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第8話

「今日はこのあたりの凶暴な魔物を探して狩るか」

 シーツーの町の西側に来た俺はさっそく生物探知魔法で魔物を探す。

「……いないな」

 魔王が復活したのならもっと魔物の動きが活発になってもよさそうなものだが町付近には魔物の気配はない。

 どうするかな。もっと遠くまで魔物を探しに行くか、それとも宿屋に戻るか。

 宿屋に戻るに考えが傾きかけたとき、

「ゼットー! こっちこっち!」

 遠くに手を振るアテナの姿が見えた。

 呼んでいるようなので近付いていく。

「魔物はみつけたの?」

「いや、まだだが」

「そんなことだろうと思ったわ。どうせ諦めて帰ろうとか思ってたんでしょ」

 図星をつかれる。

「そんなゼットに仕事を持ってきてあげたわ。ありがたく思いなさいっ」

 腰に手を当てふんぞり返るアテナ。

「それは食材調達の依頼よっ」

「なんだその依頼。そんなのギルドに頼むやつがいるのか」

「んーなんかよくわかんないけど高い崖に巣を張る鳥がいるんだって、その巣がほしいみたい。ゼットなら空飛べるから楽勝でしょ。報酬もかなりいいのよ」

 高級食材のツバメの巣みたいなものだろうな。

 凶暴な魔物もみつからないしここは素直に依頼を受けておくか。

「場所はどこなんだ?」

「案内するわ、ついてきてっ」

 

アテナがそう言ってからすでに二時間近く経過している。

 山中の森の中を歩き続けているのだが同じところをさっきも通った気がする。

「なあアテナ、もしかして道に迷ってなんかないよな」

「はん、バカじゃないの。わたしが道に迷うわけないでしょ、くだらない。ほらここを左よっ」

 ギルドでもらった地図を頼りに前を歩くアテナ。

 負けず嫌いのアテナのことだから認めたくないのだろうが多分迷っている。

「俺が空飛んで見てこようか」

「そんな必要ないわっ。こっちで合ってるんだから」

 まるで聞く耳を持たない。

 すると眼前に切り立った断崖が突然あらわれた。

「あったわ! ほらあったじゃない。迷ってなんてなかったでしょ」

 ドヤ顔で俺をみやる。

 偶然だろうと言葉が出かかるがぐっとこらえた。今それを言っても詮無きことだ。

「あそこよっ」

 とアテナが指を差す方を見上げるとたしかに何かが崖にくっついている。

 俺は浮遊魔法で空に飛びあがり近くまで向かった。

 距離が縮まるごとにはっきり見えてくる。

 ん? なんかでかくないか?

 下からではわかりにくかったが近付いてみるとその巣のようなものは俺が想像していたものの百倍はある。

 そして中にはタイヤくらいの大きさの卵のようなものが三つあった。

「おーいアテナ、これで合ってるのか? めちゃくちゃでかいぞ!」

 下にいるアテナに向かって叫ぶ。

 アテナもなにやら手を振って叫んでいるがよく聞き取れない。

 この卵みたいなのどうするかな、と悩んでいると大きな影が上空から迫ってきた。

 俺はすんでのところでそれを避けた。

 影の正体は三メートルはありそうな大きな鳥だった。

「おいなんだよこれ、話が違うぞアテナ!」

 ツバメどころか恐竜のような怪鳥はブン! と大きなくちばしを使って攻撃してくる。

 俺は空中でそれを避けながらこの怪鳥をどうするか考える。

 魔物じゃないから退治するわけにもいかないしなあ。

 俺は巣から距離をとったがそれでも怪鳥が追ってきて「ガアァ!」と威嚇してくる。

「仕方ない」

 俺は怪鳥の後ろに回り込むと首の後ろ部分に手刀をくらわせた。

「ガァッ……!!」という鳴き声とともに力が抜け落下していく怪鳥。

 その巨体をがしっと支えた俺は巣の中にやさしく寝かせてやった。

 そしてアテナのところに戻る。

 俺が巣を持っていないことに気付くとアテナの顔がしかめっ面に変わっていくのがわかる。

「ちょっと! なんで手ぶらで戻ってくるわけ? 巣はどうしたのよ、巣は!」

「巣の中に卵があったからやめておいた」

「はあ? 意味わかんない、巣なんだもん卵くらいあるでしょ」

「いやさすがにあれを取るのは罪悪感が――」

「じゃあ依頼はどうなるのよっ!」

「依頼は失敗ってことだな」

 アテナは「んもう!」と声を上げ地団駄を踏むと俺を置いてさっさと帰ってしまった。

 せっかく依頼をとってきてくれたのに二時間歩いて何もなしではアテナにも悪いことをしたかもな。

 俺は少しだけ反省しながらもと来た道を歩いているとアテナが居心地悪そうに道の途中で待っていた。

「どうしたんだアテナ、迷ったのか?」

「迷ってないわよ! それよりゼットのせいで往復四時間の無駄よ! 四時間よ! 今度絶対何かおごってもらうんだからね!」

 そうしてやりたいのはやまやまだが俺たちの金は全部おまえが管理してるだろう、なあアテナ。

 あとからネネに聞いたがあの怪鳥はライドンというらしく普段は温厚な性格の鳥なのだそうだきっと卵を盗まれると思って攻撃してきたのだろうということだった。


「ねぇ、このへんってマリエルちゃんの働いてるパン屋の近くじゃない? そうだ、どうせだからお昼はマリエルちゃんとこのパン屋でパンを買って食べましょ」

 先日アテナの持ってきた依頼を棒にふった俺に「何かおごってもらうんだからね!」とおごることを無理矢理承諾させたアテナは朝から俺を引っ張って商店街に繰り出していた。

 二時間かけて洋服などを買って回った結果俺の両手は買い物袋でいっぱいになっていた。

「どうせまたそこでも俺の金で払うんだろ」

「当然じゃない、そういう約束でしょ」

 そんな約束をした覚えはないがアテナの中ではそう変換されてしまっている。都合のいい頭だ。

 俺の金なんてあるのかと尋ねたらアテナが管理している金の半分は俺たち四人の生活費に、残りの半分はそれぞれ四分の一ずつが俺たちが自由にできる金なのだそうだ。

 そういうところはちゃんとしているんだな。

 俺とアテナはマリエルさんが働くほのぼのベーカリーというパン屋に向かった。

 マリエルさんはパン屋で働いてもう二十日間くらいになるのか。

 聞いたところによるともうすっかりパン屋が板についたようで今では接客だけでなく焼く仕事も任されることがあるらしい。

 ほのぼのベーカリーは商店街の端の方にあった。

 俺たちが店内に入ると、

「いらっしゃいませ~」

 とマリエルさんが笑顔で迎え入れてくれた。

「ってアテナさんとゼットくんじゃないですか、二人してどうしたんですか?」

「マリエルちゃんの働いてる姿が見たくて来ちゃったわ。可愛い衣装ね」

「ほんとですか、ありがとうございます~」

 アテナの言う通りマリエルさんの衣装はメイド服をモチーフにしたようなデザインで可愛らしい。

 愛くるしいマリエルさんのイメージにぴったりだ。

「おすすめのパンってあるかしら、マリエルちゃん」

「ありますよ。店長自慢のふわふわドーナツです。外はサクッと中はふわふわでもう、えへへ~」

 と悦に浸るマリエルさん。

 食べたところを想像してか顔がほころんでいる。

「へー、じゃあそれちょうだい。あと適当に三つくらい選んでくれる?」

「はい、わかりました~」

 そう言うとマリエルさんはてきぱきと棚からパンをとって袋に詰めていく。

 普段おっとりしているマリエルさんが働いている姿を見ることが出来て俺は充分満足だ。

「アテナ、俺は先に出てるぞ」

 とアテナに言うと俺はパン屋を先に出た。

 両手に沢山の袋をさげていたら店の邪魔になるだけだからな。

 しばらくしてパンの入った紙袋を持ったアテナが店から出てきた。

「マリエルちゃん、戦士よりパン屋の方が合ってるんじゃない?」

「まったくだな」

 公園に向かう途中アテナは紙袋から取り出したふわふわドーナツをほうばると「ほんとだ、おいしっ」と普通の女の子らしい反応をみせた。

 その様子を俺に見られていたのが恥ずかしかったのか、

「ほら、あんたにもこれやるわよ」

 と俺の両手がふさがってるのをいいことに口にフランスパンを突っ込んできた。

「おい……んぐっ!? ……………………」

 もぐもぐ…………うまいじゃないか。

 俺とアテナは昼飯がわりのパンを公園に着く前にものの十分でたいらげてしまった。

 

「ふあ~あ」

 大きなあくびをするアテナ。

 パンで腹がふくれた俺たちは公園のベンチで休んでいた。

 子どもをつれた母親が遊具で子どもを遊ばせている。

 その向こうではキャッチボールをする少年たちもいる。

「平和ね~。魔物も全然襲ってこないし、魔王が復活したなんて嘘なんじゃないの?」

 たしかに魔王が復活したなら魔物がもっと活発に動いてもいいはずだ。

「平和なのはいいことだろ」

「それはそうだけど、つまんないっ」

 アテナにとって魔物を倒しながら旅をすることが日常になってしまっていたので今の何も起こらない毎日は退屈なのだろう。

 すると、

「すいませーん、ボールとってください!」

 ボールがこっちに転がってきた。

 少年が手を振る。

 アテナはボールを拾い上げると、

「いくわよっ!」

 と言って振りかぶった。

「あ、おい手加減しろよ」

 という俺の忠告も聞かずアテナは豪速球を少年めがけて投げこんだ。

「っ!?」

 バシィッ!! とグローブのど真ん中に吸い込まれるように命中したボールはその勢いのまま少年を後方へ追いやる。

 地面に靴の跡がくっきりと残った。

「……あ、ありがとうございましたー!」

 少年は目を丸くしながらも礼儀正しくお辞儀をすると仲間の元へ戻っていった。

 アテナは俺を見下ろし、

「本気で投げるわけないでしょ」

 と肩をすかしてみせた。

 いや、おまえならやりかねない。

「欲しい物は大体買ったし、そろそろ帰りましょ。あっそうだ、その前にギルドに寄って面白そうな依頼がないか確認してからね」

 俺は両手いっぱいに荷物を持つとアテナのあとに続いた。

 

 ギルドに着くとアテナは壁に張り出された依頼書に目を通していく。

 その間俺は荷物を椅子に置いて遠くからその様子を眺めていた。

 昼過ぎということもあってめぼしい依頼はなかなかみつからないようだ。

「デートですか?」

 背後から声をかけられた。

 振り返るとトゥーネットさんが依頼書の束を持って立っていた。

「トゥーネットさん。いや違いますよ、罰ゲームみたいなもんです」

「あら、そんなこと言っていいんですか」

 と大人の余裕を感じさせる笑みをこぼすトゥーネットさん。

 アテナとは大違いだ。

 トゥーネットさんは俺に顔を近づけると、

「依頼をお探しならこういうのはどうですか?」

 と持っていた依頼書の束から一枚を取り出しオレに見せる。

「これ本当は金等級の冒険者さんへの依頼なんですけど、みなさんなら安心して任せられますから」

 俺たちが魔王を倒した勇者パーティーだということをトゥーネットさんは知っている。

 だから金等級への依頼をこっそり回してくれたのだろう。

 ちなみに金等級とは選ばれた冒険者だけにギルドから与えられる地位のことで難易度と報酬の高い依頼を優先的に受けることが出来るのだ。

 俺たちは金等級どころかそもそも冒険者ですらないので本当は依頼を受ける権利もないはずなのだがそこはアテナのことだ、これまでも無理を押し通して依頼書をかっさらってきていたのだろう。

「いつもアテナが迷惑をかけてすいません」

「いえいえ、勇者さまに直接依頼を受けてもらえるなんて光栄なことですから」

「それに」と続けて、

「ここだけの話、金等級の冒険者さんって癖が強い方ばかりですから気になりませんよ」

 とトゥーネットさんは小声で話してくれた。

 器の大きな人だ。

 この人が仲間だったらどれだけ気が休まることだろうか。

 トゥーネットさんは「仕事に戻りますね」と腰の位置で小さく手を振ると奥の部屋に入っていった。そして入れ替わりにアテナがこっちへやってくる。

「駄目ね、全然わたしの好奇心を満たしてくれそうな依頼がないわっ」

 首を横に振りながらどかっと椅子に腰掛けた。

 そして俺の目をじぃっと見て、

「それはそうとゼット、さっきあんた何話してたの?」

 とまるで俺が悪いことをしていたかのように問い詰めてくる。

 メネットにだまされたこともあって姉のトゥーネットさんのこともあまりよく思っていないらしい。

 報酬が金貨ではなく銅貨だったことをまだ根に持ってるのか?

「ほらこれ、依頼だとさ」

 俺はトゥーネットさんからもらった依頼書をアテナに渡した。

「えーと……ふんふん。これよっ! こういうのを求めてたのよっ!」

 目をきらきらさせたアテナはそう言うとおもむろに席を立ちギルドを出ていってしまった。

 残されたのは俺と一枚の依頼書だけ。

「うーん……これ、すげえ目立つんじゃないか?」

 俺はテーブルに置かれた依頼書を手に取り改めて目を通した。

 そこにはこう書かれていた。

 ディーノ城で開催される格闘大会の優勝賞品を手に入れてほしい、と。

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