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7話教祖の誕生日


「俺はこの体が誰かわからないんだ」


 しかも、記憶にある体格とは似つかない。身長が伸び髭が生え、髪の毛も伸びきっている。この、マドフの記憶は小さな男の子だ。


「「え...」」


「この体、俺のじゃないし、生まれ変わったみたいなんだ」


「にーさん、それって...」


「あぁ」


 二人は立ち上がり頭を下げた。


「俺たちを救ってください」

「私たちをどうか助けてください」

「「神様」」


 息を忘れるほどに二人はムキになり言葉を連ねた。


「どういうこと? 俺は神でもなんでもない」


 今を自分が持っている意識のマドフも崇められている記憶を持っていない。母や父に愛されているだけの普通の息子である。それがなぜ神になるのか不思議でしょうがない。


「あなた様は生まれ変わったのです」

「1度死んだ人間が生まれ変わる時、それは神になった時なんです」


 前世でも死んだ人間が生き返ることがなく、生き返ったものは神へと…


「いやいや、俺が虚言を言っているかもしれないだろ? そんなこといちいち信じていたら皆が神だ」


 二人が全く人を疑わないのか、この世界では嘘をつくことすらないのではないかとさえ思える。


「確かに嘘をついている可能性は捨てきれません。しかし、あなたは私たちにムー教だと言いました」


 マドフの両親はムー教を信仰していたのは断片的な記憶で残っていた。


「それがなんの関係が?」


「今の時代、ムー教なんて言うやつは殺人に等しいことだ」


「でも、あなた様は堂々とムー教だと仰りました。普通の人なら口が避けても言えないことです。そんなことを言うということは、現在の状況をわかっていないのではありませんか?」


 その話を聞いて急激に冷や汗が止まらなくなった。命の恩人たちに対して自分は腸が煮え繰り返ることをしてしまったのだ。

 でも、何故かマドフにはそんな記憶がないのだ。


「いや、それでも俺が神様とかはありえないから。ただの夢遊病かもしれない」


 前世の記憶を持ちながら今、他人の体で実態があること自体がおかしなことだ。


「それはない、です。私の妹は真実と虚偽がわたるのです」


 風がすーっと自分たちの間を通り抜け水平線へと飛んでいった。


「私は、あなた様が言ったことが、虚偽ではないと確信を持っています。さっき飲んだ水の変化も…」


「だからと言って自分に君たちを助けることなんてできない」


 もし、水に何かしらの変化を生んだとしても人助けをできるほど俺には自身がない。


「今直ぐじゃなくていいです。でも、いつか世界を平和にしてほしい。豊かにしてほしい。人々を苦悩から救ってほしい」


「そんなこといきなり言われても」


「あなた様には力がある。先ほどもおそらく、水が癒しを含み体の苦痛を取り除いた。それは常人にはできない。あなた様にしかできないことです」


「いや、もし、もしだよ? そんな力があったとして俺にどうしろというんだ? ただの平民だった子供の生まれ変わりだよ? 体格が変わっていたとしても、この世界のことをなにも知らないんだ」


 この世界にいてみた人間は両親と目の前の兄弟。海に焚き火に魚に森、砂浜だけだ。そんな自分に一体何が…


「宗教をやろう」


「宗教をやる?」


「はい。今の人々が苦悩しているのは宗教があるからなんです」


「自分たちも宗教をやったら同じなのでは?」


「世界を全て私たちの善となる宗教で覆うのです」


「そんなこと、やって世界が平和になるのかな?」


「なります」


「世界で起きている戦争は全てと言っていいほど宗教が関係しているのです」


 カーキは目を伏せ悲しそうにぽつりぽつりと話し始めた。


「最近あった戦争もそうでした。公には土地や資源の問題と公表されましたが、蓋を開けてみたら分派した宗教同士の争いであり多くの人が亡くなってしまいました。だから、私たち二人は常に思っているのです。世界の宗教を一つにしてしまえば世界は平和になるのではないかと」


「でも、国同士の争いなら宗教が関与しても起こってしまうのでは?」


 宗教が一つになったとしてもトップが信仰していなかったり、野心家なら不可能だ。


「国の後ろにいるのが宗教です。どんな王国の国王だろうと、民主的に選ばれた大統領だろうと、宗教へ入っているのが現実です。俺たちはその根本から変えて一つにしたい。信じる方向性が同じならば、争いなど起こらず幸せになると願っています」


 妙に納得してしまった説明に返す言葉もなく固まってしまった。


「「だから、お願いです。私たちの神となり世界を救ってください」」


 先ほどから何回、頭を下げられただろうか。まだ、前世の自分よりも生きていないだろう二人はこんなにも世界を憂いているのに自分は現実的ではないと頭から突っぱねている。前世でもし、宗教というものがなかったら死んでいなかったのだろうか。もっと豊かに生きていけたのだろうか。借金もせず、家族和気藹々と過ごせたのだろうか。宗教に世界を変える力があるのだろうか…


 もし、世界が平和になるのなら…


「わかったよ。やり方とか方向性は全然わからないけど、やろうか。世界を覆う宗教を」


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