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第3話

 マリエルさんと二人きりで繁華街を歩いていると、こういうことに巻き込まれるから嫌なんだよなあ。

「可愛い娘連れてんじゃん、おにいさん」

「マジ超可愛いくねぇ」

「そんな奴ほっといておれたちと楽しいことしようぜっ」

 ガラの悪い三人組が絡んできたのだった。

 揃いも揃って浅黒い肌に金のアクセサリーという量産型のヤンキーだ。

「え? な、なんなんですか?」

 とおよそ戦士とは思えない反応をするマリエルさん。大きな瞳であたりをきょろきょろ見回す。

 その様子を見て嗜虐心を刺激されたヤンキーたちは「やべぇ超かわいい!」と興奮しだした。

「邪魔だ、どけっ!」

 グラサンをかけた大男に突き飛ばされ俺は地面に尻もちをつく。

「ゼットくん!? きゃっ!」

 そしてそのままグラサン大男はマリエルさんの腕を強引に掴んで引き寄せ、無理やり抱きしめようとしたその刹那――

 全てのものが静止した。

 俺が魔法で時を止めたのだ。

 静寂の中、俺は立ち上がるとズボンの汚れをはたいた。

 そしてグラサン大男からマリエルさんを引きはがすとマリエルさんの時間だけを動かした。

「きゃ、ゼットくん!? あ、助けてくれたんだ。ありがと~」

「さあ今のうちに行きましょう」

 俺はマリエルさんの手を取ってその場をあとにした。

 道中マリエルさんは「いつもの装備だったらあんな人たち全然大丈夫だったんですよ」と目を少しうるませながら強がってみせた。

 俺は「わかってますよ」と言っておいた。

 

 町に出てまた絡まれても嫌なので俺たちは宿屋で時間をつぶすことにした。

 壁に掛けられた時計を見ると午前十一時四十分を指していた。

 もちろんもう時計は普通に時を刻んでいる。

 きゅるるる~。

 ん?

「……わたしのお腹の音です~」

 マリエルさんが恥ずかしそうに小さく手を上げる。

 そういえば俺も腹が減ってきた。

「どこかにお昼食べに行きますか? それともここで何か作ってもらいましょうか?」

 宿泊客になら昼食を用意してくれるとたしかネネが言っていた。

 マリエルさんがうなずきながら、

「じゃあここで――」

 と言おうとしたとき、

「マリエルちゃん、ゼットこの町出るわよ! 早く荷物持って来なさい!」

 アテナとネネが慌ただしく駆け込んできた。

「ふぇ?」

「なんだよいきなり!?」

「いいから早くしなさいっ!」

 言ってアテナは自室に荷物を取りに行く。

 続いてネネが、

「アテナさんが絡んできた男性三人組を殴り倒してしまったんです。それで周りにいた人に正体がバレてしまって」

 と優雅に微笑みながら答えた。何がそんなに楽しいんだおまえは。

「各自荷物を持ってシーツーの町へ行くこと。現地集合よっ!」

 騒ぎを引き起こした張本人はそう言い残し風のごとく走り去っていった。

 言うまでもなく出遅れたのは俺とマリエルさんだった。


 一緒に町を出たはずが振り向いたらマリエルさんはいなくなっていた。

 大丈夫だろうか。俺はいつのまにか保護者の気分になっている。

 一応あれでも戦士なんだから大丈夫だよな、と自分に言い聞かせると俺はシーツーの町へ一人向かった。

 人がいないことを確認して浮遊魔法で空を飛び、一時間ほどでシーツーの町に到着した俺を待っていたのは意外にもネネだった。

「おまえ一人か?」

「ええ、そのようです」

 てっきりアテナの方がネネより早いと思ったが。

 それにしても、

「おまえどうやって来たんだ? すげえ早くないか」

 そうなのだ。俺は空を飛んで来たから正直一番だと思っていた。

「ああ汽車ですよ。窓から見た羊たちの群れは壮観でしたね」

 ネネは帽子をくいっと上げると切れ長の目をあらわにした。

「お二人はまだのようですし、先に宿をとっておきましょうか」

 と手を前に出す。

 俺に先に行けってことか? さわやかな笑顔が逆に腹立つ。

 こいつは何考えてるかよくわからんからアテナより扱いづらいんだよなあ。

 

 シーツーの町は前の旅でも来たことがあるのでネネはまた帽子を深く被りなおした。

 変装なんて言ってもメガネをかけたり帽子を被ったり普段の恰好からイメージチェンジした程度だからすぐ気付かれると思っていたがそんなことはなかった。

 ネネ曰く、

「こちらがボロを出さない限り大丈夫ですよ。人は案外他人には無関心なんですよ、あなたと違ってね」

 だそうだ。

 ここはビーガンの町より治安もよく物価も安い。

 しばらくはここに身を置くことになるかもしれないな。

 少し歩いて宿屋を見つけると部屋に案内してもらった。

 部屋は俺が一部屋、アテナが一部屋、マリエルさんとネネで一部屋の計三部屋をいつも借りている。

 ネネは俺の部屋でちゃっかりくつろいでいる。

 ここでちょっと気になりネネに話しかけた。

「なあネネ、おまえ金持ってるよな?」

「え、ボクは持っていませんが、アテナさんに全て預けてしまったので。そういうあなたは?」

「俺はもうほとんどないぞ。さっきの宿屋だって俺が払ったんだからな」

 宿屋での金の支払いはその宿屋による。

 チェックインの時かチェックアウトの時か気まぐれで夕食時というパターンもある。

「となるとまずいですね。お二人が早くこちらに到着しないとボクたちは追い出されてしまいますよ。最悪前科が付く可能性も」

 ネネはにこやかに話す。だからなんで笑ってられるんだ。

「手っ取り早いのは町の外で魔物を何匹か狩ることですね。このあたりなら凶暴な一つ目サイの角なんか高く買い取ってもらえますよきっと」

 涼しげな笑みを絶やさないネネ。

「……」

「もしかして俺に行けって言ってるのか?」

「だってどちらかはここに残らないとアテナさんたちと入れ違いになってしまいますよ」

「じゃあ俺が残ってもいいわけだよな」

「いいですけど、いつ宿屋の主人が来るかわからないですけれどそれでもいいですか」

 それはよくない。

「……わかったよ。俺が行きゃいいんだろ」

「ふふ、いってらっしゃい」

 どうせ最初からこいつはそうさせるつもりだったに違いないんだ。

 俺はこっそり宿屋を抜け出すと町の外に出た。

 魔物は、けものみちに多く出るから……あのへんだな。

 俺は道を外れて山の方に入っていった。

 するとさっそく二匹の一つ目サイに出くわした。

 一頭の一つ目サイは俺に気付くとよだれをだらだらまき散らしながらこっちめがけて突進してきた。

 俺はひらりとジャンプしてかわすと手に風を集めそれを凝縮して刃のようにして飛ばした。

 一つ目サイの角に命中しスパッと切れた。

 手負いの一つ目サイは山奥へと逃げていく。

 もう一頭の一つ目サイがおたけびをあげた。

 耳をつんざくような高音に鼓膜が破れそうになる。

 俺は一瞬で背後に回り込み太い首に手刀をくらわせた。

 足から崩れるようにして倒れる一つ目サイ。

 俺はその角を風の刃で切り落とした。

「あー! ゼット。なんであんたわたしより早いのよ!」

 ふもとから声がする。

 見るとちょうど馬車から降りようとしているアテナと目が合った。

「アテナ」

 さらに、

「ゼットく~ん!」

 マリエルさんの声も聞こえてきた。

 一台の馬車が止まる。

 俺は角を持って二人の方へ近付いていった。

 馬車から降りてきたのはやはりマリエルさんだった。

「マリエルちゃんも馬車に乗ってきたのね。お金持ってたっけ?」

「いいえ。歩いていたところを拾ってもらったんです~」

 と相乗りさせてもらっていた老紳士に手を振る。いや相乗りと言うよりヒッチハイクに近いのかな。

「あの、マリエルさんは危なっかしいからそういうことはやめた方がいいと思いますよ」

「え~ひどいです、ゼットくん」

 ポカポカと俺の胸を叩いてくるマリエルさん。

 魔法で身体強化をしている俺でもちょっと痛い。伊達に戦士じゃないな。

 んん? そういやネネは汽車に乗ったって言ってたよな。

 だったらあいつ金持ってんじゃねえか! 


「いやぁすみません、ボクお金持ってました。ついうっかりしてまして……」

 涼やかに謝るネネ。

 絶対うそだ。いつかこいつの化けの皮を剥いでやる。

 俺は袋から一つ目サイの角を出しテーブルの上に置くと、

「ほら一つ目サイの角だ。おまえが換金に行ってこい」

「わかりました。行ってきますね」

 ネネは素直に従い角を持って俺の部屋を出ていった。

「ゼット、あんた空飛ぶなんて反則よ、自力で来なさいよ」

 俺のベッドの上であぐらをかくアテナ。

 スカートでその座り方はやめろ。

「それを言うなら全員自力じゃないだろうが」

「えへへ~、ふかふかです~」

 マリエルさんは俺のベッドにうつ伏せに寝ころび足をバタつかせている。

「つうかなんで俺の部屋に集まってるんだよ」

「作戦会議を開くために決まってるじゃないっ」

 アテナはバサッと紙を広げた。

 なにやら書きこんである。

 え~なになに……装備品の売値金貨五十枚、洋服一式金貨二十枚、ビーガンの町宿屋一部屋銀貨五枚……。

 家計簿の出来損ないみたいなものがそこにはあった。

「わたしたちの手持ちは今金貨十五枚よ、十五枚。わかる? ここの宿屋が一泊金貨一枚だから、三部屋で三枚でしょ。五日泊まったらわたしたち一文無しよっ」

 アテナは口をとがらせる。

 一応リーダーらしいことも考えていたようだった。

「アテナさん、この町で働くっていうのはどうですか? パン屋さんとかお花屋さんとかやってみたいです~」

「わたしは働きたくないわ! 勇者が働いたら負けなのよ!」

 どっかのニートが言いそうなことをのたまう勇者。

「アテナさんの言う通りです」

 ネネがいつの間にか部屋に戻ってきていた。もう換金してきたのか。

「一つ目サイの角二つで金貨三枚になりましたよ。ゼットさん」

 金貨を俺に差し出すネネ。それをふんだくるアテナ。おい。

「ここからはわたしがお金を管理するわ。みんな有り金全部出しなさい!」

 おまえは山賊か。およそ勇者の発言とは思えない。

「……えーと、全部で金貨十八枚と銀貨十二枚ね」

「厳しいわね」と一言。

 アテナは、

「明日からマリエルちゃんはパン屋さんで働きなさい。わたしはこの町のギルドで依頼を見つけてくるわ。ネネはこの町の情報収集ね。ゼットは凶暴な魔物でも狩ってなさい」

 全員に仕事を割り振る。

 おまえが一番楽そうだな。

「夕食を食べたら明日のために今日はすぐ寝るわよ、いいわねみんなっ」

 わかったからとりあえずみんな俺の部屋から出てってくれ。


「ゼット起きなさいっ!」

 俺のベッドの横で腰に手を置き立っているアテナ。

「……おう、おはよう」

「おはようじゃないわよ。今何時だと思ってるの十時よ、十時」

「ふあ~あ」

 あくびをする俺をよそに布団をひっぺがしていくアテナ。俺にプライバシーはないのか。

「マリエルちゃんなんか今頃パン屋さんで大忙しよ、きっと」

「パン屋って昨日の今日だろ、もう働けてるのか?」

「そこはわたしの交渉術でみごとクリアよっ。昨日夕食のあとパン屋さんに行って直接頼みこんだんだからね」

 アテナは伊達メガネをくいっと上にあげ、小さな胸を張った。

 パン屋の主人も気の毒に。

 きっとパン屋の朝は早いから寝ているところを起こされてワーワーまくしたてられたのだろう。

 困惑する姿が目に浮かぶ。

「ネネだって今さっき出かけたわ。わたしもこれからギルドに行くからあんたもさっさと着替えて魔物退治に行きなさいよねっ」

 バタンと勢いよくドアを閉めてアテナは出ていった。

 台風みたいな奴だ。

 でも今の今まで起こさずに寝させておいてくれたのはあいつなりの優しさなのかな、なんて思っていると――

「あんたの分の朝食ないからねっ!」

 再度ドアが開きアテナが顔を覗かせそして去っていった。

 

「……魔物か~」

 町の外へと続く大通りを歩きながら一人つぶやいた。

 魔王を倒した際、多くの魔物は山奥などに隠れ住み人間社会と一定の距離を保つようになった。

 中には好戦的で人間を襲ってくる魔物もまだいるがそういう奴らは稀である。

 そう言う意味では昨日の一つ目サイは後者だった。

「争う気のない魔物を退治するのはちょっとなあ……ん?」

 足取りを重くしていると目つきの鋭い女の子が俺の前に立ちふさがった。

「……」

 何も喋ろうとしない。ただ俺をじいっと見ている。

「……」

 子どもの扱いは苦手なんだけどなあ。元来のコミュ障が顔を出す。

 俺は出来るだけ優しく話しかけてみた。

「……あのお嬢ちゃん、お兄さんに何か用かな?」

「賢者?」

 へ?

「あなた魔王を倒した勇者パーティーの賢者?」

 女の子は俺を指差すと眉一つ動かさずに言った。

 ……ちょっと嬉しい。

 俺のことを知ってくれている……って喜んでる場合じゃないな。

 こんな小さい子に速攻バレたぞ。

 たしかに俺は変装らしい変装はしていないがここまで気付かれることなどなかった。

 それは俺の存在感のなさがなせる業だった。

 もちろんほかの三人の個性が強すぎるせいでもあるが。

「魔王が復活したってほんと?」

「さ、さあお兄さんもよくわからないんだよ。どうなのかなあ」

「魔王って強かった?」

「まあ、そりゃあ魔王だからね」

「勇者はどこ? 戦士は? 吟遊詩人は?」

 質問が止まらない。

 まずいなこの状況。

 小さい女の子と話し込む前髪長めの男。はたから見たら俺が不審者みたいに見られないか?

 横目でちらっと確認すると通行人が何人か足を止めこっちを見ている。

「あのさ、お兄さんそろそろ行くから、じゃあね」

 そう言い残し俺はその場を早足で立ち去った。

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