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4話 来るもの拒まず


 悩みを明確化にすると言っても悩みなんか尽きるわけも無く、今この時が一番悩んでいるのではないかとさえ思ってきた。

 考えがまとまり始めた時、頭の中が冴え始め違和感に気づき始めた。自分で調べたムー教のホームページにはこの様な礼拝は書かれていなかった。そして、教祖が変わった事さえ書いて無かった。いや、マナ・アーギは創始者であって教祖ではないのか?下調べが足りないことに悔やみながら結局、悩みを明確化にせず五千円を箱の中に入れた。


 受付の女性には扉の開け方などは指示されなかったのでゆっくりと音を立てず細長いドアのノブにてをおいた。

 ファンタジー世界の様な扉が軋む音はせずするっと力無く開き中から光が漏れる。


 大きなピアノの音。横長の椅子が何脚も並びみっちりと人が座っていた。人間が存在を否定しているような静寂はこの空間に入るだけで体を硬直させた。


「初めてですか?」


 受付の女性とは違い今度はスーツを着た男性が小さな声で声をかけたきた。


「は、はい。すみません、タイミングが悪くて」


 誰も立ち歩かない空間に異物が入り込むなどこの人達にとっては相当、苦痛だろうと思っていたのだが、男性はにこやかに席へ案内してくれた。


「もう直ぐ、お言葉があります。その後、表彰などがありますので是非ご覧になって行ってください」


 促されるまま椅子に座り舞台にいるピアニストに目を向けた。素人目でも凄い人なのだろうと分かるが、実際に見たことはなかった。だが、椅子に座る人達には一部見覚えがある。


 最近結婚を発表した女優。

 世界で活躍するスポーツ選手。

 人気な漫才師。

 テレビで見ない日はないアナウンサー。

 ファンの多いアイドル。

 日本を仕切る大物政治家。


 多種多様な有名人たちがチラホラといる為、座る人全てが何かしら権力を持っているのではないかと思った。そして、今自分はとても場違いな場所にいる。


 しばらくしてピアノの演奏が終わると皆が立ち上がり目を閉じていた。それに倣い目を閉じ何かが始まるのを待った。


「さぁ、目を開けて」


 誰かに促されるまま目を開けると舞台にはマナ・アーギと似た人がいた。多分、エネス・アーギだろう。


「最近、私の周りも大変で集会に出れなくてごめんなさい。でも、もう大丈夫だから、今後は沢山皆さんの悩みを聞けるよ」


 どこか子供っぽい喋り方に違和感を覚えながら、話は続けられた。現状の世界の話。未来の話。突拍子もない話が続いたが皆が、教師の話を聞く様に真剣な聞いていた。

 でも、自分はそんな領域には入れない。明らかにエネス・アーギはマナ・アーギより魅力があると思えない。あの、写真に引き込まれる感じがないのだ。


「さぁ、では表彰をしよう。佐藤太郎さん前へ」


 呼ばれたのは大物政治家だった。防衛大臣から最近では幹事長。将来の総理とも呼び声が高い政治家だった。呼ばれた佐藤は壇上に上がり教祖の前へと立ち、一礼した。


「世のため人のため素晴らしい働きぶりです。講演会も多く出席してくださり、たくさんのお話をされました。ありがとう」


 2回りいや、3回りくらい歳の離れた青年と握手をした佐藤太郎は涙ぐみ壇上を降りた。そんな光景を見ても、この教祖への魅力が分からなかった。


 大きな拍手と共に表彰は終わり皆が壇上の左右にある階段へ向け歩き始めた。

 それと同時に席へ案内してくれた男性が自分へ近寄り小さく次の行動を伝えてくれた。


「今からはエネス様による相談祓いです。初めての方は会員じゃなくても受けられますので是非、エネス様とお話を」


 促されるまま皆が並ぶ最後尾に足を向けその時を待った。


 相談祓いと言うものが終わった人は涙を流しながら中央の蒼カーペットを歩き聖堂を出て行った。


「君は初めての人だね」


「はい。湯門亜樹斗と言います」


「湯門…お父さんとお母さんは今日はいらっしゃらない?」


「はい。つい先日亡くなってしまいました...」


「そうか...それは残念だ」


「はい…」


「それで、君は何故ここに?」


「実は、家からムー教の物が見つかり気になって此処へ来たんです」


「それはそれは、ありがとう。どんなことが気になったんだい?」


「えっと、マナ・アーギ様と言う方が気になりまして...」


 露骨に嫌な顔をするエネス・アーギに人権を奪われたと感じた。その最たる理由は壇上に残っている信者達の悍ましい目線だった。


「教祖マナは亡くなり、今は私が教祖として此処にいます。どうか、それだけはお忘れなくそして、今日は帰っていただきたい」


 もはや、意味がわからなかった。

 来るもの拒まずの門から一転、教祖様はある意味職を放棄した。


「不愉快にさせてしまい。申し訳ございません。失礼致します」


 この場のトップに言われたなら仕方がない。問題を起こしたくもない為、そそくさと教会を抜け駅を目指した。


 電車の待ち時間、列の先頭をとりSNSや、まとめサイトなどでマイナスな情報をかき集めると両親に怒りが湧いてきた。


 有名な政治家、佐藤太郎はムー教による組織票があり、政界に居続けている。また、宗教に大きな利益が生まれる法整備を進めていた。

 最近結婚を発表した有名女優の子供は旦那の子供ではない。それでは一体彼女のお腹の子は...

 数多くの受賞歴がある作家は意識の刷り込み。

 ドームを埋め尽くすアーティストは思想を広める為の曲を歌う。


 全て、本当かはわからない。でも、嘘ではない気もした。そんなことを考えポケットにスマホをしまうと。


 パーンっと音が鳴り強い光に視界が奪われた。


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