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3話 5つの悩み


 全く分からない宗教の祭壇を眺め続けると陽が傾きいつの間にか部屋が真っ暗な暗闇になっていた。


「マナ・アーギ」


 ぽつりと呟いた名前に何か意味があったわけでもない。目の前にある祭壇を見続けると負の感情よりも疑問がぷくぷくと頭の中に浮かび上がるのでひとつひとつ割って行った。


 写真の人の名前は外国の人とだとは思うが、容姿は明らかに日本人である。

 性別はおそらく女性。しかし、性別を判断していいものなのかと不思議な感覚に囚われた。

 創始者ってことは『マナ・アーギ』が『ムー教』を作ったと言うことは明白だ。

 教義は...


 考え始めたらキリがなく、お腹の音とともに集中力が切れ調べる事をやめた。


 自転車に乗りコンビニへ走る時も『マナ・アーギ』の顔が頭の中にチラついた。そんな自分は、頭の中で今後の行動を決めていたのかもしれない。


「初めまして。湯門亜樹斗ゆもんあきとと申します。父と母がお世話になりました。」


 全体が大きな岩から切り抜かれた様な教会を訪れた時には流石に足の震えが止まらなかった。勢いで父と母がおせわになりましたと言ってしまった。


 さぞ警備がしっかりしているのかと思ったら簡単に入れ受付のお姉さんが優しく要件を促してくれた。


「礼拝でしょうか? 誰かとお約束でしょうか?」


「あ、えーっと、礼拝に...」


 ホームページなどで、幹部の名前を頭に入れて来たはずなのだが、結局頭に浮かぶのは教祖『マナ・アーギ』だけだった。


「礼拝でございますね。それでは、そのまま廊下を進み手前ににある扉を開け、ご自身の悩みを明確に心の中に浮かべ扉の前にある願い箱に五千円お願いいたします」


「五千円ですか…」


「はい。マナ様はお祈りの際、5つの悩みを信者への感謝と共に助けたいと考えてくださったのです。その5つにちなんで5千円です」


「そうなんですか…」


 そこは五円じゃないのかと嫌味が頭の中に浮かんだ。

 カバンの中にある財布を出そうと手を弄っていると受付のお姉さんが話し始めた。


「マナ様は5つの悩みを大事にされていたのです。人の悩みは沢山あります。マナ様は信者が悩みに押しつぶされる事をとても、とても悲しんでおられました。そして、その悩みを少しでも減らすために日夜私達のために祈りを捧げてくださっています」


 『エネス・アーギ』

 1.挑戦 

 2.未練   

 3.罪悪

 4.虚しさ

 5.責任


 一枚のA4サイズ一杯に5つの言葉が書かれていた。


「この、5つの悩みは人間を迷わせてしまうものなのです。勿論、他にもありますが、マナ様はこの5つなら、私が何とかできると仰ったそうです」


 この5つの言葉を頭にインプットする前に思ったのは教祖は決して全知全能では無いのか。と言う少し残念な気持ちだった。てっきり「あなたの悩み全てを消し去ります。」だと思っていたからだ。それともう一つ気になることがある。


「あの、教祖様ってマナ・アーギでは無いのですか?」


 自分の問いは変なことでは無いはずだとわかっているのだが受付の女性が明らかに動揺したことに不安を感じてしまう。宗教は何処か触れてはいけない一線というものがあると思っているのだ。


「マナ様は15年前、死去されてしまいました」


 受付の女性が何処か遠くを見るように教えてくれた。それから先、何か話を切り出すこともできず長い廊下を歩き、ドア前で自分の悩みを考えた。一番最初に思いついたのはお金の問題だった。生命保険に入っていた両親のおかげである程度は賄うことができたのだが、大学生活を全て賄えるかはわからない。だから今、鍵のかかっていない重厚な箱に五千円を入れる事に抵抗があった。この五千円があれば食料が買えるのに…


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