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二,五部 第十一話

「全力で行くぞ! 閃光!」


 兄さんが至近距離で抜刀し、刀そのものと衝撃波の二段構えで攻撃を行ってきた。


「はぁっ!!」


 最初の抜刀を夜叉の動体視力でギリギリ避ける。そして次に光速じみた速度で来る衝撃波に対し、こちらも抜刀する。


「いっけぇっ!!」




 ――陸刀改変・雷光。




 兄さんの放った衝撃波が光速なら、僕の雷光はそれには及ばない。だが、威力の面で言えば互角のはず。


「くっ!」


 お互いに放った衝撃波がぶつかり合い、弾けてとんでもない光量を撒き散らす。


 兄さんは予期しなかったその光に目をつぶっているが、雷光を放った時点である程度予想できていた僕はあらかじめ目をつぶっておき、その光の中を直進する。


 奇襲をかけるべく無言のまま、僕は兄さんに肉薄して自分にできる最高の抜刀術を放った。




 ――伍刀・無限刃。




 完璧なタイミングに位置。兄さんでも避け切れないはず。そして避け切れないと判断した兄さんはあの技を使う!


 僕は無限刃を放った位置から下がり、慎重に魔力を練り上げて兄さんの出方をうかがう。


 やはりというべきか、兄さんは次元断層を使って僕の無限刃を残らず消し飛ばした。




 ――好機!




 次元断層の弱点。それは次元断層潰しに特化した技と、抜刀術でしか使えない点だ。


 ならば、今の状態は格好のチャンス!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっっ!!」


 夜叉、強化魔法、そして全身を帯電。ここまでして自分の身体能力を高めた上での抜刀術。避けられるものなら避けてみろ。




 ――壱刀改変・斬光(ざんこう)




 衝撃波も何もないただの抜刀術。だが、その速度は僕の中で最速。


 しかし、これすらも兄さんは夜叉を使って避け切ってみせた。


「……冗談キツイよ」


 僕の最速剣技が避けられたことに対し、もはやため息しか出ない。


「こっちだって冗談キツイぞ。二年半で伍刀なのはまあいい。お前の力ならかなり頑張ればギリギリ可能な領域だ。でも、魔法剣を使ってここまで強くなっているのは予想外だった」


「……悔しいけど、僕じゃ剣は極められないからね。手段は選べなかった」


 時間をかければ違うかもしれないが、少なくとも二年半では無理だ。


 それに僕は剣を極めるために剣術を習っているわけではない。ニーナたちの前に立って守るために学んでいるのだ。これといってこだわりがあるわけでもない。


「……オレがいなくなったこと、重いか?」


「重いよ」


 兄さんが死んで二年以上が過ぎた今でも思うことがある。どうして兄さんは死んでしまったのか、と。


 ……正直、今の僕でも兄さんのいた場所に代わるのは難しい。兄さんみたいに求心力があるわけでもないし、不思議とみんなを惹きつけるようなカリスマもない。


「……でも、僕は僕なりにやっていく。さすがに兄さんがいなくなって二年以上経つんだ。兄さんの代わりになってやる、なんて肩肘張らなくてもいいことくらいわかるさ」


 だが、それは兄さんとまったく同じことをしていく場合の話だ。兄さんには兄さんに適した方法があり、僕には僕に適した方法がある。


「どんな方法だ?」


 僕の言いたいことを察したのか、兄さんは楽しそうに笑いながらそれを聞いてくる。


 当然、答えは決まっている。




「うん。――みんなの力を借りるよ」




「僕は僕のやり方でみんなを守る。もちろん、一人でやれることを怠るつもりはないけど……兄さんのいた場所に辿り着くのはもう少し先」


 師匠と修行をし続けていた時、ずっと考えていたことだ。


 僕では兄さんの代わりになれない。わかり切っていることだし、誰かがそれを求めているわけでもない。


 でも、僕自身が比べてしまう。兄さんと同じリーダーの位置に立っている自分と、兄さんは同じようにできていただろうかを無意識のうちに考えてしまう。


「まあ、この考えに到るまで結構悩んだんだけどね……。結局、いくら悩んだってできることが増えるわけでもなし、ってことで開き直ることにしたんだよ」


 師匠にそれとなく話したこともあるのだが、返事は『そんな暇があるなら剣を振れ』とにべもないお言葉だった。いや、その通りだけどさ。


「……そっか。やっぱお前はオレがいなくなってもしっかり立てたんだな」


 僕の気負わない姿に、兄さんは心底満足したと言わんばかりの表情でしみじみとそんなことをつぶやく。


「僕は僕。……でも、それを言い訳にしていつまでも兄さんより下にいるわけにはいかない。だからある意味、今回のこれは絶好のチャンスだ」


 会話を切り上げ、再び波切に手を添える。


「へぇ、しばらく見ない間に言うようになったな。……やれるもんならやってみろ、エクセル!!」


「やってやるさ! 兄さ――ヤマト!!」


 越えるべき、倒すべき相手と認識し、お互いを名前で呼び合ってから僕たちは再び激突した。






「避けられるか!?」


 ヤマトが届かない位置で抜刀する。衝撃波の来る気配はないが、それ以上にヤバいものが来ていると僕の第六感が告げる。


(鳴動!)


 空間の歪みを抜刀で作り出し、圧縮して中に存在するものを例外なく押し潰す剣技。


 これは非常にマズイ。鳴動は他の剣技と違って相殺ができないし、防ぐとしたら次元断層しかないのだが……未だ修得していない技だ。


 おまけに範囲が正確に見切れず、避けるとしたらかなり大きく動く必要がある。おそらく、次元断層の存在がなければこれが月断流最強の名を冠している技だ。


「この……っ!」


 夜叉を使い、大きく弧を描く機動で攻撃を避けてからヤマトに近づく。


 しかし、その動きをヤマトは予想していたらしく、淀みなく右足を振り上げる。


「おらっ!!」


 そして、右足を振り上げた動きだけで弐刀・断空を放ってみせた。


「――っ!?」


 予想していなかった動きからの攻撃に思わず刀を前に出して防御してしまう。


 その隙を逃さず、ヤマトが夜叉を使って一瞬で僕の背後に回り込み、刀に手をかける。


(マズ――っ!)


 背中に直接氷の柱を差し込まれたような寒気を感じ、状況を打開する策を必死にひねり出そうとする。


 クリスタルで防ぐ? 無理だ。ヤマトの抜刀術はそんなもの木を斬るのと同じ感覚で斬り裂く。


 では魔法? それも無理。次元断層で防ぎ、返す刀で斬れば人ひとり殺すには十分だ。


 ならば――


「せっ!!」


 僕の後ろの地面から業火を撒き散らす。炎属性中級魔法《爆炎(バーストフレイム)》でまずは目くらましを。


「ふっ!」


 ヤマトはそれを次元断層で一息に散らす。予想した動きだ。


「これでどうにかしたつもりか!?」


 すぐさま刀を返し、そのまま僕を斬り捨てようとするヤマトが何かを試す目をしていた。


「違うよ!」


 それに叫び返しながら、僕は右手に波切(なぎり)を。左手にクリスタルの刀を持つ。


 体を右回りに回転させつつ、左手に持ったクリスタルの刀を思いっ切りヤマトの方へ叩きつけた。


「よっと」


 それをヤマトは軽く鞘の方で受け流した。




 ――ここまで思い通りに動くとは。




 内心で驚きながら、僕は右手に持った波切でヤマトの波切とぶつけ合わせる。


 刀と刀がぶつかり合って火花を散らし、僕の顔の前で拮抗する。


 ……よし、とりあえずすぐに殺されることはなくなった。


「相変わらず、咄嗟の機転は利くな!」


 ヤマトがその鍛え抜かれた脚力を生かした鋭い蹴りを放つ。まともに食らったら内臓破裂どころじゃ済まない。


「その機転を使わせるあんたの方がすごいよ!」


 左手に持ったクリスタルの刀を地面に突き刺し、それを起点にした逆立ちの要領で攻撃を回避する。


「これで!」


 僕の動きを隙と見たのか、ヤマトが僕とつばぜり合いをしていた刀を振り切り、直接頭を斬り裂くべく迫ってきた。


「負けるか!」


 だが、僕もそれに対抗して右手の波切で防がせてもらう。無論、踏ん張りなど利かないから勢いをそのまま受けて着地に持っていく。


 着地した後、すぐさま膝に力を込めて大きく踏み込んで距離を取る。今は一歩でも多くの間合いがほしかった。


「……ヤバかった」


 ヤマトから十分に距離を取った――あまり月断流に距離は関係ないのだが――のを感覚で理解してから、軽く息を吐く。


「サルみたいな動きをするな、お前は」


「前はできなかったんだけどね」


 昔は身体能力が追いつかなかった。でも今は普通にこなせる。


 それはさておき、どうしたものか。ぶっちゃけ勝つイメージが浮かばない。


 理由は簡単。僕とヤマトの間に力量差があり過ぎるからだ。


 僕もこの二年間でそれ相応の修行をしてきた自負はあるのだが、やはりヤマトの長い経験には敵わないのか?


「…………」


「お前まさか、無傷のまま勝とうなんて思ってるんじゃないだろうな?」


 様々な方向へ思索を巡らせる僕に、ヤマトが唐突に問いかけてくる。


 僕はその言葉に対し反論できない部分があり、咄嗟の返事ができなかった。




「……ふざけんじゃねえぞ!!」




「オレはそんな低い壁になった覚えはねえ! いくらテメェに魔法があるからってなあ、たかだか二年半程度の修行で越えられるとでも思ったか!!」


「思わないさ! 兄さんの剣を、僕が越えられる日なんて永遠に来ない!」


 売り言葉に買い言葉で叫び返す。事実、才能の違いから言っても経験の長さから言っても僕が兄さんを剣の腕で越える日は来ないだろう。


「だったらどうしてオレと剣で勝負する! 相手の土俵で戦うなと散々教えたはずだ!」


「それは……っ!」


 まともな魔法では月断流の前にまったく効果を成さないのも理由の一つにあるが、一番大きな理由としては別だった。




 やっぱり僕も、月断流を学んだ剣士として兄さんと戦ってみたい思いはあったのだ。




「お前が今、まだ首の皮が繋がっているのはほとんど奇跡だ。何か一つでも仕損じてたら、とうにお前は生首を転がしている」


「……わかってるよ」


「わかってねえよ! お前、最後にオレとなんて言って別れた? 今、お前の核にしてるものはなんだよ? 守ることだろ? 力のないお前がそれを言った! なのに手段なんて選んで小奇麗にまとまってんじゃねえよ!」


 ……何も言えなかった。


 確かに、僕の後ろにニーナたちがいると仮定するなら、僕の戦い方は最悪の部類に入るものと言える。


 それに世界は広い。兄さん以上の使い手だって確実に存在するだろうし、その人相手に綺麗な戦い方で守れるのか?


 ――無理だ。そんなこと、できっこない。


「……了解したよ」


 戦い方の決まった僕は静かに刀を納め、両手に魔力を集める。


「さっきまでも魔法は使っていたけど、あくまでそれは剣の補助だ。……でも、ここからは魔法剣士として戦わせてもらう」


 剣技を補助にして、魔法を主軸にする。兄さんほどの剣士相手に剣で勝負するのは愚の骨頂だ。


「それでこそエクセだ。……月断流剣士、ヤマト。オレを越えられるか?」


「……月断流魔法剣士、エクセル。越えられなくてもいいよ。勝てるなら」


「はははっ!! いい言葉だ! ――やれるもんならやってみろ!!」


 兄さんが再度、僕に向かって駆け出す。僕はそれに対し、後ろに飛ぶことで対処する。


 魔法を主軸にして戦う僕と、剣を主軸にして戦う兄さん。まったく畑の違う勝負が始まった。

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