の行動が相手にどんな影響を与えるかは理解しているつもりですわ」


 つまり、今の行動も計算尽くだったと。しかし、ロゼが本当に自分の行動の影響力を理解しているのなら、僕を何度も何度も事件には巻き込まないだろう。


「それで、ロゼは僕のどんな反応を予想したわけ?」


「…………人間の推測なんて外れるためにあるのですわ」


 どうやら僕の反応はロゼの予想から遠いものだったらしい。


 ちなみに、僕だって十六歳の青年男子らしく情熱というのはある。事実、今だって体の芯が燃えるような熱を感じているほどだ。


 ただ、表に出にくいだけで。


「とにかく朝ごはんでしょ。食べなきゃ始まらないよ」


 妙に不貞腐れるロゼを見て、僕の体が熱を持っていることは絶対に言わない方が良いな、と内心で苦笑しながらロゼの手を引いた。






 朝食もそこそこに食べ終えると、アリアが再びやってきた。家は近くにあるのだろうか。


「……覇気がありますね。先日とは大違いです」


 アリアが僕を見て開口一番につぶやいたセリフがこれ。昨日の僕はそこまで頼りなく見えたのだろう。自覚もある分、否定がしづらい。


「まあ、ね。僕だって命がかかっていれば真面目にやるさ」


「命?」


「いや、こっちの話」


 アリアにはわからないだろう。ロゼが同姓との結婚を文字通り死ぬほど嫌がっているなんて。そして僕が勝負に負けた暁には彼女と心中させられる。


「さて……。どんな勝負にするの? あと、そちらに有利過ぎる内容の場合は却下させてもらうよ。たとえばロゼの身長体重スリーサイズを言えとかだったら当然きゃっ――がっ!?」


 隣に立っていたロゼから太ももをえぐるような鋭い蹴りをいただいた。太ももってなかなか痛みが引かないんだよね。


「あ、あなたは何を言っているのです!? わ、わ、わたくしのスリーサイズだなんてそんな……!」


「そのような常識を問題にするわけないでしょう」


「アリア!? あなたまで!? いや、あなたが原因ですわね!?」


 僕は至極普通のことを言っただけのはずなのに、ロゼは何故か顔を真っ赤にしてわめき立てていた。


 ………………ああ、ちょっと慎みのない発言だったかもしれない。少なくとも、当人を前にして言うセリフではないだろう。うん、悪いことをした。


 でも、その慎みのない発言をさも当然のように流したアリアはどうなるのだろう。というか、そのくらい常識って言わなかった? 僕はそっちの方が危ないと思うんだけど。


「ロゼ、今のは僕が悪かったから落ち着いて。アリア、勝負の内容は?」


「はい、一晩徹夜で考えた内容としてやはりロゼ様を任せるに足る人こそ、ロゼ様の婚約者にふさわしいと思った次第でありまして」


 なら最初からロゼに決めさせろよ、という突っ込みはしちゃいけないのだろう。


「そこで私は考えました。ロゼ様の家は名家。ゆえに狙う敵も大勢います。それらから彼女を守れることこそが夫の最低条件であると愚考しました」


 いや、それは警備兵の最低条件だろう。少なくともロゼが結婚相手に求める姿ではない。というか、アリアは嫁にしかなれないはずだ。同性同士の結婚で夫も妻もない。




「というわけで! ロゼ様が鬼の鬼ごっこが私の考えた戦いの内容でございます!」




 おかしいな。今までの話の展開と結論がまったく結びついてない気がする。


「えっと…………………………………………あれ?」


 何だろう。このどこか違う気がするという違和感。


 ロゼを見ると、気品を保つなど知ったことではないとばかりにあんぐりと口を開け、呆然としていた。


 そしてそんな中でただ一人自信満々に立っているアリア。


 端的に言ってしまえば――状況についていけなかった。


「簡単なことです。ロゼ様が鬼となってこの街を逃げ回り、私たちがそれを捕まえる。ちなみに自分だけで使える手段はすべて使ってもよろしい。それでは三十分間、ロゼ様は逃げるなり隠れるなりしてくださいまし! では始め!」


「え!? もう始まってる!? え!?」


 ロゼは急転直下の状況についていけず、慌てに慌てた顔のままどこかへ走り去ってしまった。相当なパニック状態だ。


 ……なんで走ってしまうんだか。あれではアリアの提案をうなずいたも同然ではないか。


「私は準備がありますのでこれで。……動かせる兵全てに招集をかけなさい。オデッセイの街をしらみつぶしに調べるわよ」


 アリアもアリアで何やら不穏なセリフを吐きながら立ち去る。自宅に戻って指揮官にでもなるのだろう。


 しかしマズイことになった。勝負内容がぶっ飛んでいるのもそうだが、何よりロゼがこの場にいないのが痛い。僕はこの街に関しては素人なのだ。


 アリアは人員に物を言わせて探し回る人海戦術を使ってくるだろう。対して僕はこの身以外に頼れるものがない。


 ……兄さんとニーナがいないのが悔やまれる。こんな時、二人がいれば何でもできるのに。


 だが、ないものねだりをしても状況は好転しない。幸い、僕たちが本格的に探してよいのは三十分後からだ。つまり、それまでは時間がある。


 どうせ必要な準備なんてないのだから、時間をかけて状況確認をしておこう。


 まず、この街は山型に作られており、大通りが東西南北に一本ずつ存在する。他の道は裏道と呼ばれるほど狭く薄暗いが、街の人は普通にそれを活用している。だが、街の人であっても覚えているのは自分の使う道ぐらいだ。


 そして僕はこの街で覚えている道はほとんどない。一度通った道を覚える頭ぐらいならあるが、さすがにあれほど入り組んだ道を覚え切れるほどの記憶力はない。


 強いて覚えている道を挙げるとすれば、昨日ロゼに見せてもらった景色に続く道くらいだ。


「……まあ、適当に探せば何とかなるか」


 とりあえず歩けば何かにはぶつかるだろう。それに期待して歩くしかない。


 ……そういえば、まだ確認していないルールがあったな。




 対戦相手の妨害は可能なのだろうか?




「……いや、ダメだよな」


 さすがに堂々と聞くのははばかられる。それに向こう側からも襲われたら僕なんて一たまりもない。人数差考えろ。




「バレなければいいか。バレない反則は高等戦術だし」




 だいたい、戦いに反則もクソもない。勝者が全てで、敗者は搾取されるだけ。うん、単純明快でわかりやすい。


「……よし、方針は決定」


 基本は歩いて探すが、相手の兵を見かけたらバレないように倒す。倒した相手はどこか適当な場所に放り込んでおけばいいだろう。


「魔法が使えればなあ……」


身体強化(フィジカルチャージ)》ぐらいしかこういった状況で使える魔法がない。それにしたって魔力配分考えないとロゼを捕まえるまで持たないし、何より使ったら負けた気がする。何に、とは言わないけど。


 こういう時はロゼの才能がうらやましくなる。補助系魔法全般に対して高い適正を持つ彼女の方が今の状況には適しているのだ。


 ロゼとは対照的に僕はもっぱら戦闘向きだ。使える魔法は攻撃魔法がほとんどだし《身体強化(フィジカルチャージ)》だって用途は戦闘に使うことの方が多い。


「やれやれ……、厄介なことになったな……」


 まあ、ロゼの身長体重スリーサイズ他彼女のプロフィールを暗誦しろ、なんて内容よりはマシか。


 僕はなるべく前向きに物事を考えるようにしながら、アリアがもう一度ルールを説明すべく戻ってくるのを待った。






「お待たせしました。まずはこれをお持ちください」


 戻ってきたアリアが僕に手渡してきたのは、円筒みたいなものだった。ちなみに片方の頂点部分には紐のようなものがついている。


「これは?」


 紐の部分に火をつけて使うのは何となくわかるが、それをやった際の効果が何一つ予想できない。


「発煙筒という物で、ここに火をつけると煙をすさまじい勢いで出します。ちなみに色は金です。ロゼ様の髪色的に」


「はぁ……」


 煙の色に関しては心底どうでもいいと思うが、なかなか便利な道具だ。これがあれば山などで遭難した際にも助けを求められるのか。


「見つけたら火をつけて知らせてください。それ以外の用途での使用は禁じます。また、一人一つが原則ですから、紛失したらおしまいですのでそのつもりで」


「あいわかった」


 ならば、アリアの兵からこれさえ奪ってしまえば、彼らに参加権はなくなるということか。その代わり僕もこれを奪われたら負けが確定してしまう。


 ……奪い返すか、別の兵から強奪すれば問題ないだろうけど。


「……では、私たちが背中合わせになって走り出した瞬間から開始です。用意はいいですか?」


 アリアが僕に背中を向けて立っている。僕はそれに背中を合わせ、前を見る。


「それでは用意――ドン!」

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