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00】PREPARATION

流れくるリュウガの調べ!且つ消え且つ現れ、無限回帰する七つの光もて、吾は行く、アレハンドロの聖針が示す不毛の大地へと!砂を光に変え、そのものは悪を滅す鋭き爪を、虚空より天地を統べる強靭な翼を、深遠なる知恵と力を宿す聖なる角を獲得する!やがて、そのものは、それらとなり、それらは一つの大きなそれとなり、孤となり細となり、全となり、始まりの終わりに、この世を邪悪な古き戒めより解き放たん‥

                        『サディダ・イキナ天地事記 』より


0】Preparation


 最近になって、都市の既設の造作物を利用して、なにやら不浄の物が侵入するのを防ぐ方法として、かつて魔術結界で使用されたであろう古代の遺物が市のあらゆるところから出土している。それは、(てのひら)に乗るコンパクトなものから優に30メテロを超える巨像の類まで種々雑多、今までに発掘されたものだけで数千もの数が掘り出されている。その形たるや、既存の概念では推し量ることのできない珍妙な形をしており、喪われた古代人の文化の一端を推し量る歴史的資料として世の好事家(こうずか)達の垂涎(すいぜん)の的となっていた。


挿絵(By みてみん)


  海に面しているというのに水が染みこむ事のないドライサンド! いつしか、忌地(いみち)として誰も近寄らぬ大地がここに誕生した。

 この地はかつて、不毛の大地、アレハンドロの聖針が指し示す災いの地、この世のありとある災悪が降り注ぐ救いのない世界とされてきた!生きとし生けるもののない無機質な世界!

何もない陸の孤島!


 囚人の名はケイといった。透き通るような白い肌に切れ長の目、その微笑みは神秘的で、かつてネージャー大帝国の南に位置する小国に過ぎなかったラギア王国が長きにわたって滅ぼされることもなく、属国にもならずに済んだ理由がここにあった。時代を超え国を超え、世の男という男は、死ぬまでに一度は彼の地に赴き、できるものなら一生の伴侶を彼の地から連れ帰れればとはかない夢を抱くのが常であった。


 ラギア王国の現王朝、ガエンジルバウム朝の第13代女王、マリエ・ベラは唐突に四年に一度恒例となっていたネージャー使節団の派遣を取りやめてしまった!


ネージャー大帝国の商業都市、帝都レカンダにはこの世界のありとあらゆる物質が流れ込み、人、もの、カネが溢れ反映を極めていた!人はこぞってこの隆盛を「千年の春」と称しこの豊かさは永遠で揺るぎなく続くものとみな信じきっていた。

市から海をへだてて東方におよそ4,000キロメテロほどいくと通称:虹の大陸マグナ・クララに到達する。肥沃の大地、何十億年もかけて海から100メテロほど隆起した奇跡の石灰石でできた白い台地。広大な牧草地が広がり無数のクリークが海にむかってまるで毛細血管のように連なっている。小さな数えきれないほどの滝が海にむかって降り注いでいる。

かの冒険家ヨセーフ・アザトフの「虹・大陸・無限紀行」には、「言葉を失うとはこういうことか!ありえない!人は一度にこんなにたくさんの光のシャワーを体験したことがあるだろうか?」とその高揚感を伝えている!


 サンドワッパーは、巨大な虫型の生き物でありあの虹の大陸の南方、メゲレスの大砂漠地帯で発見された、他に類を見ない固有種である。砂を食しその排泄物は変形自在でかつ軽く、しかも良く燃えた。幼体は1メトロ足らずだが成体ともなると10メトロに達する巨体であり、この生物を使役できたとしたら薪や石炭に代わる新たなエネルギー資源としての可能性は極めて高いと思われた。


 ※鉱石の採掘と地質学研究のメッカ、ネージャーの地方にある町:ザビエレ・ネジャ---

 ダギフ・ベントレーは採掘坑の前で勢いよく大きく息を吸って、少しづつ長ーく細い息を吐いた!ついに見つけたのだ!誰も見つけていない新種の鉱石を!いま手の中にある小さなカケラがそれである。高ぶ気持ちを抑えきれず、身体は小刻みに震え、思わず声がでてしまった!気を落ち着かせるために何度も何度も息をととのえようとするのだが、うまく抑えられない。発見したのは今は使われていない廃棄坑の中。それもいつもとは違う偶然が重なり合ってこの幸運が訪れたのだ!

 その日、採掘工見習いのテオが無断欠勤をした。

このことは、 テオと出会ってからはじめてのことだったが、パートナーやチームを組んだ時、初めて入坑する前に必ずお互い、協定を結ぶこととなっていた。真っ暗な坑道に二人で入るのだから常に助け合い、時には命を預けなければならない。お互いを信頼し安心して入坑するための儀式といってもいい。ここで定めたことは、採掘管理局が定めたルールより優先される。

「どちらかが、時間を過ぎても現れなかった場合、その日の採掘は見合わせるかどうかだが?当局のルールでは禁止となっているが‥」

「いいよ!ダギフ!一人入坑を承知した。」

「俺は遅れたりしないから、ダギフの分も採ってきてやるよ!しかも山分けで、つけといてやるよ!」屈託無い笑顔でそう言っていたテオの姿が浮かんだ!

 14歳とは思えない物言いをする。しかも出身はネージャー帝国ではなく隣国レムリエル・ギアー王国(通称ラギア王国)で、海外留学生待遇でありながら採掘工でもあるという特殊な身分だった。

 採掘工見習いはテオのように10代前半でやってくる者も珍しくはない。大概は家庭の事情というやつで、経済的理由が殆どだがテオは違っていた。凡ゆる鉱石に精通していて、今は発見されていないが存在するに違いない鉱石についても理論立てて説明する事が出来た。いわゆる天才と言うやつか?親の承諾もあり、またラギアでの学問所からの推薦によって学生の身分のままテオに関わる費用一切を、ザビエレ・ネジャ特別交付金で賄う事が認められていた!衣食住は勿論のこと、鉱石にまつわる書籍、教材、実験機器の購入、時間帯を気にせず自由に附帯設備を使用する権限などありとある優遇が与えられていた。時間があれば、鉱山技師から直接最先端の知識を教示してもらうこともできた。経験豊富なダギフのパートナーにしてもらったのもテオの希望通りだった!

 採掘坑始まって以来50年無事故無災害記録を更新中であり、監督局も見て見ぬ振りを決め込んでいる。ルールで縛り採掘の機会を減らすより、少しでも多くの希少鉱を採掘してもらう方を選んだのだ。加えて、装備の最終点検は新人のテオの役目だったのだが、 昇降機を呼んでしまい、何時もチンタラしているポンコツ昇降機がこの日に限って、速くついてしまった。途中で点検が面倒臭くなってしまい、エイヤ!で備品いっさい合切をつみこんでしまった。ちゃんと点検していれば、メテオカンテラの予備油を間違えて使用済のものを持ち出してしまうことなどなかったろうに。


宿舎に戻ったダギフは両足の義足を外しながら、テオのことを考えていた。あのフロアーにテオはいたのだ!


 ※大ネージャー帝国の始祖の名にちなんで帝都はレガンダと命名された。また、始祖のそばにあって政を補佐したマグナ候の功績により、帝都のことをマグナD.R.ともいう。

 「125番街17通カフェ・レオン」はそこにあった。昼夜問わず賑わいを見せる世界有数の国際貿易都市マグナD.R.のセンターコート、アイアムの一角に、一部、建屋の中のカウンター席を含む50席ほどとそれに連なるサンクンガーデンの20席ほどの噴水と緑の木陰が清々しいオープンスペースが マグナD.R.市民の憩いの場所として親しまれていた。アイアムの中心に位置している為か、ここだけは通りの喧騒けんそうが嘘のように静かに刻がながれている。

併設している国国立図書館マグナリオには、国の内外から、数多の文字で記された貴重な文献が集められ所蔵されており、凡そ学問を志す者は、マグナリオが発行する入館記録、貸出記録、読破証明書が無ければ、その資質すら疑われかねないほあうどの肩書きとなっていた。そして、当然ながら国立図書館に勤務する司書はエリート中のエリートであり入館4年目の首席司書官は第1筆頭司書官に選出され、国立レガンダ国際大学のその年の首席卒業生と学問対決をする習わしとなっていた。


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