表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/153

三部 第二話

「おらぁ!!」


 タケルの刀を力任せに振り払い、返す刀で断空を放つ。


「ひゃは――当たるかそんな遅いもの!」


 横薙ぎに放った断空をタケルは空駆で空を走ることにより避ける。


 しかし忘れないでほしい。ここにいる僕は二年前と違い、ありとあらゆる面で腕を上げているということを。


「っせいっ!!」


 タケルが避けた方向に向かって左手を振るい、風属性中級魔法《風刃(エアブレイド)》を放つ。


「――っ!」


 さすがに兄さんと同レベルの使い手だけあって、今の攻撃もタケルは回避した。




 そこまでが計算通りであることに気付きもしないまま。




(――ここ!)


 《風刃(エアブレイド)》を避けるわずかな時間を使い、別の魔法の用意をする。それも今度は究極魔法だ。


「《熾天使の裁き(セラフィレイズ)》!!」


 以前より収束癖もなくなり、範囲の広がった超高熱の炎がタケルを焼き尽くさんと迫る。


「くっ!」


 これにはタケルも焦ったようで、炎の先で刀に手をかける姿が見られた。次元断層――!


 次に行ってくるであろう防御を予測し、すぐさま両手からの魔力放出を切り上げ、全身の強化を一気に強める。


 次元断層突破技を持たない僕にできることは、抜刀後のわずかな隙を突くしかないのだ。わかり切ったことだから、その隙を狙うのにも慣れてきている。


 案の定、タケルは抜刀して次元断層を作って僕の魔法を跡形もなく消し飛ばした。


(今!!)


「うおおおおおおおぉぉっ!!」


 僕も空駆を使ってタケルに肉薄し、全力の抜刀術を叩き込む。




 ――壱刀改変・斬光。




 兄さんとの対決の時も放った僕の中で最速を誇る技だ。


 以前と違い、相手の動きを止めるために放った攻撃魔法もちゃんと機能し、さらに次元断層を使用した直後だから納刀するまで次元断層は使えない。


 何もかもが完璧なタイミング。これで倒せない方がおかしいくらいだ。


 なのに、タケルはそれを受けても死ななかった。


 いや、厳密に言えば違う。受けたわけじゃない。




 ただ、タケルの剣が有機的にうごめいて僕の剣を止めたというだけだ。




「な――」


 兄さんに防がれた時とはまるで違う、イレギュラー極まりない防がれ方に僕は驚愕し、次には自分の浅慮を責めていた。


「く、はは、やっぱり僕は選ばれた人間なんだ! 剣にさえ愛され、こうして生きている! あはっ、あはははっ、あははははははは!!」


 タケルがどこかタガの外れた笑い声を上げている隙に僕はサッサとその場を離脱した。


 今回の攻撃は残念ながら決定打にはならなかったが、それでも有益な情報がいくらか手に入った。それでよしとしよう。傷を負ったわけでもないから、マイナスがあるわけでもないし。


 まず一つ。とにかくあの剣は危険であるということ。どう考えても剣自体が意志を持って動いているようにしか思えない。兄さんのあの剣を壊せという指示は正しい。


 次に、タケルに技量が僕よりも遥か上にあることは確かだが、兄さんと同じレベルではないということ。兄さんと比べたら一枚の半分程度こいつの方が格下だ。


 とすればまずは――


(剣の破壊!)


 これしかないだろう。あの剣はとにかく危険過ぎる。どんな行動をするのか予測できないというのはこの状況では最大の障害となりうる。


 ……兄さんを殺した直接の要因だから警戒はしていたつもりだったんだけど、甘かったみたいだ。


「いつまでも笑ってんじゃねえよ。助かってよかった、と思っているようにしか見えないぜ?」


 僕が思考を纏める間もアホのように笑い続けていたタケルに挑発の言葉を投げかけ、僕は刀を構える。


「……ふぅん、どっちが格下なのかもわからないんだ。二年半もあればどこへでも行けたのに」


「抜かせ。剣士なら、どっちが格上かぐらい剣でハッキリさせろ。口でいくらほざいても余計無様なだけだ」


 ……自分でも意外に思うくらい毒が出た。もしかしたら僕の隠れた一面に毒舌家というのがあるかもしれない。


「……いいよ。お前みたいな剣士、僕は一番嫌いなんだよ!」


「あいにく、お前に好かれようと思った覚えはないね!」


 突進してくるタケルに合わせて僕は大きく下がる。後ろにニーナたちがいないことも確認してから、両の手にそれぞれ別の魔法を宿す。


「まずは目くらまし……!」


 右手に宿した炎で左手に浮かべた水の塊を溶かさせ、大量の水蒸気を発生させる。同時に熱湯も生み出されるため、水蒸気の温度は人間が触れるにはちょっと熱過ぎるぐらいまで上がっている。


 発動者である僕はすぐに水蒸気の範囲から逃れ、タケルが次に取るであろう行動を推測する。おそらく、こういった目くらましを晴らすのに一番役立つのは――


 水蒸気の霧が横に断ち切られ、すさまじい風圧が襲ってくる。この風圧からしてやはり弐刀・断空を使って霧を払ってきた。




 ――陸刀改変・雷光。




 雷電を纏った閃光もどきで断空を打ち破る。断空と閃光の中間くらいの威力を持っている雷光は、威力を保ったまま一直線にタケルに向かう。


「こんなもの!」


 タケルは煩わしそうな顔をしながら、僕の雷光を刀で振り払う。


 ――まさかこんなに早くチャンスが巡ってくるとは。


「ぐぅっ!?」


 電気を纏った衝撃波なのだ。刀などという金属で防いで電流が流れないはずがない。


 そして電流というのは筋肉の硬直まで起こすため、前に出て戦う人間にとっては決して受けてならない攻撃の類になる。


「はあっ!!」


 波切をクリスタルで覆い、長大な刀に変えてからタケルを押し潰すように叩きつける。


 主の危険を察知したらしく、タケルの持つ刀がうごめいて僕の剣の軌道に割り込んできた。




 ――それが狙いだったことにも気付かずに。




 クリスタルは硬度こそ世界最硬を誇るが、結晶ゆえに柔軟性が著しく低い。そのため、総合的な強度としてはさほど高くはないのだ。


 つまり基本的に盾などで防御されるとマズイのだ。砕けてこちらの身まで傷付けかねない。


 だが、今回は距離を取ってあるからその心配もなく、安心して攻撃できる。


 僕の予想通りタケルを守るべく動いた刀に阻まれ、僕のクリスタルは呆気なく砕け散った。あえて砕かれやすいように、以前と同じように荒削りで作った甲斐があった。


「な……!? 痛っ!」


 この攻撃にはタケルも驚いたようで、すぐさま後ろに下がって攻撃範囲から逃れるが、降り注いだ破片を全て避けられるはずもなく、顔に一筋二筋の血の線が走った。


 タケルは頬に走った傷に指を這わせて呆然とした表情をする。何か奴の琴線にでも触れたか?


「……傷付いた。僕の顔に、傷が……。……キサマアアアアアアアアアアアアァァァ!!」


「……っ!?」


 よもやナルシストだったとは。兄さんと血が繋がっているのか本当に怪しくなってきたぞ。


 ……いや、あれで兄さんも調子に乗りやすい部分があった気がする。やはり兄弟なのか。


「死ねっ、死ねっ、死ねええええええええええええええっっ!!」


 などと戦闘以外の方向に思考を向けた瞬間、怒り狂ったタケルが伍刀・無限刃を放ってきた。マズイ、迎撃が間に合わない!


「この……っ!」


 鞘を支えていた左手を離し、地属性中級魔法《地槍(アースランス)》を放って僕の正面に迫っていた剣を弾き飛ばす。


 だが、これは一時しのぎにしかならず、すぐに隆起した地を斬り裂いて別の刃が飛んでくる。


 しかし、一時しのぎでも僕の方で迎撃の準備を整えるには十分な時間となった。




 ――伍刀改変・無限乱刃。




 抜刀した波切の無限刃を放ち、そのまま立ち止まることなく体を回転。左手にクリスタルの刀を持ち、そちらでも無限刃を放つ。二段構えの無限刃だ。


 一つの威力自体は僕の方が弱いものの、二つ重なればさすがに僕の方が勝つ。僕の放った鉄と虹の奔流がタケルの放った無限刃を押し返す。


「くっ……、あああああああああああああぁぁぁっ!!」


 タケルは苦し紛れに次元断層で全てをかき消し、仕切り直しを図ろうとする。




 ――そんな隙、僕が見逃すものか。




「食らえ……!」


 左手に持ったクリスタルの投槍を全力でぶん投げる。音速の領域でも耐えられる僕の肉体から放たれた槍は音速間近の速度を出して、タケルに向かって飛んでいく。


「な……っ!?」


 そして抜刀直後のタケルには刀で払うか、体勢を崩すこと覚悟で避けるしかできなかった。


 タケルが取った行動は後者。すなわち半身になり、体勢を崩しながらも紙一重で槍をかわすことを選んだ。


「……ここ!」


 その隙を見逃さず、僕は天技・影走りを使って一直線に近づき、刀で突きを繰り出す。




 ――瞬剣改変・影斬(かげぎり)




 影走りの速度を持って瞬剣・突を行えばそれはもう下位の剣技にも匹敵する威力になる。天技と組み合わせた僕の魔法剣だ。


「っ!?」


 だが、これもうごめく剣によって軌道をそらされ、タケルの肩を浅く斬り裂くだけに終わってしまう。


 チクショウ、本当に厄介過ぎるぞその剣。致命打になりそうな攻撃も何度か放っているのに、全て剣のおかげで全部台無しだ。


「くっ!」


 タケルは技後の硬直をしている僕を狙おうと、刀を振り上げるがその時には僕の方も迎撃ができるようになっていた。


「っらぁ!!」


 踏み込みに使った右足を軸にして、左足に炎を纏わせて回し蹴りを放つ。それはちょうどタケルの振り上げた腕に当たり、剣を高く弾き飛ばす。


「な……っ!」


 タケルはすぐさま空駆を使って剣を取りに行くが、その場でクリスタルを纏わせた波切を振り下ろす僕の方が速かった。


(絶好のチャンス! 奴の武器を――破壊する!)


 僕の斬撃は空中で身動きの取れないタケルの刀に当たり、確かな手応えを伝えてくる。


 剣も剣で抵抗しようと必死に刀身を動かしてはいるが、振り下ろされる勢いには抗えない。


 このまま地面に叩きつけて砕き割る! そう考えていたのだが、若干考えが甘かったらしい。




「調子に乗るな、ガキが」




 僕と同じく影走りを使い、刀の落下地点に先回りしたタケルが刀を取り、僕の剣を防いだらしい。


「……チッ、上手く行ったと思ったんだけど」


「確かにお前が強くなったことは認めてやる。ああ、飛躍的な進歩だ。僕が兄さんを殺した、あの日に比べれば雲泥の差さ」


「……僕の本気はまだだよ。まだ、僕には切り札がある」


「だろうな。でなければあそこまで余裕を持って対処できるわけがない。お前の剣には切羽詰った感じではなく余裕があった」


 ……伊達に月断流は修めていないってことか。大した洞察力だ。


「それで、僕が強くなったことを認めてどうするの? 素直にその剣でも渡してくれるわけ? 許さないけど」


「……兄さんに及びもつかないくせに僕を追い詰めるな。でないと――」


 タケルはおもむろに刀を構え、不敵に笑う。そして次の瞬間、駆け出した。


「――っ!?」


 マズイ、その先には――




「お前の大切なものを、破壊する!!」




 ニーナがいる!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ