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三部 第十六話

 あらかじめ目を閉じて光を防ぎ、同時に僕は自分の放った魔法の中に飛び込んだ。


 一応魔法の分類に入るものの、無理やり魔法と魔法とくっつけて使う《終焉(カタストロフィー)》に敵味方認識(マーキング)などというものを使う余裕などない。


 当然、何の対策もせずに僕が突っ込めばあっという間に蒸発しておしまいだ。自分で使う魔法だからこそ、その威力の大きさも十二分にわかる。


 なので僕は自分の前面にクリスタルの障壁を発生させて余波を防ぎつつ白い暴虐の中を進む。


 やはり、と言うべきかバハムルは僕の最強攻撃に耐え、その両手を顔の前で交差させていた。


 ……さすがに無傷では済まなかったらしく、両腕は炭化してボロボロと崩れていたが。


『力を集中させてこれか……。末恐ろしいな。よもやこれほどの魔力を操れるとは』


 両手を解き、バハムルはゆっくりと腕の治療を開始する。




 ――誰が一撃で終わりなんて言った。




「まだ、僕の攻撃は終わっちゃいない!」


『っ! 来るか!』


 僕自身の放った魔法の中から飛び出してきた僕に、バハムルは驚きながらも炭化した腕で戦える姿勢を作る。


「はぁっ!」


 斬光を放ち、超神速の抜刀がバハムルの腕を斬り飛ばす。


 炭化しており、人を斬ったとは思えないほど水分の抜けてサックリした手応えだった。


 斬られた側も両腕に感覚はなかったらしく、特に痛がる様子もなくバハムルは斬られた両腕の再生を始める。その再生スピードたるや、人の形をしていても竜種であるとわかるものだった。


 ……むしろ腕は斬らないでおいた方がよかったかもしれない。向こうに自分の手を斬り落とさせる時間が稼げたのに。


 自分の短絡的な行動に嫌悪しながらも、右手を振り抜いた勢いで左手も振り抜く。抜刀術ほどの速度はないが、回転の遠心力も乗せた斬撃だ。かなりの速度を誇る。


「っしゃ!」


 その手に握られたクリスタルの刃がどんどん伸びていき、バハムルの首を刈ろうと迫る。


『ふっ!』


 バハムルは頭をかがめることで僕の斬撃をかわし、同時に自由に動く足で僕のわき腹を狙った蹴撃を繰り出してくる。


 その完璧過ぎるタイミングに僕は瞬時に避け切れないことを半ば本能で悟る。左手の剣を振り抜くために右足を軸にして左足を浮かせてしまっているから、飛んで衝撃を軽減することもできない。


 直撃すれば内臓破裂はまず免れないであろう一撃。それを僕は受けきった。


「この……っ!」




 ――天技・鏡削り(かがみけずり)




 以前行った鏡写しの応用天技で、つい先ほど戦った火竜(ファイアドラゴン)にも使った技だ。名前も思いついたから付けてみた。


 効果は鏡写しの劣化版のようなもので、腕や足といった体の一部分を狙った場所につくるというもの。


 一部分しか作れないものではあるが、わざわざ残像を作る必要がなくほぼタイムラグなしで作り出せるのがメリットだ。


 腹の部分から二本の腕が生え、それぞれの手が交差してクリスタルを纏う。


 その直後、腹部にとんでもない衝撃が走る。クリスタルを纏って防御したというのに、衝撃までは殺し切れなかったようだ。


「がぁっ!」


 まともに受けてしまい、ダメージこそなかったもののかなりの距離を吹っ飛ばされる。攻撃力には信じられないレベルのものがあるらしい。二度は食らいたくない。


 ……というか十中八九、直撃したら死ぬ。防御の上からでここまで吹っ飛ばすような攻撃を受けても無事でいられるほど人間の体は丈夫にできていない。


「このぉっ!」


 体勢を立て直し、無我夢中で魔法を放つ。今回はただの究極魔法だ。


「《熾天使の裁き(セラフィレイズ)》!」


 僕が好んで使う炎属性の究極魔法ではあるが、《終焉カタストロフィー》が余裕を持って防がれるほどだ。牽制になれば儲け物だろう。


『この程度の魔法、昔は当たり前に存在した!』


 予想通り、僕の放った究極魔法はバハムルが力を溜めた右腕であらぬ方向へと弾かれた。


 ……あんな防ぎ方する奴、生まれて初めて見た。というか究極魔法を弾こうという考え自体非常識だ。


 とはいえ、さっき放った魔法のおかげで何とか着地する時間を稼げた。地面に足をつけた瞬間、僕は再びバハムルに向かって突撃をかける。


「負けるかっ!」


 夜叉の速度で分身を六体作り、その全てに実像を与える。さらにそいつらが分身を作り、実像を与えていく。


『……もはや何でもありだな』


 バハムルが呆れたようにつぶやくが、内心で僕も同意する。この天技の使い勝手の良さは異常だ。


 三十六人まで増えた僕だが、ここまで増えると僕でも把握が難しくなる。連携にも穴が生まれるし、間違って本体である僕が斬られたら一巻の終わりだ。


 慌てて僕の分体を消していき、いつも通りの六体まで減らす。さすがに位置関係を把握しながら動けるのはこれが限界だ。一発限りの攻撃ならまだ別だけど……。


「行くぞっ!」


 本体の僕が後ろで《終焉(カタストロフィー)》の準備に入り、残りの五人が前に出てバハムルを足止めする。


『む……お前と同じ力量の剣士を五人か……はぁっ!』


 バハムルは少しだけ気合を入れたと思うと、突撃をかけていた僕たちが一斉に吹っ飛ばされる。なに!?


「情報を!」


 僕の叫びに対応した分体たちが空中で体勢を立て直し、僕に口を動かすだけで情報を送る。バハムルが追撃に入っている今、彼らに話す余裕がないのだ。


(何らかの衝撃波が全方位に発せられ、そのせいで吹っ飛ばされた。おそらく溜めは必要なし。一瞬だけ魔力の動きがあったから魔法の可能性あり、か……どうしろと?)


 術式構築が恐ろしく早いだけなのだろうが、知識を総動員してもそんな魔法知らない。というか目に見えない衝撃波を発する魔法なんて現存しない。


(さしずめ《衝撃(ショック)》と言ったところか……。幸い、威力はそれほど高くないようだし、射程も短そうだ。注意して無闇に突っ込まないように、としか言えないがそれでもマシだろう)


 僕は用意していた魔法を解除し、前線に加わることにする。五人の僕らではバハムルの追撃を捌くだけで手一杯なのだ。おまけに動きが速すぎて狙いを定められない。


(でもどうする? 現存しない魔法に対しては実際に受けてから対策を考えるしかない。今のところ一撃で戦闘不能になるような凶悪な魔法は受けていないが……この人相手だとそれも怪しい)


 先ほどの《衝撃(ショック)》もあるため、数が多くてもうかつに飛び込めない。結果、必然的に一対一に近い形に持ち込まれる。


「ちっ!」


 盛大に舌打ちしながら鏡写しを僕含め二人まで減らす。一対一の形にしか持ち込めないのなら、せめて前衛と後衛に分かれたい。


『数を減らしたか……まあ、賢明な判断だと言えよう。さて、時間もそこそこ経った。ゆえに――』




 ――本気で行くぞ、小童。




 その言葉を聞いた瞬間、脳の全ての思考が逃げ一択を選んだ。口の中が一瞬で乾き、皮膚がピリピリとした痛みすら訴えてくる。


 殺気、などという生易しいものではない。これに呑まれた人間はあっという間に恐怖で発狂死してしまうほどのものだ。


 幸い僕は呑まれずに済んだのだが、それでも動きを止めてしまっていた。


 そして、それはバハムルにとって絶好の好機であることなど、言うまでもなかった。


『せいっ!!』


 バハムルの姿が霞み、次の瞬間には僕の分体が胸を貫かれて血を吐いていた。


「が、はっ……!?」


 何が起こったのかわからない、と言った表情をしながらバハムルを見据える僕の分体。


 ……あれは絶対にただでやられてやるつもりはないと言った類の顔だ。自分のことだからよくわかる。


 これから死ぬとわかっているのにギラギラとした笑みを崩さないその表情にバハムルも危機を察知したのか、胸に突き刺した腕を抜こうとする。


「やら、せるか……っ!」


 だが、その腕を分体が掴んで抜かせない。死に瀕しているというのに、その瞳から力は失われていなかった。


 そして分体の稼いでくれた時間を無駄に使う僕ではない。


「合わ、せるぞ……! 本体!」


「任せろ!」


 両手にパチパチと火花を散らす魔力の塊を作り出し、六つに分けてそれぞれの術式を刻む。


 分体の僕は掴んだ腕に力を込め、魔力を意図的に暴走させる。一度しか使えないが、人間の意地が生み出した最強の攻撃でもある。




 要するに――自爆だ。




「消え失せろ……っ!」


『ぬぅっ!?』


 分体が両手に集めた光を一気に解放し、周囲全てを光で埋め尽くす。


 視界が焼かれて何も見えなくなってから、僕も待機させていた魔法を解き放つ。


「《終焉(カタストロフ)――》」


 しかし、今回使うのはいつもと少し違うものだが。




「《斬撃(ブレイド)》!!」




 魔力による圧縮空間を作り、その中で六属性の究極魔法を重ね合わせることによって起こる限りのない反発と暴走で天井知らずに力を上げていく僕の最強魔法。《終焉(カタストロフィー)》。


 それを普段の僕は魔力による圧縮に少しだけ穴を開けて使うのだが、今回は少し毛色が違う。


 魔力による圧縮を解かず、長大な剣の形に圧縮して振り抜いたのだ。


 範囲こそ狭まるものの、当たった際の攻撃力は文句なしに最高クラス。とっさに思いついた技にしては上出来だ。


 ……これで月断流の剣技とか放てたらエライことになるだろうな。怖いから想像したくないけど。


「ぐっ、かはっ、ぜぇ……」


 もっとも、連発はできない。《終焉(カタストロフィー)》を普通に放つ以上の消耗があるし、魔力による圧縮を一定の形に変えるだけでも恐ろしく疲労してしまった。


 魔力量自体はそこまで減っていないものの、過剰放出によって体が悲鳴を上げている。意識を失う一歩手前だ。


 だけど、これだけの攻撃力を叩き込んだのだ。決して無事では済まないはず――




『フ、フフフ……』




 そう考えていたからこそ、堪えても堪え切れないようなその笑い声を聞いた瞬間、僕の心はハッキリと絶望を感じた。


『素晴らしい。実に素晴らしい。ここまで我を追い詰めたのは人でも魔族でも――神の中でもお前が初めてだ』


「チックショウ……!」


 悔しさに歯噛みする。今の僕にあれ以上の威力を持つ攻撃は撃てない。つまり、奴に致命傷を与えることはもう不可能となる。


 ――負けた。それも向こうからの攻撃はごくわずかで。


『我も永き時を生きてきたが……断言しよう。お前ならば空に浮かぶ忌々しき異体を消滅できる』


「……何であんたが戦わない? あんたが僕より強いのは傍目にも明らかだろう!?」


 半ば自暴自棄になりながらも立ち上がり、歓喜の顔をしているバハムルを見据える。


『……我にあれを破壊するには巨大過ぎる。仮に全力でブレスを放ったとしても、全てを焼き払うことはできない。我が知りたかったのはお前の力だ。総合力の話ではない』


「……待てよ。それじゃ、つまり……」


 異体を破壊できるほどの攻撃力と範囲を持った攻撃を見せれば、全て終わっていたのでは……。


『うむ。だから我は当初、お前が初撃に見せた魔法で及第点を出すつもりであった。だがお前の目に見えて伸びる魔力量と魔法の力量が面白くてな。つい我も楽しんでしまった』


 許せ、と言って頭をわずかに下げるバハムルの姿を見て、全身の力がドッと抜けていくのを感じる。同時に今までにない疲労感も押し寄せてきた。どうやら緊張が続いていた時には無視できた疲れが全て襲いかかってきたらしい。


 自分の疲労具合も把握できないほどの緊張下での勝負なんて本当に久しぶりだった……。と思いながら僕はゆっくりと体を地面に傾けていく。


『む、さすがに疲労したか。人間の身には負担の大き過ぎる戦いだったからな、致し方あるまい』


 倒れ行く僕の体を瞬時に支えたバハムルが苦笑とともに優しい声を出す。姿からして男性のはずなのに、その声はどこか母性を感じさせるものだった。




 ――よくやったな、人の子よ。




 視界が閉じられ、声しか聞こえない状態でその声だけが妙に響いて聞こえた。

……もしかして一話が短い? 他の一日一投稿しているらしい作品を見るとそんな思いが拭えません、アンサズです。


……まあ、これ以上の文量は私の許容値を越えてしまうので無理ですが。


さて、キャラ設定などの方ですが……キャラの部分でかなり停滞しています。もう何を書いたらいいのかわからない……。


なので、日の目を見ることになるのはもう少し先になりそうです。申し訳ありません。

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