08】BIZARRE ENRIQUE
ビザル・エンリケはザビエレ・ネジャ特別保護区に当局の依頼を受けて調査に来ていた!
地殻変動後の希少鉱の発見で、採掘権争いに参入したが、破れてしまい、また、この地区は新たに発見された希少動物の生息地であることから特別保護地区に指定され、容易に近づくことができなくなってしまった!
そこで、やむなく採掘場ではなく都会に拠点を作り、鉱物研究と主に採掘鉱の資源運送のノウハウをみがくことに集中した。都会で働くことのメリットはすぐ近くに役人がいるということ。
しばらくは、鉱物を掘るのをやめて、夜の歓楽街で偶然を装って、役人と接触することだけに心血を注いだ!その甲斐あって、今回の特別保護区での調査依頼を受けることができたのだ!
調査が決まった次の日に、ある者が接触してきた!
ラギア王国の国境近くまでブツを運んで欲しいとのこと。工程や納品期日、注意事項等の一通りのおおまかな説明を聞き、概算を見積もって相手に提示した!ほぼほぼ相場通り!ただ、新規の相手なのでリスク分は上乗せしてある!今回の調査が済めばそれなりの報酬が得られるのだから、無理をして取りに行く仕事でもないだろう。
その男は終始笑顔で、こう言った!
依頼品は法に抵触するような物ではないこと、寧ろやり遂げた暁には全ての人から感謝されるだろう!ただし、中身と取引先について一切の詮索はしないことを守れば法外な成功報酬を約束するとのこと!
「法外なとはどれくらいだ?」
男は答えた!
「貴方が提示した金額のおよそ10倍!」
「10倍⁈、だと!」
ビザルは少し沈黙した。
ザビエレ・ネジャは今、巷では注目の場所であり、世界中から一攫千金を狙うもの達がこの地で一気に稼ごうとネージャー帝国の厳しい認可を獲得して集まって来ていた!
ビザルが見た限り、誰もが知っている名の通った大手の商会だったり、国営企業の子会社だったりでがほとんどで、ビザルの様な小規模の会社が認可されるのは珍しかった!
「なぜうちの会社を選んだ?」
当然の質問だろう!沢山の優良企業が集まっている中でわざわざビザルの会社に声をかけて来た、これは何か裏があるのではないか?
「ある噂を聞きつけてな!」
「どんな噂だ!」
この胡散臭い男からの提案を受けるべきか?
今、ビザルはネージャー帝国内を自由に移動できる通行証を持っている!特別区だろうが保護区だろうが誰にも怪しまれることなく、見咎められない。ヤバいプツを運びたい連中にとって利用価値の高い存在であることは自覚していた!
一方で、ビザルはラギア出身なのでネージャ ーで事業展開するために現地法人を設立し登記する必要があった。また外国人としての就労登録もしてあることも考えると、報酬につられ当局に目をつけられるようなことをすると、今後のビジネスに支障をきたすことになる!例え報酬額が通常の10倍だとしてもこの依頼を受けることは、現時点でデメリットの方が多いような気がした!答えは99パーセント 「ノー」だ!
ただ、10倍の報酬の理由と、依頼主についての情報には興味があった。
「せめてお前のボスの名前を教えてくれないか?」
「 それはできないが、そう言われたらこう答えるようにとことづかっている!」
「 なんだと?」
「もし引き受けてくれたら、お前の大好きな高級酒、ヴェドクの青ラベル6本入りを10ケース、報酬と別につけてやってもいいと!」
ビザルは驚いた!
王侯貴族でさえ容易に手に入れることのできない希少かつ高級酒をなんと10ケースだと?
父が取引先から無理を言って分けてもらった一本を、何度も何度も懇願してやっと一口飲ましてもらったことがあった。それが未だに忘れられない!
飲んだ直後はあまりに美味しかったので、その感動を口にせずにはいられなかった!周りに事あるごとにその素晴らしさ伝えていたが、ふと、自慢げに語っている自分に気づき、恥ずかしくなってその話をするのを止めてしまった!
その短い期間、俺を知っている人物?近しい人間しか知らない情報だった!身内かもしれない!
『それで駄目ならこう続けるよう言われている!ベス・テルをその気にさせたは良いが、まだプロポーズしてないのはどういうことだ⁈!それでも男か?今回の報酬を持ってさっさとプロポーズしに行けよ!何か気まずいことがあれば、仲介してやっても良いぞ!』と」
親類の線は消えた!
だいぶ絞られてきた!
ベスのことについて知っているのは10人もいないだろう!
『それでも駄目なら、こう続けろと!自由組手で一度くらいはワザと負けてやってもいいぞ‼︎!』
そうか、わかった!
あいつか!
懐かしいな!
あいつがディーゼル・ベイツを離れてから一度も会ってなかった!
『まだ、駄目なら次は、神聖な武術大会で緊張しすぎて、思わず粗相を‥」
「わかったわかった!もうやめてくれ!引き受けるから!もうこれ以上は勘弁してくれ!」
「ええ〜⁈もう終わりですかー?これから面白くなるのにー‼︎」
とても残念そうに顔をゆがめながら男は言った。
「あのー、一体どれくらいのエピソードをから聞いてきたんだ?」
「30件くらいかな!こんなに必要ですか?って聞いたら、あいつは感が鈍いところがある。しかも頑固だからこれぐらい用意しといて丁度いいんだ!で、こんな件数とても覚えられないよっていったんです。ご本人を前になんですが、ごめんなさい、思い出すだけで、アハハ、もう堪え切れないくらいあなたにはまっチャッます、クククッ!。」
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地下にあるドーム状の巨大空間にある倉庫部屋から地上につながっている縦穴を使って、ブツをサルベージする作業が始まった!
自動巻き上げ装置が付いていて、2メトロ立方ほどのキューブ状のブツを50体運び出すのに1日とかからなかった!倉庫からの運び出しには2足歩行重機、エンリケ2型改を3名のオペレーターが操縦して効率よく作業は進んだ!
途中、JJ の商隊ギャリス・ジオンとラギアの国境付近で合流したエンリケ研究所のスタッフたちは一路デンゼル街道を東に進む。
クレメゾンピークが見えてきた。ここから約10キロメトロでラギアの王都、アクア・シェロームに到着する。
通関と検疫の申請は、商隊のリーダー、ケト・ベルマーに任せてビザルは、かねてから気になっていた、通関・検疫所の隣に自然発生的に出来た市場、ジャンポールサーカスを観に行くことにした。
この辺りといえば、昔は殺風景な野原しかなく、ボツンと今にも枯れそうな井戸が一つあるだけだった。時折、馬を連れた旅人が街道から外れて束の間の休息を取る姿が見られたが、何せなにもない場所なので、貿易商たちは申請が受理されればそそくさと通関・検疫所の大テントの中で所定の手続きを済ませ城内に入っていった。
おそらく、最初は通関と検疫の順番待ちをしていた者たちが、手持ち無沙汰で、待っているだけでも腹は減り喉が渇く…自分たちのために料理を作り酒を飲み、やがて、そこに人が集まりしているうちに、そこは商人達の集まりなので、対価をもらって料理を出し、酒を出し、いつしか、自分達が扱っている貿易品を陳列したり、取引を行ったりするようになったのだろう。
”ポツンと古井戸”…のイメージは一転、ジャンポール・サーカスは今や、鮮やかな色と陽気な雰囲気が溢れかえっていた。多種多様なテントや屋台が立ち並び、香辛料や調理される料理の香りが漂い、異なる文化や民族が集まり、喧騒と賑わいに包まれたある種、ワクワクする空間となっていた。人々は異国情緒を楽しみながら、交流と取引を行っている。
…と、ビザルは小走りに駆け出していた。
「あれはもしや、ベス・テルではないか?」ただたただ半信半疑だった。
顔の目だけを出し、他は半透明のベールでおおう衣装は、大陸南部の若い女性がするその土地ならではの民族衣装で、まさかディーゼル・ベイツ出身のベス・テルが身にまとうことは考えられない。それになぜ彼女が ジャン・ボール・サーカスにいる?ディーゼルベイツではなく?ありえないだろう!もしや見間違いだろうか?しかし、あの眉と目の形、最大の特徴である両方の目尻に泣き黒子があるという特徴は、彼女以外に考えられない!歩き方、背格好まで瓜二つ…な、まさか、赤の他人なのか……と、近くで酔っ払い同士の喧嘩がじまったようで、現場に向かう警ら隊に行く手を阻まれ、危うく転倒しそうになった瞬間、体を支えるような形で腕を誰かに掴まれた!
「探しましたよ!通信儀、何回か鳴らしたんですが…!」
屈託ない笑顔でビザルの顔を覗き込むギャリス・ジオンのケト・ベルマーが居た。
通関と検疫検査の許可が降りたことを伝えにきて、ヒザルが突き飛ばされる瞬間にたまたま遭遇したようだ!
「大丈夫ですか?市場の警ら隊なんて、荒くれ者が多いので、気をつけた方がいいですよ!通りにただ立ってるだけでイチャモンつけてきますから…」
「兎に角、うちの隊から搬入始めました。そちらもスタンバイしてもらえますか?」
立ち上がりながら、上の空で礼を言った。
頭のなかにはあの一瞬垣間見たベス・テルに似た、いや、ベス・テル本人なのかもしれない残像が焼きついていた。