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第15話

「……ット! ゼット起きて! ゼットってば、起きなさいっ!」

 けたたましい声と振動で俺は覚醒した。

 目を開けるとTシャツとホットパンツというラフな恰好のアテナが馬乗りになって俺を揺さぶっていた。

「……こら、やめろ、ったくずいぶん乱暴な起こし方だな。つーか今何時だ?」

「そんなのどうでもいいからついてきてっ!」

 腕が引っこ抜けそうになるほど俺の腕を強く引っ張って二階へと上がっていくアテナ。

 俺は目をこすりながらされるがままについていく。

 途中、廊下に掛けてあった時計を見るとまだ朝の五時だった。

 アテナの部屋を通り越しマリエルさんの部屋に入る。

 マリエルさんの部屋には沢山のぬいぐるみがあってベッドは天蓋付きというまるでお姫様が住むような部屋だった。

 マリエルさんぽい部屋だな~と思っていると、

「ぼけーっとしてないでこっち来てっ!」

 アテナの怒号が飛ぶ。

 朝っぱらからテンションMAXになれるとはある意味すごい、羨ましくはないがな。

 俺はアテナの言うままマリエルさんのベッドに近付く。

 そこには毛布がはだけてパジャマ姿ですやすや寝ているマリエルさんがいた。

 朝から目の保養になる。

「マリエルさんの寝顔がどうかしたのか? ……っていうかパン屋の仕事って今日もあったよな、まだ寝てていいのか?」

「よくないわよっ。でもマリエルちゃんが何をやっても起きないのっ」

「起きないって疲れがたまってるんじゃないのか。今日くらい休――」

「ほら、こんなことしても起きないのよっ」

 と言いながらアテナはマリエルさんの豊満な胸を鷲掴みにする。

「おい、こら、バカやめろっ」

 アテナは俺の言うことを聞いたのかマリエルさんの胸から手を放すと「今度はこっちっ」と部屋を出ていった。

 一体なんなんだ。

 仕方なくついていくとアテナはネネの部屋に入っていって寝ているネネから毛布をはぎ取った。

 ネネの寝姿があらわになる。

 俺はこれまでそんな機会がなかったからわからないがネネはおそらくネグリジェというものを着ていた。

「おいっ、アテナ何してるんだよさっきから」

 アテナはネネの顔に指を押し当てぐりぐりしながら、

「ほら、ネネも何しても起きないのよ、変でしょ絶対」

 身を乗り出して訊いてくる。

 たしかにマリエルさんはともかく周囲の気配に人一倍敏感なネネがこんなことをされて起きないはずがない。

 まるで死んでいるみたいだ。

「っ!?」

 不吉な考えが一瞬頭をよぎり俺はネネの首に手を置いた。

 生身の人間の温かさと脈を感じ俺は胸をなでおろす。

「死んではいないわよ。わたしも確認したから」

 アテナはどうやら同じ考えにすでに至っていたようだった。

「だから余計にわからないのよ。それになんでわたしとゼットは平気なわけ?」

「やっぱりこの家に原因があるんじゃないのか。不動産屋は何も言ってなかったのか?」

「格安でお買い得ですよって言ってたわ」

 うさんくさいな。

「とにかく俺はこの家に何か問題があると思う。金貨五枚なんてどう考えたっておかしいんだから」

「わかったわ。だったら今から不動産屋に行ってみましょ」

「今から? まだ朝五時だぞ」

「関係ないわっ。もしわたしにいかがわしいものを売りつけたんだとしたらただじゃおかないんだからっ」

 言うが早いかアテナは部屋を飛び出していく。

 俺も行かなきゃいけないんだよな、やっぱり。

「ゼット、早く来なさいっ!」

 俺はアテナに急かされ不動産屋についていった。

 

「な、なんですかこんな時間に……」

 アテナは不動産屋に着くと閉まっていたシャッターをガンガン叩き鳴らし大声で「出てきなさい、この詐欺師!」と怒鳴り散らした。

 オーナーが出てくるまでそれを五分ほど繰り返し出てくるやいなやオーナーの胸ぐらを掴んで、

「なんですかじゃないわよっ! わたしに変な家売りつけたでしょ! 正直に白状しなさいっ!」

 と言葉を浴びせた。

「え、いや、その、あの……」

 わかりやすく動揺する不動産屋のオーナー。

「少しでもごまかしたり嘘ついたら針千本飲ますからねっ!」

 アテナはどこから持ってきたのか一本の針をオーナーの眼前に突き出す。

 早朝からアテナに叩き起こされる気持ちは痛いほどわかるが今回ばかりは同情する気にはなれないぞ、オーナー。

 正直にゲロっちまえ。

「……す、すみませんでした! じ、実はあなたに売ったあの家は……呪われた家なんです!」


 不動産屋のオーナーの話ではアテナが買った家は不動産業界では有名な事故物件で界隈では呪いの家と呼ばれているのだそうだ。

 あの家で寝ると目覚めなくなるという呪いがかかっているらしい。

「なんてもの売りつけてくれたのよっ!」

「うっぐぐ、く、苦しい……」

 胸ぐらを掴む手に力が入る。

「わたしの仲間が眠ったっきりなのよ、どうすればいいの、答えなさいっ!」

「い、家から出せばす、すぐに目覚めますっ」

「ホントでしょうね、嘘だったら承知しないからね!」

 言うとアテナは手を放してオーナーを解放した。

「ゼット、一旦家に帰りましょ」

 俺を見てそれからオーナーの方を見るアテナ。

「目覚めなかったらまた来るからっ!」

 俺たちはオーナーの悲鳴を背に不動産屋をあとにした。

 

「わたしはマリエルちゃんを運び出すからゼットはネネをよろしくね」

 家に戻った俺とアテナはそれぞれネネとマリエルさんを目覚めさせるため家の外に運び出すことにした。

 アテナがマリエルさんをおぶって一階へと下りていく。

 俺はほとんど下着のような恰好のネネにシーツを巻いて抱きかかえるとそのまま階段を下り庭に出た。

「何よ、全然起きないじゃない」

 マリエルさんをおぶったままのアテナが愚痴る。

 すると、

「……ふぇ、あれえ? アテナさん? なんれわたしアテナさんにおんぶされてるんれすか~?」

 マリエルさんが目を覚ました。

 そしてネネも、

「……ん、……ゼットさん、おはようございます……どうやら何かあったようですね」

 俺に抱きかかえられたまま俺と目が合った。

 ネグリジェ姿なのはまったく気にしていないようだ。恥ずかしがるそぶりも見せない。

「もう降ろしてもらって大丈夫ですよ。一人で立てますから」

「……なんだかよくわからないですけど~、わたしも大丈夫ですアテナさん」

 俺とアテナは二人を立たせると事情を説明した。

「なるほど、呪いですか」

「まったく、とんでもないものをつかまされたわ」

「でもでも、なんでアテナさんとゼットくんは平気だったんですかね~」

 それは俺も疑問だった。

 なぜ大丈夫だったのかと。

「それは説明がつくと思いますよ」

 シーツで身をくるんだネネが話す。

「勇者であるアテナさんにはそもそも呪いの類いは効きませんし、ゼットさんは常に魔法で体を強化しているので呪いにも耐性があったと思われます」

「そっかあ、そういえばわたし呪い攻撃効かないもんね」

 たしかにアテナは呪われたアイテムも普通に装備することが出来る特異体質の持ち主だ。

 だからこそ家の呪いも効かなかったのか。

 そして俺は身体強化魔法を寝ているときでもかけたままにしている。

 これは長年の訓練の賜物だがそれによって家の呪いを防げたってわけか。

「じゃあわたしとネネさんはこのおうちで寝たらまた目覚めなくなっちゃうってことですか?」

「ええ、おそらくは」

「もう怒ったわっ。契約解除してくるっ!」

「ちょっと待ってください」

 今にも駆け出していきそうなアテナを止めたのはネネだった。

 ネネは続けて、

「ボクはこの家を気に入っています。それはみなさんも同じ気持ちだと思います。だからこの呪いに打ち勝つ方法を考えませんか?」

「わ、わたしもこの家好きです。昨日もすごく楽しかったです。だから……」

「うーん、二人がそう言うならねー。でも実際ネネとマリエルちゃんは呪いを防げないし……そうだ! ゼット、あんたネネとマリエルちゃんにも身体強化魔法かけてあげなさいよっ」

「無茶言うなよ。寝ながら離れたところにいる二人に一晩中魔法をかけ続けろっていうのか、それも毎晩。俺が永遠に目覚めなくなるぞ」

「何よ使えないわねー」

 俺の魔力は無尽蔵ってわけじゃない。

 身体強化魔法を自分にずっとかけ続けているだけでもだいぶ魔力は消費してるしそもそもそれ自体もっと褒められてもいい芸当なんだ。

「毎朝アテナさんとゼットくんに外まで連れ出してもらうっていうのは……ダメ、ですよね~」

「ボクに一つだけ考えがあります。一年前の旅の途中で呪いを防ぐレアアイテムをみかけたことがあります。おそらくそれがあればボクもマリエルさんも呪いの効果を受けずに済むのではないかと」

「……それってもしかしてレジーナおばさんのこと言ってる?」

 アテナが嫌な顔をしながら訊いた。

「はい、彼女です」

 アテナが言うレジーナおばさんとはレアアイテム収集家で前回の旅では必要なアイテムを貸してもらうのに無理難題を突き付けられて困らされた記憶がある。

「あの人かー、できれば会いたくないんだけどネネとマリエルちゃんのためなら仕方ないわね」

「ではまた移動はゼットさんにお願いするとして」

「そうね」

 ネネとアテナが俺を見る。

 俺の転移魔法が目当てなんだろ。

「わ~、またレジーナさんに会えるんですね~」

「マリエルさん、つかぬことを伺いますがパン屋はいいのですか?」

「えっ、パン屋? ……」

 ネネが時計を指差しマリエルさんが時計を見て固まる。

 マリエルさんの血の気がサーっと引いていくのがわかる。

「ど、どうしましょう!? わたしパン屋さんに遅刻しちゃってます!」

「マリエルちゃんは今からパン屋に行きなさい。レジーナおばさんのところにはわたしたちで行くからいいわっ」

「ほんとですかっ!? みなさんごめんなさい、わたし着替えてきます~!」

 そう言うとマリエルさんは慌ただしく家の中に入っていった。


 朝食も取らずに出ていくマリエルさんを見送った俺たちは早めの朝食のあとレジーナさんのいるワイノの町に行く準備を整えた。

 前の旅でワイノの町には訪れたことがあるので俺の転移魔法で瞬時に移動できる。

「まだ早いですかね」

 ネネが時計を見ながら言う。

 時刻は朝の七時。

 レジーナさんはレアアイテム収集家でありながらそれらを販売や貸し出しもする店を経営している。

「年寄りは早起きだっていうから大丈夫じゃない?」

 年寄りと形容するほどレジーナさんは年を取ってはいないと思うが仮に起きていたとしても店はまだ開いていないだろう。

「少し仮眠をとりたいところですが、ボクは眠ってしまうとまたお二人に迷惑をかけてしまうので」

「別にいいわよ、わたしもまだ眠いし。ねえゼット、わたしたちちょっと寝たいんだけど適当な時間に起こしてくれる?」

 アテナが振り返り俺を見る。

 アテナの目は早く起きたせいか充血していた。

 そういえば今日誰よりも早く起きたのはアテナだったな。

「ああ、かまわないが」

「いいのですか、ゼットさん」

「好きにしてくれ」

 俺もいつもより何時間も早く叩き起こされ正直眠いのだがここは譲ってやろう。

 アテナとネネが仮眠をとる間ただ無為に時間を潰すのももったいないので俺は魔法の特訓がてら近くの林で食材をとることにした。

 浮遊魔法で高いところになっている木の実や果物を採集したり、生物探知魔法の感度を上げて川の中にいる魚にも反応するように調節し捕縛魔法で絡めとったりした。

 ある程度集めたところで、

「これくらいでいいだろ、そろそろ二人を起こすか」

 俺はとった食材に浮遊魔法をかけ空中に浮かばせながら家の中に運び入れる。

 と、二人は自分の部屋ではなくリビングで仮眠をとっていた。

「おいアテナ起きろ!」

「ううーん」

 アテナが反応する。

 俺はアテナはとりあえずそのままにしてネネを外へ連れ出した。

 すると、

「……んん、……あ、起こしていただいて、ありがとうございます」

 ネネが目覚めた。

「ふあ~。よく寝たわ」

 アテナも伸びをしながら家から出てくる。

「ゼット、今何時?」

「九時をまわったところだ」

「それならさすがにレジーナおばさんも起きてるわね。じゃあそろそろ行く?」

「そうしましょう」

「あ、ちょっと待てアテナ。おまえレジーナさんのことおばさんて言うなよ、あの人機嫌が悪くなると面倒だからな。わかったか?」

「わかったわよっ」

 二人は俺に近付いてくると俺の手を握った。

 俺は目を閉じワイノの町を思い浮かべる。

「行くぞ」

 俺は転移魔法を発動した。

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