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第10話

「えー、なかなか歓声が鳴りやみませんが第二試合に行きたいと思います。第二試合アンジェリーナさん対アテナさ――」

「ちょっと審判! あいつ武器持ってるけどいいの?」

 とアテナが割って入る。

 たしかにアンジェリーナはムチを手にしているが。

「はい。今大会は武器の使用は認められておりますのでルール上問題ありません」

「なによそれっ、だったらわたしだって持ってきたのに」

「あなただってお似合いのメガネつけてるじゃないの。ホッホッホッ」

 アンジェリーナが声を発した。

 軍人のような姿には似つかわしくない笑い方だった。

「あんたバカにしてんの?」

「それはこっちのセリフよ! 何が秒殺よ、聞こえてたんだからねクソガキ!」

「おばさんは休んでた方がいいわよ」

 収拾がつかなくなってきたところをなんとかなだめようとムッソリーニ審判が間に入っていく。

「まあまあお二人とも、勝敗は試合でつけましょうね。ではまいりますよっ、いいですか」

 二人が間合いを取る。

「第二試合始めっ!」

 かけ声と同時に先に仕掛けたのはアンジェリーナだった。

 ムチがアテナの顔面めがけて急襲する。

 バチィ!

 アテナの顔面に当たったかと思われたムチはすんでのところでアテナに掴まれていた。

「なっ!? うそでしょ!?」

「せーのっ」

 アテナは掴んだムチを思いっきり引っ張ると向かって来たアンジェリーナの顔面に合わせて足を前に出した。

「ぶふっ……!」

 前蹴りをくらった形になったアンジェリーナはそのまま床に倒れこんだ。

「九秒もかかっちゃったわ」

「勝者アテナさん!」

「「「おおーっ!」」」と観客が湧く。

 アテナは観客に手を振ると控え室前に戻ってきた。

「やるなあんた」

 ギギトが話しかける。

「当たり前でしょ。だって勇者――」

「おい、アテナ!」

「あ~~、そうね、わかってるわよ大丈夫」

 と俺の肩を叩くアテナ。

 いや今絶対勇者だって言おうとしてただろ。

 ギギトが「どした?」と聞いてくるが、

「ほら次はおまえの番だろ」

 とごまかした。

「おお、そうだった。いってくるぜ!」

 そう言うとギギトは高くジャンプして前回りしながら試合会場へ降り立った。

 会場が盛り上がる。

 そのあとをシスター姿のマリーがゆっくり歩いていく。

「それでは第三試合、始めっ!」

「オレは女をいたぶる趣味はねえから、場外負けにしてやるよっ」

 ギギトが高速でマリーに向かっていった。

 が、何か見えない壁にぶつかったようにはじき返されてしまった。

「いってえな、なんなんだこりゃ?」

 ギギトはパントマイムをしているかのような動きをし始めた。

 マリーは両手を前に突き出しながら、

「これは聖なるバリアです。なんぴとも立ち入ることはかないません」

 と天使のような声で説明した。

 よく見るとうっすらと黄色い光の壁のようなものがマリーを覆っている。

「なんだこんなもん、おらおらっ!」

 高速でパンチを繰り出すギギトだがバリアに阻まれ攻撃が当たらない。

 背後に移動して攻撃するもバリアはマリーを囲むように全体を覆っているためびくともしない。

「くそっ、でも守ってばかりじゃ勝てないぜっ」

「そうでしょうか」

 そう言うとマリーは前に突き出した両手を左右に広げた。

 するとバリアも広がっていく。

「ぐっ!?」

 広がるバリアに押し出されていくギギト。

「ぐああっ、くそったれっ!」

 舞台全体をバリアが覆ってギギトは場外にはじき出された。

「勝者マリーさん!」

 場外に下りていたムッソリーニ審判がアナウンスする。

「ああーくそっ、負けたぁー!」

 ギギトは悔しがるがすぐに清々しい表情になって、

「上には上がいるんだな、負けたぜ」

 とマリーに手を差し出した。

「いえ、今回はたまたまルールに救われたにすぎません」

「へっそうかい、おーいゼットわりぃ、負けちまったぁ。つーことでオレはもうここに用はねえから帰るわ。またな!」

 ギギトは観客席に飛び込むとそのまま走り去ってしまった。騒がしい奴だ。

「ゼットの知り合いってやっぱり変わってるわね」

「……ああ、まったくだ。ごほっ」

「続いて第四試合を始めたいと思います。ブラッドさんとゼットさんは舞台に上がってください」

 アナウンスがこだまする。

 するとブラッドが「お先に~」と俺の横を通り過ぎていった。

「あんなチャラい奴に負けるんじゃないわよっ」

「ごほっ、ああ、頑張ってみるさ」

 会場に立つと観客の熱気に包まれているのがわかる。

 すごい歓声だな。

 ほとんどの観客は俺ではなく優勝候補ナンバー二のブラッドを見ている。

 と、観客の中にネネをみつけた。

 こっちを見て相変わらずすました顔で微笑んでいる。

[頑張ってください]

 大きな歓声で声は聞こえなかったが口の動きでわかった。

 ふん、まったく楽しやがって。

「第四試合始めっ!」

 開始の合図があっても動こうとしないブラッド。

「あんたゼットって言ったっけ、運ないね~。具合悪そうな上に相手がオレなんてね。まあ負けても言い訳出来るからよかったじゃん。オレはゲイザーと違って優しいからさ手加減してやるよ~」

「……ごほっ、そう言ってもらえると助かるよ……」

 するといきなりブラッドは背中から二本の短剣を取り出しその内の一本を投げつけてきた。

「死なない程度にねっ」

「ぐあっ!?」

 血が吹き出た。

 観客から悲鳴が上がると同時に疑問の声が聞こえてくる。

「どうなってんだ?」

「一体何が起こったんだ?」

 ブラッドの胸から短剣を伝って血がしたたり落ちる。

「な、なん……で?」

 ドサッとブラッドは仰向けに倒れた。

 俺はとっさに時間停止魔法を使って、止まった時の中を移動し、短剣の向きを百八十度替えたのだ。

「……はあっ、はあっ……ごほっ、卑怯だとか言わないでくれよ……」

「し、勝者ゼットさん!」

 勝利のアナウンスが耳に入ったところで俺は気を失った。


「……さん、ゼットさん気が付きましたか?」

 ネネの顔が近くにあった。

 俺はベッドに寝かされている。

 そして額には濡れタオルが。

「ここは試合会場の脇にある医務室です。ゼットさんすごい高熱で倒れたんですよ。すみませんでした、まさかここまでひどい風邪だったとは知らずに」

 よく見るとネネの横には仏頂面をしたアテナの姿もあった。

 あのヘンテコな鼻メガネはつけていない。

「……そうだ、試合! ごほっ、試合はどうなった?」

「あなたはブラッドさんに勝ちましたよ。ちなみにブラッドさんも無事です、あのあとすぐ病院に運ばれて行きましたが。ゲイザーさんとアテナさんの試合はついさっき終わったところなんですが……アテナさんが負けました」

「ふん、メガネが壊れて正体がバレそうになったから仕方なく棄権しただけよ! あのままやってればわたしが勝ってたわ!」

「……じゃあ俺は不戦敗か?」

 本来ならマリーってシスターと試合のはずだったが。

「いえ、アテナさんが派手に闘ってくれたおかげで今は試合会場の舞台の整備中です。ですがこの熱ではやはり棄権した方がよろしいかと」

 俺の額をさわり棄権を薦めるネネ。

 いつになく本気で心配してくれているようだ。

 アテナはそっぽを向いて俺と目を合わせようともしない。

 多分棄権したことが相当悔しかったのだろう。

「……出るよ。負担の大きい魔法はごほっ、使わないから大丈夫だ……」

「ですが――」

「出るからには勝ちなさいよねっ!」

 明後日の方向を向いたまま檄を飛ばすアテナ。

 そこにタイミングよくアナウンスが流れてきた。

「みなさん長らくお待たせ致しました、次の試合を始めたいと思います! マリーさんとゼットさんは舞台に上がってきてください!」

「……行ってくる」

 舞台上にはマリーがすでにスタンバイしていた。

「それでは準決勝第二試合始めっ!」

 マリーはかけ声と同時にギギトに使った手法でバリアを広げてきた。

 俺はなんとか耐えようとこらえるがぐぐぐっと外側に押し出されていく。

 シンプルだからこそ弱点がない、いい技だ。

 ん? さっきよりバリアの当たりが弱くなった気がする。

「……そうか!」

 バリアの範囲を広げているせいで壁が薄くなっているんだ。

 これなら――

「さあもう少しで場外です」

 マリーの言う通りギリギリまで追い詰められている。

 が、だからこそ一番バリアが脆くなっているはず。

 俺は右手に魔力を集中させて渾身の一撃をバリアにぶつけた。

 バアァァーン!!

 バリアが砕け霧散した。

「そんな!?」

「……ごほっ、まだやるか?」

「……いえ、棄権致します」

「勝者ゼットさん!」

 アナウンスが流れると「「「うおおーっ!!」」」と歓声が沸き上がる。

 次はいよいよ決勝戦だ。

 観客のボルテージも最高潮に上がっている。

「このままの勢いで決勝戦を始めたいと思います! ゲイザーさん舞台にお上がりください!」

 ゲイザーが舞台に上がってくる。

 改めてゲイザーと相対するとひりひりとした気迫を感じる。

 見るとアテナがやったのか顔に傷がついていた。

 ふっ、アテナの奴。

「それではいよいよ決勝戦、始めっ!」

 決勝戦の開始の合図とともにゲイザーが攻撃態勢に入った。俺も身構える。

 するとゲイザーがなにやら喋っている。

 ……なんだ独り言か?

 いや魔法だ!

 ゲイザーが詠唱を終えると突風が襲って来た。

「うおっ!」

 ものすごい質量を持った風が押し寄せてくる。

 体ごと宙に舞いあげられそうになるが踏ん張って耐えた。

「こらえたか」

 こいつ、でかい図体のくせに魔法使いかよ。

 ゲイザーは風魔法の使い手のようだ。

 なおもゲイザーは攻撃の手を緩めない。

 突風に耐え安堵している俺に向かって正拳突きの構えをとった。

 次はなんだ?

 するとゲイザーは、

「はっ!」

 とその場で拳を繰り出した。

 ?

 何も起こらないじゃないか、と思った瞬間重い空気の塊がぶつかってきた。

 まるでハンマーで殴られたかのような衝撃が体中に伝わる。

 おそらくだがゲイザー自身のパワーと魔法を上手く融合して放ってきている。

 身体強化していてこの衝撃なのだから生身ならひとたまりもないだろうな。

「なにまともにくらってんのバカねっ! 避けなさいよっ!」

 アテナが会場脇から檄を飛ばしてくる。

 見えない弾をどうやって避けろというんだ。

「ふっ、頼もしい仲間だな。おまえより彼女の方が手強かったぞ」

「……そうかい、ごほっ。あいつは特別だからな……」

「いくぞっ!」

 ゲイザーは「はっ!」「はっ!」「はっ!」と空気の塊を連続で飛ばしてきた。

 俺はガードを固めながら左右に避けるが見えない遠距離攻撃に苦戦する。

「くっ」

 時間停止魔法が使えれば窮地を脱することが出来るのだが今使ったら間違いなく気を失うだろうな。

 ああ、頭がくらくらしてきたぞ。

 思ったより風邪が悪化しているようだ。

 はっ!? ゲイザーがいない!

 一瞬目を離した隙にゲイザーは目の前まで迫っていた。

「おれは手加減しないと言ったはずだっ!」

 風を纏った拳を振り下ろしてくる。

「ぶはっ……!」

 腕のガードをこじ開け顔面にもらってしまった。

 床に叩きつけられる。

「おーっとゼットさんダウンです。カウントをとります。ワン、ツー……」

 ムッソリーニ審判の声が聞こえてくる。

 ああ、だるい。このまま寝てしまおうか。

 そう目を閉じかけたときアテナが視界に入った。

 なんだその悲しそうな顔は、らしくないじゃないか。

 まったく。

 絶不調だが俺がやるしかないか。

「セブン、エイト、おーっとゼットさんが立ち上がった! 試合再開です!」

「ふらふらじゃないか。万全の状態でやりあいたかったもんだ」

「……はあっ、ごほっ。それは同感だな、はあっ……」

 ゲイザーが拳に風を集めている。

「次が最後だな」

「……ごほっ、これは人間相手には……はあっ、使ったことがなかったんだが。はあっ、あんたなら大丈夫だろ……」

 俺は手のひらに魔力を集中させ風の刃を作り出す。

「勝負だ!」

 ゲイザーが正拳突きで空気の塊を発射した。

 俺は風の刃をカッターのように飛ばした。

「ぐあっ……!!」

 腹から鮮血が吹き出るゲイザー。よろめいてその場に膝をつく。

「……くっ、ゼットか……覚えておこう……」

 ゲイザーは前のめりに倒れた。

「……はあっ風魔法をごほっ、使えるのは……はあっ、あんただけじゃないってことだ……」

 ムッソリーニ審判は倒れたゲイザーに近付き担架を呼んだ。

 そして、

「ゆ、優勝はゼットさんです!」

 とアナウンスした。

「「「おおお――っ!!」」」と割れんばかりの大歓声が場内を包む。

「よくやったわゼット!」

 アテナが飛び出てきて背中をバシバシと叩く。

 ネネはというと観客と同じように拍手をしていた。

「それではさっそく優勝賞品の超特効薬を贈呈したいと思います!」

 と言うと露出の多い服を着た美女が青い液体の入った瓶を持ってきた。

 俺はそれを受け取る。

 これが超特効薬ってやつか。

「さらに副賞として金貨百枚を差し上げます!」

「百枚ですって?」

 優勝賞金を知らずに参加してたのかアテナは声が裏返っていた。

 しんどい闘いだったがなんとか勝てたな。

 これ以上風邪が悪化する前に早く宿屋に戻って眠りたい気分だ……もちろんベッドでな。


 ディーノの城下町の宿屋で俺は丸二日寝込んだ。

 その間同部屋だったアテナとネネは俺に気を遣ったのかそれとも風邪がうつるのを避けたのか一切顔を見せに来なかったが一人の方が休めるのでちょうどよかった。

 アテナが「早く帰るわよ!」と文句を言ってくることもなかったので俺はゆっくり休養出来た。

 そして格闘大会本選から三日目の朝、俺の体調は完全に回復していた。

 本選当日の夜はしんどすぎていっそ超特効薬を飲んでしまおうかと思ったくらいだったが手を出さなくてよかった。

 これでトゥーネットさんに特別に回してもらった依頼も完遂できるってもんだ。

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