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三部 第五話

 作戦と言ってもそこまで難しいわけではない。要するに三人でそれぞれの役目を果たしましょうというだけだ。


 僕が囮をやって目くらましを。カルティアに刀の方を封じてもらう役目を。そして奴にトドメを刺すのはニーナの役目。


 僕一人では勝てない。ならば、僕が頼れる最高の力に頼らせてもらおうと考えたのだ。そしてそれは、完璧な形で動こうとしていた。


 砂煙に隠れて見えない中、僕は胸の下あたりがゾクゾクする感覚を味わいながら、この作戦が絶対に成功したという確信を抱いていた。


 しかし、砂煙が晴れる前に事態は大きく動くこととなった。


「……っ!?」


 砂煙の向こうから触手のような何かが無数に飛び出してきたのだ。速度は大したことないので簡単に避けられたが、あれが全方位に発射されるものであると仮定すると背筋が寒くなる。


(これって……)


 不安で胸が焼け焦げそうになりながらも正体不明の攻撃を見極めるべく、触手の方に視線を投げかける。


 どうやらそれはタケルの使っていた刀の色と酷似しており、奴の刀から発せられたものであることは想像に難くなかった。


 訳のわからない何かが起こっている。その事実だけを頭に留め、僕は晴れかかっている砂煙の方へ走り出した。






「ニーナ! 無事だった!?」


「傷一つ負ってないわ! カルティアは!?」


「見てないのか!?」


 ニーナとは砂煙の中に入る前に合流できたのだが、カルティアの姿が見えなかった。


「何が起こるかわからない! ニーナはいったん下がってて!」


「……わかったわ! エクセも無事で! ……それと、あたしの攻撃に手応えはあったわ」


 それはつまり、タケルに致命打を与えることができたということになるわけで。


「……了解!」


 腹の底からふつふつと湧いてくる歓喜を表に出さないようにしながら、僕はニーナと別れて触手の飛び交う中に入っていった。


「……っ!」


 頬を触手がかすめ、ザックリと斬られて血を流す。もとが刀だけあって、切れ味があるらしい。厄介極まりない。


「カルティア! どこにいる!? 返事ぐらいしろ!」


 触手の群れによって砂煙に覆われていた時より悪い視界の中、僕は必死にカルティアを探す。襲いかかってくる触手は容赦なく斬り捨てた。


「この……っ、邪魔だ!!」


 刀の硬度を備えているらしく、やたらと斬りにくい。動きさえしなければ抜刀術でいっぺんに斬れるのだが……。


「おいカルティア! 返事しろ! マスター命令だ!」


「何でしょうか、マイマスター」


「うお!?」


 マスター命令だと叫んだ瞬間、後ろから声がしたので思わずそちらを振り向いてしまう。


「っと!」


 その隙を狙ったかのような触手は振り向きもしないで断ち切った。月断流を学んだ人間がこの程度の速度で殺されると思うな。


「無事だったのか! とにかく離脱するぞ!」


「受諾できません」


「よし、サッサと……って断るのか!?」


 カルティアの予想外過ぎる返答に驚いたのだが、カルティアはすでに僕の渡した槍を片手に触手を振り払う作業に戻っていた。


「何かあるのか!? あるなら説明しろ!」


「説明している時間はありません! とにかく急いでこれのコアを破壊しないと……世界が壊れる!」


「……?」


 カルティアがここまで焦っている姿を僕は初めて見る。そのことが僕の思考を加速させた。


(彼女が焦る要因、それは何? ……考えられるのは一つだけだ)


 カルティアが生み出された意味。そして僕という存在を待ち続けた理由。この二つの要素だけでもう答えは導き出せる。


「異体か!?」


「はい! 詳しい説明は後ほど!」


 タケルの使っていた刀、怪しいとは思っていたがまさか異体関連のものだったとは。せいぜい魔剣程度だと思っていた。


「なら手伝う! 手加減は不要なんだろ!」


「その通りです! 消し炭にしてやってください!」


 カルティアから手加減するなというお察しが出て、おまけにタケルの体は触手に覆われて動かなくなっていた。今なら両方をまとめて一網打尽にすることが可能だ。


「ふぅ……っ!」


 右手に炎の魔力を集め、究極魔法の術式を描く。こんな気色悪いもの、剣で全部斬り捨てるなんて面倒くさすぎる。


「《熾天使の裁き(セラフィレイズ)》!!」


 太陽に近いレベルの温度にまでなった炎が僕の手から放射され、付近にあった触手などを全て焼き溶かす――はずだった。


「無傷かよ……」


 いや、正確に言えば触手の末端部分はほとんど溶け落ちていた。核の部分だけがほとんど無傷でそこにたたずんでいたのだ。


 しかし厄介だ。少なくとも熱には恐ろしいまでの耐性があることだけはハッキリしている。ならば衝撃か、あるいは斬撃か……。


 とにかく今は斬ってみよう、そう判断して波切に手をかけた時だった。


「うっ、ああああぁぁ……」


「その声は……タケルなのか!?」


 触手に覆われ、身動き一つ取れないほどに絡みつかれたタケルがうめき声を発したのだ。


 ……どうでもいいか。


「行くぞ……っ!!」


「待ってくださいマスター!」


 だが、僕の抜刀はカルティアの声によって制止させられた。


「何だカルティア! あれを早いところ破壊する必要があるんだろ!? だったら止めるな!」


「タケルを引き剥がしてください! でないと核はタケルの生命力を吸い取って再生します!」


「どうやって!?」


 力任せに引っ張ってどうにかなるほど生やさしい絡まり方ではないぞ!? 触手を全て斬り飛ばしてようやくといったレベルだ。


「……私たちでどうにかするしかありません! 最悪、自爆装置を起動します!」


「無理だ! 僕の魔法の威力、知らないわけじゃないだろ!? たかが自爆でどうにかなるレベルじゃない!」


 爆発によって生まれる熱をあの触手はほぼ遮断するはず。衝撃だけで触手の全てを剥ぎ取るのはちょっと無理がある。


「ならば手を動かすべきです! 取り回しの利く短い槍を二本下さい!」


「はいはいわかりましたよ!」


 カルティアが先ほどまで使っていた長槍を投槍のように投げ、触手に突き立てる。それを見ながら僕は意識を集中させ、二本の短槍を作り出してカルティアに投げ渡す。


 ついでに僕も波切を納刀して師匠からもらった守り刀を抜き、余った片手にクリスタルの小太刀を握る。末端触手は割と簡単に斬れるため、ここでは小回りを重視させてもらう。


「この……っ!」


 双剣を駆使して徐々にタケルへと近づいていくのだが、近づけば近づくほど抵抗が激しくなる。今ではほとんど生み出される触手を斬り飛ばすだけで精一杯だ。


 ならば、と僕は博打を打つことにした。


 双剣を交差させ、お互いの刃をぴったりくっつけ合わせる。これで擬似的ではあるが、鞘走りの加速を得られるはず。あとは――




 ――伍刀連撃・無限双刃。




 互いに互いの刃が加速させあい、一定速度に達した刃が無数に分かれる。成功した!


「っしゃあっ!!」


 喝采を上げながら通常よりも倍増した無限刃の後を追い、走り出す。


「カルティア、道ができた! 急いで突破するよ!」


「わかりました、と言いたいところですがもう……!」


 カルティアの苦渋の表情が目に映り、何事かと思って改めて前を見る。しかし、特に変化はなかった。


「一体どうした!? あれ、破壊するんだろ!?」


「そっちではありません、上です!」


 上!? と疑問に思いながらも触手が来ないことを確認してからこちらも空を仰ぎ見た。そこには――




 僕が以前、カルティアと出会った時に見た楕円形の物体が地表に向かっているのが見えた。




「な――」


 咄嗟に言葉が出なかった。あの時見た光景も現実感のないものだったけど……ここには実感を伴って出てきている。


「ああ……っ!」


 カルティアは絶望し切ったようにその場に崩れ落ち、すでに戦力と数えるのは不可能になっていた。


「……クソッ、サッサと行け! お前らには意志があるんだろ!」


 この中でまともな思考が働くのはおそらく僕だけ。そして僕はカルティアという荷物を背負ったままどうにかできる状況ではないと判断した。


 この触手が意識を持っていることは先ほどタケルを操ったことで確認済みだ。


 別に知らない振りをするならそれはそれで構わない。逃げなければ《終焉(カタストロフィー)》を撃ち込むまでだ。


「……では、お言葉に甘えさせてもらおう。我が唯一の脅威よ……」


 タケルの口から発せられたとは思えない機械的な声とともに、タケルの体が空高く舞い上がる。それがどういった力によって行われているのか考える前に速度を上げ、視界から消えてしまった。


「あの野郎……結局タケル奪っていきやがった……」


 奴がどうなるのかは知ったことではないが、せめてトドメぐらいこっちが刺したかった。


「……まあ、終わったことはどうにもならない……か」


 姿を消したタケルと、未だ空に残っている楕円形の異体。それを見上げて僕はため息をこぼした。


 ……とりあえず、カルティアとニーナを回収しよう。話はそれからだ。






「先ほどは申し訳ありません、マスター。あそこまで取り乱してしまって……」


「いや、気にしないで。奴と会話した感じ、あの時点では僕たちがどうやっても勝てる可能性は低かったから」


 慌てた感じがなかったので、僕たちが接近しても逃げる方法があったのだろう。あの速度での戦域離脱を見れば何となくわかるが。


「タケルは生死不明。んで、エクセが話していた異体とかいう奴の本体があれ……。一言言わせてもらっていい?」


「……どうぞ」


 僕は何となくニーナが言うであろう言葉に予測がついたが、黙って促す。




「あれ、どうしろと?」




 うん、もっともなセリフだ。


「僕がどうにかするしかないでしょ。そのための魔力なんだし」


 カルティアの発言を丸々信じるなら、という前提になるのだが。


 まあ、どの道あれは何とかしなければならないだろう。放置しておいてこちらに良い影響をもたらしてくれるとは到底思えない。


「とにかく、状況の把握はできた。ではこれからどう動く? ってのが今の課題だ」


「そうよね……。さすがにこの状況でタケルだけを追うわけにもいかないし……」


 というかタケルを追いかけることが、あの楕円形の物体に特攻かけることとイコールで結ばれていることに気付いてほしい。


「カルティア、何か意見はないか? お前が一番あれについての情報は詳しい」


「……あれは大きさから見てかなり近くにいると思われがちですが、実際にはまだ遠くにあります。そのため、直接的な脅威はすぐには訪れないでしょう」


 この辺は……信じるしかないな。僕たちは無知過ぎる。


「ですが、それも持って二月。それが過ぎれば……地上は地獄になる……!」


 カルティアの血を吐くような言葉に、僕たちは唇を噛み締めることしかできなかった。


 残された期間は二ヶ月……短過ぎる。移動だけでも一週間とかザラにあるんだぞ!?


「…………考えるべきことは二つだ。一つ、どうやってあそこまで辿り着くか。僕の空駆じゃあそこまで高高度には飛べない。かといって地上からではどんな魔法も威力が落ちて決定打にはならない。なので何らかの方法であそこに突入する必要がある」


 指を立てながら説明をする。ニーナにカルティアもうなずいてくれた。


「もう一つは、これからどこへ行くか。まあ、これに関しては一つ浮かんでいる場所があるんだが……」


「なに? あたしはどこでもついて行くわよ。……正直、話についていけないって理由もあるけど」


「……もしかして、以前マスターの言っていた……」


 ニーナの言葉は流して、カルティアの言葉にうなずく。おそらく、可能性としてはあそこが一番高いだろう。




「行こう。――ティアマトへ」

ストックがどうにかできた……。一日二話作成は死ぬほどキツイです。昔の自分がどうやって一日二話投稿とかやってたのか、モチベーションを聞きたいくらいです。

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