2話 両親の信仰
両親が亡くなった。
高校生活が終わろうとしている最中両親が亡くなりこれから先自分はどんな道を歩けばいいのだろ。来月には予定している奨学金を多くして大学に通っているのだろうか。
「亜樹斗くん少しいいかな」
これで今日おじさんとおばさんに呼ばれるのは3回目だった。全て違うおじさんとおばさんであり、中には話したこともない人まで混ざっていた。
「お父さんとお母さんのことは御愁傷様」
「恐れ入ります」
この人も要件は同じだろう。
「会食の時にでも少しお話しいいかな?」
受付に立って1時間もしない間に会食中、また会食後の予定が決まってしまった。こっちは直ぐにも家に帰って気持ちを整理したいのに。
「わかりました」
一礼をして次の人から香典をいただき名簿を確認した。
父さんと母さんの交友関係を話すことが無かった為、こんなにも多くの人が訪れることに驚いていた。
人望があったのか、ただ知り合いが多いのかはわからないが、こんなにも多くの人が来ることが少し誇らしかった。
葬儀は粛々と行われ問題なく全てを終えた。葬儀屋の担当者に促されるままに会食が始まった。
周囲は顔見知りが多いのか会話が弾み静かな空間にならずにホッとした。親戚はいないし周りの大人たちも知らない。葬儀中には味のしない会食会になるだろうと思っていたがしっかりと肉の塩味を感じることができた。
「ごめんね、亜樹斗くん。少し外でいいかな?」
今日、初めに時間をとって欲しいと要望されたおばさんに肩をとんっとたたかれた。
すぐにお茶を口に含み、口を洗浄するとおばさんは外食場から抜け玄関先まで歩いて行った。
「単刀直入に言うね」
おばさんが前置きをすると同時に指紋一つない透明な自動ドアが開きひゅーっとよそ風が舞い込んだ。
「ご両親ね、私に100万円の借金があってそれを...返して欲しい」
他2人とも同じく100万円の借金の返済を自分に突きつけた。
簡単に言うものだから、100万円は大人にとってちっぽけな額なのだろうと頭に浮かんだが、予想される自分の奨学金を計算すると、その額は決して簡単に出せるものではないと直ぐにわかった。
ただ、借りたものを返さなくては今後の自分も立ち行かなくなることは明白なのでその場で「わかりました。申し訳ないです」と頭を下げその場を凌ぐことにした。
「ったく、何処にそんな金使ったんだよ」
出棺を前にトイレの鏡に向かって1人呟いた。
何か騙されたとか起業に失敗したとかも聞いたことがない。ごく普通の家庭。なにが原因でそんな借金をしたのかわからなかった。
出棺をされ、火葬場につき、骨になり、49日をしてもらい、1日が終わった。
学校からは心配の電話が数回掛かって来たが取る気にもなれず、家の中をただ綺麗にしていた。
「うん? 何だこれ」
普段、2人の寝室には立ち入らないので少しの好奇心と、背徳感のようなものを感じていたのだが、2人の部屋はとても簡素で面白みもなかった。
しかし、収納スペースを開けると質素な部屋とは違い煌びやかな飾り付けがされた祭壇があった。
『ムー教創始者マナ・アーギ』
写真からでもわかる透き通った目に、小さな笑み。すっと体を持って行かれそうな背景に釘つげになっていた。
「まさか、あの2人何かの宗教に...」
両親が何か得体の分からない、聞いたこともない宗教の信者になっている時、どのような反応をすればいいか分からなかった。
しかし、祭壇の下には分厚い本と埃の被っていない美しい皿。瓶に入った水が複数。指輪にネックレス、ピアス、他にも様々な雑貨が丁寧に保管されていた。
どれも高そうでお金がかかりそうな...
「借金300万って、これかよ…」
もし、両親が生きているなら直ぐにでもといつ問い詰めただろう。でも、もう声が出せない。骨になってしまった何かに何を言えばいいか分からなかった。