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01】LAKE CLEMISON

クレメゾンレイクは巨大なカルデラ湖である。


 この神秘の紅い湖は謎につつまれていて、ガエンジルバウム朝の歴史と時をほぼ同じくして世に知られるようになったが、それ以前の記録は一切存在しない!


 クレメゾンピークから内側の湖のほとりまで、人ひとりやっと歩けるくらいの簡易な階段が続いている。その階段を、白いベールを被った人影が片手にメテオカンテラ、もう一方の手で白いロープの裾を持ち上げながらゆっくり降りて行く姿が見えた。


 階段を下り切ったところに平たい白い一枚岩が湖面と水平に突き出でおり、凡そ3メテロ四方のこの場所は湖面とほぼ同じ高さだが、 湖面よりやや高い位置にあり、まるでなんらかの宗教儀式のために人工的に作られた場所といった趣である。


 その白い影は、片目をつぶり、右手を湖面の中央に伸ばし、なにやら呟いたかと思ったら狙いを定め、虚空を中指で弾いてみせた!


……と、


 真っ赤な湖面に幅1メトロほどの真っ白な浮橋が湖面の中央に向かって出現した!それは紙のように薄く光沢がありシワがなく継ぎ目も無かった。


 湖面には絶えずさざ波があるにもかかわず揺れることもなく安定しいた。


 その白い影は、まるで宙に空いているかのような軽やかさでその浮橋を渡りぼぼ湖の中央、浮橋の突端に到達した。


 徐に目を閉じ、両手を胸の前で合わせ、何かに祈りでもささげているかのような仕草でしばらく佇んでいたが、突然両手を解き片膝をつき、しゃがみ込んだ!


 しばらくこの深い湖の水底が見えているのではないかと思われるくらい真っ直ぐに水面を凝視していた。…と、ふいに、紅い湖面にその透き通るような白い手のヒラで触れた瞬間、囁いた。


「ベイズ!! 」


 それは、深い水底から、急上昇してくる拳大コブシダイの丸い形をした何かだ…


 勢いよく水面に達しようとした刹那、白い手がそれを掴んでいた!


手のひらサイズの水棲すいせいの小動物…といったところか?


「ベイズ・アンダルシエル! ひさしぶりね!」


 手の中のそれに声を掛けながら立ち上がった。 それはまるで、生きたまま無理矢理とりだされた人の心臓のようだった!


 よく見ると、小動物を持ったその手は少し火傷をしたかのようにようにただれていたが、見る見るうちにもとの美しい手に戻っていた!


 手の中のそれはいつの間にか、ほぼ形は丸いままだが、乾いた皮膚と顔と手足とついでに少し長めの尻尾を獲得していた。


挿絵(By みてみん)


「わたしがわからないの?ベイズ!」


気付いてくれることを期待して、目を丸くして答えを待っていたが、無駄だったようで、相当落胆したのか、大きなため息をついて 肩を落とし、聞き取れないくらい小さな声で呪文のようなことばをつぶやいていたかと思えば、次にいつ終わるかわからない沈黙となった。


 この世界から時間という概念がなくなったかと思われる位長い刻が過ぎた!


 オレンジ色に染まっていた空の色はいつしか深い紺色に変わり、満天に散りばめられた無数の小さき星々の瞬きと、中空に浮かぶ大小二つの月の光が湖面に映りこみ、なんとも幻想的な光景を創り出していた。


 白い影は、頭に被っていたベールをゆっくりとおろした!そこに現れた顔は


紅い神秘の湖のほとりに佇むのは、ガエンジルバウム朝第13代王位継承者マリエ・ベラ王女その人だった!


 ベイズにとっては初対面になる。だが、血は争えない。マリエ・ベラがベールをおろしたその瞬間にベイズはキュリエ姫に似ている!そう思ったのだ。


 「キュリエ姫?によく似ておられますが‥」


 「あら、思った通り!貴方ならきっとわかると思ったわ!」


 ベイズは200年もの長きにわたり、呪いをかけられ、珍妙な小動物に変形させられ、クレメゾンレイクの湖底に幽閉されていた!記憶は200年前の退魔戦終了時で止まっている!


 一方、マリエ王女は初代王女ユリエ・ベラから12代王女ハリエ・ベラまでのそれぞれ王位継承時までの前王の記憶を受け継いでいる!


 つまりこの2人の邂逅かいこうは、ベイズにとってはキュリエ姫との再会であり、マリエ・ベラにとってはキュリエ姫の時の記憶そのままにベイズ・アンダルシエルとの懐かしい再会ということになる!ただ、200年前の記憶となると普通は色あせ、埃を被り、忘れ去らせてしまうような感覚だが、ガエンジルバウムの記憶継承は、歴代の王位継承者のすべての記憶が並列に並んでいて、まるで昨日のことの様に鮮明に想起出来るようだ!


「いよいよ貴方の出番よ!庭師さん!」


 マリエ・ベラの脳裏には、宮殿から庭に続く廊下の突き当たりにある見事なステンドグラスが施された大きなドアの姿が浮かんでいた!

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