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三部 第二十四話

 あれからさらに二日が経過した。空の上に異体が浮かんでいる光景にも目が慣れてしまった頃だ。


 バハムルには変わらず血の提供を頼み、僕が魔法陣の割り出しをする。ひたすらその作業の繰り返し。


 ニーナは基本的に僕の補佐だし、レシピを渡せば簡単なポーション作成ぐらいやってくれる。レシピミスのないよう、慎重に慎重を尽くすよう厳命しなければならないのが面倒だが。


 ロゼからの情報によると、そろそろ各国のお偉いさん方が集まり始めているらしい。これは素直に喜べる内容なのだが……同時に僕の生贄説も有力になってきているようだ。


 まあ、大局を見る人間からすれば合理的極まりない手段だしなあ……。


 実際、僕って自己分析してみてもかなり危ない人間であると思う。世界中の人間全員が合わせても届かないほどの魔力を持って、さらに月断流の剣術も修めているから接近戦でも力はある。


 ……手段を選ばず、後先も考えないでひたすらに破壊のみを追い求めた場合、僕なら世界を滅ぼしてもお釣りが来るくらいだ。


 脅威ではあったものの、今まではそこまで話題にのぼるような行動も取っていなかったため魔導士連中以外には無名のままだったのだが……。


「名前が世界中に知れ渡るってどんな気分なんだろうね……」


 まだその時が来ていないから実感できないが、あまり良いものでないことは確かだろう。この戦いが終わったあともどこかから狙われ続けることだけは確定だ。


「はぁ……」


 ため息をつきながら、僕は魔法陣の解析に四苦八苦する。いくら思い悩んだところで、僕にできることなどこれくらいしかない。


 ……おまけにニーナも薄々ではあるが感づき始めている。そろそろ隠しておくのも限界だ。


「頭痛い……」


 僕の命の危険にニーナのこと。ついでに時間のなさ。考えることが多過ぎて逃げ出したい気分だ。


「エクセ、ポーション作り終わったけど次は何をすれば……ってまた悩んでるの?」


「あ、ニーナ……」


 僕の指示を終わらせたらしいニーナが僕のことを呆れた視線で見つめていた。


「またと言われても。どうしようもないのは自分でもわかってるんだけど……」


「あんたの悪癖ね。さっさと割り切れれば苦労しないのに」


 それができたらとっくにしている。時間の流れに身を任せることができない性分だからこうして考えているのではないか。


「うるさいよ。僕だって自覚してる。……ああ、ポーションの方が終わったならバハムルのところに行ってきて。進展を聞いてきてほしい」


「わかったわ。……ねえ、エクセ」


 それで話は終わりとばかりに背中を向けたのだが、ニーナが去っていく気配はない。


「……なに?」


 振り向かずに声だけを出し、話を聞いている素振りは見せる。




「あんた、あたしに隠し事してるでしょ」




「――うん、してる」


 迷うことなくうなずく。ニーナ相手に嘘をつき通すのは無理だ。


「隠さないのね」


「しらばっくれる方が難しいからね。確信してるだろうし」


「……あたしに言えないこと?」


 初めてニーナが心配そうな声音を出した。その寂しげとも取れる声音に何もかもぶちまけたい衝動に駆られるが、腹に力を入れて耐える。


「……ここで僕が隠してもいつかは耳に入ること、かな」


「だったら、話してくれるわけ?」


「……本音を言えばずっと隠していたい内容だけど……、ニーナがその気になったらすぐわかるほどの情報だからね。話すよ」


 いい加減限界だろう。むしろあれだけの情報が噂として、ニーナの耳に今まで入らなかったのが奇跡に近い。


「わかった。いつ話してくれるの?」


「今日の夜にでも。だからそれまでは何も聞かないでほしい」


 それと話が終わった後に暴れないでもらえると非常に助かる。これは儚い願いになりそうだが。


「……了解。それじゃ、バハムルさんのところに行ってくるわね」


 色々と言いたげな顔ではあったが、全て飲み込んだ顔をしたニーナはひらひらと手を振って僕から離れていく。


 その姿を見送ってから、もたれかかっていた椅子に深く腰掛ける。


「はぁ……」


 本当、これからどうしよう。






「ちょっと出かけてくるわ」


「その短剣を置いていくんなら許可するよ」


 案の定というべきか、僕が事の次第を説明したあとのニーナの行動は実に明快だった。


「……わかったわよ」


 舌打ちが聞こえそうなくらい不機嫌な顔をして、ニーナが短剣を握ったまま椅子に座る。ちょっとでも目を離したら逃げられそうだ……。


「まず言えることとして、これが実に合理的で非の打ち所がないということ」


「あ、ごめん。花を摘んできていい?」


「服の中に隠してある投げナイフを全部置いていったらいいよ」


 ちなみに花を摘むとはトイレに行くという女性の隠語だ。ニーナは割とよく使う。


「……ケチ」


 見抜かれたのが悔しいとでも言わんばかりに頬を膨らませながら、ニーナは自分の椅子に座り直した。やはりただのウソか。


「ケチで結構。……まあ、他にも第三者の視点から見たメリットは数多くあるけど、お前が暴走すると怖いから黙っておくことにするよ」


 一つ具体的なメリットを挙げただけでこれだ。全部挙げたら僕でも止められないほどに暴走するかもしれない。


「……じゃあ、デメリットは?」


「僕が死ぬ。ついでに逃げ遅れた人たちも巻き添え。さらに言えば逃がしようのない自然類が激減する」


「……それって結構ひどいデメリットじゃない?」


 まあ、ニーナの言うことももっともだ。しかし、これにはそれを補って余りある確実性がある。


「だけど発動さえしてしまえばこっちの勝ちは揺るがないよ。これはすごい利点だ」


 自然は時間さえかければ元に戻るが、異体の脅威はすぐそこまで迫っている。


 ……ん、ちょっと待った。今何か、とんでもなく重要なポイントをサラッと流した気がした。こういう時の僕の勘には自信がある。


「エクセ?」


「ごめん、少し静かにして。集中したい」


 怪訝そうな顔で僕を見るニーナをかなり冷たい言葉で突き放したが、ニーナは特に傷ついた様子も見せずに口を閉じた。


 理解ある幼馴染に内心で感謝しつつ、僕はひたすらに自分の思考に埋没する。


 まず思い出すべきはさっきの言動だ。引っかかりを感じたのがあそこである以上、絶対何かがある。


(話した内容は僕が生贄となって魔法陣を起動させた場合のメリットとデメリット。メリットは確実性の高さと人的損害の少なさ。デメリットは自然の多大な破壊。他にも動物やらがかなり死滅するだろう)


 そこまで考えて、やはりどこかに引っかかりを覚えた。それがどこなのか、今度はゆっくり思い返してみる。


 メリットの部分――違う。向こう側のメリットはほぼ全てこちらのデメリットに直結する。そこから起死回生の策など出るわけがない。


 こちらのメリットにならずとも、せめてデメリットにならない条件があれば……、


「あっ!」


 頭の中に閃光が走り、視界が一気に開けたような爽快感とともに謎が解けた。


「なに、わかったの?」


 僕の思索を見つめていたニーナが身を乗り出して聞いてくる。


「うん、わかったんだ。僕を生贄にする作戦。これは――」




 人類の最終手段だ。




「少し考えればわかることだよ。自然に与えるダメージの大きさが計り知れない以上、こんな手段は取りたくないはずなんだ」


 そもそも、惑星魔法陣をそのままの用途で発動させてしまった時点で人類はとんでもない痛手を負うことになる。自然しかり、人的被害しかり。


「確かに……。使うと人類が滅びかける、ということにしか目が行ってなかったけど、これってエクセだけでも同じことが言えるんだ……!」


 ニーナも合点がいったように何度もうなずく。


「だから、これを逆手に取れればもしかしたら……」


 少なくとも僕が生贄になることだけは避けられるかもしれない。


「やったね、エクセ! ……で、具体的にはどうするの?」


 一瞬だけ喜ぶものの、ニーナはすぐさま現実的な部分に目を向ける。そして僕も興奮から一気に冷めてしまう。


「問題はそれだよね……まあ、当てはあるけど」


「あるの? なら安心できるわね」


 ニーナはほにゃっとした笑いを浮かべて肩の力を抜くが、僕の言っている当てというのはそこまで頼りにできるものではない。


 やること自体は変わらず魔法陣を改変して異体への道を作り、僕が一人でそれに乗り込んで異体を倒す。それだけだ。


 ただ、そこに一つだけとある言葉を付け足す必要がある。




 ――もし失敗した場合、僕が命と引き換えに奴を消滅させる。




 要するに自爆術式だ。僕が死に瀕したら僕の全魔力が暴走するように術式を自分の中に組み込んでおけばいい。


 そうすれば僕が異体の内部で倒れても、僕の体が爆発して異体ごと消え去るはずだ。


「……エクセ? どうして笑わないの?」


 自分が死んだ場合のことをごちゃごちゃと考えていると、ニーナが首をかしげてこちらを見てきた。マズイ、何か言ってごまかさないと。


「あ、あー……どっちにしろ、僕が確実に死ぬかかなり高い確率で死ぬかのどちらかだからね。生き延びる可能性の低さを嘆いていただけだよ」


 事実でもあるため、ニーナも押し黙る。


 そう、たとえ僕が生贄にならなかったとしても、異体に突入すれば僕が一番苦労することになるのはすでに確定事項なのだ。


「そうよね……何もかも勝手よ。エクセに全部押し付けて……」


 ニーナはこの世の全てを呪うかのような低い声でブツブツとつぶやく。傍から見ていると非常に怖いのでやめてほしい。


「仕方ないとしか言えないよ。ある意味、僕が生まれた時から決まっていたことでもある」


 星の意志の膨大な魔力を持っている以上、こうなることは必然だったのだろう。そうでも考えないとやってられない。


「運命とかそんな言葉で片付けたくはないけど……、僕に関してはそれしか言いようがない」


 兄さんが死んだことまで運命なんていうチャチな言葉で片付けられるのはゴメンだ。だから運命はあまり好きではない。


 だけど、僕を取り巻く問題に対する説明は運命という言葉しか当てはまらないだろう。


「……本当、エクセは色々と巻き込まれるものね。今回のが一番大規模よ」


 ニーナの言葉はその通りで、僕は苦笑いを浮かべることしかできなかった。


「あ、あはははは……おまけに今度ばかりは死ぬかもしれないし……」


「大丈夫よ。あたしが死なせないわ」


 僕の言った死ぬかもしれないという言葉に対し、ニーナが真っ直ぐに僕を見ながら答える。


「は……?」


「言葉通りの意味よ。……まあ、頑張りましょ? 人間にできることなんていつだって頑張ることくらいなんだから」


 言葉の意味が一瞬わからなくて聞き返してしまったのだが、すでにニーナは話題を変えていた。明らかに聞き出せる感じではない。


「……そうだね。頑張ろう」


 何を言ってもさっきの発言をもう一度聞くことが無理だとわかり、僕は肩をすくめながらうなずくしかできなかった。


 その時だった。


「え、エクセ! とうとう来ましたわよ!」


 息せき切らしたロゼが部屋に駆け込んできたのは。


「ど、どうしたのさ? 何が来たって?」


 少し驚きながらもロゼのために水差しから水を飲ませ、落ち着かせたところで聞いてみる。


「あなたを呼び出すよう……人に言われたのですわ! それに各国からの重鎮方が押し寄せて……」


 ロゼの途切れ途切れの発言を拾っていくと、話が見えてきた。要するに――




惑星会議(グランドクロス)の始まりですわ!!」




 ――そういうことだろう。

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