10話 平和の村のおじさん
「少しお時間よろしいですか?」
小屋の後ろへと回った三人は一度息を潜め好機を伺った。
辺りに人がいなくなるタイミングを見計らい、小屋の左からカーキ、右からはギドが歩き出し、おじさんを挟み撃ちにした。
「なんだお前ら」
いきなり湧いてきた2人に初めは驚きを隠せずにいたが、ギドが素早くおじさんの首元へナイフを沿わせると驚きから静寂へと早変わりした。
「少しお時間いいですか?」
「あぁ、わかった」
抵抗をしても勝ち目がないと見たおじさんは自分が座る椅子の横にある杖を持ち、重い腰を上げた。
三人はゆっくりと周囲を警戒しつつマドフが待つ小屋の後ろへと足を向けた。
「中でお茶をしよう」
おじさんは小屋の後ろへと辿り着いた時に言うので、ギドはイラつきを隠せずにいたが直ぐにそのイラつきも治ることとなった。
「隠し扉か...」
おじさんは杖を地面へとんとんっと2回叩くとゆっくりと隠された小屋の扉が開店した。
「それで、あんたは誰だ?」
ぬるい紅茶を啜りながら卓を囲む4人の部屋には外に広がる阿鼻叫喚は届かなかった。
「マドフ・アーギと申します」
「見てくれないい男と女が俺に何を聞こうって言うんだい」
「話を聞くのは誰でもよかった。でも、貴方が一番この村で正気を保っていたから」
「そうか、いい着眼点だな」
チャポンっと角砂糖が紅茶に落ち、カップを手に取るおじさんの手が止まる。
「ギド、ナイフはおろして」
「マドフ様に無礼な口を聞くジジイなんて生きてる意味はないです」
ギドは本気でおじさんの首を掻っ切るつもりでいるが、ここで死なれてはこの村を使うことが難しくなってしまう。
「あなたはどこの宗教の祖なんだ?」
ギドのナイフが首から遠ざかると何事もなかったようにおじさんは話し始めた。
「最近組織した、ムード教だよ。ギドナイフを下ろして? 話をしたいんだ。もし、この人が殺気を出したら君が殺すんだろ?」
ギドも流石に話が進まないことをわかったのか、ナイフを懐にしまい椅子にもたれかかった。
「やっと下ろしてくれたよ。ムード教か、聞いたことないな。似たような宗教は嫌というほど聞いたが」
「それはそうだろうね。でも、全く別物だよ」
ムー教と一度口にすれば殺されてしまいかねない。それくらい、この世界ではムー教に対して当たりが強かった。
「だろうな、そんな宗教の信者が今わしの目の前におったら驚きだわい」
「それで、話ってのは何だい?」
「この村は今どうなってるんだ?」
「見てわかりませんか?」
こちらを試すようなことはせず、ただ嫌味のようにこちらに目を向けた。
「口を慎め老人」
「歳をとると尊敬や敬意を忘れてしまうもので」
「ギド、一旦落ち着いてくれ」
ナイフは出さないが殺気を強く振り撒きおじさんを牽制した。
「この村はなぜこうなってる」
「このカオスのことですか? それとも、誰が起こしているかですか?」
おじさんは思った通りこの状況下の中でも客観性を持っていた。渦中にいてなお複数の視点を同時に提案できている。
「両方教えてくれ」
「いいですよ、旅人...いえ、教祖様」
おじさんはカップを90度まで傾け全ての紅茶を飲み切った。
「平和と呼ばれいてるこの村で広まった宗教について教えてあげましょう」




