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09】BELLUGHA CANABELL

=200年前、退魔戦の最中さなか、ガエンジルバウムの禁書庫から門外不出の重要な文献:呪いや呪詛、呪文に関するあらゆる文献が何者かによって持ち去られた。=


 ベルーア・カナベルは いつも笑っていた!

 長身で、スタイルが良く、蒼い瞳に透きとおるような肌とがとても印象的な美人だった。少女の頃から少し低い声だったが、歳を経るごとにハスキーな声へと変容し、その魅惑的な表情と妖艶な声で頼みごとをされると、誰しも抗うことが出来ないのだ!

性格はおっとりしていて、天然である。

 見た目の容姿も声も、一度として男女を問わず、駆け引きに使ったことがなかった!むしろ、劣等感を持って生きていた!背が高すぎて、肌の色が白すぎて、声が低すぎて…周りの人から気持ち悪く思われないかそればかりを気にして生きてきた!レガンダ(国際大学)でも目立たぬよう、後ろに、端に、地味に心掛ければ心掛けるほど逆に皆の視線がそちらへと向いてしまう!匂い立つ不思議なオーラを纏った、魅惑的な美女だった!

時折、思いつめたように遠くを見つめ、ため息をつくことがあるが、それがまた、彼女の神秘的な魅力を高めていた!

「ねえねえ見た?」

「なにを?」

「ベルくんおでこに絆創膏貼ってだけど!」

「ダメだー!見に行かなきゃー!こんなとこで授業受けてる場合じゃない!」

「前髪を斜めにピン留めし、広いおでこが見えてるんだよー!」

「今どこにいる?」

「さっきまで実習棟3階の資料準備室にいたけど、今しがた教授に呼ばれて‥っておい!

皆いなくなっちゃった!」


 国費留学生として王立図書館マグナリオに自由に出入り出来るようネージャー王立学問所:レガンダ国際大学に編入した!最初はマリエからの勅命とはいえあまり気乗りはしなかった!何故なら、この星の数ほどある文献の中から禁書庫から持ち出された書物を見付け出せ!見つかるまでは帰ってこなくていい!などと…お戯たわむれを!と返したら、信じられないという表情で穴のあくほどにこの顔を見つめ、「本気よ!暗く冷たい湖の底から貴方を救い出したのは一体誰だったかしら?それとも、あそこに戻りたいとでも!!?」暗く冷たい表情で俺に問いかけ目を細めて俺の答えを待っていた。


「あそこに?。まさか?ただ、自分としては、文よりは武でお役に立ちたいと思っていたのですが。嫌いてはないですし出来なくもないですが……どちらかというと、文献探しより、敵を退治してスカッとするような任務が良かったなと…いや。大丈夫です!忘れて下さい!」

 とまあ、そんなやりとりがあった。

 マリエは慎重に敵の息のかかっていない近衛騎士このえきしの中から、このペイズ・アンダルシエルの意識転生の相手をよりすぐり、若くて聡明でしかも忠誠心高く…しかし、よりにもよって、まるで女性のような容姿のアンドル・セレーを選んだのだ!

おそらく、この武骨で粗暴な性格の自分を美しく清楚な美少年に転生させるとどうなるか?そのギャップを面白がるためにやったのだろうとその時は思っていた。

 この学問所の古世紀学部、応用技術科4年に編入した俺は20人くらいのクラスメートと自己紹介を済ませ、初めての座学を受講していた。凡そ一般常識程度の素養しかない俺は、学園生活を出来るだけ目立たぬようにやり過ごし、マリエ王女が欲しがっている文献をさっさと見つけてオサラバしようと考えていた!


「アンディ君!転入早々悪いが、この部分を読んでみてくれんかね!君の推薦状には世界のありとある言語に精通していて、特に古代言語の読解力に秀でており、超世紀時代のアルク・トゥーセス文書をわずか3日で理解したと書かれている!」


ううう〜!覚えていろ!

鼻歌交じりに推薦状を書いて最後に舌を出して笑っているマリエ王女の姿が目に浮かんだ!

ここで、無学文盲(むがくもんもう)無知無教養の自分の素性がバレたら任務なんかぶっ飛んでしまうのに、なんて事してくれたんだ!


なんとかこの場は取り繕わなければならない!


「あの〜、国元からの長旅の疲れで夜眠れなかったので、できればその〜‥」と顔を上げ、なにげに教室の正面に掲げられているボードに書かれた馴染みのないはずの異国のしかも古代の文字を見て驚いた!

読める!どう発音すればいいかも分かる!

簡単に訳せそうだ!

勝手に口が開いた!


「サディダ・イキナ天地事記 より

 流れくるリュウガの調べ!且つ消え且つ現れ、無限回帰する七つの光もて。

 吾は行く、アレハンドロの聖針が示す不毛の大地へと!

 砂を光に変え、そのものは悪を滅す鋭き爪を、虚空より天地を統べる強靭な翼を、深遠なる知恵と力を宿す聖なる角を獲得する!

 やがて、そのものは、それらとなり、それらは一つの大きなそれとなり、孤となり細となり、全となり、始まりの終わりに、この世を邪悪な古き戒めより解き放たん‥


 自分でも何が起こっているのか判らないまま、訳し切った時、教授を始めクラスの全員が驚愕の表情で俺を見ていた。

 これで腑に落ちた!

 アンドル・セレーは実はとても優秀な才能の持ち主であり、マリエさまが俺をアンドルに意識転生させた意味がここにあったのかと納得した!


 『アンディ!お前すごいな!お前が前面で俺は控えでいいんじゃないのか?いや、そもそもこの任務、俺の意識転生の意味あるのか?』


『私は、実践の経験ががないのですよ!例えば弓は競技大会でいつも優勝しています!それでもそれは、己の100パーセントが出せる状態が用意されている中での勝利なのです。豪雨や嵐、突風や吹雪の中で競技大会は行われない!矢をつがえて極限まで引きしぼり、自分のタイミングで動かないマトに当てる!その間、その行為を妨害するものは一切排除されている!そんな都合のいい戦闘は存在しません!いざ戦闘となった時に私では対処できないことをマリエ様はよくご存知なのですよ!おそらくこの任務には生き死にが関わる敵からの物理攻撃があると想定されているのだと思います!あなたが前面である必要は、いざという時、私だと遅れをとる可能性が高いということです。』


 アンドルの話を聞きながらベイズは200年前のある日のことを思い出していた。

近衛騎士になって未だ日が浅く、日々訓練に明け暮れ、ふと1人になりたいと思った時、必ず訪れる場所があった!

そこは宮殿の一角、建物でコの字状に囲まれた小さな噴水のある庭園。手入れの行き届いた無数の植栽しょくさい、色とりどりの花が咲いている!時折、花の香につられてやってくる蝶やハチドリと遭遇するくらいで、他の様々な鳥の啼なき声はするが姿は見えず、庭師の影すらも一度も見かけたことはなかった。噴水の水の音を聞きながら、ベンチに仰向けに寝て、空の雲が形や色を変え流れては現れる様を無心に見ている時間が好きだった。

空を見上げ、千変万化せんべんばんかする雲の形、色、全てのものが一瞬も止まることを知らず、現れては消え、1つとして同じものが発生しない世界!悠久の刻の流れの中にポツンとある自分という存在を感じ、この世界を創造した偉大なる者に思いを馳はせる。

時に、噴水の水と1つになり、鳥のさえずりと同調し、不意に吹く風と重なり‥

 と、ドスンドスンバタン という音がした!? 音の方向を見てその音の発生源が判明した。建物の内部からからこの庭に通じるガラスの扉の向う側に小さな動く影を見つけた。扉越しによく見ると、女の子がドアを開けようとしてしている。助走をしてジャンプしてなんとかドアノブに届くがそれを回すところまではいかないようだ!すぐに諦あきらめめるだろうと思ったが決意は固いらしく諦める様子がない。俺は手伝ってやることにした。彼女がジャンプしてドアノブに触れた瞬間、ドアノブを回し、少女には重すぎるガラス製のドアを引いてやった。

 少女は、何度もジャンプしていたからか、息が上がっていた。透き通る様な白い肌。少し上気した薄桃色の頬。周りにいる大人を虜とりこにせずには置かない愛くるしい瞳! なんどもチャレンジし、半ば諦めかけたその時、目の前に未知なる世界へと続くドビラが開いたのだ!彼女の努力は報われた!

 ベイズは片膝をつき、左手を自分の胸に、右手を差し出し、少し芝居ががった口調くちょうで話しかけた。


 「姫さま!宮殿一の庭園にお越しくださいまして、恐悦至極きょうえつしごくでございます。」

 「姫とは?あなたは一体‥?」ドアが開いたかと思うと、そこに人が居たのだから少女は驚きを隠せない!目を細め、怪訝けげんな表情で、


 「私のことを知っているのですか?」息は上がっているのに意外としっかりとした言葉使いに感心した!少し興味が湧いたので、芝居を続けることにした!

「私はここの管理をしております庭師のベイズと申します。正直、姫のことは何も存じ上げてはおりませんが、もしこの庭園に出られることが初めてでしたら、ここでお会い出来たのも何かの縁、よろしければ私にこちらの庭園を案内させて頂けませんか?」


 何度も何度もジャンプして諦めなかったのだ。よほどこの庭園に出たかったに違いない。この庭園を案内すると聞いて心動かされないわけがなかった。少し躊躇ちゅうちょした風だったが、思い切ってベイズが差し出した手を握った。

 次の瞬間、姫の身体がふわりと宙に浮いて気が付いたら長身の庭師の右肩に腰掛ける様に座っていた。あー!どうしよう!ワクワクが止まらない!今まで宮殿の中で退屈し我慢して日々暮らしていたけれど、やっと執事やメイド達が目を離した隙にあのステンドグラスのドアから外に出るという、暴挙を決行し成功したことで、昨日までとは違う、本当の自分自身になれた様な気がした!


後に第2代王位継承者ジュリエ・ベラ王女は語っている。

「あの時、ベイズがドアを開けてくれていなかったら、私の性格はゼルベデウスの(つた)の様にねじ曲がってどうしようもなく偏屈(へんくつ)で陰気なものになっていたでしょう。」と


姫はいつの間にかこの大きな身体の庭師に好感を抱いていた。当然ながらこの記憶は鮮明にマリエにも受け継がれている!


さてさて、大学講義室に話を戻そう。

 訳文の余韻(よいん)でも楽しんでるのか?わけのわからないなんとも居心地の悪い沈黙の時が流れた。

 教授が口を開いた!


 「す^_^、素晴らしい!」

 「これを訳せる者は本学でも私以外に2、3名しかおらんだろう!アンディー君、我が教室へようこそ! 期待してるよ!」

 ………一体????なにを?


 チャイムが鳴った!

「本日の授業はここまでとする。帰りに、図書館の入館証を取りに事務所まで来てくれ!あと、ベル君も一緒に頼む!」


 そう言って教授は教室を出て行った。


※アンドル・セレーがここで彼女:ベルーア・カナベルと出会ったことが、ガエンジルバウム朝にかけられた200年の呪いを解くためのに欠かせない大きな進展をもたらすことになるのだが、今はまだのお話。


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眉根を寄せ、目を細め、鼻をぴくつかせながら、ドリスは思いあまってマリエに尋ねた。

 「陛下、あの小動物は何者ですか?」

 「あの……小動物……って、あーっ、イズ・エルのこと?」

 「…イズ・エルというのですか?あの、変な顔のチンチクリン。」

 「どの生物図鑑にも載っていないので、もしかしたら新種とか?でしょうか」

 マリエはドリスのその問いに目を丸くして反応した。

 「とってもいい質問よ、さすがドリスねー。」

 と満面の笑顔だ。

  ドリスはすぐに理解した。マリエの興をそそる会話になりそうだ。

 「一体、どこに生息する動物なんです?」

 「またまた、いい質問するじゃない。そうね、生息地はここ、ラギア王国よ。しかも、そんなに遠くない。」

 「じゃ、ネージャーとの国境あたりですか?何か新種の愛玩動物がブームになっていると聞きました。」

 「残念!」と、残念そうな仕草をするが、その実、面白がっているのが見え見えで…。

 「もっと近くよ、ドリス行ったことが無いとは思うけど。何なら、今から宮殿を抜け出しても昼には帰ってこれるかもよ!」

 「待ってください。近場で、行ったことが無い場所……… それって、まさか、呪われた霊峰、クレメゾンピークとかじゃ………」

 「まさか…それはないか…200年前の亡霊に取りつかれた者は,深紅の湖に引きずりこまれ、生きてこの世に戻ることができないと

 言われている呪われた場所……まさかね…?」

 パチパチパチパチ「正解!!ドリス凄いわ、さすがね!」

 「???正解??何が正解?」

 「イズ・エルはクレメゾンレイクの湖底にいたのよ!}

 「………??????????」



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